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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
36/72

トラウマドレス

「うーん。今の流行りは……この形ですかね」



 俺はカバンの中のドレスを一つ手に取る。

 上半身部分が全面レースで彩られている、ノースリーブのワンピースタイプの膝丈ドレスだ。

 スカート部分はチュールネットと呼ばれる、バレエなどで着るスカート部分の素材だ。



「あらぁ。よく分かったわねぇ」

「そうですね。この中に似た形が多いですし、このチュールスカートがこれからの夏にはピッタリで涼し気です」

「なかなか見る目があるじゃなぁい?じゃあそれを選ぶのかしらぁ?」

「いいえ、これは選びません。これはお嬢様には少し可愛すぎますから」



 俺はお嬢様が悲し気な顔をしたのを見て、慌てて訂正する。



「お嬢様の派手目の顔ですと、この様な可愛いデザインよりも、綺麗な系統か大人っぽい物の方が似合います」



 俺は別のカバンに入っていた、もう少し大人っぽいデザインを指差す。

 シンプルな刺繍の入ったAラインのワンピースだ。



「……見る目はあるみたいねぇ」

「でも、ここはあえて、可愛い系のドレスを大人っぽく仕上げたドレスにすれば一石二鳥ではありませんか?」

「可愛いのに……大人っぽく?」


 

 お嬢様とJが顔を合わせて首を捻る。

 ファリスさんとレナがワクワクしながら身を乗り出す。



「あのお茶会を見た感じ、レベッカ様はとてもプライドが高く、お嬢様を下に見て優越感に浸っている様でした。きっと今流行りのドレスを選ぶ筈です。黒髪が引き立つ様、色は原色のドレスを選ぶかと思われます」



 俺はさっき手に取った今流行りのノースリーブのチュールドレスの青を手に取る。



「それではお嬢様。レベッカ様の手紙をもう一度見せて下さい」



 俺の指示を受けて、お嬢様は手紙を俺に渡してくれた。

 俺がいつも変な指示や質問をするのに慣れているお嬢様は、何も気にせず手紙を差し出す。

 Jは意味が分からずポカンとこちらを見ている。

 でもこれはどうしても必要な事なので、暫し待って頂きたい。

 俺は、急いで手紙を読んだ。



「恐らく同席するであろう御令嬢は、三名と書かれていますし、この前一緒にいらした方達でしょう」



 お嬢様もそう思っているのか、気が重そうに頷いた。



「では、是非前回着たドレスにしましょう」

「は、はい?」



 思わず口調の乱れたお嬢様が、慌てて口を押さえる。

 Jは話についてこれず、組んだ腕をトントンと指で叩いている。

 俺は急いで、前回のお茶会でお嬢様の着ていたドレスをファリスさんに持ってきてもらう。



「Jさん、これが前回お嬢様がお茶会で着て笑われたドレスです」



 俺は持ってきて貰ったドレスをJに手渡す。

 ドレスは、全体的にフリルとリボンがこれでもかとついていて、胸元には大きなリボンがついている。

 色は濃い目のピンクで、お世辞にも素敵とは言えない。

 Jはドレスを受け取って、ヒクリと右頬を引き攣らせた。



「こ、このドレスを着せるっていうのぉ?」

「はい」

「言っちゃ悪いけどぉ……凄くダサいわぁ……」

「私もそう思います」

「……もしかして、私。バカにされてるぅ?」



 剣呑な雰囲気がJから醸し出され、慌ててお嬢様が間に入る。



「J。リオンは無駄な事は致しません。何か理由があるはずですわ」



 お嬢様の言葉に、Jは首を傾げる。



「このドレスは言わばお嬢様のトラウマドレスです。是非この笑われたドレスにしましょう……勿論このままのドレスで出る訳ではありません」

「分かったわ!リメイクするのね!」



 お嬢様が手を合わせ瞳を輝かせる。

 俺はJの手からドレスを受け取り、テーブルにドレス広げる。




「このドレスの一番の特徴は、なんといってもこの胸元の大きなリボンと、フリルで段になっているボリュームのあるロングスカートです」



 俺はテーブル上のドレスを説明しながらその箇所を指す。



「色も濃い目のピンクで、背の低い可愛い系の女の子向けです……まぁかなり子供っぽいですが……」



 お嬢様とJを始めに、ファリスさんとレナもコクコクと頷く。



「なので、まずこのドレスは長袖ですし、このフリルとリボンのついた袖部分は全て切ってしまいましょう」

「ええぇ?!」

「それで、どちらか片方だけワンショルダーのノースリーブにして、もう片方はレースのコサージュを繋げて肩紐にしましょう」



 俺はそのまま上半身の胸元についた大きなリボンを刺し、説明を続ける。



「この胸元の大きなリボンは外し、後ろの腰にポイントでつけ、タレを大きくとって、タレの先にワニカンをつけるのはどうでしょうか」

「………………」

「スカート部分も、思い切って正面部分をきってしまいましょう。そのかわり、膝丈のチュールを下につけましょう。そうすれば、両サイドから後ろにかけてフリルが広がり、後ろからはロングドレスに、前からはチュールの膝丈ドレスに見えます。馬鹿にされたドレスを、流行りも取り入れつつ、新しく生まれ変わらせるのです」



 Jの目が輝く。


 

「靴はワンストラップのパンプスの、ストラップ部分をとって、足首にストラップが来る様にして止めるのはどうでしょうか?アンクルストラップです」



 Jがパチンと指を鳴らすと、控えていた女性がノートをJに渡す。

 Jはノートを受け取ると、凄い勢いでノートに何かを書いていく。

 シャッシャッとえんぴつの走る音が聞こえるのも、僅か数分。

 出来上がったのは、俺が今言ったデザインその物だった。



「こういう事よね?」



 Jの目付きは真剣その物で、語尾も伸びなくなっていた。

 俺は受け取ったデザインを見て、説明通りなのに感動する。

 服を説明するのは、とても難しい。



「はい!イメージ通りです」



 デザインを見たお嬢様が嬉しそうに微笑む。

 ファリスさんとレナがウズウズしている。




「……あなた、リオンとか言ったわね。これでうちで働かない?」



 Jは指を三本立てて真剣な瞳のまま俺を見た。

 中青銀貨(ちゅうせいぎんか)三枚だろうか?

 俺は苦笑してお断りした。

 認めて貰えて嬉しいが、まさかスカウトされるとは思わなかった。



「とても有難いお話しですが、やめておきます」

「あらぁ……残念だわぁ。大青銀貨(だいせいぎんか)三枚じゃ足りなかったかしらぁ」

「だ、大青銀貨三枚?!」



 どうやら桁が違った様だ。



「だ、ダメですわ!リオンは渡しません!」



 お嬢様が俺の前に出て両手を広げた。



「お嬢様、大丈夫です。俺は何処にも行きません……すみません。本当に有難いのですが、俺はもう仕える主を決めてますので」

「あらやだぁ。そういう感じぃ?それじゃあ邪魔出来ないじゃなぁい?」



 どうやら変に捉えている様な気もするが、これ以上はややこしくなるので黙っておいた。



「でも、本当にあのドレスを考えたのもあなたなのねぇ。人は見かけによらないって言うけどぉ?ほんとねぇ」

「どうですか?作れそうですか?」



 俺がデザイン画を返して質問すると、Jは自信たっぷりに返した。



「当たり前じゃない!私を誰だと思ってるのぉ?」

「では是非お願いします」

「でも、他のドレスはどうするのぉ?痩せちゃって全然ドレス持ってないんでしょお?」

「他にも着せたい服がたくさんあるんですよね……」



 俺は前世の服を色々思い出す。

 絶対に漢服は似合うと思う。

 もっと成長すれば、マーメイドドレスなんかも着こなすだろう。

 今はまだ身長と胸が足りないが…。

 俺の好みだと、サリーとアオザイだ。

 この辺をもう少しドレス風にアレンジして是非来ていただきたい。

 コーカサス地方のドレスなんかも可愛いんじゃなかろうか。



 俺があれこれニマニマしながら考えていると、Jが再び指を二本立ててきた。



「デザインを二割で買うわ。教えなさい」

「三割でどうですか?」

「……二割五分!これ以上は出せないわぁ!」

「では二割五分でいいので、お嬢様に最優先で作って、全く同じ物は作らないでくれればいいですよ」



 お茶会に行って、全く同じドレスとかち合ってしまったら、気まずくて仕方ないだろう。

 俺も、有名店で買うと見知らぬ人と被る率が高いので、なるべく買わない様にしたものだ。



「いいわぁ!契約成立ね!」



 Jがパチンと指を鳴らす前に、女性は羊皮紙を手渡していた。

 ジュダスさん並みに出来る。



 俺は早速サインして、何点かデザインを売った。

 ついでにこちらからお願いして、靴のデザインも買い取ってもらった。

 前世で母が一番気にしていたのは靴だ。

 靴だけは気に入ったらどんなに高価でも手に入れていた。

 良い靴を履くと、良い所に連れて行ってくれると。確かイタリアの言葉だったか。

 それから俺も靴を気にする様になったのだ。


 エンジェルスリーブのドロップドカブスのドレスだけは大急ぎで作って貰う事にした。

 なぜなら俺が見たいからだ。

 これはボリュームのある袖が垂れ下がっている形だ。

 着物の袖の洋風版と言うと分かりやすいだろうか。

 この形は女性らしさが映えてとても美しいと思う。

 




 レベッカ様とのお茶会のドレスが決まったので、日付けはお嬢様に任せる事にした。

 一応笑顔を作ってはいたが、目が笑っていなかった。

 それでももう少し心の準備が欲しいらしく、クリストファー殿下のお茶会の後にする事にした。

 確かに先延ばしするのに、クリストファー殿下の名前は効果絶大だろう。

 断る事が出来ないのは、お嬢様が一番分かっているし、腹はくくるだろう。



 

「問題は、クリストファー殿下とのお茶会のドレスなんですよね」

「あらぁ!お嬢様、クリストファー殿下に会うのぉ?!」

「ええ……ご存知なんですの?」



 お嬢様の質問に、目を見開いてJは抗議した。

 俺もここから殿下の情報が聞けるのではと、視線を向ける。



「クリストファー殿下って言ったら、幼いながらも金髪碧眼の眉目秀麗!文武両道でまるで物語の王子様がそのまま現実に現れたんじゃないかって、若い女の子達がそれはもうお熱を上げてるそうじゃなぁい?」



 ……物語の王子様って……。

 正にその通り、ゲームの攻略対象者ものがたりのおうじさまだ。



「それでぇ?その王子様のお茶会のドレスがなんで問題なのぉ?」

「クリストファー殿下の好みも普段の格好も知らないんで、対策しようがなくて困ってます」

「ほんとにあなた変わってるわねぇ?普通は流行りのドレス着たり、自分の好きなドレス選んで終わりよぉ?相手の服装がどう関係あるわけぇ?」



 なんと、相手の服装はあまり気にしないのか?

 俺の姉達は、好きな相手の好みなど、根掘り葉掘り聞いて必死に合わせていたんだけど……。


 

「うーん。凄く分かりやすく説明すると、デートの時相手が自分の好みのドレスを着ていたら、どう思いますか?」

「そりゃあぁ、自分に会う為だけに選んでくれたんだなってぇ……!」

「なので、クリストファー殿下の事を知りたいので、時間を貰えませんか?」



 無理かもしれないが、出来る限りは万全の対策を立てたい。

 ドレスを作る時間も考え、明後日までにはJに連絡する事を約束した。







 俺は早速ワトソンさんを探しに行く。

 殿下の家庭教師をしている奥様なら、何かヒントが貰えるだろう。

 奥様が帰る時間なら、ワトソンさんが把握している筈だ。

 ワトソンさんに聞いたところ、丁度旦那様と一緒に早くお戻りになっているらしい。

 工房の話しが気になる様で、お嬢様を呼んでいる所だった。

 俺は丁度良いので、お嬢様に頼んでご一緒させて頂く事にした。




 俺は早速事情を説明して、クリストファー殿下について奥様に尋ねた。



「申し訳ないのだけれど……あまり役に立たないと思うわ……ごめんなさいね……」

「でも、お母様はクリストファー殿下の先生をなさっているのですよね?」



 俺もそう思っていた事をお嬢様が聞いてくれた。



「性格かしらね?次期国王として育てられたからか、余り好き嫌いをしてはいけないとされてるんでしょうね。これといって好みの物は無いと思うわ。でも性格は知っているわよ?」



 確かに、あれ好きこれ嫌いなどは、立場上言いにくいだろう。

 俺はそのまま奥様の話しの続きを待つ。



「性格は、一言で言うなら真面目……かしらね。勤勉で噂通りとても優秀で賢いわ」



 噂通り、優秀で賢いか。

 奥様でも分からないとなると、メイドなんかも話した事はないだろうし…。

 誰か殿下に詳しい方はいないだろうか。



「あとは……そうねぇ?弟君のナルシェ第二王子を大事にしていたり、とても家族思いね。祖母であらせられるライラシア様の事も、とても慕っているわ。よく東の離宮に会いに行かれてるらしいわよ」




 ライラシア様…。

 確か現アーノルド国王の母君で、隣国のナナクーンから嫁いで来られたと習った。

 そうか!

 俺は勢い良く立ち上がり、急いでお礼を言って部屋を出る。



「奥様!とても良い情報、感謝致します!急ぎ用事が出来ましたので、これにて失礼致します!」

「ちょ、ちょっと!リオン?!」



 慌てたお嬢様と、あらあらうふふと笑う奥様に礼を取り、俺は優雅さを極力意識して急足で飛び出した。



 

 行き先はまずは書斎だ。

 ナナクーンについての本がある筈だ。

 俺は書斎に入り、目当ての本を探す。

 丁度旦那様に調べ物を頼まれていたジュダスさんとかち合った。

 挨拶をして本探しに戻る。が、目当ての本が見つからない。



「ジュダスさん、ナナクーンについてどんな事でもいいので、載っている本をご存じないですか?」

「ナナクーンですか?」



 ジュダスさんは、持っていた本を閉じるとこちらに丸椅子ごと体を向ける。



「ナナクーンについての本はここでは見た事はございません」

「どんな些細な事でも良いんですか……」



 ジュダスさんはロダンの様に顎に手を添えると、組んだ足に腕を乗せ考えを巡らす。

 


「どうしてナナクーンについて?」



 俺は事のあらましをジュダスさんに説明し、ナナクーンを調べるに至った経緯を話す。



「クリストファー殿下とのお茶会の為に、ナナクーンの文化を取り入れたらどうかと……確かに名案ですね」

「ジュダスさんは、何かナナクーンについて知りませんか?」

「場所と現王、この国との関係位で、役に立ちそうな情報は有りませんね……」



 確かにそれなら俺も知っている。

 これは困った。

 名案だと思ったのだけれど、調べるにもお手上げか。

 俺はガッカリと肩を落としてため息をはいた。



「手がない訳ではないですが……」

「本当ですか?!」

「気に食わないですが、仕方ありませんね。少しここで待ってなさい」



 ジュダスさんは不機嫌な顔で書斎を出て、すぐに戻ってきた。



「……非常に気に食わないですが、明日、私と一緒にライナス様の従者をしなさい。城にある図書庫で調べれば宜しいでしょう」



 二度も気に食わないと言われてしまった。

 しかし、これでナナクーンについて調べる事が出来る。

 ついでにクリストファー殿下の好みも聞ければ文句なしだが、本人に聞く訳にもいかないし、難しいだろう。

 とにかく、情報が少しでも集まるといいんだが……。


 こうして俺は、旦那様とジュダスさんと城へ行く事が決まった。

ノア•ウルムナフ


髪  白い髪をツインテールにしてるよ!

   たまにポニーテールにもするのよ!

欲しい物  父さんとおんなじハンマー!

嫌いな食べ物  特にないかな?

最近の悩み  父さんがただで物を直したりするのよ!

貰える物は貰っとかないと、こっちだって生活がかかってるのに!

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