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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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魔術の授業



 今日、お嬢様に魔術の勉強が追加される。

 週三日。

 お嬢様が一通りのマナーを身に付けたので、マナーの授業が減ったのだ。

 その分、魔術の授業が増えた。

 お嬢様も俺も、期待に胸を膨らませている。

 どんな先生なのだろう。



「確か、お嬢様の力の度合いによって先生が決まると、メイベル先生は言っていましたよね?」



 隣の席に座って本を読んでいるお嬢様は、さっきからページが進んでいない。

 俺が話しかけると、胸を押さえて口を開いた。



「え?ええ。そう言っていたわね」

「お嬢様の魔力は強いのですか?」

「……どうなんでしょう?」



 歯切れの悪さを感じたが、お嬢様は上の空だ。

 どうしたのだろうか?


 俺が何かあったのか聞こうと口を開くと、勉強室の扉が開いた。

 開いた扉からは、昔のお嬢様と同じ位ではなかろうか。

 随分太った女性が入ってきた。


 身長は少し小さい。150位だろうか。

 体重は……80……いや、90位ある様な……。

 銀の髪はボサボサで肩まで無造作に伸ばしっぱなし。

 本当に先生だろうか?

 ぽよぽよとした身体つきのせいか、少し幼い様に感じる。

 しかし……痩せればかなりの美人になるのでは?

 俺はとても太っているが、顔立ちの整った先生を見る。

 服装はイメージ通りフード付きのローブだ。

 色は黒で所々に金の刺繍が入っている。


 それにしても、俺のイメージだとシーヴァリースの様な、仙人風の先生が来るイメージだったが、歳も15.6位に見える……。

 



「カーミラですわ。どうぞ今日からよろしくお願い致しますわ

「初めまして、使用人のリオンと申します。どうぞこれからよろしくお願い致します」

 


 俺達が席を立って挨拶すると、先生はこちらを見て話し始めた。



「初めましてぇ。貴方達の先生をする事になったエメラダだよぉ。どうぞよろしくねん」



 エメラダ先生は、人懐っこく微笑むと左手を差し出してきた。

 俺はお嬢様の後に先生の手を取る。



「さて。授業の前に聞きたい事があるんだけどぉ、いいかなぁ?」



 先生は、お嬢様ではなく俺の方を向いて問い掛けた。



「リオンちゃんはまだ八歳で魔術登録してないよねぇ?どうして勉強を?」



 エメラダ先生は、使い古した大きなカバンを机に乗せた。

 思っていた通り、とても人懐っこい口調と雰囲気だ。



 俺は、もしこの返答で授業を受けられなくなっても仕方がないと、最初から覚悟していた。

 それくらい、俺の魔術に対する憧れは強かった様だ。

 異世界転生したいと思っていた訳ではないが、転生した世界に魔術があるのなら、是非とも使ってみたい。

 そして、俺の持つ魔術のイメージを伝えたいと。

 なので、先にしっかり伝える事にしたのだ。

 それで先生が気を悪くして、授業を受けられないなら仕方ないと。



「はい。俺のイメージする魔術を、お嬢様に使って頂きたいと常々思っていました。魔術の専門家の方に話しを聞いて頂き、それが可能なら使って頂きたいと思っていたんです」



 俺の言葉に、エメラダ先生はニッと笑うと腕組みしてこう言った。



「それはとても向上心がある。同時に、私に対してとても挑戦的だねぇ」



 ……確かに、魔術の講師に選ばれる位の人に、まだ魔術の魔の字も分かっていない俺の意見を聞いて貰おうというのは、とても挑発的だ。

 ……それでも。

 

 この世界で見てみたいではないか。

 あんな魔術やこんな魔術を。

 前世で色々な創作作品で出てきた、様々な美しい魔法とか。

 そう思ってしまったら、後は先生との交渉次第だ。

 俺はエメラダ先生の、こちらを面白がる様な瞳を逸らさず受け止める。



「……と言われてもぉ、実はリオンちゃんの話しを聞いてぇ、楽しみにしてたんだよねん。私」

「私の……ですか?」



 お嬢様ではなく、何故俺を?

 お嬢様も俺の顔を見て、また何かしたの?という怪訝な視線を送ってきた。

 俺は胸の前で手を振ると、エメラダ先生に視線を戻す。



「勿論、カーミラ様の事も楽しみにしてたよぉ。四属性発現の加護持ちでしょぉ?魔力レベル、計測値振り切ってたって聞いたよぉ?」



 え!

 俺は驚いてお嬢様の方を見た。

 そんなお嬢様って凄いのか?!

 お嬢様は俺達の視線を受け、今度は逆に居心地悪そうに視線を逸らした。



「でもリオンちゃんの興味はそういうんじゃないんだよねぇ……リオンちゃん、ジュダスのお気に入りなんでしょぉ?ライナス様が言ってたよぉ」

「え!お気に入り……ではないと思いますけど……」

「………気付いてなかったんですの……」



 隣でお嬢様がなにか、ぶつくさ呟いているが聞こえたなかった。

 それにしても、俺がジュダスさんのお気に入りだなんて、旦那様も随分見誤ったものだ。

 俺はジュダスさんの黒い笑顔を思い出して背筋を凍らせた。



「ジュダスさんのお知り合いなんですか?」

「ん?私?私はジュダスの恋人だよぉ」

「えええええ!」



 声を出して驚いたのは俺ではない。

 お嬢様だ。

 しかし、その驚きは理解出来る。

 ……まさかジュダスさんに恋人がいたなんて……。

 なんて羨ま…いや、なんてびっくりする事だろう。

 ジュダスさんは旦那様命で、女性には全く興味なさそうに見えたんだが。

 いや、この場合の旦那様命というのは、勿論主従の尊敬の念としてだ。

 恋愛的な意味ではないので、勘違いしないで頂きたい。



「勿論。私の中のジュダスだけどねん。えへ」

「………………」



 ……それは……片思いというやつではなかろうか……。

 いや、脳内彼氏?

 お嬢様は、何故か酷く納得した様で落ち着きを取り戻して、一人で頷いている。



「だからぁ、ジュダスが気にいるなんてどんな事言い出す子なんだろうって、そりゃーワクワクしてた訳なのぉ」

「あ、あはは……」

「そしたらぁ、魔力発現もしてないのに、魔術論争したいなんて……ぷっ……にゅっふっはっ!ほんと、ジュダスが好みそうな事言うんだねぇ」



 エメラダ先生は、大きなお腹を抱えて目元に涙を浮かべて笑い続けている。

 笑い方が怪しい。

 ジュダスさんが好みそうかどうかは知らないが、先生は俺の意見に否定的では無さそうだ。

 それもジュダスさんのお陰というのが少し引っ掛かるが…。



「いいよぉ!聞いてあげるよぉ。リオンちゃんの意見。なんでも聞いてごらんなさい!」



 エメラダ先生は、片腕も腰に当て、もう片方の腕でバシッと胸を叩くとのけぞった。

 ジュダスさんに感謝の念を送って、俺は頭を下げた。



「ありがとうございます!よろしくお願いします!」

「うんうん。改めて二人ともぉ。王宮魔導士をしてるエメラダ•ウィドウだよぉ。後は研究室を貰っていて、そこで魔具も作ってるよぉ。よろしくねん」



 先生は改めて自己紹介をしてくれた。

 王宮魔導士だったのか。

 ファリスさんとレナの話だと、魔術を使う者の中でもとても優秀という事だった。

 それ程、お嬢様の魔力が強いという事か。

 自分で魔具も作れてしまうなんて多才だ。


 先生は、いつの間にか何処からか杖を取り出していた。

 杖は俺の持つイメージ通りの魔法使いの杖だ。

 木の枝が3本複雑に絡み合い、先端に水晶がついている。



「でも、まずは座学といこうかねん。二人とも席についていいよぉ」



 俺達は指示通り席に着く。

 エメラダ先生が杖を一振りすると、先生の横に大きい身体が光だす。

 光といっても、身体に流れる血が浮き出るといった感じだ。

 身体を流れる血が光っている。

 


「見えやすい様に視覚化したよぉ。今光っているのが身体の中を巡っている魔力だよぉ」



 本当に、血液の様な感じなんだな。

 魔力は全身の隅々まで広がっている。

 手の指先から頭のてっぺん、足のつま先までだ。

 特に心臓部分は幾重にも巡っていた。

 俺の視線に気付いた先生は、自分の心臓を指差して答えた。



「ああ、これ?制約がかかってるんだよぉ。ちょっとややこしい加護を持っててねぇ。その内見る事もあるだろうけど、魔術の授業位じゃ見れないかもぉ」



 制約の加護?

 先生はそれだけ説明すると、もう次の説明に入った。



「この魔力を意識する事がまずは第一ねん。きちんと自分の身体の中を魔力が流れるイメージを持つんだよぉ」



 先生はお嬢様の方を見ながら説明すると、持っていた杖を一振りして消した。

 とてもファンタジーだ。



「じゃあここで問題ねぇ。魔力はどこから発現すると思う?」



 発現する場所?

 お嬢様が人差し指を口に当てながら、んーと呟き話す。



「わたくし達の身体の中ではございませんの?」

「そうだねぇ。私達の身体の中に自然と備わっている。それは、生命力の様に身体から湧き出るものねぇ。でも…それだけじゃないのよぉ」




 先生がまた何処からか歴史書を取り出す。

 それは、メイベル先生との勉強の時に使った物と同じだ。



「創造神シーヴァリースは、光の女神ティルエイダ、守りを司る水の女神グレイシーヌ、繁栄を司る地の女神ルーフェミア、三人の女神に、この星を癒させました」



 …なるほど。そういう事か。

 俺が納得のいく顔をしていると、隣でお嬢様は俺に教えろとツンツンしている。

 恐らく、まだ話しは終わりでない筈だ。



「そして、力を司る炎の男神ヴァンラギオンと、秩序を司る風の男神ソルアウラにこの星を守らせました」



 歴史書を閉じた先生は、また何処から取り出したのか分からない羽ペンで俺を指した。



「リオンちゃんは分かったのかなぁ?」

「つまり、この星には神々の魔力があって、その力を借りる事も出来る…という事でしょうか?」

「そういう事ぉ。この地には水の女神グレイシーヌと地の女神ルーフェミアの力が。そして、この星の大気には炎の神ヴァンラギオンと風の神ソルアウラの力が巡っているのねん」



 羽ペンを何も無い空中に走らせると、先生は空中に文字を書き始めた。

 キラキラ光る文字が宙に浮かんでいる。

 ホワイトボード要らずだ。



「勿論この星に宿っている力はぁ、何らかの契約や制約や盟約。後は条件がかかったりしてぇ、必ずしも簡単に貸してもらえるものじゃあないよぉ」



 確かに、魔力が星から無制限に引き出せて借りれるなら、誰でも大魔法が使えたりしてしまうだろう。

 俺の頭の中で、魔力の使い道が大魔法だけというのは、この際気にしないで頂こう。



「ただ、方法があるっていうのは理解しておこうねぇ。じゃあ次の問題。カーミラ様ぁ。魔力を限界まで使うとどうなるでしょぉ」



 先生の手の中には、モワモワと煙で骸骨が形作られた。

 今の所どちらかと言うとマジックの様だ。


「それは勿論死にます」

「え!」



 俺は、俺の大声に驚いてこちらを見たお嬢様と、先生の間で視線を彷徨わせる。

 MP0で死亡って、結構厳しく無いか?

 HP0で死亡は分かるが、MP0でも死ぬのか…。



「そうだねぇ。だから自分の限界は早めに見極めないとねぇ。一応魔力の限界が近くなるとぉ、凄ーく寒くなるのぉ。まるで氷漬けになった様に感じるからぁ、そしたら注意してねぇ」



 まるで自分がなった事があるかの様な感想だ。

 俺の目があった先生は、てへへと笑うと、頷いた。



「私も若かりし頃ぉ、自分の限界までやり合った事があってねぇ。その時の凍える様な冷たさはもう経験したくないわねぇ。えへ」



 とても若かりし頃と言う時代があった様には見えない程幼く見えるが、ジュダスさんの事も知っているし、同じ位の年齢なんだろうか。

 


「なのでぇ、まずは自分の限界を知る事から始めましょぉ」



 そう言って先生は、プニプニの頬を緩めて微笑むと、またいつの間にか杖を取り出していた。

 ゆっくり俺達に近付く。

 そして、その杖を振るって、何かを唱えている。

 それは歌の様にも、呪文の様にも聞こえたが、何を言っているのかまでは聞き取れなかった。


 次の瞬間、俺達は見知らぬ場所に立っていた。


レベッカ•ヴァン•マルガレット


春生まれの10歳

黒髪ストレートに赤い瞳

光属性含む三属性持ち 一番強いものは炎

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