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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
35/72

一大事


「一大事です。リオン」



 朝一番にお嬢様に呼び出された俺は、大急ぎでお嬢様の部屋までやってきた。

 タイが乱れているが、それは急いでいたからだ。

 見逃して欲しい。



「お嬢様、どうされたのですか?!」



 俺が慌ててお嬢様の全身をチェックする。

 ほっそり痩せたお嬢様にもう余分なお肉はない。

 リンスによってまとまりを見せる豪華な金髪は、腰まで伸びた毛先が自然にウェーブしている。

 薄紫のキツ目の瞳は、意志の強さを感じさせ、姿勢は凛と真っ直ぐに俺の方を向き、手は胸の下で品良く重ねられている。


 今日のドレスは濃紺のワンピースだが、腰を黒いリボンで絞っている。

 恐らく緩いのをリボンで絞っているのだろう。

 いつもの黒いチョーカーに、白いパンプスと白い髪飾りで合わせている。

 どこも可笑しい所は無さそうだ。



「どこも可笑しい所は見受けられませんが……」



 俺が全身チェックすると、お嬢様がそっと手紙を二通取り出し、俺に差し出した。

 俺は手紙を受け取り差出人を見てギョッとした。



「クリストファー殿下?!」

「ええ。それより大変なのはもう一通よ…。レベッカ様なの……」



 もう一通の裏の差出人を見て、記憶を探る。

 確か、俺が転生を自覚した日、お嬢様に嫌味を言っていた令嬢だ。

 確か、お嬢様と同じ公爵家のマルガレット家の御令嬢だったはずだ。


 それにしても……。

 クリストファー殿下よりも、レベッカ様の方が大変なんて言ってしまって大丈夫なんだろうか。

 ファリスさんとレナにチラッと視線を向けると、笑顔のままだったが、目は笑っていなかった。

 俺はもう一度二通の手紙に目を向けた。



「確かにこれは一大事ですね。中を見ても?」



 俺が聞くとお嬢様が無言で頷いた。

 どうやらレベッカ様との事は相当なトラウマの様だ。

 顔色が悪い。


 手紙を開いて読んでいくと、二通の手紙は、両方ともお茶会のお誘いだった。

 クリストファー殿下の方は、シュトラーダ公爵家へいらっしゃる旨が書かれている。

 恐らくミラーダ商会の噂が大きくなり、興味を持ったのでないかと考えられる。



 お茶会の日付けは、クリストファー殿下が1週間後。

 レベッカ様は、そちらに合わせるという旨が書かれている。

 レベッカ様からは、そちらに合わせるから逃がさないわ。という意思を感じる。

 場所は、あちらのホームの様だ。




「これは……逃げられませんね……」

「そうなのです……日付けが決まっているなら用事と断る事も出来ましたが……」



 日付けが決まっていたら行くつもりが無いと聞き、俺は苦笑いを浮かべた。

 そこでファリスさんが前に出て、話しに加わってきた。



「リオンを呼んだのは、それだけではありません。相談に乗って欲しいのです」

「相談ですか?」

「そ、そうです。リ、リオンが一番適任です」



 何の相談だろうか?

 俺はお嬢様の方に視線を戻す。

 するとお嬢様は、照れた様にドレスの裾上げを広げた。



「見ての通り、わたくし痩せましたでしょう?合うドレスがなくなってしまったのです」

「今はこうしてリボンで絞っていますが、お茶会に出るとなるとそうはいきません」

「そ、そうです!」

「勿体無いから、本当は新しい物も必要ないと言ったんですが……」

 


 お嬢様が困って手を頬に当て目を伏せる。

 お嬢様は、俺が商会を立ち上げ、イヴァリス先生の授業をしっかり聞く様になってから、無駄遣いを一切やめた。

 自分が買う物が、国民の税によって賄われている事を理解したからだ。

 理解したからといって、それを実行する事は誰でも出来る事ではない。

 でも、お嬢様は自分で考え、そして自分で決めたのだ。


 しかし、クリストファー殿下や公爵家令嬢のお茶会にサイズ違いのドレスは間違いなく場違いだ。

 笑われる所では済まされない。



「確かに……これは不味いですね」

「それで、朝食の時、話しを聞いてくれたお母様が服飾工房を呼んで下さる事になったの」

「それは助かりましたね」

「本題はここからなのです」



 お嬢様がキリッと姿勢を正して俺の手を握る。



「どうかリオンも同席して下さいませ!」

「わ、私がですか?」



 今いち話が見えない。

 俺が困った顔をしていると、ファリスさんとレナが応戦する。



「リオンがリメイクで提案した形はどれもとても素敵でした。体型や季節、髪色や肌の色。合わせて選ぶのはとても難しいです」

「そ、そうです!」

「ファリスさんやレナも、もうお嬢様にバッチリ似合う物を選べているじゃないですか」



 俺がそう言うと、二人は身を乗り出して抗議した。



「元からある物を合わせるのと、一から似合いそうな物を選ぶのは訳が違います!」

「そ、それに今回は失敗出来ません!リ、リオンがお嬢様に合う最高のドレスを考えてくれないと!」



 ハードルがかなり上がってはなかろうか。

 俺は困ってお嬢様を見ると、お嬢様は期待に満ちた瞳を俺に向けている。

 この瞳を向けられて、断れる人がいるのだろうか。

 いや、いないだろう。



「……分かりました。ご一緒します」

「本当ですか?!」

「や、やりましたね!お嬢様!」

「ただし!」



 俺の言葉に、お嬢様がビクッと肩を揺らす。

 ニッコリ笑みを深めると、顔を引き攣らせた。

 笑顔を向けたのに引き攣られるとは、どういう事だろうか。

 俺はお嬢様の口角をグニグニ上げた。



「お茶会には私も同席させて下さい。それが条件です」



 俺の台詞に、お嬢様はホッと息を吐いた。

 どうやら無理難題をふっかけられると思っていたらしい。



「なんだ、そんなことでしたの。それならこちらからお願いしたい位ですわ。宜しくお願いしますね、リオン」

「畏まりました。ところで、奥様は本日も城へ?」

「ええ。いつも通りお父様と……どうしてですの?」



 優雅な仕草で首を傾げたお嬢様からは、予想通りの返事が返ってくる。



「出来れば奥様から、殿下のお話を伺いたかったのですが……仕方ありませんね」

「クリストファー殿下の?」

「はい。出来れば殿下の好みを聞いておきたかったのですが、時間がなさそうですね」

「お母様がお帰りになったらお聞きしてみては?」




 それだと工房には間に合わないが、これから来る人に事情を説明して、それからどうするか考える事にした。


 こうして、本日の午後の授業の後、奥様お抱えの服飾工房との打ち合わせに同席する事となった。








「初めましてぇ、お初にお目にかかりますわぁ。私とっっっっても楽しみにしてたのよぉ?お嬢様ってば、あのミラーダ商会を作ったんですってねぇ?見て!私もリンス愛用者なのよぉ!」



 どうしてどこの世界も、デザイナーにはオネェが多いのだろうか。

 それとも俺の偏見だろうか。

 オネエのおじさんは、茶色の艶々した髪をお嬢様にクネクネと見せつけた。



「初めまして、カーミラと申します。うちの商会をご贔屓して下さって、嬉しいですわ。お母様お抱えの優秀な工房だと伺っておりますわ。どうぞ宜しく頼みます」



 お嬢様は動揺のカケラもなく対応されている。

 本当にご立派になられた物だ。



「あらやだわぁ。私はカイザス•ゴッドフリート•シルバードよぉ。Jって呼んで頂戴ねぇ」

「……………」



 お嬢様はニッコリ笑って差し出された手を取った。

 しかし…。カイザス•ゴッドフリート•シルバードって完全にネタじゃないか。

 しかもJってどこも文字ってないけどOKなのか?


 と、思ってインパクト抜群の名前を反芻して思い出す。

 この人、ゲームキャラクターで見た事がある。

 確か、乙女ゲームの好感度を上げるのに、自分を着せ替えしたりするんだが、その時のデザイナーがJだ。

 姪が、ネタにしても酷すぎるって言っていたっけ。

 いざ実際、転生してその名前を聞いてもネタにしか思えない。

 ある意味ゲーム被害者ではなかろうか。



「じゃあ、早速ぅ、お嬢様の採寸から始まるわぁ」



 口調とクネクネした仕草は問題だが、仕事は正に早技。

 その目つきは真剣そのもの。

 口元のチョビ髭に、外ハネした真ん中分けの髪はこうして黙って仕事をしている所を見ると、出来る紳士にしか見えない。

 小指はしっかり立っているが。


 採寸が終わって、Jはお嬢様のこれまでのドレスを見る為に、ファリスさんにクローゼットへ案内されていった。

 目の合ったお嬢様の右頬が引き攣っていた様にも感じるが、特に問題は無いので笑顔を返した。



「ちょっと!ちょっとぉ!ちょっとぉ?!」



 暫くしてJが一着のドレスを抱えて戻ってきた。

 お嬢様の目の前まで興奮した様子でドレスを突き立てている。

 Jは興奮して鼻息荒くお嬢様にドレスについて問立てた。



「こ、このドレスは何なのぉ?!」



 Jが持ってきたのは、お嬢様がリメイクしたドレスだ。

 以前俺がお嬢様お気に入りのフリフリドレスを、上半身だけ切ってしまえばいいのではないかと言ったものだ。

 宣言通り三人が仕立て上げて、たまに着ているのを見かけた。

 もうブカブカで、絞ってもフリルがよれて着れないのではなかろうか。



「そのドレスは、リオンが考えたのです。素敵でしょう?」



 お嬢様が懐かしそうにドレスを見て目を細めた。

 作っている時の事を思い出したのだろうか、ファリスさんとレナと目を合わせ微笑む。



「リ、リオンってあなた?!」



 Jは興奮を少しも静める事なくファリスさんの腕をガッチリ掴んだ。

 ファリスさんがビックリして顔を引き攣らせている。



「い、いいえ、私ではありません。そこの男の子です」

「ええ?!」



 Jは、始めて俺に気付いた様だ。

 俺を頭の先から足先までじっとり眺め、俺を指差してお嬢様に確認する。



「これがリオン?」

「そうですわ」



 お嬢様がニコニコと俺を見ている。

 Jは訝し気に俺を見て、片肘を持って頬に手を添えた。



「初めまして、リオン•トーレスと申します。どうぞ宜しくお願いします」



 俺は左手を胸に当て、右手を後ろに挨拶をする。

 顔を上げると、Jは俺の顔を見たままブスっとしていた。



「ほんとにこんな子供がぁ?」



 Jは遠慮なく俺をジロジロと見た。

 レナがムッとした顔を見せているが、視界には入っていない様で安心した。



「ミラーダ商会のリンスを作ったのも、このドレスをデザインしたのも、私の体重を減らしたのも、全てこのリオンですのよ」



 お嬢様は誇らし気に俺を見つめてくれる。

 少し照れくさい。



「まぁ?!そうなの?!」

「それで、今日ここに呼んだのは、リオンに新しいドレスのデザインを考えて貰おうと思って呼びましたの」



 お嬢様の言葉に、Jは凄い勢いでこちらを振り返った。



「……いいわぁ。あなたの力、試してあげるわぁ」




 Jはパチンと指を鳴らすと、一緒にきていた女性を呼ぶ。

 工房で働く部下だろうか、Jの意図を読み取ったのか、持ってきていた大きなカバンを次々開いていく。

 中には色とりどりのドレスや布が入っていた。



「この中で一番お嬢様に似合うのはどれかしらぁ?選んでご覧なさぁい」

「リオン、頼みましたよ」



 お嬢様もファリスさんもレナも、面白がってこの状況を見守っている。

 俺への信頼もあるが、期待半分、好奇心半分という所か。



 しかし、実は頼まれて嬉しい気持ちがある。

 誰でも一度は考えた事があるのではないだろうか。

 女の子を自分の好きな趣味で着飾りたい。

 しかもその女の子は、今や美少女だ。

 美少女に自分の好みの服を着せ、リアル着せ替えごっこが出来る。

 きっと、どんな服でも見事に着こなしてくれるだろう。

 そう思うと、とてもワクワクしてくる。

 俺は開かれた沢山のカバンの前に立って物色を始めた。


 

ヨシュア•ウルムナフ


ウルムナフ工房の親方

特徴 口が悪い

特技 早食い

最近の悩み ノアが女らしくなってきた事


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