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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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本当の姿


「カーミラ様。まだ打てる手があるかもしれません」

「……ほ、本当……?」



 私は、泣きすぎてしゃくり上げたままなんとか問い掛ける。

 ジュダスは、リオンを見つめたままゆっくり頷いた。

 私は藁にもすがる気持ちでジュダスの腰にしがみついた。



「お願い!ジュダス!リオンを……リオンを助けて!!」

「カーミラ様、助けられるかどうかは分かりません……ですが、打てる手は打ちます」



 そう言ってジュダスは、いつもキッチリ閉めている首元のボタンを外し始めた。

 三つ開けると、シャツの中から金の鎖の先に飾りがついたネックレスを取り出した。

 ネックレスの飾りはシンプルな真っ赤な水晶だった。

 手に持った水晶に、ジュダスは魔力を濯ぎ始めた。

 すぐに水晶は魔力を吸い取り光始める。

 それを見て、ジュダスは水晶に口を近付けた。




「……エメラダ。今すぐ来い」




 どういう事……?

 どうやって、エメラダ先生を……?

 そう思ったのも一瞬だった。

 すぐにジュダスの前の空間が陽炎を帯びる。

 そして、そこにはエメラダ先生が現れた。



「ジュダス!!やっと私の事呼んでくれたのねぇ!!」



 そして、目の前のジュダスに一目も憚らず抱きついた。

 先生には、ジュダスの事しか見えていないみたい。

 よく見ると、先生はバスタオルを一枚羽織っているだけ。

 大きな身体は、少し動くだけでタオルからはみ出そう。

 私は急いで先生から視線を逸らした。

 ジュダスは凄い大きなため息を、わざとらしく吐いた。



「エメラダ、服を着ろ」

「えぇ?ああ……だってぇ!始めてジュダスから呼び出されたんだものぉ!シャワー中だったから慌てちゃったのよぉ?!」



 先生は杖を出すと一振りしてローブを身に纏った。

 濡れ髪のまま、もう一度ジュダスに抱きついたが、そこで始めて私と目があった。



「あらぁ?ここって……」

「エメラダ、リオンを見てくれ」



 ジュダスはそう言って、エメラダ先生の肩をくるりと回してリオンの方に向けた。

 リオンを見た先生は、一瞬で顔を青ざめた。



「ちょっと、ジュダス……」

「恐らく何かの毒だ。分かるか?」



 ジュダスはそう言ってもう一度リオンの手を取って脈を測る。

 ジュダスは短く舌打ちすると、エメラダ先生と場所を変わった。

 先生は杖を持ったまま、寝かされているリオンの傍にしゃがみ込む。


 そして、杖を一振りすると、大きく目を見開く。

 そして、もう一度杖を振って静かに首を振った。



「そんな……そんな筈……」

「エメラダ、何の毒だ」



 私は心臓が飛び出そうな程ドクドクして、ただ二人を見ている事しか出来ない。

 でもただ見ているなんて出来なくて、私はリオンの手を取った。

 もう、暖かさは全然ない。

 まるで冷たい人形の様……。



「エメラダ!」

「……人払いしましょう。カーミラ様の勉強室に飛ぶわ」

「……ワトソンさん、ライナス様に連絡をお願いします。他の者は今見たものは忘れて仕事に戻りなさい」





 ジュダスの指示に皆が動き出した。

 私はリオンと離されるのが嫌で、しがみついた。

 先生がそっと私の肩に触れると浮遊感を感じた。

 ジュダスに呼ばれたエメラダ先生は、肩をビクリと震わすと、ジュダスの目を見てこう言った。



「これ……毒じゃないわ……闇の神の呪物よ……」

「……闇の神の……?そんな馬鹿な……」

「見て……リオンちゃんの生命力よ……」



 先生は杖をリオンに向かって振る。

 すると、魔力の流れを見せてくれた様に、リオンの身体が光り出した。

 光は魔力の時とは違う、真っ赤な光だ。

 その流れはぐちゃぐちゃに乱れて渦巻いている。



「……あり得ない……闇の神の呪物など、この世界にそう残るものでもない……それがなぜリオンに……」

「……でもなぜかしら……五臓には影響を及ぼしていない……?」



 エメラダ先生は立ち上がってリオンを見たまま、固い声でこう言った。



「そんな事より時間がないわ……これからリオンちゃんの身体の中の呪物を取り除くわ」



 ジュダスの顔が今まで以上に青ざめた。

 そして、エメラダ先生の手を取ると強引に振り向かせた。



「君を呼んだのは俺だけど、君にそこまでさせるつもりじゃない!王宮魔導士に救援を求めれば……」

「言ったでしょ、時間がないって」



 何?

 二人は何かもめている様だけれど、私には意味がわからない。

 それよりリオンはどうなるの?

 この冷たさ……まるで……。



「ジュダスどきなさい。私がこのリオンちゃんを見て、見捨てる様な愚かな女だと思っているの?そう思わせないで」

「……………」



 先生はジュダスの頬に手を添えると、見た事もない様な優しい瞳でジュダスを見た。



「貴方がこんな顔してくれるなんて、脈アリねぇ」

「……馬鹿言うな……」



 先生は嬉しそうに微笑むと、リオンの前に立った。



 ドォン



 その瞬間、大きな音を立てて、これまで先生から感じた事の無い程の魔力の流れが肌を刺した。

 渦巻く魔力は、風圧を発生させ周りの空気をどんどん飲み込んでいく。

 


「きゃあ!」

「カーミラ様、リオンから離れて下さい」



 ジュダスが私の手を取ってリオンから引き剥がす。

 私は離したくなくて、嫌々と首を振ると、掴んでいた腕を思い切り引っ張り、怒鳴った。



「リオンを助けたければどきなさい!」



 リオンを……助ける……?

 助かる……?

 私は、涙で見えないまま、リオンから手を離すと、ジュダスに引きずられて離れた。

 私が離れた事を確認したエメラダ先生が、呪文を唱え始めた。




『クゥラッタドゥノブァライ トゥレッジィファラァラライ…ムゥドゥバイトラガッレトゥドゥーヴァ トゥレッジィティリトゥワト……』




 先生は聞い事もない言葉を、瞳を閉じたまま紡ぎながら魔力を練り続ける。

 呪文は唄だ。

 優しく、力強く、先生の高い声から紡がれる。

 足元の魔法陣は光り、風が渦巻き、先生の切りっぱなしの銀の髪がはためく。

 肌を刺すだった魔力は、ドンドン温かさを帯びて広がっていった。


 ジュダスを見上げたら、悲しそうな心配そうな顔を隠しもせずエメラダ先生を見ていた。


 一際魔力の流れが強くなる。

 光は目も開けていられない程。

 風はその場に立っていられない程渦巻き、部屋の中の色々なものが飛び散った。

 足元のリオンが風に煽られ、青い顔を晒している。



 私は先生に視線を戻す。

 ……え……?

 ……何……?

 違和感を感じる。

 その違和感は、ドンドン大きくなる。

 でもすぐに違和感ではないと確信して、はっきりと私の目に映った。


 先生の身体がドンドン縮んでいる?

 ……いえ……。

 ドンドン痩せていっている。

 以前の私より大きそうだった身体が、今ではもう半分ほどしかない。

 銀の髪は風を受け波打ち、もう腰まで伸びていた。


 先生は苦しそうに眉間に皺を寄せ、珠の様な汗を額に滲ませている。

 もう先生の身体は、今の私と変わらない位まで痩せてしまった。

 薄らと目を開き、赤い瞳はぼんやりとリオンを映している。

 すると、今まで青褪めていたリオンの顔色が、少しずつ色付き始めた。



「リオン!」



 先生は、尚も魔力を練り続けている。

 しっかり閉じられていたリオンの瞼が、ピクリと痙攣する。

 私はそれを見て、私を抑えていたジュダスを見上げた。



「ジュダス!リオンが!」



 ジュダスは見た事も無い程焦りを滲ませた顔で、エメラダ先生に駆け寄った。



「エメラダ!もういい!やめろ!」



 でも、先生を取り巻く風の渦巻きは止まらない。

 一層激しさを増している様にも見える。

 ジュダスは、渦巻く風の中に一歩足を踏み込んだ。



「きゃあ!」



 その反動で、私が座り込んでいた位置まで暴風が乱れ飛ぶ。

 一歩エメラダ先生に近寄ったジュダスの腕には、切り傷が浮かび、赤い線が滲んだ。



「エメラダ!おい!もういい!それ以上はお前の身体が持たない!!」



 ジュダスは切り傷にも、どんどん増えていく赤い線も気にせず、エメラダ先生に近寄っていく。

 風圧のせいでなかなか先生に近付けない。

 舌打ちしたジュダスは、首につけていたエメラダ先生を呼んだ水晶を引きちぎった。

 その瞬間、今まで赤い線を作る程度だった風圧は、ジュダスを取り巻き、大きな傷をつけた。



 

「エメラダ!こっちを見ろ!!」



 すると、今までぼんやりしていた先生が、ジュダスの方を振り向いた。

 ガラス玉の様だった瞳が、ジュダスの赤い血を見てどんどん焦点を合わせていく。



「ジュダス!!」



 先生が声を荒げた瞬間、風は止み、魔法陣が消えていった。

 エメラダ先生は、ほっそりした身体で倒れそうになるジュダスを支えた。



「ジュダス!何よ!水晶外したら危ないじゃないの!」

「……じゃないと君が気付きそうもなかったからだ。……それよりリオンは……?」

 


 ジュダスは、右目の上から血を流したままリオンに近付いた。

 私も、よろよろと立ち上がって様子を見る。



「……呪物は取り除いたわ……」



 そう言って、先生は自分の持つ杖を見た。

 先生の手の中にある杖は、ボロボロだった。

 水晶は砕け、持ち手の木は腐っている。



「おいそれ……エルミナージュの大木じゃ……」



 ボロボロになった杖を見て、ジュダスは驚愕の声を上げた。

 ええ…と短く答えて先生は、砕けた水晶のカケラを見せると、こう言った。



「これ、ラ•ピュセルの水晶よ」



 それがどんな物かは私は知らなかったけど、真っ青になったジュダスの顔を見て、とても貴重な物なのだと悟った。

 私はゆっくりと横たわるリオンに近付く。

 二人もそっと私の後ろに近寄った。



「…先生…リ、リオンは…もう大丈夫なの?」

「……………」



 私が問いかけても、先生は答えてくれない。

 横たわるリオンの顔色は、先程までの青とは変わって、白いが血色がある。

 そっと私は、リオンの手に触れる。

 …温かい…。

 さっき迄の死人の様な冷たさが嘘の様だ。

 私はホッとして、二人を振り返る。

 大丈夫という言葉を、二人から聞く為だ。



「先生!リオンは?!リオンは大丈夫なんですよね?!」

「大丈夫……と言いたい所だけど……ここからは彼の生命力次第ね…身体に入った呪物は取り除いたわ。私に出来る事は……もうないわ……」

「その、闇の呪物ってなんなの?それに……先生のその身体……」



 先生の身体は私よりも細く、酷く華奢だ。

 顔立ちが綺麗だとは思っていたが、傾国の美女とは正にこの様な人の事を言うんだろう。

 銀の髪は床まで伸び、此方を見つめる赤い瞳は人外の美しさだ。

 今は血の気の悪い顔をしているが、笑っただけでどんな男も虜になりそうな程美しい。


 私の問い掛けに答えたのはジュダスだった。

 


「闇の神の呪物とは、その名の通り闇の神の力を宿した神具です。神の力を宿してはいますが、闇の神の力はこの世界の者にはどれも毒です。手に持てば人格を壊し、身に入れば身体は壊れる。見つかったものは、どれも厳重に保管されるか封印されていて、オルハの様な者が手に入れられる事などあり得ません」



 二人は、難しい顔で何か考えている。

 私はそれを聞いて、今度はエメラダ先生に視線を向ける。

 先生は、美しい顔をこちらに向けると、少し困った様な照れた様な表情を見せた。



「この身体はね……神の加護……というか、制約がかかってて、魔力で増減するのよぉ……。魔力を貯めればお肉もつくし、魔力を使うとお肉もなくなるのぉ……でも、今回はちょっと使い過ぎちゃったみたい……寒……い……」

「エメラダ!!」



 倒れかけた先生をジュダスが抱き止め、身体の冷たさを感じたのだろう、床に散らばったカーテンで華奢なエメラダ先生を巻いた。



「おい、大丈夫なんだろうな」

「ん……休めば……大丈夫……」



 そう言われ、ジュダスは先生を抱きしめたまま立ち上がると、私を見て言った。



「カーミラ様はリオンについていて下さい。エメラダがこう言っている以上、もう私達に出来る事は、リオンの生命力を信じて待つ事だけです……すぐに人を呼びましょう。私はエメラダを休ませます」

「……分かったわ……私はここで待つわ」



 ジュダスは頷くと、急足でエメラダ先生を抱えたまま出ていった。

 取り残された私は、リオンの手をとったまま開かない目を見つめた。



「リオン……早く目を覚まして……」



 私は、ワトソンとファリス達が駆けつけるまで、願う様にリオンの手を握り続けた。

カーラ


レベッカの取り巻きの一人

赤い巻き髪

青い瞳

わたくしなんて一人信号機ですの

あら?信号機って何ですの?


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