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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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聖剣ヴェクサシオン

「リオン!」



 声のする方を向くと、ジュダスさんが血相を変えて走ってくるのが見えた。


 一拍遅れて足の痛みに気付く。

 かすり傷位かと思っていたが、ザックリ肉がえぐれていた。

 骨が見えている。

 直視した瞬間、耐えようのない痛みに襲われその場に崩れ込んだ。



「……つっ!」



 歯を食いしばって足を押さえる。

 早く止血しなくては。

 俺は脂汗の滲む額を拭う事もできない。

 頭がガンガン鳴っている。

 意識が朦朧として吐きそうだ。



「これはどういう事ですか?!オレガノン隊長!」



 ジュダスさんが俺に駆け寄り、見た事もない顔で隊長を睨みつけた。



「すまんすまん。どうしても彼が気になってね」



 悪びれもなくいい笑顔を見せたオレガノン隊長を睨みつけると、ジュダスさんが歯軋りして俺に視線を戻した。



「リオン!リオン!しっかりしなさい!誰か!誰か手を!」



 俺から流れ出る血を眺めることしか出来ない。

 もう、うめき声すら出ない。

 喉がカラカラに渇いている癖に、口の中には血が溢れてくる。

 ジュダスさんの声に、訓練をしていた騎士達が何事かと集まってきた。



「慌てるな。今治してやる」

「何を悠長な!早く!誰か手を!」



「剣よ」



 オレガノン隊長が、誰か恋しい人を呼ぶかの様な優しい声で誰かを呼ぶ。

 今まで持っていた剣ではない、飾り気も何もない、ただ白く光る一本の剣を持っていった。

 いつの間に……?



「彼を癒せ」



 呼ばれた剣は、隊長の願いに応える様に薄らと光を帯びる。

 俺に剣を向けると、斬られた左足が燃える様に熱くなった。



「ぅうああああ!」

「リオン?!オレガノン隊長!リオンに何をしたのです!」

「まぁよく見てな」



 斬られた左足が、剣を当てられた箇所から見る見る傷を癒していく。

 


「そんな……まさか……」



 ジュダスさんが剣を見て目を見張る。


 燃える様な痛みに目の裏に星が飛ぶ。

 白い点滅が瞼の裏で激しく光り、俺は痛みに呼吸も忘れて足を抑える。

 永遠に続くかと思われた痛みが、スッと遠のく。

 涙に滲んだ目を向けると、斬られた足はかすり傷すら残っていなかった。



「まさか……聖剣ヴェクサシオン……」



 ジュダスさんは幻でも見たかの様に呆然と呟いた。



「本気でやるつもりはなかったんだがな。余りに彼が良い目をするもので……それにしても……俺の軌道がずらされた。見た事がない構えだったな」



 俺の傷を治した剣はもう何処にもなかった。

 オレガノン隊長は、俺に手を差し出して立たせてくれようとした。

 俺がその手を取ろうとすると、ジュダスさんがそれを払い除けた。



「どういう事か説明して頂きたい」



 ジュダスさんの鋭い視線を受け、オルガノン隊長はガシガシと頭を掻きながら笑った。



「いや、この子から気になるものを感じてね。試させて貰ったんだ。でも……俺の勘違いだったみたいだ……すまない、リオン」

「すまないで済む様な問題ではありません!危うくリオンは死にかけたのですよ?!」



 ジュダスさんが凄い剣幕で隊長に抗議した。



「あの……俺の何が気になったのか、聞いてもいいですか?」



 俺は切られた足をさすりながら、自力で立ち上がる。

 ズボンが破れている意外に何も問題がない。

 確かに斬られたのに、まるで斬られた事が嘘の様だ。



「あー……いや……ほんとに俺の勘違いだ!すまん!」

「だからすまないで済むような問題ではないと!」

「あの!」



 このままでは収拾のつかなそうな二人の間に立って、俺は二人を交互に見た。

 ジュダスさんはこれから先が読めたのか、嫌な顔をしている。



「どんな理由があったかは分かりませんが、俺は何ともなかった訳ですし、それでいいです」

「リオン!」



 そんな風に俺の事で怒ってくれるジュダスさんを見れただけで、なんだか悪くないと思えてしまった。

 俺は本当に恵まれている。



「……あんまり俺の勘が外れた事は無かったんだが……でも、アイツが君を治したって事は、本当にただの勘違いだったって事だ……本当に済まなかった」

「アイツ?」

「ヴェクサシオンだ。俺の剣だよ」



 先程まで手にあった、今は何処にもない剣を思い出す。

 ジュダスさんには覚えがある様だ。

 未だに信じられない物を見た様な顔をしている。



「聖剣ヴェクサシオン……騎士団の隊長が所有していると、話には聞いていましたが……本当に実在したのですね……」

「詳しいな。コイツの事は、騎士団の奴らしか知らないと思っていたんだが」



 聖剣という言葉に、斬られた事も忘れ心が浮き立つ。

 何て良い響きなんだろうか。


 

「女神の加護を受けた聖なる剣と伝えられたその剣は、主と認めた者の願いを聞き、傷を癒す力を持っていると……どうやら本物の様ですね……」

「……主……ね……」



 ジュダスさんの言葉に、オルガノン隊長は寂し気な瞳で遠くを見た。

 どうしたんだろうか?



「と、そんな事より、俺がやらかしてしまったのは認める。だから、詫びといっちゃなんだが、リオン」

「はい?」


「何かあった時は、俺を頼れ。必ず力になろう」



 そう言って、さっきの様に手を差し伸べた。

 今度はジュダスさんに止められる事もなかったので、俺はその手を取って頷いた。


 

「はい。心の隅っこに覚えておきます」

「あっはっは!それで?見た事ない構えだった、もう一度見せてくれ!」

「オレガノン隊長!……リオン!今日の目的を忘れたのですか!」



 ジュダスさんの叱咤に目的を思い出す。

 そうだ。今日ここに来たのは、ナナクーンについて調べる為に来たのだ。

 何も斬られに来た訳ではない。

 騒ぎがあってすっかり時間も経ってしまった。




「オレガノン隊長、すみません。目的を思い出しました」

「そうだったな!すまんすまん」

「いえ、私が言うのもおかしな話しですが…治してくれてありがとうございました」



 俺がお礼をいうと、最初に大丈夫かと聞いた時の様な豪快な笑顔を見せてくれた。



「あっはっは!ほんとにな!……ほんと、なんでこう思っちまったのか、不思議だが……」

「?」

「シュトラーダ家の使用人、リオンといったな。また会う事があるだろう。その時を楽しみにしている」



 そう笑って、オレガノン隊長は俺の頭をワシャワシャと撫でた。

 俺は乱れた髪を押さえて訓練場を後にした。










「全く!あれほど騒ぎを起こすなと言ったのに!どういう事が起これば、足を斬られる様な事態に巻き込まれるのですか!」



 訓練場から出た俺は、ジュダスさんに大目玉を食らった。

 俺のせいかは微妙な所だが、迷惑を掛けたのは間違いない。

 甘んじて受ける。


「すみませんでした……」

「本当に……どうして第三独立部隊の隊長なんかとやり合う事になったんですか」



 ジュダスさんは、苛立たし気に組んだ腕を指でトントンと叩いた。

 


「ジュダスさんも知っていた位ですし、有名な方なんですか?」



 俺は、聖剣をもってしても直らなかったズボンを押さえて、買い直さなくてはガックリ肩を落とした。



「な!……有名も何も、本来王立騎士団とは、王により集められた、国をそして国王である自分を守る為の騎士団です。しかし、オレガノン隊長は唯一の例外です。王を主とはせず、その強過ぎる力故に、強く王に望まれ騎士団に所属する事になったそうです。自分の信じるものの為だけにその力を揮う事を許され、有事の際には国の為に働く事はしますが、彼等は自分の信念に反した命令には従いません。騎士団とは名乗っていますが、オレガノン隊長率いる第三部隊は完全に独立した部隊なのです」



 話を聞くと、傭兵の様にも聞こえる。

 よくそんな人の前に立って、生きて帰ってこれた物だ。

 今になって震えがくる。



「そんなオレガノン隊長が、リオンの何を気にして剣を取ったのか……何か聞いていないんですか?」

「いえ、本当に何も……ただ君が気になる。剣を合わせればそれが分かると言われました」

「…………………」



 俺が答えると、ジュダスさんは考え込んでしまった。

 俺にもさっぱり分からない。



「でも、ああして何かあったら頼れと言って下さった訳ですし、もしもの時強力な味方を得たと思えば、マイナスではないではありませんか!」

「…でその結果、足が切り落とされていても同じ事が言えたのですか?」



 う……。それは……。

 確かに完全に結果論だ。

 俺が返答に困っていると、ジュダスさんは呆れた様にため息を吐いて頭を振った。



「全く。君といると振り回されて仕方ありませんね。きっちり隣で見張っていないといけない様です」

「……お手数かけます……」

「もう時刻も昼です。当初の目的通り、図書庫に行きますよ。この事はライナス様に伝えますからね!」

「はい……」



 俺達は慌てて来た道を戻る。

 俺は、オレガノン隊長の見せた寂し気な瞳を思い出し、何故彼はあんな目をさせたのだろうと、ぼんやり考えていた。

 

クワドラ


職業  屋敷のメイド

好きな物  宝石 ドレス 高価な物

嫌いな物  質素な暮らし 

家族  弟が一人

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