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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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魔力発現


 全く持ってついてないわ……。

 私は出すに出せないため息を、心の内で盛大に吐いた。


 何がついてないって、テルミドール様の補佐になれなかった上に、こんなジジイの補佐に回された事よ。

 私は隣を歩く、腹の出た大司教に目を向けた。

 聖職者に関わらず、色んな女に手を出しているのに、実家が侯爵家な物だからって好き勝手やってくれちゃって……。



 ほんとに、どうしてこんな事になったのよ。

 同期はまんまとテルミドール様の補佐に収まっているし……。

 羨ましいったらありゃしない……。



「では……そろそろ向かいましょう」



 私が補佐するべき大司教であるローレンス大司教は、恐る恐る後ろの二人に声を掛けた。

 この男がこんなに下手に出るなんて……。

 大司教より権力があるっていう事?


 私は大司教の後ろで、一言も発しない気味の悪い二人を眺める。

 声を掛けられた二人は、まるで正気のない人形の様にゆらりと立ち上がった。

 やだ……ほんとに気味が悪いわね……。

 心なしかローレンス大司教も怖がっている様な……。



「本日の登録者は三名です。今はシュトラーダ公爵家の令嬢が来ているそうです」



 ローレンス大司教の言葉にうんともすんとも言わない二人は、何も言わずに後ろをついてくる。

 なんだか背中がゾワゾワするわね。



「……シスターアンジェレネ。ゼプツェンの眼は持ちましたか?」



 私はハッとして返事をする。

 私の手の中には鏡がある。

 教会で作られるこの鏡は、魔力発現する人間を記録する事が出来る物だ。

 ゼプツェンの眼と呼ばれている。

 



「はい。持っております」



 私はゼプツェンの眼をローレンス大司教に差し出した。

 ふむ。と確認したローレンス大司教は、受け取る事はせず歩き出した。

 

 

 ラヴィウスの間と呼ばれる儀式の間に入ると、もう女の子の姿があった。

 ……随分綺麗な子ね……。

 テルミドール様と同い年位かしら?

 私は凛と佇むまだこちらに気づかぬ女の子を観察する。

 確か、シュトラーダ公爵家の令嬢とか言ってなかった?

 着ている物もシンプルだけど、随分上質な布だし……。

 ほんと神シーヴァリース様は不公平ね。

 シスターだって人間ですもの。

 羨む心だって持ってるわ。


 それに、金の髪は水晶の光を吸い取った様に輝いているし、瞳は薄紫に煌めいている。

 ……はぁ。ほんとに不公平だわ……。

 私は自分の一重の瞳と纏まらない焦茶の髪が、フードで隠れていて良かったと思った。


 一歩前に出たローレンス大司教が、その女の子に確認を取る。



「それではこれから魔術登録を行いましょう。私は大司教のローレンスと申します。制御具は外していますね?」

「はい」

「本日十になる、カーミラ•メルド•シュトラーダ様でお間違いありませんか?」

「ありません」

「では、その水晶に少しずつ魔力を込めて下さい。その魔法陣の中なら容易いはずです」



 ローレンス大司教は、そういうと祭壇の燭台をチェックし始めた。

 何をそんなにビクビクしているのかしら?

 燭台は宝石のついた豪華な台で、きちんとシスターが毎日点検しているし、さっき私も確認したと報告したのに……。

 それにしても、随分大雑把な説明だったわね?



「自分の中に流れる魔力を手に持つ水晶に集める様、イメージするのです」



 私は困っているカーミラ様に具体的な助言をする。

 カーミラ様はニコリと微笑んで目を瞑った。

 笑うとキツさが取れて、凄く可愛らしい。 

 私もあれ位華やかさがあれば……。



「よし。問題ない。さあ」



 カーミラ様は目を閉じたまま、ゆっくり両手を胸の前にあげた。

 丁度ボールくらいの大きさの物を手で持っているイメージだ。


 すると、すぐに手に持っていた水晶が光り出した。

 それに合わせて周りの魔法陣も光り始める。

 ドンドン水晶は力を吸っている様だが、こんなに水晶や魔法陣って光ったかしら?

 水晶は光を発し、どう繋がっているのか、祭壇の燭台に大きな炎が灯った。


 ……青い……炎…?



「……おお!素晴らしい……炎が強すぎて青く……」

「……………」



 何……この炎…。

 こんな色見た事ないわ……。

 ローレンス大司教につく前は、ずっと前任の大司教についていたのだ。

 儀式だって腐る程見てきた。

 なのに……こんな事って……。


 私は炎を見て呆然としているローレンス大司教に話しかけようとしたが、その間にも、炎はドンドン大きくなっていく。



「こ、これは………」



 やだ、どうしよう!

 このままじゃ燃え広がってしまうのでは?!

 私は慌てて自分の中の魔力を込めようとするが、魔力は全然集まらない。

 そうだ、ここでは儀式を行う者の邪魔をしないように干渉出来ない様、魔法陣が張られていたんだ。

 私達が、ただオロオロとするしか出来ずにいると、青い炎は一際大きく燃え盛ると、高い天井に消えていった。


 ……カーミラ様が消したのかしら?

 魔力発現と同時に操るなんて、なかなか出来る事ではない。

 それも…あんなとてつもない魔力の篭った炎なんて……。

 私は呆然と今見た光景を思い出していた。


 すると、安心したのも束の間、すぐに燭台に緑の珠が現れた。



「……なに……これ……」

「……中で……風の渦が……干渉を受けない筈の燭台が震えて……」


 

 信じられない……何なのこれ……。

 私は燭台をガタガタと揺らす緑の球を見つめることしか出来ない。

 カーミラ様の証人として付いてきたお父様の方を振り返ると、お父様も信じられない物を見る様に祭壇を見つめていた。


 緑の球は、中で暴風でも起こっている様に震えながら、目に見えないスピードで回り続けている。

 これ、さっきの炎と似た感じなのでは……。

 私がそう思った瞬間だった。



「きゃあああああ!」



 暴風の球は、花開く様開くと、凄まじい風を起こして天井に登っていった。

 ……また消えた……?


 ちょっと、待っていくらなんでもおかしいわ……。

 このクラスの魔力発現が既に二つも……。

 私は今度こそローレンス大司教に何かの間違いではないか確認しようと振り返る。

 しかし、別の事に気を取られた。


 何?

 水の音?どこから……。

 

 水の音は燭台から聞こえて来る。

 燭台の上から大きな水の粒が落ち、何もない空間に波紋を起こす。

 燭台の大きさを優に超えて、波紋はどこまでも広がり続け、次の瞬間、空から燭台に向かって大量の水流が流れ落ちた。



「な!がっ!」



 大司教が流れ落ちる水流に飲み込まれ階段から流れ落ちて行った。



「大司教様!きゃああああ!」



 駆けつけようとしたが、水流に阻まれて大司教の方にはとてもじゃないが近付けない。

 私は後でお咎めがくるのではと、顔が真っ青になるのを感じた。

 しかし水は、今まで轟音を立て流れ落ちていたのが夢だったかの様に一滴残らず掻き消えた。



「ローレンス大司教!」



 私は階段の下まで流された大司教に慌てて駆け寄る。

 階段にも水の痕などない。

 今見たのは、現実……?



「ごほっごほっ!」



 ()せる大司教の背中をさすり、背中に手を添え上体を起こす。


「い……一体何が……」



 ローレンス大司教もこんな事は初めてなのだろう。

 階段の上を見上げて顔を引き攣らせている。

 もう三属性も……。

 でも流石に終わりだわ。

 四属性発現させるのは、王族位ですもの。


 私はローレンス大司教の手を取り立たせると、大司教のローブを整えた。


 なのに、祭壇から地響きが聞こえて来る。

 そんな……まさか……。


 私とローレンス大司教は顔を見合わせ、大急ぎで階段を駆け上がった。

 私が先に祭壇まで辿り着くと、祭壇は砂煙が黄色く染め、地響きを上げ激しく揺れていた。

 


「そんな……よ、四属性も……しかも……この力は……」

「神々の……加護……」



 私の手に持つ鏡が一際輝いた。

 何か神々に与えられた加護にゼプツェンの眼が反応したのだ。

 四属性発現した上に、神々の加護まで?

 そんなの王宮魔導士だって……。


 思わずカーミラ様の方を振り替える。

 これだけの魔力を込めたのだ。

 体調を崩しているかもしれない。

 

 しかし、カーミラ様は困った様に眉を下げて魔法陣から出てきた。


「も、申し訳ございません……そ、その、これ、おいくらでしょう?弁償しますわ……」



 カーミラ様の手には、ボロボロに砕けた水晶のカケラがあった。

 そんな……最高級のラヴィウス水晶が……。




『流石、シュト、ラーダ、家の、ご令嬢、…ですね』



 ザワリと心臓を直接触られたかの様な不快な声で、今まで一言も発しなかった二人が近寄ってきた。

 ローブで顔は見えないけど……なぜだろう……。


 ……怖い。


 カーミラ様に視線を向けると、カーミラ様は少しも笑みを崩さず立っていた。

 でも、少し顔色が悪い様な気がする。



「とんでもございませんわ。それより、弁償致しますわ。」

「いえいえ!とんでもございません!公爵家に弁償など!」



 ローレンス大司教は慌ててカーミラ様の手から水晶を受け取ると、証人としてついてきた彼女の父親に擦り寄った。

 全くこんな時まで……。

 そんな二人を無視して、気味の悪い男が私に近寄ってきた。



『それで、なんの、御、加護が、…現れ、…たのですか?』



 二人全く揃った声は、まるで不協和音だ。

 鳥肌が止まらない。

 一秒もここにいたくない……。

 私は震える声を隠せずに、ゆっくり答えた。



「それが……何の御加護かは分かりませんでした……ただ四神の加護とだけ…」



 私は手に持つゼプツェンの眼を二人に見せた。

 酷く手が震えていたが、その男は気にした素振りも無く、鏡を二人で受け取った。



『これ、では、どんな、効果、か、分かり…ませんね』



 そっと私の手の中に鏡が戻ってきたけれど、まるで毒でも渡されたかの様に感じる。

 


『貴方、には、この、御加護が、何か、…分かった…のですか?』



 二人は気配も無くカーミラ様に近寄ると、御加護についてしつこく聞き出そうとしている。

 本来ゼプツェンの眼に映らない加護は、暴く様な真似はしない。

 それが神の御意志だからだ。

 しかも四神の加護と書かれている。

 邪悪なものの可能性はゼロに等しい。

 私がカーミラ様の前に立とうとすると、彼女の父親が先に間に入った。

 

 カーミラ様と同じ金の髪を一つに結んだ、端正な顔立ちの方だ。

 カーミラ様はお父様似なのね。と、そんな場違いな事を考えている場合ではない。


 二人の前に立つ父親は、庇う様にカーミラ様を背に隠した。



「儀式は終わった様です。壊してしまった水晶は、後程弁償致しましょう。公爵家に請求して下さい」

『それに、は、及び、…ません。それ、より…』



 更に一歩前に踏み出した二人は、自分とカーミラ様の間に立つ父親さえ、もう目に入っていない様だ。

 目の前に迫ったカーミラ様の父親の目の前で、その後ろにいるカーミラ様を見ている様に見える。



『貴方、には、何の、御加護か、分かったの、…ですね?』



 それは、核心を得て問いかけている様にも聞こえる。

 何にせよ、これ以上は過剰な行為だ。

 でも、足が震えて一歩も踏み出せない。


 すると、カーミラ様は自分から父親の手を取ると、ニコリと微笑み前に出ました。

 彼女には、この異質な二人が感じられないのかしら……。

 そう思ったが、すぐに間違いである事に気付いた。

 父親に添えられた手は震えていた。



「ええ。勿論ですわ。ただ四神の加護と…。そう書かれている(・・・・・・・)ではありませんか」



 フードの奥の見えない瞳を見透かすかの様に、彼女はゼプツェンの眼を指し、真っ直ぐな眼差しで答えました。

 話は終わったと父親は一礼すると、カーミラ様の背に手を添え階段を降りて行った。


 その後ろ姿を追う様に、更に一歩前に出た二人のフードが脱げた。



「ひっ!」



 私は慌てて口を抑えた。

 双子だったらしい二人の引き攣った顔を見て、私は恐ろしくてたまらない。

 

 でも、双子は私の事も目には入っていない。

 ただカーミラ様だけを見つめて静かに口を開く。



『そう、いえば、あの、斬られた、子供、も、シュトラーダ家の、子供、…でした、ね?』



 その言葉に、カーミラ様が勢い良く振り返りました。

 子供?

 シュトラーダ家の子供はカーミラ様一人だった筈では…。

 振り返ったカーミラ様は、父親に腕を引かれ出て行った。

 …何だったのかしら?



「それ、で、今の、娘の、属性は、本当に、四属性…だけで、すか?」



 双子の一人が私の持つ鏡を見たまま近寄って来た。

 嫌!気持ち悪い!

 私は無理やり鏡を手渡し、ローレンス大司教の隣へと戻った。



「…ご、ご覧の通りです。確かに強大な力でしたが、四属性で間違いありません」

「光、属性、は無、…かったと?」



 もう一人と双子が、片割れの持つ鏡を覗き込みながら問いかけた。

 光属性?

 確かに希少だけれど、カーミラ様は持っていらっしゃらなかった。

 ローレンス大司教も、質問の意味が分からないようで首を傾げている。



「そう、ですか。確、かに、少し、気には、なりま、すが、…ね」

「そう、気に、はなり、…ますね」



 双子は話し合い、手を取り合うと、鏡を持ったまま出て行ってしまった。



「い、いいんですか?ゼプツェンの眼が……」



 私は、双子の持って行ってしまった鏡の事をローレンス大司教に告げるが、大司教はやっと肩の荷が降りた様にガックリとその場に座り込んでしまった。



「眼は他にもあるから問題ない……」

「あ、あの双子は…い、一体のどなただったのですか?」



 私は、腕をさすりながらローレンス大司教に問いかけた。

 しかし、大司教は渋い顔で答えてはくれなかった。



「……君には預かり知らぬ事だ」



 このお喋りな男が話さないなんて……。

 よっぽどじゃない……。

 聞いたら私の身がどうなるか分かった物じゃないわ。

 私は、もう聞く気はございませんと言って、ローレンス大司教の後を追ってラヴィウスの間を後にした。


アメリア•メルド•シュトラーダ


歳 35

髪色 銀髪

瞳  薄紫

プロポーズの言葉  内緒よ。ふふ

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