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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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レベッカの苛立ち


 こんな……こんな事など……。

 きっと何かの間違いですわ!



 わたくしは、自分の部屋に着くと、侍女も下がらせベッドに飛び込んだ。

 お行儀が悪いと言われようが、見ている者もいないのに、畏まる必要など有りませんわ!



 今思い出しても腹立たしい!

 マルガレット公爵家の娘である、このわたくしに!

 あの様な態度を示すなど!

 お父様に言い付けてやりますわ!あの従者!



 ……それに……クリストファー殿下だって……。

 従者の一人も諌められない様では、未来の王としてどうなんですの?!

 護衛もあの堅物!

 なんて忌々しいのかしら!



 目を閉じると先程の事が思い出されてしまう。

 (はらわた)が煮え返るとは正にこの事ですわ……。

 わたくしは、先程までのお茶会を思い出して、ベッドを握り締めた手の平で打ち付けた。






「お嬢様、いらっしゃった様ですよ」

「ねえ!本当にどこもおかしくないかしら?髪は乱れていない?ドレスは?おかしい所は無くって?」



 わたくしは侍女に最終チェックをせがむ。

 ほんの少しでもおかしな所などあっては、未来の王妃として面目が立ちませんものね。



「勿論、どこもおかしい所など御座いませんわ。グラングリフ一美しいお嬢様ですわ」



 侍女達が手放しで賞賛を送るのを、当然の様に享受する。

 グラングリフ一など…。

 そこはわたくしの侍女なのですから、アースガルド一と言う所ではなくて?

 わたくしは髪を背中に流して鏡を覗き込んだ。

 

 憎たらしいけれど、カーミラ様の商会のリンスという物は素晴らしいわ。

 わたくしの黒髪がより美しく艶やかに光り輝いて…。

 これでは、夜の神よりもわたくしの方が輝いてしまいますわね。



 でも……何より一番驚いたのは、カーミラ様ですわ……。

 あんなに痩せて、あれではまるで別人ではありませんか!

 クリストファー様と揃いの金の髪は美しく、ほっそりした身体は思わず守ってあげたくなる様な華奢さ。

 ただキツいだけだった瞳は柔らかく、温かな薄紫。

 所作もこの間までまともに歩く事さえ出来なかったのに……。

 それが……あんなに上品で優雅にお茶を……。

 わたくしは自分の爪を噛むと、昨日のカーミラ様を思い出しました。

 でも直ぐに慌てて頭を振って、昨日の事を頭から追い出します。

 だって、わたくしはこれからクリストファー様との逢瀬の時間なんですもの。



 しかし……唯一の誤算は、Jのドレスを手に入れられなかった事ですわ……。

 昨日のカーミラ様のドレスは、悔しいですけれど、とても素敵だったわ……。

 上半身の肩のデザインもなかなか凝っていたし、後ろのリボンはとても豪華で歩くと揺れるのも可愛らしい……。

 前から見ればわたくしの持つ流行りのドレスですのに、後ろから見るとボリュームのあるロングドレスなんて……。



 あそこまでのドレスを作れる職人なんて、他に見た事がありませんわ。

 絶対にお父様とお母様に頼んで、わたくしも作って頂かなくては。

 ……カーミラ様の後というのが癪ですけれど、この際仕方ありませんわ。

 幸い、カーミラ様はお茶会に余り顔を出しませんもの。

 わたくしが着た方が宣伝にもなって、Jとやらも喜ぶでしょう。



 わたくしがドレスの裾を直していると、部屋の扉をノックする音が聞こえましたわ。

 ああ!クリストファー殿下がいらっしゃったのね!



「お嬢様、クリストファー殿下がお見えです」

「お通しして頂戴」



 わたくしは、椅子から立ち上がって殿下をお待ちします。

 ああ…胸が高鳴り、心臓は早鐘を打ったかのようにドクドクと早さを増しますわ。

 わたくしは、扉の方を今か今かと見つめました。



 扉が開き、待ちかねた殿下のお姿が現れました……。

 はぁ……なんて素敵なんでしょう。

 煌めく金の髪は、一つに纏められ、後ろに流されておりますわ。

 最上級と見受けられる白いシャツ、ズボン、ベストは、金の髪とその青い瞳をより一層引き立てて、瞳と揃いのタイが、ワンポイントになって上品に纏まっています。

 ああ、わたくしも今日蒼いドレスにして正解でしたわ。

 まるで対の様ではございませんか。




「……クリストファー様。ようこそおいで下さいました……お久しぶりですわね」

「レベッカ様。お久しぶりです。この間は貴方のお父上に助けられました。お礼が遅くなり申し訳ない」

「とんでもございませんわ!殿下のお力になれた事、とても光栄と仰っておりましたもの」



 わたくしは、流れる様な所作でテーブルへと案内致しました。

 クリストファー様が後ろに着いていた従者に合図を送ります。



「こちら、クリストファー様からの手土産のケーキになります」

「まあ!ありがとうございます。わたくし、甘い物には目がございませんの」

「それは良かった」



 ああ……。なんて素敵に微笑むのでしょう……。

 心が蕩かされる様ですわ。



「最近はとても暑くなってきましたでしょう?クリストファー様のお洋服の涼しげな事……とても素敵ですわね」

「……ありがとう」



 ……何かしら?わたくし何か変な事言ったかしら?

 クリストファー様は、入れられた紅茶を飲んでいらっしゃる。

 わたくしは、今度は自分が褒められる番であろうと、クリストファー様によく見える様ドレスを広げた。

 一番上質な布で作らせた流行りのドレスですわ。

 きっとクリストファー様も気にいるに違いありません。



「……とてもお似合いですね、レベッカ様」



 ……まあ?それだけですの?

 でも、クリストファー様は余り口数が多い方ではございませんもの。

 殿方は女性の身嗜みには疎い物です。仕方ありませんわね。



「クリストファー様。このドレスは今年の流行りの形ですのよ。見て下さいまし。このふわふわとした軽いスカート。チュールスカートというんですのよ」

「これはこれは……女性のドレスには詳しく無く……ですがレベッカ様にお似合いだと思いました」



 わたくしは嬉しくなって、このドレスのいい所や何処で買ったなど聞いてもらおうと口を開きましたわ。

 クリストファー様は優しげな微笑みのまま、相槌を打ってくださいます。

 まるで天使の微笑みですわね。

 本当に聞き上手でして、わたくしあれもこれもお話ししましたの。



「こちらも、今王都で人気の菓子店から取り寄せましたの。なんでも毎日行列が出来ているそうですわ。わたくし、クリストファー様の為に買いに並ばせましたの」



 侍女がわたくしの言葉を聞いて、王都の人気店のお菓子を箱から取り出して目の前で切り分けました。

 どうやらケーキの様ですわね。

 そして切り分けられたケーキが、毒味用の皿の上に乗り、模様が出ないのでわたくしと殿下の前に並びました。

 

 クリストファー様は上品な仕草でフォークを取ると、ケーキを口に運びました。



「とても美味しいですね」

「お口に合って良かったですわ」 



 クリストファー様の喜ぶお顔を見て、わたくしもホッとしてケーキを口に運びました。

 流石行列が出来るだけありますわね。美味しいですわ。

 そう舌鼓を打っていたら、クリストファー様は後ろを振り返ってこう言ったのです。



「マシュピトー、お前も食べてみなさい」



 わたくしは驚きに目を見張ってしまいました。



「折角殿下の為に買ってきましたのに、従者に食べさせるなど……」



 わたくしは顔を顰めて扇を出しましたわ。

 クリストファー殿下は、ハッとすると、すぐに言い直して下さいました。



「すまない……つい家と同じ様にしてしまった。レベッカ様、お気を悪くされたら申し訳ない」

「いえいえ、そんな……本当にクリストファー様はお優しい事……従者にまで分け与えるなんて」



 すると、クリストファー様と従者のマシュピトーと呼ばれた男が、顔を見合わせてはにかむのです。

 そんなお顔は見た事がございませんでした。



「私も……最近分け与える様になったのです。ある方の影響ですが……」

「まあ、そうでしたの?クリストファー様に影響を与えるなんて、どんな素晴らしい方なのでしょうね」



 わたくしは、カップの紅茶を口に運んで、話しを打ち切りました。

 それより、クリストファー様を退屈させない様、もっとお話しをしなければ。

 わたくしは、最近見聞きした色々なお話しをしましたわ。

 わたくしの教会登録の話や、最近お友達の令嬢と出掛けた別荘のお話しなど。

 にこやかに微笑むクリストファー様は、何だって聞いて下さるの。



 王都で話題の商会のお話しになった時でしたわ。

 今まで静かに相槌を打っていただけだったクリストファー様が、質問してきましたの。



「……では、レベッカ様もミラーダ商会をご贔屓に?」



 しくじりましたわ。

 あの女の話しになってしまいました。

 しかし、カーミラ様からのお話しを聞く限り、上手くもてなす事も出来なかった様ですし、その話しを聞くのも話題作りにはいいかもしれませんわね。

 わたくしはそう思い、クリストファー様のお話しを返しましたの。



「ええ。なんでも、ラントールにも支店を作るとか。庶民の様に事業に携わるなど、淑女のする事ではございませんわ。ねえ?クリストファー様?」



 わたくしがそう言うと、後ろの従者と護衛が怖い顔でこちらを睨みましたわ。

 何よ、なんだって言うの?


「……それほど繁盛されているなんて、公爵家は勿論、我が国も賑わうと言う物。素晴らしい貢献だと思います」



 まあ!庇い立てするなんて……。

 ……しかし、国の為と言われたら仕方ありませんわね。

 わたくしは、おほほほと話しを流しましたの。




「実は、昨日噂のミラーダ商会の令嬢とお茶会でしたの」



 わたくしは昨日のお話しをして、カーミラ様に恥をかかせてやろうと思いましたわ。

 きっとクリストファー様は、公爵家の令嬢が、なんて口の聞き方だと、怒って下さるに違いありませんもの。

 


「カーミラ様とですか?!」



 ……なんですの?そんな驚く事かしら?

 身を乗り出す様に話しに食い付いてきたクリストファー様を、扇の裏で見つめます。



「え、ええ……」

「レベッカ様はカーミラ様と仲がよろしいのですか?」



 クリストファー様は、それまでの口下手が嘘の様にあれこれ聞いてきましたわ。



「い、いいえ。仲がいいなんてとんでもないですわ」

「と、いいますと?」



 わたくしは、しめしめと、昨日あった事をクリストファー様に話し始めましたの。

 最初は楽しそうにお話しをきいていましたが、やはり、くだらないと言われたわたくしを可哀想に思ったのでしょう。

 段々顔色が優れなくなりました。

 わたくしの為に、そんなに悲しんで下さるなんて……。




 全て話し終わって、気持ちよく扇を畳むと、後ろに控えていた従者と護衛がクリストファー様の肩を叩きましたわ。

 何事かと見ていると、従者の方がこう言いましたの。



「同じ公爵家でこうも違うとは……クリストファー様。この様な令嬢は殿下に相応しくございません。もうお帰りになりましょう」

「ちょっと、何を言っておりますの?」



 わたくしは従者の言葉の意味が分かりません。

 昨日の最後に、カーミラ様に侮辱されたのを思い出し、似た雰囲気を感じましたわ。



「まあ!一従者ごときがこうして口を出すとは、クリストファー様。どんなにお優しくとも線引きはするべきでしてよ?」

「クリストファー殿下。こちらへどうぞ。時間の無駄です」



 それまで岩の様に黙っていた護衛が、クリストファー様を立たせて無理やり連れ帰ろうとするではありませんか。

 全くもって、殿下はどういう教育をされているのかしら?!

 わたくしの言葉を無視するかの様に、クリストファー様は無言で立ち上がると、従者達の言葉に従いました。




「……先程、私に影響を与えた人物が、素晴らしいとお話しになられましたね……」



 クリストファー様は振り返らずに言葉を投げかけました。



「え、ええ……」



 ゆっくり振り向いたクリストファー様の目には、静かな怒りが感じ取れる様でした。




「……その方はカーミラ様です……昨日の貴方の行動も、今日の言葉も、とてもあの方とは似ても似つかないでしょう。 」

「なっ!」

「あの方を侮辱するのは、私が……いえ、私達が許しません」



 そう言って、三人は出て行ってしまったのです。

 こんな屈辱……あり得ませんわ!

 公爵家の令嬢のお茶会を、途中で抜けるなんて!

 カーミラ様に、きっと何か言い含められたに違いありませんわ!

 でなければ、このわたくしに、こんな態度を取る筈がございませんもの!

 きっと、お茶会の時にわたくしの悪口を有る事無い事、告げ口をしておいたに違いありませんわ!





 ボン!


 わたくしは、枕を壁に脱げつけて唇を噛みしめた。

 こんな事になるなんて!

 昨日お父様に言い付けたから、きっと家では怒鳴られている事でしょうけど、それだけではこの怒りは収まりませんわ!

 わたくしは、感情の高まりで魔力が暴走しそうになるとを感じて、慌てて制御具をつけました。

 

 とにかく、今日の事をお父様とお母様に聞いて貰わなくてわ!

 あの女をなんとかして貰わなくては気が済みませんわ!

 見ていなさい!カーミラ!

ノヴァク•ツヴァイ


髪色 銀の短髪

容姿 ムキムキマッチョ

歳 19歳

好きな物 筋肉

悩み 俺達の存在、忘れられてませんか?

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