表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
4/72

直談判

まず、破滅フラグとやらを回避するため、前にも言った通りお嬢様の素行矯正が必要不可欠だ。

 なんせ今のままでは人として色々不味すぎる。



「それにしても、カーミラお嬢様は嫌われ過ぎです」



 俺は立ち上がって、ため息をついた。



「そ、それは……し、知ってるわよ……」



 なんせ、気に入らない使用人を次から次にクビにしているのだ。

 使用人達からの評判はすこぶる悪い。

少しでも気に入らなければ罵詈雑言を喚き散らし、勉強もせず食べるのはお菓子ばかり。


 更に先程のお茶会を見ても分かるだろう。

 同い年のご令嬢達とも、とてもではないが、関係良好とはいえないだろう。



「まずは減量ですね。これには私に考えがあります。お嬢様は、暴飲暴食を控えて、マナーやお勉強もサボってはいけませんよ」

「わ、わかってるわよ……その考えって何のよ」



 考えというのは、前世の料理知識の事だ。



「体重を減らす為の、カロリーの低い料理の事です。カロリーが低ければ同じ量を食べたとしても、身体に着く脂肪は少なくなります」

「そんなのがあるなら、最初からそうしなさいよ!」



 前世の記憶が戻ったのがついさっきだ。

 無茶振りもいいとこだが、転生者ということは伏せておきたい。



「お嬢様がやる気になってくれたので、私も協力するのです。お嬢様の身分でしたら、確かに命令すればそれは叶うでしょう」



 俺は、お茶のお代わりを入れながらゆっくりと話す。



「でも、やりたくない事や、嫌な事を言われて、やれと強要される事は、お嬢様も嫌だと、先程のお茶会で分かりましたよね?」



 お嬢様は、先程のお茶会を思い出したのか、下を向いてコクリと力なく頷く。



「人は信頼や、愛情のある相手には無償で行動してくれる物です。お嬢様が周りに優しく接すれば、それは巡り巡ってお嬢様に返ってきます」

「私にも?」



 新しいお茶を、お嬢様の前にそっと置いた。



「笑顔も同じ事です。笑顔は心の鏡です。ニコニコした相手の前では、自然と笑顔になる物です」



 そう言って、お嬢様にニッコリ微笑む。



「だから、お嬢様もいつでも笑顔を心がけて、我儘を言いそうになったら、俺の話を思い出して下さい。それでも、我儘を言いたくなったら、俺が聞くので、俺を呼んでください」

「す、すぐに呼んで我儘を言うかもしれないわ!」

「いいですよ」



 俺は苦笑しながら答える。



「では、俺は仕事に戻ります。午後のお勉強、サボってはいけませんよ!」

「そんな何度も言わなくても分かったわよ!!」



 お嬢様が顔を真っ赤にして頷いた。






 部屋を出た俺は、優先順位について考える。

 最重要は、カーミラお嬢様の断罪イベント回避。

 これが最大の目標にして、決して違えてはいけない目標である。



 破滅フラグといえる断罪イベントの起こるエンディングは、魔術学園3年目の時に起こったような記憶がある。

 魔術学園の入学は、13歳の時だったはずだ。

そこでお嬢様の婚約者とヒロインは出会い、仲を深めていく。

そして3年後、婚約者とヒロインは学祭中に皆の前でお嬢様からの虐めを暴露して、攻略対象者との婚約を破棄してもらう流れだったはずだ。


今はお嬢様が九歳の冬の始まり。


 とにかくお嬢様の我儘の原因の一つを、解決出来そうな所から手をつけるか。

 俺は早速旦那様の部屋へと向かう。

 先程お帰りになられた旦那様は、夜会に出席するまでのこの時間ならば部屋で執務をしているはずだ。


 一番南の大きな扉の前にたどり着き、俺は深呼吸する。

 呼吸を整え、扉を2回ノックして、自分の名前を告げた。



「旦那様、突然申し訳ございません。リオンです。お話したい事がございます。本の少しでも良いのでお時間を頂けないでしょうか?」



 一拍置いて部屋の中から、入れという声が聞こえる。

 俺は緊張しながらも、重い扉を押した。


 扉を開くとお嬢様と同じ金の髪をした、端正な顔の男性が机の紙に何か書き込んでいた。

 ライナス・メルド・シュトラーダ。

 シュトラーダ公爵家の当主、俺の雇い主である旦那様だ。



「どうした。お前が来るのは初めてではないか」



 確かに旦那様と二人きりで、直接お話するのは初めてかもしれない。

 これは自分のため、引いてはお嬢様のため、そして旦那様奥様にとっても重要な事なのだ。


 俺は左手を胸に当て、右手を背中に添えて、旦那様の方へ一歩踏み出した。



「お忙しい中、お時間を頂き申し訳ございません。旦那様にどうしても、お願いしたい事がございます」



 俺は頭を下げたまま、姿勢を正した。



「話しなさい」



 俺が顔を上げると、旦那様も顔を上げて始めてこちらを見つめた。

 灰色の瞳がこちらを射抜く。

 お嬢様には甘いが、宰相として国を支える旦那様の性格はとても厳格だ。

 俺はゴクリと唾を飲み込んで話し始める。



「ありがとうございます。私のお願いは、カーミラお嬢様の事なのです」



 お嬢様の名前を出すと、旦那様はほんの少し雰囲気が和らいだように感じた。

 そのまま旦那様は何も言わずに先を目で促す。



「お嬢様は口には出しませんが、とても寂しがっておいでです。旦那様も奥様も、国の為、民の為と、とても忙しくされている。それは百も承知です」



 一旦言葉を切り、真正面から旦那様の灰の瞳を見つめ返す。



「お嬢様が周りを攻撃してしまうのも、暴食を重ねるのも、全て寂しさを紛らわすためだと思われます。どうか、ほんの少しの時間でも良いのです。週に一度でもカーミラお嬢様とお話する機会を頂けないでしょうか?」



 俺の話が予想外だったのか、旦那様は少し驚いたような表情を見せた。


 前世で言うところのプレゼンだな。

 如何に効率良く、メリットを伝えられるか、それによってもたらされる利益。

 これを提示出来れば俺の勝ちである。



「旦那様と奥様、交代にすればもっと時間の融通もききやすいでしょう。何よりお嬢様がとても喜ばれます」



 すぐに元の厳格な顔に戻ったが、旦那様は口を開いてこう言った。



「話はそれだけか」

「まだあるのですが……それはこの願いが叶ってから、またお願いに参ります」



 俺はニッコリと笑顔を向けた。


 旦那様の反応はどうだろうか。

 どんな反応が返ってくるのか、サッパリ検討がつかない。

 なぜなら反応が予想できる程、俺達は親しくないのだ。



「……善処しよう」



 旦那様は一呼吸置いてそう答えて下さった。

 とりあえず伝えるという第一目標は果たした。

あとは旦那様がどう動くか。


 俺は丁寧に挨拶して、旦那様の部屋をあとにした。

 話した事で、少しでも状況改善が見込めれば大成功だ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ