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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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私から見たリオン


「お父様!お父様?!お待ち下さい!」

「どうなさったの?貴方?」



 青い顔のまま、慌てて出てきた私達を見て、待っていたお母様と護衛の二人が顔色を変えた。

 ノヴァクとサイが周囲を伺い、私達を守る様に前後に分かれた。

 お父様は、私とお母様の手を引くと、護衛の二人に目配せをして早口で答えました。



「いや、なんでもない。早くここから出よう」



 何でもないなんて言葉は、子供の私でも嘘だと分かったけれど、早くここから出たいというのは私も同感だった。


 あの……なんだか独特の雰囲気の双子……。

 お父様の後ろを早歩きで追いかけようとしたけれど、サイに失礼と言われ抱き上げられる。



「お父様、リオンが斬られたってホントですの?!」



 私は一番気になっている事を聞く。

 どうして?!リオンは無事なの?!一体いつ……。



「……リオンは大丈夫だ。斬られてなどいない」

「でも!」

「大丈夫だ!……安心しなさい」



 そう言われては、もう聞く事は出来ない。

 お母様が心配そうに私達を見ている。


 急足で教会から出た私達は、そのまま馬車に乗り込んだ。

 ようやくお父様が息を吐いたのを見て、お母様は心配そうに覗き込んでいる。



「……本当に……本当にリオンは斬られてなどいないのですね?」

「……大丈夫だ。()などない。お前も朝会っただろう?」



 お父様の答えに少し違和感を感じたが、確かに朝おめでとうと言ってくれたリオンは何とも無かった。

 でもこの胸騒ぎは何かしら……。

 でも、お父様もこう言っているし、私の勘違いよね。


 水晶も弁償もするって言ったし、まさか壊れちゃうなんて……。

 きっと余り高価ではない水晶だったのね。



「さあ、カーミラ。ノーランド家のお嬢さんを迎えに行くんだろう?」

「……ええ、ええ!そうですわね!」

「今日はずっとわたくし達もラントールにいますわ。ね?貴方」

「ああ」



 こんな誕生日。ほんとに始めて。

 毎年お父様もお母様も、お仕事で私についていてくれた事なんてなかったわ。

 それが、一番におめでとうと言ってくれて、今日はずっと一緒だなんて……。

 しかもこれからお友達を迎えに行くのよ。

 なんて楽しい毎日。


 ……それもこれも、全部リオンのお陰だわ。




 リオンは一言で言うなら不思議な子ね。

 少し前の私は、嫌われまくって、太りまくって、我儘ばっかりだったわ。

 子供の頃は病弱で、ずっとベッドから出れなかった。

 いつも付き添ってくれていたのは、ワトソンだったわ。

 子供心に、どうしてお母様とお父様は全然会いにきてくれないんだろうって、ワトソンに随分と泣きついたわね。

 ワトソンは、お二人とも国の為、お嬢様の為に働いておられます。って。

 そんな事は勿論私だって分かってた。

 でも、欲しい言葉はそんな物じゃなかったわ。



 その内、体調も良くなって、動ける様になっても、お母様とお父様は相変わらず忙しくて、会ってもすぐに仕事に行ってしまった。

 そうよね。寝込んでいる私にも会いにきてくれないのに、元気なったからといって、ついててくれる訳なんてないもの。



 私は、その日ベッドで一目も憚らず大笑いしたわ。

 こんなに想っても想い返して貰えない自分が酷く滑稽で。

 笑って笑って。

 それで大泣きしたわ。

 ワトソンは何が起こったか分からずオロオロして、もう今はいないメイドは気が狂ったのかとヒソヒソ話していた。



 それで私は思ったの。

 こんなに誰にも想って貰えない私なんて、何をしてても同じじゃない。

 だったら好き勝手してやるわ。って。

 我ながら子供よね。いや、子供なんですけれど……。



 私の我儘はドンドンエスカレートしていった。

 お母様とお父様は、構えない負い目から私の言う事はなんでも聞いてくれた。

 欲しい服も、食べたい物も。

 嫌いな人間を首にして欲しいと言った時も、困った顔をしたけれど、やっぱり叶えてくれた。



 私を大事に想ってくれない人なんていらない!

 そう駄々を兼ねていったら、私の周りには誰も居なくなった。

 誰もいないダイニングテーブル。

 いいの。もう慣れたわ。

 


 私を遠巻きに眺める人達。

 誰も本当の私はなんて見てくれない。

 誰も叱ってくれない。

 誰か……誰か……。

 たった一人でもいい。

 本当の私を見て!

 今となっては、ちゃんと分かってるわよ?

 あの頃の私は甘ったれてただけだって。

 他人に助けてくれって言って、自分からは何もしなかったんですもの。

 ほんとに、今となっては恥ずかしいわ。



 そんな時だったわ。

 同い年の女の子ともお茶会でもして、仲良くなったらどうかしらって、お母様が言ったの。

 そうか。この屋敷の中にいないなら、外の人ならいるかもしれない。

 私は二つ返事で頷いた。



 でも実際はどう?

 同い年の女の子達は、皆私を見て後ろ指指してくる。

 屋敷の人達なんかより、余程直接的で嫌味なそれは、私を想って言ってくれてる言葉じゃなかった。

 ただ私を傷つける為、面白がる為、自分が優位に立って優越感に浸る為。

 なんだ……。

 内も外も変わらないじゃない。

 私は益々我儘を拗らせていった。




 でも、そんな時だったわ。




『私は、カーミラお嬢様を嫌ってなどいません。私がお仕えしているのは旦那様ですが、俺はお嬢様の従者として、決して裏切らない、嘘をつかない事を約束します』


 リオンは、私の目をしっかり見てそう言ってくれた。

 そして、私の事を嫌ってなどいないと。


 初めてだった。

 そんな事言ってくれた人。


 後は、ガサツとか、自分勝手とか、散々言ってくれたけど……。

 でもそれは、リオンが決して私に嘘をついていないという事の証明でもあった。

 私が間違っている時は、必ず私を正しい道に導いてくれた。

 ちゃんとダメな事は、ダメと言って叱ってくれる。

 上手に出来た時は褒めてくれる。


 あんな小さな歳下の子に諭されるなんて……なんて思いは全然なかったわ。

 だって、リオンは私に決して嘘はつかないもの。


 それから、お母様とお父様は私と一緒にいる時間を作る様にしてくれた。

 一緒に過ごす様になって、初めて知ったわ。

 その分、遅くまで書斎で二人とも仕事をしている事。


 いつだったか、言ったの。私。

 もう二人の気持ちを知れたから、今までみたいに仕事に行っても大丈夫だって。

 でも、二人は優しく首を振ったわ。


 そんな風に過ごしている内に、私を見る皆の目が優しくなり始めた。

 今まで当たり散らしてきたファリスとレナも、今では私に優しい瞳を向けてくれる。

 私の為に叱ってくれる様になった。

 ワトソンも、ルークも、屋敷の皆は私を見る眼差しが変わった。



 私は痩せて、勉強して、そして学んだ。

 自分がどんなに愚かだったか。

 それも全部、リオンが気付かせてくれた。



 これから会うアルマデル様だって、リオンが仲を取り持ってくれた様な物だと私は思ってる。

 だって、私を変えたのはリオンだもの。

 今の私はリオンが作り替えたものだから、アルマデル様が私と仲良くしようと思ってくれたのは、やっぱりリオンのお陰ね。



 だから、リオンは私にとって特別なの。

 それからとっても不思議な子。


 このリンスだって、ドレスだって、どこで学んだのかしら?

 屋敷の書斎に入る様になって思ったけれど、そんな本なんて無かったし。

 リオンの考えるお菓子や食事も、どれも美味しいけど、見た事も聞いた事もない物だわ。

 勉強だって、私だってあれから頑張っているのに、ちっとも追い抜けない。

 追い抜かないどころか、もう背中すら見えない感じよ。



 あのお父様の従者に気に入られた事だって、今年一番の驚きだわ。

 あの従者は、お父様命なのよ。

 そのお父様の大事な一人娘だからこそ、私の事は気にかけてくれているけれど、自分から私の為に動く事はないわ。


 …なのに、そんな気難しい男も、いくらお父様の命令でも、気に入らなければ手助けなんてしない。

 でも、彼はリオンを助けてる。

 それは彼がリオンを気に入ったからよ。



 ジュダスだけじゃないわ、屋敷の皆や、きっと工房の職人だって、皆リオンが大好きなのよ。

 それもリオンの不思議なところだわ。

 いつの間にか、相手のと壁を壊しちゃうのよ。

 無理やり壊すんじゃなくて、まるで雪を溶かすみたいに溶かしちゃうのよ。

 それが、リオンの一番凄いところだし、私が尊敬してるところね。

 


 だから、今度は私がリオンの役に立ちたい。

 このありがとうって気持ちを返したい。

 リオンの願いは、私がこの国の事を少しでも良くしようと考える事の出来る、淑女になる事だわ。

 だから、私は決めたの。

 必ずそうなって見せるって。

 リオンが自慢に思ってくれる様な淑女になるわ。


 


「カーミラちゃん、見えてきたわよ」



 お母様が馬車の窓から見えるノーランド家を指差した。

教会からラントールに向かう道中にアルマデル様の屋敷がある為、寄って貰う事になっていた。

 玄関が見えてくると、外ではもう人が見えていた。

その中に緑の髪を見つけて、私はお母様に笑顔を向けた。

馬車が止まり、行者がドアを開けるとアルマデル様の御家族が待っていた。



「アルマデル様!ご機嫌よう」

「ご機嫌よう、カーミラ様、シュトラーダ公爵様、シュトラーダ公爵夫人様。わざわざ迎えまで、本当に宜しかったのでしょうか?」



オドオドとした雰囲気でアルマデル様が口を開くと、お父様とお母様がニコニコと微笑んだ。

後ろのアルマデル様のお父様とお母様かしら?

優しげな雰囲気がそっくりだわ。

二人はゆっくりと貴族の礼を取ると、馬車のお父様とお母様にお声をかけた。



「わざわざ娘の為に申し訳ございませんシュトラーダ公爵様」

「いや、ラントールに向かう道中なので気にせず」

「どうぞ娘をよろしくお願いします」

「こちらこそカーミラちゃんをよろしくお願いしますわ」

「まぁ、そんな…公爵様のご迷惑になっていなければ良いのですが…」



 アルマデル様は小動物の様な瞳で、両親達の様子を伺っている。

 小難しい挨拶は両親に任せましょう。と、小声でアルマデル様に囁く。

 私は、さあと促してアルマデル様の手を取った。

 アルマデル様が嬉しそうに微笑んで手を握り返してくれた。



「お父様、お母様、行って参りますわ。シュトラーダ公爵様。本日はよろしくお願い致します」



 アルマデル様がご自分のご両親に声を掛けて、そして、馬車の中の私の両親に挨拶すると馬車に乗り込んだ。

 こんな風にお友達の手を取って馬車に乗るなんて、昔の私が聞いたらきっとビックリして信じないわね。


 

 オズオズと馬車に乗り込んだアルマデル様が、お父様とお母様を前に少し緊張している。

 そして、ドアから見える両親に手を振って微笑んだ。



「行って参ります」

「アルマデル、ご迷惑お掛けしない様気をつけるのですよ」

「はい。お母様」

「それでは、シュトラーダ公爵様、娘をよろしくお願い致します」



 アルマデル様のお父様の言葉にお父様が頷くと、ゆっくりと馬車は走り出した。



「いいかい、カーミラ。今日は二人で街を回っていいけど、必ずノヴァクとサイネルと一緒に行動する様に」



 私は再三聞いた注意事項をお父様から話されて、苦笑しなが返事をした。



「全くお父様ったら。心配性なんですから」

「それだけカーミラちゃんの事が心配なんですわ」



 隣のアルマデル様がクスっと可愛らしく笑い声を零した。



「わたくし、ラントールは初めてですわ。どんな所か本当に楽しみで、昨日はなかなか眠れませんでしたの」

「まあ!わたくしと一緒だわ」



 私は去年訪れたばかりのラントールと、リオンから教えて貰った事を思い出しながら、簡単にアルマデル様に説明する。

 少しでもラントールの事を好きになって貰いたいもの。



「ラントールは、王都の南に位置するお父様が領主を務める大領地ですの。特産品はチーゴや陶芸が盛んですのよ。さらに南の穀倉地では、様々な穀物も作られておりますの」



 私の説明に吃驚したのは、アルマデル様ではなく、私の両親だった。

 特にお母様は驚いて声も出ないみたい。



「まあ、カーミラ様はとてもお詳しいのね。それに、わたくしチーゴが大好きですの」

「わたくしも大好きですわ!どんな催し物なのかしら!」



 私はワクワクが溢れ出しそうになるのを、淑女らしくしなければという気持ちで押し込める。

 リオンがいたら、深呼吸して落ち着いて下さい。なんて言われちゃうわ。



「まあ!結局リオン君は、カーミラ様には内緒に?」



 私はタコの様になりそうなのを堪えて頷いた。

 お母様とお父様に視線を向けても、お母様は首を傾げ、お父様は微笑んでいる。

 ……お父様はジュダスに聞いていそうね……。


 

「ええ。今日まで内緒だと教えてくれなかったんですの」



 私は唇が尖らない様、細心の注意を払って微笑んだ。



「……カーミラ様は、使用人達にとても好かれておりますのね」



 どうしていきなりそんなお話しに?

 お母様がクスクス笑ってらっしゃるわ。



「でも……楽しみですわね。カーミラ様」

「ええ!」



 私は、早く着かないかと馬車の窓から外を眺めた。


 真夏の暑い日差しが行き先を照らしていた。




 ……でも……。

 私はそっと自分の胸を押さえる。




 『不可視の盟約』



 教会の人達は、四神の加護と言っていた……。

 でも私には分かったわ。

 だって自分が受けた加護ですもの。

 

 ……不可視という事は、他の人には見えないんだわ……。

 

 そして、盟約……。


 神々が、固く誓った。不可視を?

 ……ううん。

 今は何も分からない。

 でも、これから勉強を重ねれば何か分かるかもしれない。


 この加護は、人に知られてはいけないんだわ。



「どうなさったの?カーミラ様?」



 アルマデル様が、私の心配そうに覗き込んだ。

 また、私ったら。

 すぐに顔に出るんだから。

 私は笑顔を浮かべて、アルマデル様を見た。

 ……そうよ、今日は私の誕生日ですもの。

 今は全部忘れて楽しまなくちゃ!



「ううん!何でもないんですの!」



 私は胸を押さえて微笑んだ。

 


クロワ


料理人歴  十年

名前の由来  クロワッサンから

子沢山家族のお父さん 息子5人娘1人

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