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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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春の終わり

「この間、お嬢様に挨拶されたのよ。『ご機嫌よう。今日はいい天気ですわね。』て……凄く素敵に微笑む物だから、あたし誰か他の御令嬢が遊びに来たのかと思って、ようこそいらっしゃいました。ごゆっくりして行って下さい……なんて言っちゃったのよ……」

「わたしはこの間、庭の掃除に行ったら、お嬢様が本を読んでるじゃない?凄い痩せたから誰だか分からなくて、掃除するからどいてって言っちゃったのよ……」



 食堂ではメイド達が集まって、食後のお茶を飲みながら休憩している様だった。



「それでそれで?!」

「あんた……お嬢様が痩せたのは最近じゃ有名じゃない」

「そしたら、『あら、ごめんなさい。夢中になってしまって…。』て、頬に手を当てて恥ずかしそうに赤くなっちゃってさ……思わず見たわたしの方が赤くなっちゃったわよ」



 それを聞いていた隣のテーブルの執事と執事見習いの男性が話しに加わる。



「俺もこの間お嬢様にお声を掛けて頂いたよ。随分立派なお嬢様になっちゃってまぁ。あれならクリストファー殿下の婚約者にもなれるかもな」

「すっかり痩せて別人ですよ。ティルエイダでも乗り移ったのかって、この前ソルチャも話してましたよ」




 最近の使用人の話題は大半がお嬢様のお話しだ。

 やれこんな事を言われた、やれこんな事があった。

 最初は面白半分に話していた皆だったが、最近では違う。

 皆変わったお嬢様を認め始めている。

 皆お嬢様の話しを聞いて欲しくて、聞きたくて、こうやって楽しそうに話題に上げるのだ。



 これはお嬢様自身が勝ち取った周りの評価だ。

 俺も凄く鼻が高くて、聞いているとムズムズと心が浮き立つ。

 俺は食堂でそんな世間話を聞きながら食事をするのが、今一番の楽しみだ。




 体重も減り始めてからは、縄跳びを始めた。

 もう一ヶ月前位だろうか?

 ファリスさんと俺で縄を回して、レナとお嬢様が走りながら通り過ぎる。

 大縄跳びだ。

 ダイエットというよりは遊びながらの運動なので、嬉しそうに飛び跳ねている。



 ぽっちゃりしたお嬢様にはきついかと思われたが、意外や意外。

 華麗にジャンプして通り過ぎて行く。

 それに引き換え、意外や意外。

 レナは毎回時間がかかる上によく引っかかっている。

 あんなに鈍臭いとは思わなかった。



 そのまま縄跳びでは縄潜りもする。

 俗に言うリンボーだ。

 身体を柔らかくするのに最適だ。

 これも、ぽっちゃりのお嬢様じゃキツい筈だと思ったが、本を乗せて過ごしていた成果か、体幹がしっかりした様で、難なくくぐり抜ける。

 レナはお察しの通りだ。



「お嬢様、レモリ水です」

「ありがとう、リオン」



 最近は、飲み物も水か果実の飲み物しか飲まない。

 俺がなんて事なく、そういえば、お茶の渋は歯について黄ばみますね。

 と言った事があり、それを聞いたお嬢様はそれからお茶を飲まなくなった。

 どうやら知り合いに、歯の黄色い方がいるらしい。

 確かに微笑んだ時歯が汚いのはゲンナリだ。

 気持ちは分かる。




 ちなみに、ゴムだが、あった。

 早速ジュダスさんに頼んでゴムを使っている工房を探して貰った。

 バランスボールを作って欲しいと依頼して、作って貰った所、工房でも作らせて欲しいと言われたので、売り上げの三割で権利を売った。

サービスで、アドバイスとしてで大中小大きさを分ければ、子供のボールにもなると宣伝しておいた。



 部屋では本を読む時も、勉強する時も、刺繍する時も。

 いついかなる時もこのバランスボールだ。

 俺は前世でも遊んでいたから問題なく座っているが、お嬢様は最初はかなり苦戦していた。



 よく転ぶので、授業中は注意されてやめていたが、慣れて転ばなくなったのでお嬢様が頼んで椅子はバランスボールになった。

 レナはバランスボールに乗った所、なぜかボールに踏み潰されていた。

ここまでくると本物だ。



発見と言えば、他にも色々と発見する事が出来た。

なんとこの国にはダンジョンがあるらしい。

もう一度言おう。

ダンジョンがある。

と言っても勿論国の中心部から一番遠い南の外れらしいが。

俺が作って貰った商会のマネーカードの様に、ギルドでカードを登録するギルドカードがあれば入れるらしい。

普段は騎士団が警護にあたっていて、何かあった際は騎士が対処する様だ。

専ら中に入るのは皆冒険者の様で、探索に赴きトレジャーハントしたり、ダンジョンでしか取れない鉱物の採取したりするらしい。

俺もいつかはギルドカードも発行したいな。


あと発見といえば他にも数種類の香りの強いハーブを見つけた。

こちらの世界特有の様で、俺は見た事も聞いた事も嗅いだ事もない物だったが、俺が知らないだけという事も充分考えられる。

何にせよ、これでバリエーションも増えるし、リンスの新商品には困らなそうである。

これはとても助かった。



話が逸れてしまったので、お嬢様の事に話を戻そう。

メイベル先生の授業に、イヴァリス先生の授業。

授業でも、お嬢様はもう注意される事もない。

要点良く纏められたノートは、俺も商会関係で授業に出られなかった時に借りているが分かりやすくて見やすい。



姿勢も正され、いついかなる時も微笑みを絶やさず凛と背筋を伸ばしている。

食事中も隙はない。

よく噛んで味わい、所作も姿勢も完璧だ。

それでもまだ鏡は置いているようで、たまにチラッと確認している。







 こうしてお嬢様が変わりたいと言ってから8ヶ月が経った。



 もう太って我儘ばかりだったお嬢様はどこにもいない。


 季節は変わり、短い夏が始まる。



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