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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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三角関係


「カーミラ様も行ってもいいってぇ」

「本当ですの?!」

「うんうん。昨日シュトラーダ公爵に確認しておいたから、大丈夫だよぉ」

「まあ!とても嬉しいですわ!」



 お嬢様は三十センチ位飛び跳ねた。

 淑女らしくはないが、大変可愛らしい。

 俺は一応注意だけはしたが、お嬢様はラントールに行ける事で頭が一杯らしい。

 ほぼ屋敷にいるお嬢様は、魔術の授業をとても楽しみにしている。

 こうしていつもと違う場所に行くのも、気分転換になるのだろう。

 


授業の終わる最後の十分は、防御結界の自主トレだ。

 今日結界を張り始めてから三日が経ったが、未だにお嬢様は二枚目の結界が張れていない。

 どうやら魔力量云々ではなく、イメージ力の様だ。

 俺はメモ帳を取り出して、お嬢様に俺のイメージする五枚重ねの結界を見て貰う。

 勿論結界は魔法陣だ。



「ず、随分絵が上手くなくて?」

「本当ぉ、画家も真っ青じゃないのぉ?」

「そこまで上手くはないと思いますが、上手く伝わってくれたのなら良かったです」

「リオン、その絵、わたくしに下さいませ」

「いいですよ」



 俺はメモ帳を破ってお嬢様に渡した。

 お嬢様は俺の書いた結界の絵を見ながら、ブツブツと言い力を込めている。



「イメージが固まると魔術も発動しやすくなるからぁ、絵はいいアドバイスになるわねぇ」

「先生が届けてくださった本は、どれもとても参考になりましたわ!」



どうやら先生はお嬢様に魔術に関連の本をプレゼントしたらしい。

 先生はうんうん頷いていたが、残り時間を使っても二枚目は出来なかった。

 これは、一枚目の形を魔法陣に変えてくれたからだ。

 注文が多く、頑張っているお嬢様には申し訳ないが、魔法陣の水の結界は感動ものだった。

 芸術作品の様だ。



「き、今日もダメでしたわ……」

「まだ始めたばかりだもん。カーミラ様は筋がいいからぁ、コツさえ掴めばすぐよぉ」



 先生に頭を撫でられ、お嬢様は小さく頷いた。

 


「さてぇ、じゃあこのままエルのとこまで飛んじゃうねぇ」



 先生が杖を持って近付く。

 俺は陽炎の中に遠ざかる青い山を見ていた。







 ……やはり何度転移しても慣れない……。

 本当に、なんて便利なんだろうか。

 恐らくお嬢様はこのまま魔力の勉強を続けていれば、使える様になりそうだ。

 俺は……ジュダスさん曰く、余り期待しない方が良さそうなのでお金を貯めよう……。

 始めから魔具狙いならば、受けるダメージも少ないだろう。

 俺は、エルさんの工房の扉を見ながらそう思った。



「はぁ……ちょっぴり憂鬱だけどぉ……背に腹はってやつねぇ……」

「この間も言ってましたけど、エルさんと何かあるんですか?」

「あ!わたくし手土産を持っていませんわ?!」

「うーん。何を見てもあんまりビックリしないでねぇ」

「聞いてますの?!」



 お嬢様がブンブン腕を振っているのを、落ち着かせて俺達は工房の中へと入って行った。

 お嬢様は、物珍しそうにキョロキョロとしている。



 扉を開くとまずは受け付けだ。

 色々と手広く依頼を受けるエルさんの工房は、以前話した通り、働く貴族の多さからら貴族のお客さんも多い。

 そのせいか、受け付けは広めでシンプルだが上等なカーペットが敷かれている。

 


「こんにちわ!お久しぶりです」


 俺は受け付けに挨拶をする。

 ここに何度か足を運んで顔見知りになった受け付けさんだ。



「あら、久しぶりね。約束はしてる?」



 俺がエメラダ先生を見ると、エメラダ先生は頭をかきながら答えた。



「ごめぇーん。忘れちゃってたぁ。手紙かくと面倒臭くなりそうでぇ」



 どういう意味だろうか、俺が首を傾げていると、受け付けさんは気にする事もなく、クスクス笑いながら工房に続く大きな扉を開けてくれた。



「君なら問題ないと思うわ。この時間なら奥の工房室にいる筈だから、直接行ってみて」

「ありがとうございます」



 俺達は、扉をくぐって工房内に入る。

 工房の中は大きな一間になっていて、作業台や何かの機会が置かれている。

 色々な人が、それぞれ別々の作業をしながら働いている。

 少し変わった工房だ。

 奥には個室が五つあって、その内の一つはエルさんの工房長室だ。

 益々キョロキョロするお嬢様の手を取り、挨拶をしながら奥へ歩いて行く。


 右から二番目のエルさんの工房長室の扉をノックしようとすると、エメラダ先生が俺の前に立ち、ノックもせずに扉を豪快に開けた。



「……入る時はノックをしろと言っているだろう」



 扉を開けると、エルさんは机の隣の作業台の方を向いて何かを作っていた。

 俺達から見えるのは後ろ姿だ。

 なんと声をかけようかと思っていると、エメラダ先生は大きな身体をずしりと動かし、中に入って行く。



「……おい……僕は入っていいとは……」

「やほー、久しぶり。エル」



 エメラダ先生の声に、エルさんは凄い勢いで振り向いた。

 それはもう、首が取れるのではないかという程だ。

 そして、いつも通り長すぎる前髪で目は見えないが、どうやらエメラダ先生をじっと見つめている様で、俺とお嬢様には気付いていない。

 とりあえず挨拶しようと、俺も部屋の中に一歩踏み出したが、エルさんの言葉でその足は固まった。



「ああ……ああ……エメラダ……!来るなら来ると言ってくれれば、僕が迎えにいったのに!」

「そういうのが面倒臭いからぁ、こうして突然来たんじゃなぁい?」

「エメラダ……会いたかったよ。どうして手紙の返事をくれなかったの?僕、ずっと待ってたのに………ああ……それにしても、相変わらず美しいね……エメラダ……」



 エルさんは俺達に気付いているのかいないのか。

 全く気にする事なく、エメラダ先生しか視界に入っていない。

 先生が面倒臭いと言ったのは、こういう事だったのか。

 お嬢様は二人を見て顔を真っ赤にしている。

 十歳のお嬢様に、このストレートな口説きは少し刺激が強い様だ。

 エルさんはエメラダ先生の手を取ると尚も口説き続ける。



「エメラダ、いつになったら僕のものになってくれるの?君が望むならなんだって叶えてあげるのに」

「だからぁ。私はジュダス一筋だってずっと言ってるでしょぉ?」

「あんな君に興味の無い男なんて諦めなよ。僕なら絶対に君に悲しい思いはさせないよ」

「……えーっと、エルさん。俺達もいます」



 このままではいつまで経っても俺達に気付きそうもないので、俺はエルさんに話しかけた。

 そこで始めてエルさんはこちらを向く。

 きっと俺だけならそのまま口説き再開していたと思うが、お嬢様を見ると、泣く泣くエメラダ先生の手を離した。



「これはこれは。ようこそいらっしゃいました、カーミラ様。いつもお世話になっております。主にミラーダ商会のリンスを作成しております。工房長のエルファーランと申します。エルとお呼び下さい」

「よ、宜しくお願いしますわ。エル。商会も貴方方のお陰で順調に回っております。ありがとう」

「勿体ないお言葉です」



 お嬢様は、先程の影響かまだ顔が赤いままだ。

 二人の挨拶が済むと、エメラダ先生が本題の話しを始めた。



「手紙で書いたと思うけどカーミラ様の杖、作れそうぉ?」

「勿論だよエメラダ。君のお願いなら、どんな困難な事でも必ず叶えてみせるよ」



 再びエルさんはエメラダ先生のぷっくりした手を取ると、頬擦りしながら答えた。

 先生は嫌そうな顔で手を払うと、俺の方を向く。

 何だろう。とても居ずらい。

 お嬢様はもう直視出来ずに下を向いてプルプルしている。



「リオンちゃん、デザイン書いてきたって言ってたよねぇ?見せてぇ?」

「リオン、エメラダがこう言ってるんだから早く出して」



 俺はなんとも言えない気持ちでメモ帳を出すと、そのデザインを書いたページを開き、お嬢様に見えない様にエルさんに見せた。

 勿論お嬢様は不服そうだ。



「エル?ちゃんとリオンの話し聞いてよぉ?まぁ説明聞けば絶対面白がるに決まってるんだからぁ」

「リオン、エメラダがこう言ってるんだから早く説明して」



 俺は再び何とも言えない気持ちで説明を始める。

 エメラダ先生は気を利かせて、お嬢様と工房の方を見に行った。

 エルさんはこの世の終わりの様な顔で、と言っても目は見えないので俺の想像だが、見送ったが、俺が説明を始めるとすぐに食いついて来た。



「……というギミックをつけて欲しいんですが、出来ますか?」

「君、ドSでしょ?そんなギミックつけられたら、普通は虐められてると思うんじゃない?」

「俺はお嬢様の為になる事しか考えてませんが?」

「……真性だね」



 ドSや真性など、失礼極まりないが、いつま陰険な根暗と言われているエルさんのあんなメロメロの姿を見てしまうと、微笑ましくて怒る気にもなれない。



「それでデザインなんですが、魔力的なイメージアップ出来る様なものも取り入れたらどうかと思い、この丸い部分はアースガルドをイメージしました。丸に浮かぶ光は神をイメージしてます」

「……………」

「それから丸を囲うこの金細工は、ギミックに合わせて形が変わる様に出来たらイメージ通りです」

「……………」

「え、えっと……エルさん?」



 まさかエメラダ先生への思いで、俺の話しは耳に入らないとかだろうか?

 俺はメモ帳からエルさんに視線をズラすと、長い前髪の隙間から、美しい赤い瞳を覗かせて、エルさんは静かに呟いた。



「続けて」



 俺はそれを聞いて、エメラダ先生の言ってた事を思い出した。

 どうやらエルさんの興味を引けたらしい。



「はい。持ち手は同じ金細工で、これまでの歴史をイメージして刺繍が入ったらいいですね」

「……………」

「あとはどれだけお嬢様の魔力でギミックが作用するかと言う所ですね」

「……このデザインは、リオンが考えたの?」

「はい。エメラダ先生が、魔術はイメージが大事だと言ったので、お嬢様が少しでもイメージしやすく、尚且つ持ってカッコいい感じを目指したんですが…ダメですかね?」



 俺はカッコいいと思ってるが、他の人から見たらどうなんだろうか。

 俺は商会の名前を付けた時の様にドキドキしながら、エルさんの返事を待った。



「これ……エメラダが持ったらとても素晴らしいと思う」

「いえ……あの……」

「エメラダがこれを持って魔術を使う所が見たい。リオン、デザインを僕に……」

「ダ、ダメです!これはお嬢様の為に考えたデザインなんですから」



 エルさんはその後もエメラダがエメラダがと、うわ言の様に呟いていたが、最後には諦めた様だ。



「どーお?説明終わったぁ?」

「エメラダ!」

「はい、一通り終わりました」



 お嬢様が仲間はずれにされた事の鬱憤を晴らしに俺の横にやってくると、ポカポカと背中を叩いた。

 エルさんとエメラダ先生は、素材の話しをしている。

 持ち手はコルマキュウの黒墨がいいや、ヨラの金はどうだなど、専門用語過ぎて俺には分からなかった。



「……こんなもんかなぁ?」

「うん。五週間……いや、四週で仕上げるよ」

「かなり早いけどぉ、無理してない?」

「エメラダのお願いなら、最優先で作るよ。最高の仕上がりにするから、楽しみにしてて」

「楽しみにしてるわぁ」



 そう言って、エルさんは幸せそうに口元を綻ばせた。

 その後はまだ行かないでと、エルさんがエメラダ先生を抱きしめるものだから、益々お嬢様は顔を赤くして大変だった。






「エルさんの手前言えませんでしたけど、三角関係なんですかね……?」

「わたくし、あんなに情熱的な方始めて見ましたわ……」



 エメラダ先生に送って貰った後、お嬢様は勉強部屋で暫く放心していた。


補佐


え?私の補佐?

ああ、あの子ねぇ?

凄い出来るでしょぉ?

それより、あなたはどぉなのよぉ

お嬢様の事どぉ思ってぇ

え?やだ、やだやだぁどこいくのぉ?!

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