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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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決意の瞳

「何よ!突然黙っちゃって!聞いてるの?!」



 お嬢様の金切り声が響く。

 話の途中だったのだ。

 意識を戻そう。



 さて無事転生を果たし、前の人格と今世のリオンは混ざりあった。

 よく転生直後に起こるという意識の混濁や頭痛もなく、経過良好である。

 異世界転生物をよく読んだりアニメで見ていたせいか、それとも元々の順応力の高さか。

 転生し、生まれ変わった事実は理解した。



 目の前のお嬢様は、カーミラお嬢様。

 カーミラ・メルド・シュトラーダ。

 今年9歳になったシュトラーダ公爵家のご令嬢だ。

 ゲームの世界でいう、ヒロインを虐める悪役令嬢である。



 そこで俺は気付いた。

 そう。ゲームというからにはエンディングがある。

 ゲーム……いや、この自分の存在する世界としては現実なのだが、ここの元になったのはゲームの世界だ。

 当然カーミラお嬢様もいるし、ファリスさんなんかも見覚えがある。

 旦那様も奥様も勿論だ。

 ……もしかしたらこのままゲーム通りに事が進めば、カーミラお嬢様は一番最悪なルートによっては処刑。

 軽い物だと修道院送り、はたまた罪人として流刑地で強制労働。 

 全ルート見てた訳じゃないにしても、この子ほとんどが悲惨な未来だ…。


 そもそもゲームとはいえ、選ばれなかった令嬢の末路って悲惨過ぎないか?

 処刑だの修道院だと流刑地だの、ゲームなのに与える罰が過酷過ぎる。



 そして、彼女だけが悲惨なエンディングではない。

 勿論、公爵家として、娘の悪行に気付かない、監督不行き届きなどなど、旦那様達公爵家も取り潰されるエンディングも多い。



 お嬢様の前で姿勢を正し、笑顔を貼り付けてはいるが、冷や汗が止まらなくなってきた。

 異世界転生物の主人公達はこんな切羽詰まった思いだったのか。



「ちょっと!……聞いてるの?」



 段々無視されすぎて不安になってきたのか、お嬢様が心配そうに覗きこんできた。


 このお嬢様、我儘なのは俺も認めるが、根が悪い訳では無いのだ。


 カーミラお嬢様は、長らく子供の出来なかった公爵家夫妻がようやく授かった一人娘で、それはそれは甘やかされて育った。


 国で宰相として働く旦那様と、第一王子の家庭教師として働く奥様、お二人はお二人共とても忙しい。

 傍にいて、娘の行動を甘やかしているのではなく、傍にいれない負い目から、娘の我儘を全て叶えてしまっている。

 そうする事で、娘を愛していると、自分は愛されていると思っているはずだと夫妻は考えているのではないだろうか。


 でも、カーミラお嬢様が求めているものはそんなものではないだろう。

 小さな子供が求める両親への愛は、愛されたいと願う心は、誰もが皆持っている当たり前の感情なのだから。

 ただ話を聞いてくれる。

 寄り添って笑いあったり、時には厳しく叱ってもらう。

 そんな家族としての触れ合いが、心を満たし、そして豊かに成長を促すのだ。


 お嬢様は寂しいんだ。


 この広い屋敷で、たまにしか顔を合わさない両親。

 遠巻きに自分に同情するメイドや侍女。

 それらを伝えられない身分差の問題や、分かってもらえない辛さが、周りの人間を攻撃してしまうのだろう。

 そしてそれは暴飲暴食と、我儘な性格に繋がっている。

 しかし思い出して欲しい。まだお嬢様は、たったの九歳なのだ。



 お嬢様を見捨てて、転生知識を盾に生き抜くって事も出来るとは思う。

 このゲームの世界と前世では、文明レベルが違いすぎる。

 貴族に受けそうな商品を作り出して、商人にでもなれば、そこそこいい地位まで登れそうだ。



 ゲームを見ている時も思ったものだ。

 カーミラは、不器用なだけで……。

 愛されたかっただけで…。



 そもそも、こんな小さな子供を見捨てて、それで得た幸せは、本当に幸せなんだろうか……。


 俺自身、思い出のゲームの世界でもあるし、カーミラを見捨てるという選択肢は、改めて考えてもなかった。

まぁ、全てがゲームのシナリオ通り進むのかは分からないが、そうならない様に手助けくらいは俺でも出来るのではないだろうか。


そうして、俺は決めた。

 第二の人生の目標が定まった瞬間ともいえる。

 それが……乙女ゲームへの異世界転生だとしてもだ。



「カーミラお嬢様」



 俺は、お嬢様を正面から見つめ返す。

 お嬢様は身構えて、ビクッと肩を揺らした。


「私は、カーミラお嬢様を嫌ってなどいません。私がお仕えしているのは旦那様ですが、俺はお嬢様の使用人として、決して裏切らない、嘘をつかない事を約束します」



 そっとお嬢様の手を取って片膝をつく。

 驚いた様にお嬢様が、大きいがキツ目の瞳を見開く。

 俺はお嬢様に信じてもらう為、真摯な態度で目を逸らさず続ける。



「私は、お嬢様の為に生きましょう」



 お嬢様が、パチクリと瞳を瞬かせる。



「……本当に……本当に……私の事が嫌いじゃないの?」



 お嬢様が、ニキビだらけの顔を上げる。



「はい。確かにお嬢様は、ガサツで我儘で自分勝手ですが、嫌いではありません」

「何よ!文句ばっかりじゃない!」



 俺は苦笑いで答える。



「その代わり、お嬢様も約束してください」

「……約束……?」



 お嬢様は、ハンカチで目元を拭いながら聞き返す。



「はい。お嬢様は、この国で一番の淑女になって下さい。その為の努力を決して怠らず、勉強をサボらず、常にこの国の民の事を考えて行動してください」



 お嬢様はとても驚いたのか、涙を引っ込めた。



「その約束を違えない限り、私は決してお嬢様を裏切りません……。誓って下さいますか?」



 俺は、不安に揺れる薄紫の瞳をじっと見つめた。

薄紫の瞳が揺れていたのは僅かな時間だったか、それとも長い時間だったか。

 しかし、お嬢様は強い眼差しで見つめ返してきた。



「いいわ!やってやろうじゃない!……私だって……私だって変わりたい……!さっきみたいにバカにされたまま生きるなんて、真っ平だわ!私は公爵家の一人娘なんですもの!」



 俺は、そう答えたお嬢様に笑顔を向けた。

 すると、お嬢様も、とびきりの笑顔を返してくださった。


 道は決まった。

 後は、破滅エンド回避の為、お嬢様を愛され令嬢に変えてみせる!






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