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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
32/72

面接終了


「リオンは、このまま執事を目指すのですか?」

「はい?」



 求人面接に向かう為、クーデルカ通りのミラーダ商会へ向かう馬車の中。

 俺は、対面に座るワトソンさんの質問に、素っ頓狂な声を返してしまった。

 隣では、ジュダスさんが呆れた顔で俺を見ている。



「目指すも何も……私が決めていい事なんですか?」

「勿論資質や家格も関わってきます。本来、従者として側にいる者は、優秀である事は勿論、貴族の家柄を求められます」




 ワトソンさんの説明に、俺は大きく頷く。

 残念な事だが俺は平民だ。

 母が乳母だった事と、身寄りが無く引き取って貰っているだけで家格もない。

 俺が執事見習いなだけでも、とても珍しい事だ。



「しかし、旦那様は違います。家格が無くても優秀なら引き立てて下さいます。執事、従者に限らず、商人にもリオンならなれるのではありませんか?」

「私は、商人になるつもりはありません。お嬢様にお仕え出来ればそれで……」

「では、従者を目指しては如何ですか?」



 ワトソンさんの提案に、俺はジュダスさんを見る。

 ジュダスさんは旦那様の従者だ。

 今は商会の関係上、俺に付き合ってくれているが、本来は旦那様の傍でその力を奮っているはずだ。



「今、お嬢様には従者見習いはいません。……全員クビにしたまま、働き手がいなくなってしまいましたから……」



 ああ……。

 俺はワトソンさんの話しに苦笑いで答える。

 ジュダスさんが俺を見つめ、静かに口を開いた。


「しかし、執事見習いと従者見習いでは仕事内容から異なります」



 ジュダスさんは、そのまま厳しい視線で話を続ける。



「宰相の娘であるカーミラお嬢様の従者がただ優秀であるだけで務まるはずがありません。現在、従者がついていない事自体本来ならあり得ない事です」

「そうですね……加えてお嬢様は、クリストファー殿下の婚約者候補にも上がっています。従者に求められる物も多いでしょうね」




 お嬢様の従者か……。

 確かに、お嬢様も今はまだ教会登録前の子供で、夜会の出席もなく、自由になる時間も多い。

 勉強も一緒に受けていて、ファリスさんやワトソンさんに言えば、お話しする事も出来る。

 でも、この先登録が済み、俺が執事になったとすると、俺は屋敷で主人の帰りを待つ事になる。

 いつでも付き従うのは、従者の役割だ。



 離れている時に、ゲームの強制力や、他の令嬢、ヒロインの存在で、お嬢様がどうなってしまうのか分からない……。



「すぐに決めろと言う話ではありません。リオンに覚悟があるのでしたら、そういう道もあるのではないかと、覚えていて欲しいのです」



 ワトソンさんの話しに、ジュダスさんはもう何も言わなかった。

 俺は、無言で頷いてこれからどうすればいいのか。

 俺自身どうしたいのか、考えなくてはいけない。






 馬車の窓からクーデルカ通りの噴水広場が見えてきた。

 ゆっくり馬車が止まり、ジュダスさんを先頭に降りていく。

 馬車が止まった前の店を見て驚いた。

 まさかの要望通りだ。

 俺は思わずジュダスさんの方を見た。

 ジュダスさんは俺の視線に気付いて、得意気にこちらを見返した。

 得意気になるのも分かる。



 店の外観を出来ればブラウンのレンガ調に、ペンキで塗って欲しいとお願いした。

 この辺りは、殆どが白のペンキで塗られている。

 白だと、少しでも汚れると汚れが目立つ。

 周りが白の建物が多い中、レンガ調も珍しいし遠目からでも店がとても目立っている。

 窓の他にも、お願いしてあった出窓もある。完璧だ。

 


「素敵な建物ですね。とても目立ちます」



 ワトソンさんが隣や周りの店と比べて、にこやかに感想を聞かせてくれた。



「これで驚いて貰っては困ります。中へどうぞ」




 ジュダスさんが鍵を回して中に案内する。

 ドキドキしながら中に入ると、まず目に入ったのは絨毯だ。

 前世で言うところの、北欧デザインラグだ。

 花や葉などの複雑な自然の模様に、大胆なワインレッドカラーに紺と金の差し色が映える。

 入ってすぐ左には品の良いアンティーク調のキャッシャーテーブルが。

 壁際には商品を並べるであろう、キャッシャーテーブルと揃いのアンティーク調のコンソールテーブルが並ぶ。

 窓にはジャガード調のカーテンがかけられ、店の奥には暖炉が見えた。



「想像以上です。凄くセンスがいいですね」

「……本当ですね。月並みですが、とても品が良いですね……」



 俺の要望を叶えつつ、更に品良くまとめている。

 そのまま二階を案内される。

 店の奥に続く扉を開くと、左手に階段があり、右手には外へ続く裏口があった。

 ここを通れば、従業員はお客様の前に出ずに三階まで行く事が出来る。



「建物は三階建てです。広さは一階30メクタルです」



 メクタルというのは広さの単位だが、前世で言うところの1メクタル1畳だ。

 30メクタルという事は、前世の実家がダイニング15畳だったから、ダイニング2つ分。

 かなり広い。



「一階が商品を置いた売り場。二階を応接室にして、お得意様や常連さんが休める様にしています。三階には、商品を置く部屋と、従業員の休憩場所として活用する予定です」

「家格の高い方が、他の者と一緒なのを嫌がったり、ゆっくり商品を見たいと言い出す事も考えられますし、二階を二部屋に区切って、個室対応出来る様にしたらどうでしょう?二部屋あると複数人気いらっしゃった時も安心かと思われます」



 ジュダスさんとワトソンさんが頷き、ジュダスさんが手帳に書き込んでいく。

 二階はこれから整えるようで、絨毯が入れてあるだけで、家具などはなかった。



 三階は、パントリーに似ている。

 ちょっとした給仕室だ。

 それと荷物を置く棚と、大きくはないテーブルと椅子が二脚置いてある。

 従業員が休むには丁度良い。



「あと三十分程で面接の時間です。お茶でも入れましょう」



 ワトソンさんがパントリーに備えられたお茶を入れようとしたので、俺が代わり入れるので座って貰う事にした。



「どれくらいくるんですかね?」

「給金がいいので、誰も来ない事はないと思いますが……」



 俺の質問に、ジュダスさんも検討がつかないようで答えに迷っている。



「そういえば、ワトソンさんの弟さんが店を任されたと聞きました」

「そうなんですか?」



 ジュダスさんの話は、俺も今初めて聞いた。

 ワトソンさんの弟さんなら安心だ。

 それくらいワトソンさんには信頼を置いている。



「はい。少し前に旦那様からお話しがありまして、弟のトレヴァに任せて頂ける事になりました。トレヴァは元々旦那様の従者でしたが、領主代行の旦那様の弟君を支える為、ラントールに赴いていました。優秀な後継が育った為、この任を受けた様です」



 ワトソンさんの説明を聞いて、ジュダスさんが頷いた。

 旦那様の従者という事は、ジュダスさんの先輩だ。

 旦那様の従者な上、二人が認めていると言う事はこの上なく優秀だと言う事だ。

 とても頼もしい。



「ワトソンさんとトレヴァさんは、代々シュトラーダ公爵家に仕える由緒正しきジョシュア家の方々です。旦那様の信用もとても厚いです」



 ジュダスさんの誇らし気な顔に、ワトソンさんが照れた様に微笑むと、俺の入れたお茶を口に運んだ。



「弟は今日も来たがってはいたのですが、まだ後継との引き継ぎが終わらず、間に合わなかった様です。2日もあれば終わると言っておりましたよ」

「俺もお会いしたかったです」

「焦らなくても、その内会う機会があるでしょう。それより今は、これからの面接です。そろそろ下に降りましょう」




 ジュダスさんが、懐中時計を見ながらお茶を流し込むと席を立つ。

 俺は慌てて流しにポットとカップを戻して後を追った。



「なんだか騒がしいですね?」



 ジュダスさんが階段を降りながら呟く。

 確かにザワザワと話し声が聞こえる。

 一人二人の声ではない。

 一階に降りると益々喧騒は激しくなった。

 俺はジュダスさんとワトソンさんと顔を見合わせて、外へと続く扉を開く。

 店の入り口には、時間前だというのに人が溢れかえっていた。

 思わず振り返って二人を見ると、二人はニコリと微笑んでいる。

 外面も完璧だ。俺も見習わなければ。



 何の集まりだと集まってくる人も多く、何処から何処までが面接に来た人か区別がつかない。

 あまりの人だかりに、衛兵まで来てしまった。

 ワトソンさんとジュダスさんが慌てて説明をしてくれ、事なきを得た。





 時間になったので、面接にきた人を5名ずつ三階で面接する事にした。

 それ以外の人は裏口の前で待って貰い、一人出てきたら一人入ってきて貰う様伝えた。



 入ってきた五人には自分の名前と歳、連絡先を書いてもらい、それを見ながら質問する。

 俺はメモ帳を開いて、二人が座る椅子の後ろで入ってきた人を観察する係だ。

 基本、ジュダスさんとワトソンさんが質問をしてくれる。

 これまで勤めていた場所や、家族構成、仕事内容など、他の貴族の家を知らない俺は役に立たない。

 二人にお任せだ。

 俺は基本的に、身なりや清潔感、態度などをチェックする。


 今回取りたい人物は、成人4名、未成年2名だ。

 ヨシュアさん達の時と違い、こちらは募集をかけて面接しているので、選ぶ事に対する罪悪感は無い。

 お嬢様の為にも、より良い人材に働いて欲しい。




 三時間程かけて、成人28人、未成年19人の面接が終わった。

 面接に来た人には、合格の場合のみ、2日以内に連絡をする事を伝えた。

 不合格の場合は連絡は無しだ。




 俺達はそのままその場で、面接の紙のチェックを見ながら話し合う。

 最低限の俺のチェックに残った成人25人と、未成年9人の中から、家柄や前の職種を吟味して、採用者は決まった。



 採用者は全員貴族に仕えた事があり、接客に問題がない事。

 以前の勤め先が倒産してしまった人や、自分の事業が失敗してしまった人もいるが、穏やかそうな人柄を選んだつもりだ。



 こうして、6人の従業員が決まり、採用者にはトレヴァさんの引き継ぎ終了後、三日間の研修を受けたのち、遂にミラーダ商会が開店する事が決まった。


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