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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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ナナクーンの文化

「で、ここはこんな感じにすると、グラングリフっぽさも出せると思うんですけど」

「やだ、やだ、やだぁ!素敵だわぁ!ねぇ、そう思わないぃ?!」



 Jが興奮して補佐の女性の肩をバシバシ無遠慮に叩く。

 女性はこの間も来ていた、ジュダスさん並みに出来る女性だ。

 女性は痛がる素振りも見せず、淡々と答える。



「はい。とても素敵だと思います。デザインの形は勿論、斬新な色使い。細やかな修正。J様より余程優れた……」



 バシィン!


 物凄い音で背中を叩く音がする。

 絶対紅葉がついたと思う。

 が、Jに叩かれた補佐の女性は表情を変えずに背中を押さえた。



「うふふふぅ?私がなんですってぇ?」

「…J様と同じ位優れたセンスです」

「でしょ、でしょ、でしょぉ?!」



 俺は叩かれた女性の背中を同情のこもった目で見つめた。

 こんなオネエでも力は男なのだから居た堪れない。



「こっちがナナクーンの正装なのぉ?こっちも素敵だわぁ……」



 悩める吐息を吐き、俺のデザインを眺めるJは、完全に乙女だ。

 見た目は外ハネのチョビ髭紳士だが。



 ナナクーンの民族衣装も正装も、どちらもドレスにフードがついた物だ。

 これは、ナナクーンの気候が関係している。

 ナナクーンの気候は、一年を通して紫外線がとても強く、鉱山に囲まれている為風も強い。

 その為、ドレスにフードがついている。

 ドレスは風が強い事を考慮され、シンプルなロングドレスが一般的で、腰元に太くベルトの様に刺繍が入るのが特徴だ。

 この刺繍は、睡蓮を真横から見た模様のロータスの刺繍にそっくりだ。

 色は紫外線を考慮して、白や薄い水色など、原色よりも淡いペールカラーを好む。


 正装では、この上からロングのガウンを羽織る。

 ガウンは原色の事が多く、長いタッセル紐で胸元からお腹にかけてクロスに結って止める。



 これらを考慮して、ナナクーン風のドレスを作って貰う事にした。

 ちなみにこのデザインも買い取られた。




 かなり多くのデザインを頼んだので、お茶会の関係上、このナナクーンの衣装を最優先に、それからお嬢様のトラウマドレスの順で作って貰う事にした。

 それなら3日程で作ると興奮している。

 出来上がったら届けに来てくれる様なのでお願いした。



「それにしてもぉ!あなたその格好でここまで来たのぉ?」

「あ、あはは……」



 Jが俺の敗れたズボンを指差し眉を吊り上げた。

 俺としても不本意だ。



「全くぅ!これでも履いていきなさいなぁ!」



 Jはクローゼットから子供用のズボンを何着か引っ張り出すと、俺に投げつけた。

 お代を払おうとしたが断られたので、ご好意に甘えて履き替える事にした。



「ついでにこれもあげるから取っときなさぁい!」



 そういって何着か無理やり手渡された。

 丁度外出用の服も買わなくていかなかったし、断れそうもないので有り難く頂く事にした。

 


 俺はお礼を言って再び馬車に乗り込み、屋敷へと戻って行った。

 馬車なんてもう屋敷も近いし贅沢だと思ったが、ジュダスさんの言いつけを破るわけにも行かず、渋々乗り込んだ。





 屋敷に戻った俺は、その足でバーバラさんの元へ向かう。

 ナナクーンの伝統料理を作れないか聞く為だ。

 本に載っていたレシピは、かなりざっくりしている物だった。


 羊の肉とママトを煮込んだ具をパイにして振る舞う。 


 書かれているのはこれだけだ。

 俺は書かれている事と、そのパイをクリストファー殿下のお茶会で振る舞いたい事を伝える。



「責任重大じゃないか!クロワ、シフ!ちょっと来とくれ!」



 バーバラさんは二人を呼ぶと、俺がした説明を二人に話す。



「俺達の料理が……王子様の口に入るのか……」

「それで、その羊のパイのレシピは?」

「それが、ざっくりと入ってる物しか載ってなかったらしいんだよ」

「俺は、一回だけ隣の領で食べた事があるよ。ナナクーンから引っ越してきたって言ってた料理人が店開いてて、繁盛してるんで入ってみたんだ。その時の看板料理だって頼んだっけ」



 シフさんが懐かしそうに話してくれた。



「あんた、食べたって事はレシピ分かるんじゃないかい?」

「おいおい、無茶言わないでくれよ。もう五年くらい前の話だぞ?」



 俺と三人が頭を抱える。



「ナナクーンじゃ羊は高級品だからね」



 こちらでは比較的安価な羊だが、あちらでは高級品らしい。

 なので、特別な日に振る舞われている様だ。



「ママトだけって事はないと思うんだけどね。こっちのパイは、一口大に切った牛の肉と野菜を炒めたやつをパイで包むのが一般的だよ」

「とりあえず、羊肉とママトで作ってみますか」

「まあ、このまま話してたってパイが出来る訳じゃないしね。そうしようかね」

 


 三人はそういうと、手際よくパイを作り始めた。

 俺も手伝ったり、新しくバーバラさんに渡すレシピをまとめながら出来上がりを待つ。

 一時間程してパイは出来上がった。

 早速試食してみる。



「美味しいけど…なんか違うなぁ?」


 

 唯一食べたことのあるシフさんが首を傾げる。

 


「リオン、その本に何かヒントはなかったのかい?」

「うーん……誕生日や、結婚式など、特別な時に振る舞うとしか……」



 俺は読んだ本を思い出しながら記憶を辿る。

 途中チラッと双子を思い出してしまったが、すぐに頭から追い出した。



「あとは、挿絵だとパイからこう、ドロっとした中身が出て、何か隣に添えられてましたね」

「ママトだけじゃドロっとはならないね」

「もっと、甘味があったんだよな。野菜の甘味というよりはもっとこう、果物……?」



 シフさんが記憶を手繰りながらパイを食べている。



「こっちでも、マリンナのジャムを入れる事があるね」

「ナナクーンっていうと、グレーブが有名じゃないかい?この辺の干しグレーブも、全部ナナクーンから入ってきたやつじゃないか」



 グレーブ?干しているっていうと、グレープ?

 ブドウの事かな?

 クロワさんがキッキンの奥から瓶詰めを持って帰って来た。

 やっぱり干し葡萄だ。

 


「これを一緒に煮詰めて作ってみよう」

「そうしてみようかね」

「おっと、こんな時間か。夕食は羊パイを召し上がって貰う事にするか」



 夕食の時間が近付いている事もあり、羊パイを夕食のメインにして、干し葡萄入りの羊パイに再チャレンジする。



「添えられている物ってのは何だろうか」



 俺は前世のパイに、よくマッシュポテトが添えられていたのを考えていた。



「マッシュポテットに似た様に見えましたが……」

「ああ!それならココポテットだろ!」



 ココポテットというのは、ナナクーン原産の小さな大きさのポテットらしい。

 少し甘みがあるらしい。

 国の好みなのか、甘い物が好きなのかな?


 こうして試作品を作り、お嬢様達には夕食を振る舞い、また試作に戻る。

 お嬢様は、最近では食べる量が普通よりやや少ない位なので、ガッツリ減量食ではない。

 以前の様な油ギットリの料理は、バーバラさん達ももう誰も作ろうとしない。

 栄養に気をつけて、バランス良く献立が考えられている。

 お嬢様は夕食の羊パイも美味しく頂いた様だ。



「うん!この味だ!」



 四回目の試作品を食べた所で、シフさんが頷いた。

 やはり甘じゃっぱい味付けだ。

 付け合わせのマッシュポテトは、ポテットに生クリームと蜂蜜を混ぜて作ったものだ。



「こうやって作ってみると、随分国ごとに差が出るね」

「そうだな。でもこれも美味いよ」

「俺はやっぱり、食べ慣れた母国の物の方が美味しく感じるね」

 


 俺も美味しいとは思うが好みだろうと思う。

 何はともあれ、こうしてパイも出来上がって良かった。



「では、このレシピで当日殿下に振る舞いましょう。あとはいつも通り、お嬢様の好きなお菓子も用意すると良いかと思います」

「お嬢様は最近だとプリンがお好きみたいだね」

「では、プリンと羊肉パイにしましょうか」



 こうしてお茶会で振る舞う料理も出来上がった。

 クリストファー殿下のお茶会はどうにかなりそうだ。

 俺は付き合ってくれた皆にお礼をいい、キッチンを後にした。






 キッキンを出ると、ずっと待っていたのだろうか。

 ジュダスさんが静かに佇んでいた。



「……無事帰れた様ですね」

「はい。待っていたのですか?声をかけて頂ければ……」

「……とりあえず、ライナス様がお呼びです」



 旦那様が待っているのに、ジュダスさんが俺を急かさない訳はない。

 どうやら待っていた訳ではなさそうだ。



 それにしても、この呼び出しは胃が痛い。

 今日オレガノン隊長と城であった事だろう…。

 完全に俺のせいではないが、巻き込まれてしまった以上、話しを聞かれるのは仕方ないだろう。

 更には魔導図書庫の事も聞かれるのだろう…。

 俺は痛む胃を抑えて、ジュダスさんの跡を追い、旦那様の南の書斎に向かう。



「ライナス様、リオンを連れて参りました。 」

「……入りなさい」



 俺は書斎に入り、左手を胸に当て挨拶をした。



「お帰りなさいませ。旦那様。お呼びでしょうか」



 俺が挨拶すると、いつかの様に厳しい視線で俺を見ていた。

 ゴクリと唾を飲み込む。

 旦那様は暫く俺を見つめた後、ゆっくり瞳を伏せると話し始めた。



「ジュダスから話しを聞いたが……オレガノン隊長に斬りかかられたそうだな」

「……はい」

「理由も分からないと聞いている。当のオレガノン隊長に話しを聞いても、勘違いだったの一言しか返ってこなかった。間違いはないか」

「間違いありません」



 やはりオレガノン隊長は何も話していないらしい。

 俺としても何を勘違いしたのか説明はして欲しかったが、当の隊長が黙っていたのでは分からないままだ。

 


「それで……彼を相手して何故生きている?」



 ……これは困った。

 全く聞かれる予想をしていなかった。

 ただ聞かれてしまうとその通りだ。

 リオンは何も習っていない。

 知り合いに騎士もいないし、戦いなど全く見た事もない。


 なんとか言い訳を考えてはいるが絶望的だ。

 旦那様とジュダスさんを前に嘘をついたとして、見破られない自信がない。

 どうしたらいいんだろうか。

 一か八か、本当の事を話してみるか?

 ここはゲームの世界で、私は転生者です。

 ここより遥か進んだ文明の世界からやってきました。


 ……胡散臭い事この上ない……。


 俺が青い顔で黙っていると、まさかのジュダスさんが口を開いた。



「ライナス様…私もリオンが斬られたその場にいた訳ではございませんが、斬られたリオンは、オレガノン隊長の聖剣に傷を癒されました」

「……ヴェクサシオンか……」



 旦那様は覚えがある様で目を瞑って頷いた。



「聖剣で癒された以上、リオンには後ろ暗い事はございません。それは間違いないと思われます」



 俺は驚いてジュダスさんを見る。

 まさかジュダスさんが庇ってくれるとは思わなかったからだ。



「オレガノン隊長本人が、勘違いで斬りかかった事については、リオンに深く謝罪をしています。その場には私も居合わせております」

「………………」



 俺は、どう説明する事も出来ず、二人の話しを聞いていた。



「確かにリオンにやましい事などないだろう。だからこそ、何故オレガノン隊長がその様な行動を起こしたのか気になる」



 ジュダスさんも同じ様に思っている様で、俺に視線を向けた。

 俺が口を開かないでいると、旦那様は静かに話し始めた。



「リオン。今、カーミラが絶対の信頼を置いているのはお前だ。そのお前がカーミラを信じて仕えている限り、私はお前を守る義務がある」

「旦那様……」

「今後、何か問題が起こる様な事があれば頼りなさい。その為にジュダスをつけたが……まさかこの難しい男が、人を庇うとはな」


 

 ジュダスさんは、旦那様の視線を受けて気まずそうに視線を逸らした。



「……話しは以上だ。下がりなさい」

「……はい。ご迷惑をお掛けして本当に……申し訳ありませんでした……」





 俺はもう一度深く頭を下げて部屋を後にした。

 部屋を出て、深くため息を吐くと、直ぐに後ろの扉が開いて、ジュダスさんが追いかけて来た。


 ジュダスさんはそのまま無言で俺を見つめ、少し廊下を歩くと振り返って手招きした。

 俺はジュダスさんの後についていく。



 中庭まで出ると、ジュダスさんは足を止めて振り返った。

 初夏の心地よい風が頬を撫で、ジュダスさんの茶色の髪をさらう。

 無表情のまま、ジュダスさんは口を開く。



「……リオン。私は今日の事をライナス様にも話していません」



 この場合の話しは、魔導図書庫での話の事か。

 旦那様にも話していないなんて、どんな理由があるのだろうか。

 あの気味の悪い双子も……。



「いいですか、リオン……念を押すようですが、決して今日の事は話してはいけません。いいですね?」

「……理由は……話しては頂けないんですか?」

「……もう会う事もないでしょう。忘れなさい」



 俺は、珍しく不安そうなジュダスさんを見て、余計に不安になった。

 本当に、もう会う事もないのだろうか?



「……さあ、帰りなさい……リオン」

「……はい。おやすみなさい、ジュダスさん……」



 中庭を離れ振り向くと、ジュダスさんはまだ中庭に佇んでいた。

 

 

 

『リオン…、また、あい、ま、…しょう』



 そう言った双子の声が聞こえる様な気がした。

 

レナ


好きな食べ物  に、肉です。

嫌いな食べ物  や、野菜です。

好きなタイプ  び、美形に弱いです…。

嫌いなタイプ ゆ、優柔不断な人です。

最近あったショックな事 ふ、ファリスさんに意外と性格きついわねって言われた事です…。



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