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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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初めてのお友達



 レベッカ様とのお茶会から五日後。

 俺達はアルマデル様に招かれ、ノーランド子爵家に向かっている。

 三日前、アルマデル様からこの間のお礼がしたいと手紙が届いた。

 丁度気になっていたお嬢様は、大喜びで返事をした。

 馬車の窓からは夏の日差しが照り付けている。

 グラングリフの夏は短いが暑い。

 照り付ける日差しが肌を刺した。



「ねえ、やっぱりケーキの方が良かったかしら?」

「アルマデル様の好みが分からないなら、クッキーが一番無難だと思いますけど?」



 お嬢様は、アルマデル様の屋敷が見えてきた途端焦り出した。

 お嬢様にとって同い年の同性とのお茶会は一大事件だ。



「お花の方が良かったり……」

「ポプリを持ってきましたが、花束なら一応ご用意しておりますよ」



 俺は、念の為ルークさんに纏めて貰った花束を、御者の隣の箱に入れてある事を伝える。



「なんだかいつもお茶会に行く前は緊張している気がしますわ……」

「なぜでしょうね?」

「分かってくせにぃ!」



 お嬢様の口元をグニグニ上に上げながら、俺は苦笑しつつ答える。



「これまでのお嬢様は、お茶会に呼ばれる事は滅多にありませんでしたからね。その性格故」



 ファリスさんとレナが大きく頷いた。

 お嬢様も口を尖らせモニョモニョしている。



「さあ、着きましたよ。笑顔を忘れずに」

「勿論ですわ。行きますわよ」



 着くと姿勢を改めて正し、お嬢様は令嬢の仮面を被った。

 全く頼もしくなられたものだ。


 この間と同じ様に、サイネルさんが着いてきてくれている。

 馬車の扉が開き、俺達使用人が先に降りると、お嬢様がサイネルさんの手を取り優雅に降りてきた。




「ようこそおいで下さいました。カーミラ様。私は執事のノルンと申します。どうぞ宜しくお願い致します」

「お招きありがとうございます。カーミラですわ。宜しく頼みますノルン」



 ノーランド家に着くと、五人の使用人が玄関前で待っていた。

 恐らく子爵家なので、使用人の数はそう多くはない。

 全員で出迎えてくれたようだ。



「さあ、こちらへどうぞ」



 お嬢様やレベッカ様の屋敷は、公爵家の屋敷なので敷地も働く人数も多いが、子爵家となると五人から八人程度だ。

 案内を受けて、手入れの行き届いた屋敷を進んでいく。

 華美ではないが、センスの良いカーテンや絨毯で彩られている。



「こちらでアルマデル様がお待ちです」



 一室の前にたどり着くと、ノルンさんは一度立ち止まりお嬢様に微笑みかけた。

 ノックの後、アルマデル様の声が返ってきて、扉が開かれた。



「カーミラ様、ようこそお越し下さいました」

「アルマデル様、お招きありがとうございます」



 部屋の中では、シンプルなドレスに身を包んだアルマデル様が待っていた。

 お嬢様とは対照的な、おっとりとした垂れ目と、柔らかな緑の髪が優しげな雰囲気を醸し出している。

 


「どうぞこちらにお掛けになって下さいませ」



 部屋の中もドレスの様にとてもシンプルだ。

 カーテンやテーブルクロスも無地の物が多い。



「……質素で驚きましたでしょう?」



 アルマデル様が恥ずかしそうにお茶を勧めている。

 お嬢様はお礼を言って受け取ると、首を振った。



「いいえ、アルマデル様の雰囲気にとても似てらっしゃいますね。不思議と居心地がいいですわ」

「そう言って頂けると嬉しいですわ。うちはしがない子爵なので、堅実な性格が多いんですの」



 そう言って、アルマデル様はご家族の話しをしてくれた。

 どうやら兄が二人いるらしく、二人とも真面目で堅実な性格らしい。

 とても兄弟仲が良さそうだ。

 兄弟のいないお嬢様は、羨ましそうにアルマデル様の話しを聞いていた。


 

「……今日お呼びしたのは、この間のお茶会のお礼をしたかったんですの」

「わたくしは何も……それで、間に合いましたの?」



 お嬢様の問いかけに、アルマデル様は悲しそうに頷いた。



「……間に合いましたが、すぐに天へ帰ってしまわれましたの……それでも、あの時カーミラ様が帰れと言って下さらなければ、最後にあの子の声を聞く事も出来ませんでしたわ……本当に……本当に感謝致します」



 そうか……間に合ったけど、亡くなっちゃったのか……。

 お嬢様も悲しそうに目を伏せ、力無く首を振る。



「本当にわたくしは何も……ただ短気を起こしてレベッカ様に噛みついてしまっただけですもの。それに……完全に本心でしたのよ。アルマデル様は気にしないで下さいませ」

「まあ!カーミラ様は正直者ですのね」



 アルマデル様がやっと笑顔を見せてくれたのを見て、お嬢様も顔を綻ばせた。



「それで……今日お呼びしたのは、お礼だけではございませんの……」

「あら?何でしょう?」



 アルマデル様は、モジモジと頬を赤らめお嬢様を見ると、二分ほどかかってやっと口を開いた。



「わ、わたくしと、お、お友達になって欲しいんですの!」

「!」



 お嬢様は、驚きすぎて声も出ない様子だ。

 アルマデル様は、やっと言えたと胸を撫で下ろし、お嬢様に視線を戻した。

 お嬢様はそんな事を言われたのは始めてだろう。

 真っ赤になって固まっている。



「わ、わたくしと……?」

「え、ええ、お嫌でなければ……是非……」

「嫌だなんてとんでもない!わ、わたくしこそ……よ、宜しくお願い致しますわ!」



 お嬢様は真っ赤な顔のままブンブンと頭を振った。

 ……淑女らしくはないが、始めての友達だ。

 多めに見よう。

 ファリスさんとレナも、微笑ましそうに二人を眺めている。


 二人ともモジモジして口を閉ざしてしまった。

 恥ずかしい様だ。

 俺は持ってきた手土産を手に一歩前へ出る。



「お嬢様、お土産のお菓子を召し上がって頂いたら如何ですか?」

「そ、そうですわね!」



 お嬢様は手を合わせて、こちらを振り返った。

 俺はクッキーの入った包みと、ポプリをテーブルに広げた。

 花束は玄関でメイドに渡したので、後で花瓶に飾ってくれるだろう。

 俺は、毒味用の皿に綺麗にクッキーを取り分けた。



「まあ!これはポプリではなくて?」



 アルマデル様が瓶に入ったポプリを手に取って、頬を染めた。

 瓶には真ん中にピンクの薔薇が入り、下にはかすみ草が、上には同じピンクのガーベラと薔薇の花びらが入っている。



「これがミラーダ商会のポプリという物ですのね。わたくしも、サニーニャ様に勧められてリンスを買いましたの。それだけで他はもう手が回りませんでしたわ……」



 確かにリンスは高級品だが、貴族の女性の話しの輪に入る為には、無理をしても手に入れないといけないだろう。

 もう少しすればラントールの支店でミントを売り出して、少し安くしよう思っている。

 他に比べて手が出やすいだろう。



「持ってきて正解でしたわ。どうぞ貰って下さいませ。感想を聞かせてくれるともっと嬉しいですわ」

「ええ!喜んで!」



 アルマデル様も落ち着いたらしく、クッキーに手を伸ばした。

 一口食べて、上品に口元に手を添えた。



「まあ!うちのクッキーとは全然違いますわ!」

「しっとりしていて美味しいでしょう?わたくしも大好きなんですの」



 しっとりしたクッキーは、こちらの世界にはないものだ。

 固いクッキーばかりだった令嬢には、とても珍しく新鮮だろう。



「それに、この間も思いましたけれど……はぁ……今日もカーミラ様はとても素敵ですわ……」

「そ、そんな……あ、ありがとうございます……」

「この間は、気が気ではなくてお話しも頭に入ってきませんでしたが、J様のお洋服だとか?」



 アルマデル様も興味がある様で、お嬢様のドレスを見ながらうっとりとしている。



「ええ。全てJに仕上げて頂いておりますわ。でもデザインはうちの使用人が考えているのですよ」



 今日のお嬢様は、俺がJに売ったデザインのドレスだ。

 淡い黄緑色のペールカラーの膝丈ドレスで、上半身はノースリーブで肩紐もレースに。

 そして一面に同じく淡いペールカラーのピンクや水色、アイボリーのコサージュがついている。

 コサージュは上半身の前面を彩っているので、逆にスカートはシンプルな作りだ。



「まあ!こんな素敵なドレスを?」



 当然Jの様に視線がファリスさんに向く。

 ファリスさんが慌てて両手を振ったのを見て、隣のレナに視線を移した。

 レナがブンブンと顔を引き攣らせ、俺に視線を向け、すぐにお嬢様を見た。



「こちらのリオンが考えておりますの」

「……この子が……?」

「……は、初めまして、リオンと申します。以後お見知り置きを」



 俺はいきなり振られて、慌てて左手を胸に当て挨拶をする。

 アルマデル様は、まだ信じられない様に俺を見て目をパチクリさせている。

 お嬢様はニコニコ上機嫌だ。



「人は見かけによりませんのね……」

「リオンはとても優秀なのでよ」

「お嬢様!花束のご説明も致しませんと!」



 お嬢様が俺自慢を始める前に強引に話しを変えようと、預けた花束の話しに持っていく。



「ああ、そうですわね」



 こうして話しを逸らす事に成功して、俺はホッと息を吐いた。

 


「もうすぐカーミラ様のお誕生日でしょう?わたくしも何かお祝いをしたいですわ!」

「それはとても嬉しいですわ。アルマデル様のお誕生日はいつですの?」

「わたくしは冬生まれですから、まだまだ先ですわ。早く登録を終えて、魔術の勉強をしたいのです……わたくし何事も要領が悪くて……」



 俺はまだ一年以上先だ……。

 俺も早く魔力発現したい物だ。

 それにしても、カーミラ様のお誕生日のお祝いなら、アルマデル様も参加してはどうだろうか?

 


「あの、お嬢様。お話しする許可を頂いて宜しいですか?」

「あら、リオン。どうしました?」

「お嬢様のお誕生日に、アルマデル様もご一緒に参加されてはどうかと思いました」



 それを聞いたお嬢様が、パァッと顔を輝かせてアルマデル様の手を取った。

 が、すぐにハッとこちらを向く。



「でも、わたくし何をする予定が聞いておりませんけど?」

「はい。アルマデル様には、私から説明の手紙を送りますので、問題ないかと」

「まだわたくしには内緒ですの?!」



 ここでお嬢様の口元をグニグニする訳にもいかず、笑顔で黙っていると、お嬢様はしまったという顔ですぐに笑顔を貼り付けた。

 


「アルマデル様、もし手紙を読んで都合が宜しい様でしたら教えて下さいませ」

「ええ……何をするのか全く分かりませんが、お手紙お待ちしますわ」

「わたくし、今年の誕生日が生涯で一番楽しみですわ!」




 お嬢様の笑顔を見て、益々やる気になった。

 なんとしても成功させなければ!


 その後も二人は取り止めのない話しをしたり、ゆっくりお茶を飲んだりして過ごされた。





「今日は、本当にお招きありがとうございましたわ。楽しい時間はあっという間ですのね」

「そんな、こちらこそ色々頂いてしまって……あの……宜しければまた、お茶に誘っても宜しいでしょうか?」

「まあ!わたくしも今そう言おうと思っておりましたの!」



 ふふふと、二人は笑い合った。

 俺はそれを見つめて、心がほっこりする。


 

 俺達は、アルマデル様と使用人の人達に見送られてノーランド家を後にした。

 帰りの馬車の中でも、ずっとお嬢様はご機嫌で、何度もお友達が出来たと、繰り返し話している。

 俺達は、何度も頷きながら嬉しそうに笑うお嬢様を見ていた。



 

サイネル•サンドリア


髪色 灰色のボブ

容姿 細身の糸目

歳 25

…ノヴァクもそう思う?

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