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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
52/72

ミラーダ祭


「お嬢様!ようこそいらっしゃいました!」

「リオン!」



 俺は、お嬢様を見付けて大きく手を振った。

 後ろには、アルマデル様と旦那様夫妻がいる。

 馬車の後ろには、護衛のノヴァクさんとサイネルさんも馬でやってきていた。



 お嬢様は急いで俺に駆け寄ると、何故か全身チェックをした。

 何かおかしい所があるのだろうか?

 今日の俺は、この間Jに貰った白のプリーテッドシャツと、焦茶のズボンを履いている。

 プリーテッドシャツとは、胸元がプリーツの様にヒダになっている物だ。



「なんだ、やっぱり気のせいよね……」



 お嬢様は、何か呟いた様に聞こえたが、俺には聞こえなかった。

 お嬢様はニコリと微笑んで姿勢を正す。

 どうやら気のせいのようだ。



「ジュダス、来なさい」

「はい」



 ジュダスさんは旦那様に呼ばれて行ってしまった。

 相変わらず振り返る事がない。



「ノヴァク、サイネル。カーミラちゃん達をよろしくね。リオンも何かあったら、商業連盟の四階にいますから」

「畏まりました」



 皆が奥様の指示に従って動き出す。

 旦那様は此方をチラリと振り返ると、奥様の手を引いてジュダスさんと商業連盟へと入って行った。



「リオン!そろそろ説明して下さる?どんな催し物ですの?」



 お嬢様が両手を腰に当て、眉を吊り上げて仁王立ちしている。

 お嬢様の眉間をグニグニしようと手を伸ばすが、今日はサッと避けられた。



「今日はわたくし、誕生日でしょう?」

「はい。そうです。本当におめでとうございます。お嬢様」

「ですから、今日は多少の我儘も許されると思いますの!」



 ……なるほど。

 確かに一理ある。

 俺は手を引っ込めて、左手を胸に添えて礼をする。



「アルマデル様に引かれない程度でしたら目も瞑りましょう」



 俺の言葉を聞いたアルマデル様が、まあ!と口元に手を当て上品に微笑んだ。

 お嬢様は少し口を尖らせたが、すぐに笑顔になった。


 俺は要望に応えて、今日の催し物の説明を始める。

 お嬢様達だけでなく、ノヴァクさんとサイネルさんも説明を聞きに近くにやってきた。



「では、今日の催し物の説明を致します。今日の催し物は、ミラーダ祭と名付けました。まずはこれをお持ち下さい」



 俺は、印刷工房に作ってもらった分厚い紙のチケットを四人に配る。

 大きさは大人の手の平サイズだ。

 表面にはまずミラーダ商会のマークが目立つ様紫色で描かれている。

 そして、ただの百円玉位の丸が五つ書かれている。

 皆は、手に取ったチケットの裏を見たり表を見たりしている。



「これが、このミラーダ祭の参加証となるチケットです。商業連盟に行けば、誰でも貰えますし、このミラーダ商会の旗が立つお店にも置いてあります」



 俺達が立つ商業連盟前の広場には、もう昼過ぎという事もあり沢山の市が立っており、所々でミラーダ商会の旗が立っている。

 皆が辺りを見渡しながら頷いた。

 道行く人もチケットを待つ人が目立つ。



「次に此方が同じく商業連盟で配っている街の地図になります」



 俺は、地図も四人に配る。

 四人は不思議な顔で地図を見た。



「このミラーダ商会の旗の立つ店で幾らの物でも良いので、買い物をすると店ではスタンプが貰えます。そのスタンプはこのチケットの丸の部分に押してもらえます。そのスタンプが五つ貯まると、商業連盟で景品と交換出来るというのが、今回のミラーダ祭です」



 お嬢様の目が輝き、アルマデル様と微笑み合う。

 護衛の二人もほおと、腕を組んで頷いた。



「今言った説明は、チケットの裏に説明として書かれています。次に地図ですが、街の至る所に地図の掲示板を設置しました。ここのお店で何が売ってて美味しかった、などの情報を書き込む事が出来ます。この地図の丸のつけられた場所は、その掲示板のある場所になっています」

「なるほど……どうせなら自分が欲しい物や、美味しい物にあり着きたいし、どこに何があるかも分かりませんし……」

「街全体を使った面白い祭ですね……」



 護衛の二人の興味を引いた様で、二人は地図を見ながら話し合っている。

 お嬢様はもう走り出しそうな程興奮している様で、いきなり咽せ始めた。

 アルマデル様が落ち着かせようと背中をさすっている。



「では、早速掲示板をチェックしながら行ってみましょうか!」

「ええ!」

「楽しみですわね!」



 お嬢様を先頭に、手を繋いでだアルマデル様。

 その後ろに護衛の二人が。

 俺は地図を見ながら、最後尾で掲示板まで案内する。



 朝早速、セントさんのお店に行って、チーゴのクラッシュアイスとチーゴミルクを買って、掲示板に書き込んだのだ。

 最初の掲示板に着くと、地図にはもうかなりの書き込みがされていた。



「……凄いですね」

「思った以上に書き込まれてますね」

「見て!ここ、チーゴのクレープ美味しい!って書かれてますわ!」

「クレープとは何でしょう?」

「小麦粉を薄く焼いた皮の上に、クリームや果物を乗せて巻いたデザートです。では此方から行ってみますか?」

「ええ!わたくし、もうお腹ペコペコですのよ!」



 俺の提案に二人が仲良く返事をした。

 護衛二人はまだ地図を眺めている。

 


「もしかして……それでこの間わたくしに好きなお菓子の事を聞いたんですの?」

「はい。レシピを商業連盟に売って、今日参加するお店に広めたんです。チーゴどら焼きや、チーゴプリンを作っている所もありますよ」



 お嬢様が俺の手を取ってクルリと回る。

 


「凄いわリオン!こんなお祭り初めてよ!」

「お嬢様。はしゃぎ過ぎてハメを外してはいけませんよ」

「も、勿論わかっていますわ」



 クスクスと俺達のやり取りを見ていたアルマデル様が、俺達を見て口を開いた。



「本当に、お二人は仲がとってもよろしいんですのね。羨ましいですわ」

「リオンは特別ですもの!」

「アルマデル様とお嬢様も、とても仲良くなりましたね。二人とも一緒にいて、無理をしている感じが全然ありません。良かったですね。お嬢様」



 赤くなったお嬢様がアルマデル様を見て恥ずかしそうに俯いた。

 それを見てアルマデル様は、まるで姉の様にお嬢様の頭を撫でている。

 


「リオン、この地図に書いてあるお好み焼きとはなんですか?」

「ああ……それは、南の穀倉地帯で採れた小麦粉を使った、野菜や肉を挟んだお焼きの様な物です。甘い物だけだと、男性のお客様が楽しめないのではないかと思って、軽食になりそうなしょっぱい系の物もレシピを売りました」



 流石に参加店が全てチーゴのお菓子だけでは、飽きてしまうし、そんなに甘い物ばかり食べれないだろう。

 


「この、陶芸品の工房の体験入房とは何でしょう?」

「それは、食品に関係のない工房も参加出来る様考えた結果、工房で作られている物を一緒に作ってそれを持ち帰れるという形にしてみました。参加費は払いますが、プロが一から作り方を教えてくれますから、いい体験になりますよ」



 俺達は、チーゴのクレープ屋さんに向かいながら、色々と質問に答える。

 通り過ぎたカップルが、楽しそうに地図を覗いていた。

 目的の屋台について、お嬢様達がチーゴのクレープを頼んだ。



「まあ、このまま立って食べますの?」

「今回のお祭りの趣旨は、こうしてラントールの特産品を食べたり、手に取ったり、街の人と触れ合いながら、どんな街か知って貰う為、食べ歩きスタイルにしたというのも大きいです。ですが、無理をすることはございません。どこか座る場所を探しましょう」



 俺は、アルマデル様の意見を聞いてすぐに何処か店はないか探す。

 事情を説明して注文をすれば、嫌な顔はしないだろう。

 今日はお祭りで、街の皆も楽しそうに活気づいている。



「いえ!いいのです。少し驚きましたが、わたくしも食べ歩いてみたいですわ」



 アルマデル様が、持っていたクレープをハムっと小さな口で齧り付いた。

 そして、驚きに目を見開くと、慌てて二口目を口に入れた。



「んー!美味しいわ!うちで食べるよりもチーゴが新鮮でみずみずしいわ!」

「……ほ、ほんとに……とっても美味しくて吃驚しましたわ!」



 お祭りで作って貰っているお菓子は、どれも小さめに設定して貰った。

 あまり大きくすると、スタンプを五つ貯める前にお腹が一杯になってしまうからだ。

 食品は、どれも片手に収まるサイズにして貰っている。

 俺は、ノヴァクさんとサイネルさんに、ソーセージのクレープを差し出した。



「どうぞ。俺のおごりです」

「いや、我々は護衛中で……」



 俺が二人に差し出すと、ノヴァクさんは首を振った。 

 お嬢様がそれを見て、再び両手を腰に当ててビシッと人差し指を突き出した。

 お行儀が悪いが今日は目を瞑ろう。



「命令ですわ!お食べなさい!」



 お嬢様は昔の様にビシッと命令する。

 命令し慣れているのもどうかと思うが、こんな時は有難い。

 俺は二人にクレープを差し出す。



「美味しいので、食べて下さい。それに、今日朝から護衛をしていて、何も食べていないのではありませんか?」



 二人は顔を合わせると、サイネルさんが先に手を伸ばしてくれた。

 ノヴァクさんもそれを見て、笑顔で受け取ってくれた。



「……美味い」

「カーミラお嬢様!美味しいですよ!」

「良かったわ。皆で食べるととても美味しいわね!」



 お嬢様の笑顔に皆が釣られて笑顔になっていく。

 こうして、隣でお嬢様を見守れる事も不思議な縁だ。



「ねえ!あっちの店で見た事ないお菓子売ってるんだって!」

「でも、こっちの店も新しい料理だって言ってたぜ?」



 ラントールの子供達だろうか。

 俺達より少し歳が上の子供達が、五人ほど集まって地図を睨めっこしている。

 


「そもそも、今日って何で祭になったんだ?」

「なんでも、このシュトラーダ領の領主の娘さんが誕生日で企画されたって、連盟で働いてた父さんが言ってたわ」

「へー!随分面白い事考えるよな!」



 子供達は口々にお喋りをしながら通り過ぎて行った。

 それを聞いたお嬢様は、俺の頭を撫でて優しく微笑んだ。

 それからもチケットを持って街を歩く人を沢山見かけた。

 かなりの参加者になっていそうだ。



 それから俺達は、掲示板を見ながら食べ歩いたり、ガラス細工の工房では、お嬢様はアルマデル様とお揃いのコップを作ったりしている。

 俺の勧めでセントさんのお店でクラッシュアイスを買ったりしながら、五つのスタンプを貯めた。

 セントさんにはお嬢様を紹介出来た。

 シュトラーダ公爵の令嬢なので、かなり緊張していたっけ。



 祭に来ると言ってたノア達を始め、ヨシュアさんやアルルゥさん、エルさん達とは会えなかった。

 お嬢様を紹介したかったのだが、仕方ないか。




「リオン!五つ溜まったわ!」

「はい。それでは商業連盟に戻りましょうか。」

「もう少し見たかったけれど、もう日も暮れて来ましたしね。」



 お嬢様とアルマデル様が、残念そうに顔を見合わせた。

 


「そんな悲しい顔をしないで下さい。また来年皆で来ましょう」

「来年……?」

「そうですわ、カーミラ様。宜しければまた来年も誘って下さいますか?」



 お嬢様はプルプルと身体を震わすと、俺とアルマデル様を抱きしめて嬉しそうに笑った。



「ええ……ええ!きっとよ!」

「まあ、カーミラ様ったら」



 俺達を見て、ノヴァクさんとサイネルさんが微笑ましそうにしている。

 商業連盟に戻ると入り口はかなりの人混みだった。

 皆景品を交換にしに来た人達だ。

 俺達はそのまま人混みを抜けて四階へと階段を登った。



「あの人達、皆景品交換の人達ですの?」

「そうみたいですね。大盛況で終わった様で安心しました。これなら、お嬢様達が用意してくれたコサージュも全部無くなってしまうかもしれませんね」



 先着順とは書いてあるが、かなりの個数を用意する事ができた。

 コサージュやブローチに出来るフリルの飾りは女性用だ。

 なので旦那様にもお許しを貰って、もう着ない服を貰い、男性用にタイも作って貰った。

 足りない分はJから生地を買ってきた。

 これも手伝ってくれたファリスさんとレナを始め、メイドの皆さんに感謝だ。



「私の作った物……」



 一階で景品を交換した女の子達が、嬉しそうな顔でコサージュを受け取っている。



「見て!すっごく可愛い!」

「私のと色が違うわ!これ領主のお嬢様が作ったんですって!」

「さっき、男の子が貰ってたのはタイだったわよ!」

 


「あんなに喜んで……」



「はい、スタンプ五つですね。景品は此方になります。シュトラーダ家のご息女が作ったんですよ」

「ど、どうぞ!景品です!ミ、ミラーダ商会の代表、カ、カーミラ様の手作りなんですよ!」



 声のする方を見ると、街を見終わってお手伝いをしていたファリスさんとレナが、スタンプの景品交換をしていた。

 しっかりお嬢様のアピールをしてくれている。



「ファリスとレナまで!」

「手伝うと言って聞かなかったそうですよ。楽しそうなのでやらせてあげましょう」



 四階の個室では、お嬢様の両親と、この街の連盟の会長が待っていた。

 造りは王都の連盟と変わらなかった。

 入ってきた俺達を見て、奥様が嬉しそうに立ち上がって出迎えてくれた。

 俺はノヴァクさんとサイネルさんと廊下で待っていようとしたが、旦那様に手招きされた。



「随分盛況らしいな」

「ええ!お父様!一階には凄い人が溢れかえっていましたわ!」



 旦那様はお嬢様の言葉に嬉しそうに耳を傾けて、今日あった事を聞いている。

 


「アルマデル様。カーミラに付き合ってくれてありがとう」

「そんな…わたくしの方こそ、こんなに楽しいのは初めてでしたわ。こちらこそありがとう存じます」

「もう遅くなるので送らせよう。カーミラ。ノヴァクとサイネルと一緒にアルマデル様を送って差し上げなさい」

「お父様達は?」

「私達は、ここで一仕事片付けてから戻る。少しだけ夕食を遅らせて貰うから一緒に取ろう」



 旦那様の言葉に顔を輝かせたお嬢様は、アルマデル様と手を繋いで部屋の扉を開いた。



「リオン!本当にありがとう…一番の誕生日になりましたわ」

「それは、本当に良かったです。私もとても嬉しいです」

「では屋敷で待っておりますね」

「はい。お気をつけて」



お嬢様の最高の笑顔を見ながら、俺は充足感に満たされていた。

シフ


料理人歴  9年

名前の由来  シフォンケーキから

得意料理 最近覚えたお好み焼きもどき

独身なんです…。

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