表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
5/72

ダイエット食

さて、旦那様とのお話が終わり、執事頭であるワトソンさんに頼まれた、お茶会の部屋の後始末をしながら考え事をしていた。

 お嬢様と話していた間に、令嬢達は帰ったらしい。

 それよりも、問題が山積みなのである。



 まずここは公爵家だ。

 当然庶民とは比べ物にならない程お金持ちである。

 それはこの大きな住まい、働く使用人の多さ、末端の使用人への食事でも見て取れる。


 お嬢様に出される大量の料理は、油ぎった料理ばかりで、サラダなんかは見た事がない。

 高い食材をそのまま出すのが良しとされている。

 焼く、煮るいうのが、料理ではメインの調理法だ。

 これは異世界転生物ではデフォルト設定だ。

 それはこの異世界でも同じらしい。

 食後のデザートも、まるで砂糖をそのまま固めているんじゃないのかという代物だ。

 味が分かるのは、料理長のバーバラさんが、こっそり内緒で味見させてくれた事があるからだ。



 栄養バランスや腹八分目、よく咀嚼するなどの概念のない世界。

 そんな大量の料理に囲まれ、いつもお嬢様はポツンと一人で食事を召し上がっている。

 お忙しい夫妻とお嬢様が、揃ってお食事をするのはとても珍しい事なのだ。


 さて、話は戻り、お嬢様の体重を減らすための食事を作らなければならない。

 当然前世で言うところのダイエット食だ。

 カロリーを控えて、腹八分目の量。

 お嬢様の大好きな油とお砂糖は少ない。

 あの我儘お嬢様の事だ。

 発狂するのではなかろうか。

 まずそれを食べてもらえるのか……。

 難関な予感がする。


 前世では育メンや、男飯などなど。

 料理が出来る男と言うのは、そんなに珍しいことではなくなっていた。

 普通に出来るのは結構当たり前だった。


 俺の場合は一人暮らしだったので、食事の用意をしたり、自分のお弁当を作ったり。

 料理自体も好きな方だ。


 ただ料理の知識はあっても、俺は料理人見習いではない。

 執事見習いなのだ。

 料理人のバーバラさんには可愛がってもらっているが、俺に料理をさせて貰えるかというと分からない。

 そして、嫌われ者のお嬢様の為、そんな面倒な食事を作ってくれる料理人がいるのか。

 更には、そうさせるだけの俺の人脈があるのか……。



 これは遠回りになるが、お嬢様を始めとして、城で働く全ての人と仲良くなる事も重要ではなかろうか。

 いや間違いない。

 仲の良い人の勧めなら、皆手を貸してくれやすくなる。

 良好な人間関係は、どこの世界においてもとても大事な事だ。


 そうと決まればこうしてはいられない。

 まずは、一番顔を合わせる、直属の上司である執事頭のワトソンさんだ。

 彼の信頼を得ない事には、全てが始まらない。

 俺は急いで、しかし丁寧に部屋の掃除を終えると、ワトソンさんの所へ向かった。



「ワトソンさん、終わりました。次は何をしましょう?」



 廊下を曲がった先で、白髪の髪をオールバックにしたナイスミドルが振り返る。

 柔和な表情、見るからに優しそうなおじさんだ。



「先程はカーミラお嬢様の事、ありがとうございました」



 優しく微笑んでそう言ってくれるワトソンさんに、お嬢様に対する嫌悪感は見受けられない。

 流石執事頭だ。

 我儘だとは思っているだろうが、嫌ってはいなそうだ。



「いえ、とんでもないです。俺もお嬢様とゆっくりお話出来て、得られる物も多かったですし」

「得られる物……?」



 ワトソンさんが、顎髭を触りながら首を傾げる。



「はい。気持ち新たに、カーミラお嬢様の為に仕える事をお話して、その承諾を頂いたのです」



 嫌われ者のお嬢様に、そんな事する物好きもいるのか。

 と言うような、驚きの表情でワトソンさんが俺を見つめた。



「リオンは、お嬢様が苦手な様に見受けられましたが……」



 お嬢様に好意的な人は、旦那様夫妻以外見つけられないんじゃなかろうか。



「そうですね。苦手でしたが、お嬢様が変わって下さる約束をして下さったので……俺はそれを信じます」



 ワトソンさんが、信じられないといった顔を向ける。

 この温厚なワトソンさんをも驚かす、お嬢様の方に俺はビックリである。

 俺はお茶会から連れ出した後の話を、ワトソンさんに伝える。



「……そうですか……そんな事が……」



 ワトソンさんが、それはそれは嬉しそうに目元の皺を寄せる。



「そういうことでしたら、私も全面的に協力しましょう」



 ワトソンさんが、左手を胸に当て、右手を背中に回すと、大袈裟な礼をした。



「ありがとうございます!」



 俺も同じように返して笑い合う。

 ワトソンさんの協力は、まさに百人力だ。

 俺がダイエット食について説明すると、すぐに理解してくれた。

 ワトソンさんからの口添えで、料理長のバーバラさんにお嬢様の食事の改良の話をつけてもらう。




 バーバラさんは、ダイエット食なる物に興味を示したのか、快く引き受けてくれた。

 こうしてお嬢様の、ダイエット計画が幕を開けた。

 レシピを教えに行く為、バーバラさんのいるキッチンに向かう。



「バーバラさん!こんにちは!今日はよろしくお願いします」



 待っていたバーバラさんに挨拶すると、早速ダイエット食について質問してくる。

 どうやらこの世界には、ダイエット食はないらしく、俺の提案は興味深いらしい。



「リオン、あんたの言うダイエット?食だったかい?それがとっても気になるよ!教えとくれ」



 俺は栄養バランスの大切さと、カロリーについてざっくり説明した。

 身体を動かす上で、必要なエネルギーの事だ。

 それをオーバーすると脂肪になる。

 ということを、簡単に説明して油や砂糖を控える事を提案した。


 前世で定番のダイエット食、といったらサラダや豆腐だろうか。

 豆腐があるか聞いてみたが、バーバラさんは知らないらしい。残念だ。



 肉はほとんど前世と変わらず存在した。

 これは助かった。

 となると、やはりメインの食材は、鶏むね肉やササミだろう。

 低カロリー高タンパク。

 調理法によっては、パサつかずに美味しく食べれる上、値段がお安いと、いい所だらけだ。



「ではまず、ササミのサラダを作ってみましょう」



 俺は鍋に水を入れると、バーバラさんに取り出してもらったササミを、すぐに鍋に投入した。



「なんだい、沸騰してからじゃないのかい?」

「はい。ササミは水から茹でた方が柔らかく煮えるんです」



 火が通ったら身をほぐして、サラダの上に乗せる。

 お酢とオリーブオイルと塩でドレッシングを作って、回しかければ完成だ。

 ササミのおかげで、サラダ特有の物足りない感がない。



「……美味しいね!」



 味見をしたバーバラさんが、満面の笑みで二口目を頬張る。

 俺もこのサラダは大好きだ。



「このソースも変わってるけどさっぱりしてて…いくらでも食べれそうだ」



 この世界では、ソースは塩をかけるとか、油だけかけるとかで、特にドレッシングなんてものは無い。

 異世界あるあるだ。



「毎日同じだと飽きてしまうんで、ササミだけじゃなくて、ゆで卵とか、キノコとか日替わりにするといいと思います」



 バーバラさんがメモを取りながら、笑顔で頷いた。


 そして、次はメイン料理。鶏むね肉だ。

 色んなレシピがあるけど、どれがいいだろうか。

 そのうち全部披露するが、まずは自分が食べたい物から作るか。

 バーバラさんが好奇心旺盛に覗き込んでくる。

 他の調理人も、気になるのかだんだん集まってきた。


 よし。鶏ハムにしてみよう。



「バーバラさん、竹かごってありますか?」

「あるけど、そんな物どうするんだい?」



 焼くか煮るの異世界。

 蒸すという調理法はない。

 蒸し器もないので、大きさが合いそうな、キノコの採集に使う竹かごを一つ手に取る。

 鍋の大きさ的にこれくらいの大きさかな?


 沸騰させたお湯の入った鍋の上に、竹かごをおく。

 うん。蒸し器になりそうだ。

 竹かごの中に、鶏むね肉を丸めて紐で縛った状態で置くと、鍋の蓋を上に被せた。

 少しグラグラするが、なんとかなりそうだ。


 蒸している間に、バーバラさんに野菜の説明を受ける。

 人参っぽい野菜のキャロ、トマトみたいなママト。

 ピーマンみたいなピマル。

 結構前世と名前が似ていて助かった。

 これもゲーム世界だからだろうか。


 ネギを見つけたので刻んでいく。ネギルというらしい。

 刻んだネギルに、ニンニクっぽい野菜、ニクニンの刻んだものも合わせる。

 味の決め手の調味料に悩む。

 醤油とかソースなんてないし、卵と塩と油があるからマヨネーズかな?

 ダイエット食にマヨネーズは困るな。

 お嬢様がハマったら大変なことになる。


 少し味が似るから悩んだが、オリーブオイルと塩コショウ。

 それからバジルに似た香草にする事にした。

 蒸された鶏むね肉を取り出し、輪切りに切っていく。

 肉汁が滴り、思わず喉が鳴る。

 輪切りにした鶏むね肉に、塩コショウ。

 香草と、山盛りのネギルニクニンをかけ、オリーブオイルを回しかけて完成だ。



「出来ました!」

「見た目が綺麗だね!」



 待ちきれないと言う様子で、バーバラさんが我先にとフォークを刺した。



「……!これが鶏むね肉なのかい?!凄くジューシーだ!それにこのネギルも抜群に合うね!」



 他の調理人の人にも振る舞う。



「美味いな!竹かごなんでどうするのかと思ったが、こんな調理法は見たことがないよ。」

「酒が進みそうだ!ニクニンが効いてて美味いよ!」



 料理人のクロワさんと、シフさんも頬を綻ばす。

 美味しい料理は人を笑顔にしてくれる。



「あんた、いつの間にこんな料理に詳しくなったんだい?」



 バーバラさんが、目をまん丸にして残りの鶏むね肉を口に入れた。



「……本で読んだことがあったんです」



 苦笑いしながら話をそらす。

 異世界転生で、よく用いられる誤魔化す手法だ。

 本で読んだ、話をそらす。

 この二手に限る。



「どうですか?お嬢様にお出し出来そうですか?」

「ああ!これならお嬢様も喜んでくれるだろうさ!任せておきな!」



 ふぅ。どうにか話を反らせたようだ。



 食事改革はこの調子でいけば、問題なさそうだ。

 料理人の皆が、快く了解してくれている。

 元来料理人は食いしん坊が多い。

 新しいレシピに、皆大喜びだった。

 また一つ問題が解決されて、目標に近づいた。



 その後も鶏むね肉や、ダイエットに向きそうなレシピを、バーバラさん達と考える。


 是非、食べた反応をこの目で見たい。

 そうお願いした所、ワトソンさんが給仕として連れ立ってくれるらしい。

 俺は掃除をしながら、ソワソワして夕食の時間を待った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ