表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
39/72

魔導図書庫

 こうして俺とジュダスさんは、当初の予定がかなり狂ったが図書庫にやってきた。

 図書庫に入って最初に思った事は、全く想像と違った事だ。



 一人では開く事の出来なそうな扉をくぐると、まず目に入ったのは本棚だ。

 その本棚のある場所と言えば良いのか。

 本棚は床にはない。斜めに空中に浮いていた。

 左右の浮かぶ本棚は、三角屋根の様にアーチを造る。

 まるで、本棚のアーチの様だ。

 その本棚のアーチが、通路の様に列ごとに奥へと向かっている。

 床にあるのは座り心地の良さそうなソファとテーブルだけだ。

 ソファが断続的に置かれ、ソファの前には小さなテーブルが置かれている。



 斜めに空中に浮かぶ本棚は、俺の身長だと見上げすぎて少し首が痛い。

 ジュダスさんは丁度良さそうだ。

 それにしても、空中に斜めにも関わらず、中の本は落ちてこない。不思議だ。

 ジュダスさんは迷う事なく、島ごとに分かれる一本の本棚のアーチを奥へと進んでいく。

 俺は慌てて後を追った。

 


「この辺りの本ですね」

「ある場所が分かるなんて、よく来るんですか?」



 俺の質問に、一瞬キョトンとしたが、すぐ思い当たったのか一人で納得している。



「そうでした、まだ君は子供でしたね」

「あの?話が見えないのですが……」



 ジュダスさんが本棚の本を見つめ軽く手を上げると、本棚の本はスルリと一冊だけ傾くと、ゆっくりジュダスさんの手に落ちてきて収まる。



「ここは魔道図書庫なので、頭に思い浮かべた探したい本は光りますし、取りたい本を決めればこうして手元にやってきます」



 凄いシステムだ。

 正に魔道図書庫。

 しかし、俺もナナクーンの本の事を考えているが、ジュダスさんの見ている本棚は光ってはいない。

 近くに寄って本の背表紙を見ると、確かにナナクーンの書物の様だ。

 一冊取ろうと手を伸ばすが、本が落ちてくる気配もない。



「ジュダスさん……本が取れませんが……」

「教会未登録だからでしょう……光っているのは分かりますか?」



 俺が首を振ると、まるで可哀想な物を見る様な哀れみの視線を向けられた。



「教会登録しても、君は魔術の才能は無さそうですね」

「ま、まだ分からないじゃないですか!」



 こんな事で、魔術の適性ゼロだと突きつけられるのはたまらない。

 まだ俺は夢を見ていたいのだ。

 俺は、ジュダスさんが手渡してくれた本を開きながら膨れて見せた。

 ジュダスさんはまだ俺に哀れみの視線を向けている。

 俺は、その視線に気付かないフリをして本に視線をズラした。



 手渡されたナナクーンの書物は、文化について記されたものだった。

 パラパラと巡りながら、何か良い情報がないか読み進める。

 ジュダスさんの渡してくれた本には、俺が知りたかった情報が載っていた。

 ナナクーンの民族衣装や、式典などで着る正装も絵で残されていた。

 俺は持っていたメモ帳に写していく。

 主食はグラングリフと同じくパンで、魚は余り食べない様だ。

 伝統料理は羊の肉のパイらしい。

 バーバラさんに作ってもらえるか聞いてみよう。



 四方を他国に囲まれたナナクーンは、小国ながら珍しい鉱山をいくつか所有している。

 特殊な精鉱や製錬技術を有している為に、他国とは取り引きを上手くしながら同盟を結んでいる。

 大国であるグラングリフには、ライラシア様が嫁いでこられて、益々同盟は強固な物になったそうだ。

 一通り読み終わった。次の本に目を通すか。

 後は気候や特産物なんかが知れるといいんだが……。



「ジュダスさん、後、地図が載っている物が見たいんですが……」



 俺がナナクーンの文化書から目を離さないまま話しかけると、返事が返ってこない。

 不思議に思って振り返るとジュダスさんがいない。

 さっき俺についていないとと言っていたのは、ジュダスさんではなかったろうか。



 俺は本棚に手を伸ばすも、勿論本は降りてこない。

 ソファを見つめるも、乗っても届きそうにない身長を呪い、仕方なくジュダスさんを探しにいく事にした。




 本棚のアーチの隙間から光が差し込み、図書庫は暗いイメージはない。

 全くどういう仕組みなのか検討もつかない。


 また来た道を戻るが、ジュダスさんは見つからなかった。

 旦那様に呼ばれたのかな?

 俺はそう思って元の場所に戻ることにした。

 また何処かに行ってすれ違ったら、今度こそ大目玉どころでは済まされないだろう。



 俺は一人頷き、キョロキョロとしながら来た道を戻ろうとする。

 すると、奥の方から声が聞こえた。

 違う列の奥からの様だ。

 俺は辺りを見渡して、声のする方に耳を澄ませる。

 こっちだろうか?

 声がするのは先程いた所よりもっと奥の様だ。

 途中何度か曲がりながら奥へと進む。



「……う………も………」

「………は……………ね」



 声が近くなる。

 やはり一人はジュダスさんの声だ。

 もう一人の声は聞いた事がない。


 近付くにつれて、その声がただおしゃべりをしているのではない事に気付く。

 言い争っている様に聞こえる。

 知らず俺は息を潜めて、ゆっくりと声の方へと近付く。



「だ……!……はあ……の勘……です!」

「しかし…オレガ……隊長と、何…、あっ…、…は、間違…、ない…、…でしょう?」

「それは……」



 オレガノン隊長?

 ジュダスさんは、珍しく相手に責め立てられている様な様子だ。

 もっと近くで話を聞こうと、足音を殺して近付く。



「何か、隠している、事が、ある…、のでは、…ないか?」

「……貴方に話す事は何も有りません」



 話し方が一つ一つ確かめる様で特徴的だ。

 しかし、一つ一つの声が何故か耳障りな印象を受ける。

 聞く者を酷く不安にさせる声だ。


 本棚の影から二人を覗こうと息を殺す。

 そっと声を方を覗き見しようと……。


 ポン。


 肩を叩かれ弾かれる様に振り返る。



「おや、ここで、何を、して、いるん、…ですか?」



 声はジュダスさんに詰め寄っている者と、全く同じ声だった。

 そんな馬鹿な。

 確かにあちらから声が聞こえた筈だ。

 俺は、ジュダスさんともう一人の声がしていた方を正面から覗き込む。

 すると、やはりそこに声の主はいた。



「双子……?」



 視界に映る男性は、何か事故に遭ったのだろうか。

 ジュダスさんと話す男性も、俺の肩を叩いた男性も、二人とも目の周囲が酷く歪んでいた。

 引き攣った肉が目を大きく見開かせている。

 一人は右目を、俺の目の前にいる一人は左目の周辺の肉を引き攣らせている。

 ……しかし、事故で全く同じ様になるものだろうか?

 双子だし遺伝だろうか。




 俺は二人からジュダスさんの方に視線をずらした。

 二人の間に立つ俺を見たジュダスさんの顔色が変わるのを見て、俺は自分が不味い状況に陥っている事を悟った。



「……迎えが来た様ですので、これで失礼させて頂きます」



 ジュダスさんがサッと俺の傍に寄ると、背中に手を添えここを離れようとした。

 俺は無言で頷き指示に従おうとする。



『おや、そちらの、子供は…あなた、名前を、何と、言う、…のです?』



 目の引き攣った双子は、一言一句間違えずに同じ台詞を吐いた。

 ジュダスさんが二人に聞こえない様、小さく舌打ちする。

 聞かれたという事は、身分上俺は答えなくてはならない。

 ジュダスさんは鋭い視線のまま俺を見下ろすと、諦めた様に頷いた。

 俺は振り返り、双子を正面から捉える。



 深い海の底を不安で混ぜた様な、黒みがかった青の髪がアーチの隙間から漏れる光に照らされ、全てを飲み込む水面の様に揺れる。

 血走った黒い瞳は俺を見ている筈なのに、俺を見ていない様にも見える。

 俺の名前を知らない所を見ると、オレガノン隊長は答えなかったという事だろうか?

 俺は一歩前に出て口を開く。


 

「……初めまして、シュトラーダ公爵家に仕えております。使用人のリオンと申します」



 俺は左手を胸に当て、右手を背中に回し挨拶をした。



「さぁ、ライナス公爵がお待ちです。行きましょう」



 それを見てジュダスさんは、視線から庇う様に前に立つと、今度こそ急ぎ足で逃げる様にその場を立ち去った。

 俺は短い足を懸命に動かし後を追う。



『リオン…、また、あい、ま、…しょう』



 振り返ると、二人は固く手を繋ぎ合い、先程の様に一言一句間違えずそう言った。

 








 図書庫を出てもジュダスさんの足は止まらない。

 もう俺は急ぎ足では間に合わず、駆け足でその後を追っていた。


「ジュダスさん!……ジュダスさん!待って下さい!」



 俺の声にやっと気が付いた様で、ジュダスさんはやっとその足を止めた。

 俺を見下ろし、酷く恐ろしい物を見たかの様に目線を彷徨わせる。

 そして、ゆっくり視線を戻した時には、もう怯えの色はない。

 静かに俺の目線に合わせる様しゃがみ込むと、俺の両肩を持ってこう言った。



「リオン…今見た物は全て忘れなさい。あなたは図書庫で誰にも会わなかった(・・・・・・)

「ジュダスさん……?」

「……守れますか?」



 理由は聞いても教えてくれないだろう。

 教えてくれるなら始めに話す筈だ。

 俺は暫くその瞳を見つめていたが、ゆっくり頷いた。



「……分かりました……ジュダスさんは無駄な事はしません。何か理由があるんですね」

「……今は、その賢さも物分かりの良さも、助かりますね……」



 そう言って立ち上がったジュダスさんは、人通りの多い城門の近くまで歩みを緩めなかった。



「私は至急用事が出来ました。君は馬車に乗り、もう帰りなさい」

「帰りにJさんの工房に寄ってもいいですか?デザインを渡したいんですが」

「……仕方ありません。渡したら速やかに帰るのですよ」

「分かりました」



 ジュダスさんは一度だけ俺を振り返ると、もう振り返らずに城の奥に戻って行った。

 あの二人は一体……。

 俺は忘れろと言われたのだし、慌てて頭を振った。

 あの双子の事を思い出すと、酷く不安な気持ちになる。




 俺は馬車に乗り、Jの工房を目指す事にした。

 今は彼の様に、明るい気持ちにさせてくれる人に会いたい。

 俺は、馬車の窓から遠ざかる城を見て、不安も遠ざかっていく様な気がしていた。


ファリス


趣味 最近はお嬢様とリメイクする事でしょうか。

困っている事 お嬢様がおやつをおかわりしようとする時ですね…。

嬉しかった事 お嬢様が優しくなられたことでしょうか。

最近の悩み リオンが一番お嬢様をやる気にさせられる事ですね。私も負けてはいられません。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ