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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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広いダイニングテーブル

夕食の時間になった。

 俺はワトソンさんについて、いつも旦那様達が食事をするダイニングに入る。

 テーブルのカトラリーをセットしたり、花瓶の花を変えたり、ファリスさんやレナが忙しなく動き回る。



 俺もバーバラさんに呼ばれて、料理の最終チェックだ。

 全て整い、掛け時計から6時の鐘が鳴ると、ダイニングにお嬢様が入ってきた。

 俺はワトソンさんと一緒に、ワゴンを押してお嬢様の席に近づく。

 ワトソンさんが一歩下がり、俺に場所を譲ってくれた。



「こんばんは、お嬢様。今日は私が給仕させて頂きます」

「リオンが?」



 お嬢様が席に着いて、ナプキンを広げている。


「……誰でも同じでしょ……」



 そう言って、誰もいない広いダイニングテーブルを寂しそうに見つめた。

 一人ぼっちの食事は味気ないだろう…。

 可哀想だが、使用人の自分が一緒に食べてあげることも出来ない。

 俺は気を取り直して、お嬢様に話しかける。

 一緒に食べる事は出来ないが、こうしてお話しを聞くことは出来る。


 俺はワゴンに乗せられた前菜の、ササミサラダをお嬢様の前にお出しする。



「こちらは鳥のササミのサラダです。オリーブオイルと、塩とお塩のドレッシングで味付けております」

「見たことがない料理ね」

「どうぞ、召し上がってください」



 お嬢様は外側のフォークを手に持つと、ササミを刺して口に運ぶ。



「美味しい!お肉なのね!」



 お嬢様はお気に召したのか、パクパクと食べている。



「お嬢様!お口に入れましたら20回は噛んで味わってください。急いで食べると胃にも負担がかかりますよ!」



 お嬢様は嫌そうな顔を向けてくる。

 が、怯んでもいられない。



「急いで食べると、お腹がいっぱいと感じにくいのです。ゆっくり食べれば、少しの量でもお腹を満たすことが出来ます。練習しましょう」

「煩いわね!分かったわよ!やればいいんでしょ!」



 お嬢様はそれはもう嫌そうな顔で、モシャモシャとサラダを食べた。

 慣れない内は、ゆっくりよく噛んで食べるってきついのだ。


 主食のパンは、固めのパン一個だけだ。

 いつもつけているバターはなく、そのかわり、甘さ控えめのジャムが添えられている。

 これもバーバラさんに頼んで作ってもらったものだ。

 マリンナという、杏っぽい果物のジャムだ。

 よく噛む事で、口周りのリフトアップにもなる。



「お嬢様はお花はお好きですか?」



 突然話が変わったせいか、お嬢様はなんとも言えない顔を向けてきた。

 すぐ顔に出る。素直な子だ。



「勿論好きよ。だって綺麗だもの」



 俺はテーブルの上の花瓶を指さした。



「うちの庭で取れた薔薇だそうです。庭師のルークさんが届けてくださいました。明日お庭に行ってみませんか?」



 花瓶には、ピンク色をした見事な薔薇が飾られている。



「い、いいわ。行ってあげても」



 モニョモニョと恥ずかしそうに答える。


 俺はメイン料理の、鶏むね肉のネギルハムを取り分ける。



「それは何?」



 お嬢様が興味津々で質問してくる。



「これは鶏むね肉のネギルハムです」

「それも食べたことないけど…」



 取り分けた鶏むね肉ハムの上に、たっぷりネギルを乗せる。

 ニクニンの良い香りが食欲をそそる。



「お嬢様が痩せやすいように、メニューを工夫したのです。さぁ、どうぞ」



 お嬢様は、待ってましたとばかりにフォークをぶっ刺す。

 ……マナーも勉強しないとダメそうだな。

 とりあえず何でもかんでも詰め込みすぎも、ストレスを溜め込みそうだ。

 俺は忘れないよう、頭の中のメモ帳に、メモしていく。



「……凄く美味しい!とってもお肉が柔らかいわ!いつも焼いたお肉はあんなに固いのに!」



 この世界のお肉は全てウェルダンだ。

 どのお肉も、油をこれでもかとかけて焼く。

 これだけだ。

 蒸した事で、旨味をギュッと凝縮した鶏むね肉は、柔らかくて臭みもなく、野菜とも相性抜群だ。

 喜ぶお嬢様の顔を見ると嬉しくなる。

 ふと、前世の家族の顔が思い浮かんだ。

 元気にしているだろうか。


 そんな感傷に浸っていると、ダイニングの扉が開いて、使用人が入ってきた。

 その後に、なんと旦那様と奥様が入ってきたのだ。



「お父様、お母様?!」



 カーミラお嬢様も聞いていなかったのか、ビックリして口を開けている。

 俺はすぐに一歩下がって、腕を胸に当て礼をする。



「カーミラ、ただいま」

「カーミラちゃん、ただいま戻りました」



 旦那様と奥様が、とても優しい声でお嬢様に話しかける。



「お帰りなさいませ!お父様もお母様もどうして?!」



 お嬢様はこれまで見せた事が無いほど顔をほころばせ、席を立ち上がってお二人の前まで駆け出した。

 旦那様は、目の前のお嬢様を見つめて、コホンと咳払いをすると、ゆっくり話し始めた。



「……いや、今まで仕事仕事だと言って……随分カーミラを放っておいてしまったね……今日アメリアと話をしたんだ……」



 そこで旦那様はチラッと俺の方を見た。



「それで……これからはこうして、少しずつでも、カーミラと食事を取ろうと思ってね」



 旦那様が端正な顔に笑みを浮かべる。



「カーミラちゃん。今まで寂しい想いをさせましたね。これからは私も、出来るだけあなたと過ごす時間を作ろうと思います」



 奥様が柔らかくて笑顔でお嬢様に語り掛ける。

 奥様も随分美人だ。

 さすが美形夫妻。

 悪役令嬢とはいえ、カーミラお嬢様も、痩せればそれはそれは美人だった。

 ライバルポジションの令嬢が美人でないと、物語が盛り上がらないという事か。


 それにしても、こんなに早く旦那様へのお願いが叶うとは思っていなかった。

 二、三日に一回くらい夕食を一緒に取って貰えたら嬉しいな、と思っていたくらいだ。

 なんせ時間を作れと言われて、すぐに作れるほど、お二人は暇では無いのだ。

 旦那様なんて、この国の宰相なのだから。



「毎日一緒に……と約束は出来ないだろう。ただ、そうしようと努力する事は約束するよ」



 旦那様がお嬢様に目線を合わせて膝を折る。

 そして優しく頭を撫でた。



「私も、努力する事をカーミラちゃんと約束しますわ」



 奥様がそのままお嬢様を抱きしめた。



「お父様……お母様……」


 カーミラお嬢様が目元に涙をうかべた。

 うん。良かったね。

 お嬢様は俺と目が合うと、バツが悪そうに目を擦る。

 そして、フンっとそっぽを向いた。

 恥ずかしがっているようだ。

 その様子を見て、旦那様がこちらを振り返った。



「リオン、ありがとう」



 突然お礼を言われ、俺もビックリする。



「い、いいえ、とんでもございません!」



 お嬢様が不思議な顔で旦那様に尋ねる。



「リオンがどうしたの?」

「彼が教えてくれたんだよ。もっとカーミラとの時間を作ってくれ、とね」



 お嬢様は弾かれたようにこちらを見た。

 バラされてしまった俺は、何とも居心地悪く苦笑いする。

 ワトソンさんや、ファリスさんも目を白黒させている。



「リオンが……」



 お嬢様が目を見開いたまま見つめているけど、そろそろいたたまれないのでやめて欲しい。



「だ、旦那様達も夕食になさいますか?!」



 俺は慌てて話を逸らす。

 折角お忙しい二人が、こうしてカーミラお嬢様の為にと、時間を作ってくれたのだ。

 是非お嬢様と接してあげて欲しい。



「そうだな。ワトソン、用意してくれ」

「畏まりました」



 冷静沈着なワトソンさんは、テキパキと動き始めた。

 こういう所は、俺も見習わなければ。

 席についた奥様が、お嬢様の料理の料理を見て訊ねた。



「カーミラちゃんが食べてるのは何かしら?」



 奥様の質問に、ワトソンさんが答えてくれる。

 お嬢様の健康の為、体重を減らすのに減量食を始めたことなど。



「減量食?」



 奥様が食いついてきた。

 さすが女性だ。

 いくつになっても美しくいたい。

 というのは、世界の垣根を超えて、世界共通なのだろう。

 奥様は、お嬢様と同じ物を食べたがった。

 旦那様も興味を持ったのか、同じもの頼んだ。

 新しい調理法でのレシピだったので、後でバーバラさん達が食べようしていたらしく、二人の分はすぐに運ばれてきた。



「まあ!とても美味しいわね!」



 奥様からも太鼓判を頂く。



「このネギルのソースが美味いな。ワトソン、ワインを開けてくれ」



 旦那様も気に入ってくれたらしい。



「これらは全部、こちらのリオンがお嬢様の為に、と考えた料理なのだそうですよ」



 ワトソンさんがそう紹介してくれる。

 異世界テンプレの流れだ。

 前世の食は、本当に進んでいて万人受けするものだ。

 俺が考えた訳では無いが、異世界料理万歳である。



「リオンは料理人の才能もあるのね」



 奥様が褒めてくれているが、俺に才能がある訳では無い。

 強いて言うならば、誰でも皆スマホさえあればレシピをググれた前世そのものに感謝したい。



 とはいえ、これ以上持ち上げられると気恥しい。

 変なことを突っ込まれる前に撤退しよう。

 俺はワトソンさんにバーバラさんと打ち合わせがあるといい、後を任せて、ダイニングを後にした。


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