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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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リハーサル


「やり直しです」

「ま、またですのぉ?!」



俺は泣きそうになるお嬢様を見つめて、ニッコリと笑顔を向けた。

俺に言っても無駄と悟ったお嬢様が、後ろを振り返り助けを求めた。



「ファリスぅ、レナぁ」



お嬢様の半泣きの懇願を受け、手を貸そうとファリスさんが一歩踏み出した。



「ファリスさん。手を貸してはいけませんよ」



ファリスさんの後ろから、レナのひぃっという声が聞こえるが、俺はそちらも振り返って更に笑みを深めた。

ファリスさんはヒクリと口元を歪めたが、すぐに眉を下げたままお嬢様に向き合うと、視線を逸らして小さな声で呟いた。



「お、お嬢様…申し訳ございません…私ではリオンを止める事は出来ません…」

「そ、そんなぁ!」



まるでこの世の絶望とでも言いたげにお嬢様は目じりに涙を貯めた。

全く、これでは俺がお嬢様を虐めている様ではないか。



「さぁ。もう一度、今度はルークさんからよろしくお願いします」

「あ、ああ……」



庭師のルークさんが、戸惑った様にお嬢様の前に座り直し佇まいを直した。

そして、緊張気味に口を開く。



「ご、ご機嫌いかがですか?お嬢様」

「ええ。とても気持ちの良い朝ですわね。ルークはこれから何をなさるの?」



俺はその様子を見守りながら、ビクビクしているお嬢様を見つめていた。

俺達が何をしているかというと、一言で言ってしまえばリハーサルである。

何のリハーサルかというと、勿論。

第一の攻略対象者にしてこの国の王子。

クリストファー殿下をおもてなしする、明日のお茶会のリハーサルである。

事の始まりは、お嬢様がボソリと呟いた一言から始まった。



『はぁ…。お茶会と言っても、何を話していいのか…。本当に面倒ですわね…』



そう。

お嬢様は最近皆との関係を修復したが、元は我儘な高慢お嬢様である。

お茶会に呼ばれてもお話するどころか、周りからは陰険な悪口やら陰口を叩かれ友達もいない。

同年代とのおしゃべりが全く皆無なのである。

これは大問題だ。

折角クリストファー殿下がいらしても、今のお嬢様では笑って相槌を打つのが関の山。

これではおもてなしとしては三流以下である。

今後の関係を良好にする為にも、ここは俺が一肌脱ぐしかない!


…と、冒頭に戻る訳だ。



「ストップです!お嬢様、そこで相槌で終わらせてはいけません。もっと話を広げてください」

「そ、そんな事いっても、これ以上何を伸ばせばよろしいの?」



ここにきてお嬢様のコミュ障がこんな形で発揮されるとは…。

確かに同性同士、ファリスさんとレナとは裁縫という同じ趣味もあり、特に会話で困る事もないが、相手が男性となると話は変わってくる。

そこで、お嬢様にも分かりやすい様に説明を始めた。



「いいですか、お嬢様。もしお茶会に誘われ、ずっと自分の話をしている方で、それが全く自分には分からない話だったらどう思われますか?」

「それは…退屈で帰りたくなりますね…」

「それと同じ事です。まずは相手の興味の持つお話をされる事が一番です。初めてお話する方なら、どんな物がお好きなのか、どんな事をしているのか。そういったお話を尋ねると良いでしょう」



俺の説明に、ルークさんもなるほどと零すと端正な顔で頷いた。

突然呼んで、簡単な説明しかしていなかったので困惑していたが、理由を聞いて理解してくれた様だ。

俺の話にファリスさんとレナも思い当たる節があるのか頷いている。




「クリストファー殿下の情報の中で、弟のナルシェ殿下を可愛がっている点や、ライラシア様を慕っているなど、今のお嬢様でも知っている情報はあります。そこを広げる事も出来るでしょう」

「確かにそうですわね…」

「更に調べた情報によると、最近は剣の鍛錬に勤しんでいると伺いました。剣の授業だけでなく、空いた時間にも身体を鍛えているそうです」

「リオンが色々と知っている事の方が気になりますわ…」



お嬢様の呟きに皆の視線が集まるが、そこは笑顔で誤魔化した。

ジュダスさんにお願いして、今回のお茶会の成功を条件に調べて貰ったなんて言ったら、恐らくお嬢様はプレッシャーでいつも通りとはいかないだろう。



「ですが、確かに友達のいないお嬢様では難しいかもしれませんね…」

「そうですね…」

「もう!確かに友達はいませんけど、そんな目で見ないで下さいませ!」



本気で泣きそうになったお嬢様は、キッとこちらを睨みつけて口を開いた。



「ではリオンが見本を見せてくださいませ。そうしたらわたくしも頑張りますわ」

「私がですか?」

「ええ!勿論わたくしになりきって貰いますわよ!」



ふふんと昔のお嬢様っぽく笑ったお嬢様は、勝ったとばかりに髪をかきあげた。

うん。なんだか少し前のお嬢様に戻ったようだ。

俺はお嬢様の口角をグニグニと上に向けた。



「まあ、そうですね。では一度見ていて下さい。ルークさん、どうぞよろしくお願いします」

「あ、ああ。」



俺はお嬢様に変わってルークさんの対面の椅子に腰掛けた。



「ご機嫌よう、ルーク。今朝頂いた薔薇は見事でしたわ。次は何を育てていますの?」



俺の話し方に面食らったようにしていたルークさんも、すぐに話にのってきてくれた。



「はい。短いとはいえ夏も始まったばかりなので、向日葵を育てております」

「まあ!そういえば向日葵は花が咲くまでは太陽を追いかけて育つそうですわね」

「よくご存知ですね。そうですね。そこから花が開くので、まるで太陽を見つめて咲いているように見えますね」

「確か花言葉も素敵なのですよね。一本贈られれば一目惚れ…三本贈られれば愛の告白…七本贈られれば密かな愛。十一本贈られれば最愛とか…。ルークさんはどなたかに差し上げる予定がございますの?」

「驚きました。よくご存知なのですね。不勉強ですが、贈る本数によって意味が変わるとは思いませんでした」

「ルークさんの様に素敵な方から頂いた方は、とても幸せですわね…。羨ましいですわ」



お嬢様だけでなく、ファリスさんとレナもポカンと口を開けてこちらを見ているが、ここまできたらヤケである。

視線が痛いがなりきって俺は話を続けた。



「お休みの日は何をなさってますの?」

「休みの日…ですか…。休みの日は読書をしたり、新しい植物の品種改良をしたり…あとはそうですね、たまにダンジョンに潜ったりもしますね」

「ダンジョン?!」



素が出てしまった。

驚いた。どちらかといえば長身のヒョロっとしたらイケメンというイメージだったが、ダンジョンに潜るという事は、最低限の武が身についているという事か。

人は見かけによらないというが、本当だな。



「意外でしたか?」



ニコリと穏やかな笑みを向けられ、これが女性だったら惚れてしまうのではないだろうかと考えていた。

おっと、今はリハーサルの見本中だったのだ。

すぐに頭を切りかえてルークさんに向き直る。



「はい。意外でしたわ。わたしくしは最近美術関連の本をよく読んでおりますわ。ルークさんは何を読んでらっしゃいますの?」

「一番最近は、ロード戦記という小説を読んでおりました。見習いの騎士が魔物を打ち倒し、英雄になるお話です。」

「まぁ!最近話題の小説ですわね。わたくしも読みましたが、三章で主人公のラウの剣が折れてくじけかけた所は泣きそうになりましたわ」

「ああ!あそこは本当に面白かったですね。お陰で寝不足になってしまいました」

「あら!それは大変ですわ!是非こちらのママトのキッシュを召し上がって下さい。寝不足や疲れにいいんですのよ」

「そうなのですか。では有難く頂きます」

「あ、ルークさん、これバーバラさんの新作なので感想もあとで聞かせて下さい」

「あ、ああ。了解した」



突然巣に戻った俺に、キッシュを口に運んだルークさんが驚いてフォークを止めたが、直ぐに状況を理解してにこやかにキッシュを食べ始めた。

俺はお嬢様の座るソファを振り返りると、まるで能面のように表情をなくしたお嬢様と目が合った。




「ど、どうしたのですか?!」



俺は慌てて立ち上がってお嬢様に近づく。

近づいて気付いたが、後ろに控えているファリスさんとレナも似たような顔をしていた。

俺が訳が分からずオロオロしていると、溜息を一つ零してお嬢様が口を開いた。



「わたくし…なんだか自信をなくしましたわ…」

「私もです…なんだかリオンの後ろに花が見えました」

「わ、わたしより女らしいです…」

「いえ、あの、今のは演技ですよ?!」



俺がワタワタと困り顔で答えると、もう一つ盛大に溜息をついたお嬢様が言葉を重ねた。



「分かってますわ…。真面目な話に戻りますと、色々な知識を持っていないと対応が出来ないと痛感しましたわ…」



お嬢様の言葉に、俺も含めて全員が頷く。

前世でも、銀座の高級クラブなんかで働くママさんや売れっ子さんは、何本も新聞契約してて経済や世界情勢なんかも把握してるってテレビの特集でやってたな。

やはりおもてなしのプロは様々な分野の情報に特化して、どんな話でもついていけなくては。



「では、それも踏まえてメイベル先生の授業、イヴァリス先生の授業は勿論、何か気になる事があったら色々と屋敷の皆と対話で情報交換しましょう。」

「が、頑張りますわ!」



と、こうしてお嬢様にはリハーサルと称して屋敷の皆とも会話をして貰い、距離を深めていった。

やはり味方は多いに越したことはないし、皆と仲良くなる事でお嬢様には伸び伸びと良い所を伸ばして欲しい。

こうして俺達は、お嬢様曰くスパルタのリハーサルを繰り返し、クリストファー殿下のお茶会を乗り切ったのだった。


カリオス•クーガー


名前の由来 ルパン三世カリオストロの城から

歳  45歳

髪  黒髪を一つに後ろに纏める

悩み  クマ消えないほど忙しい事

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