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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
28/72

変わった先生と二人の護衛


 いつもの時間に目覚め、朝食後掃除を始める。

 廊下で会ったワトソンさんと挨拶を交わし、今日は久しぶりに勉強に出れる事を、話しながら窓拭きをする。

 こんなに忙しいのも、生産ラインが整うまでの辛抱だ。



「お嬢様、おはようございます」

「リオン、おはよう。今日の先生は少し変わってるから気を付けてね」



 挨拶の後、お嬢様が小声でコソッと俺に警告した。

 このお嬢様に変わってると言わしめる先生とは、どんな先生なのだろうか。


 そんな事を考えていると、扉が開き人が入ってきた。

 それを見て、ファリスさんとレナは頭を下げると出て行く。

 しかし、入ってきた人物は、女性か男性か分からない。

 薄紫の髪も肩位まであり、身長も高い。

 だが、何より驚く程美形だ。

 旦那様といい、ジュダスさんといい、この世界の美形比率はどうなっているのだろうか。

 これも乙女ゲームの弊害か設定か。

 俺は左手を胸に当て挨拶をする。

 


「初めまして、お嬢様と一緒に同席させて頂く、リオンと申します。宜しくお願いします」



 俺と目が合うと、美形の先生はにっこりと微笑んだ。

 笑うと更に美形に磨きがかかる。

 花の様に笑った先生は、高いとも低いとも区別のつかない声で答えた。



「こちらこそ初めまして。イヴァリス・ドルッセンと申します。宜しく」



 格好は細身パンツスタイルだ。

 骨格もガッチリしているとも華奢ともいえない。

 今の所性別が分からない以外は、変わった所はない様だ。



「私は地理と経済を教えています。それでは本日は地理の授業を始めましょう。リオン、分からない事があったらその都度聞いて下さいね」

「はい。分かりました」



 イヴァリス先生は、部屋に設置されたホワイトボードに大きな地図を貼り付けた。

 そして、地図の真ん中に位置する国を指差した。



「ここが現アーノルド•ルドル•グラングリフ王に統治された私達の住むグラングリフ王国です。南にはカーミラ様のお父様の治めるシュトラーダ公爵領が。北にはマルガレット公爵領が広がっています」



 特に可笑しい所もなく、イヴァリス先生は地図を指し示しながら説明している。

 お嬢様が言うから、変に気になって仕方ないではないか。

 授業も勿論聞いてはいるが、先生の変な所がないのか

一挙手一挙動に注目してしまう。

 しかし、地理の説明は丁寧で、質問にもにこやかに答えてくれる。

 とても好感の持てる先生だ。


 その後も東に大きな山脈があり、その先にある最大領地の話しや、西の領地の更に先に海が広がっている事などを勉強する。

 海か……。

 ここら辺でお目にかかる魚は全て川魚だ。

 海の魚も食べてみたいが、鮮度が落ちる為、市場で見た事はない。


 そして、一通り説明が終わると、イヴァリス先生は俺達の前に問題の書かれた紙を配った。



「私の授業では、必ず最後にテストを行います。正解しないと終わらないので頑張って下さいね」



 配られたのはテスト問題の様だ。

 裏には何も書いてない、問題は15問程あった。



「ノートや教本は閉じて下さいね。それでは、終わったら声をかけて下さい」




 イヴァリス先生は、ホワイトボードの前の椅子に座ると、俺達が解き終わるのを待っている。

 結局、先生の可笑しな所は見つからなかった。

 恐らくお嬢様は、誰か別の先生と間違えていたのだろう。

 俺はそう結論を出して問題用紙に目を向けようとしたが、イヴァリス先生が何かを取り出したのを見てそちらに視線が向かう。


「はぁ……」



 先生は取り出した鏡で自分の顔を見つめ、悩まし気なため息を吐く。

 右から左から。

 様々な角度から鏡に映る自分を見ては、その美し過ぎる美貌を見て頬を染める。


 

「はぁ……」



 俺が暫く呆然と先生を見ていたが、全くこちらの視線に気付く事はない。

 まるで世界に鏡の中の自分と二人きりかのように没頭している。



「イヴァリス先生、出来ました」



 お嬢様は、席から解き終わった事を伝える。

 しかし先生には全く聞こえていない。

 お嬢様がなんて事ない、いつもの事の様に解き終わった問題用紙を手に立ち上がる。

 イヴァリス先生の前に立ち、もう一度声を掛ける。



「先生、終わりましたわ」

「……はぁ……」



 駄目そうである。

 お嬢様は慣れた様子で、問題用紙を鏡の前に滑り込ませる。

 そこでやっとイヴァリス先生はお嬢様の存在に気付いた。



「あら、終わりましたか」



 まるで何事も無かったかの様に問題を採点し、満点の問題用紙を返すと、俺の方を見た。



「リオン、あなたは終わりましたか?」

「い、いいえ、まだかかります」

「では終わりましたら声を掛けて下さい」



 そう言い終わると、俺の返事も待たずにまた鏡の世界に戻ってしまった。

 思わずお嬢様の方を見ると、ね?とアイコンタクトを取ってきた。

 お嬢様。疑って申し訳ありませんでした。

 



 その後すぐに問題を解き、二人テストをクリアすると、休憩時間になった。



「この休憩時間というのは素晴らしいですね。頭がリセットされてまた集中力が高まる様に感じます」



 イヴァリス先生は、そう言って休憩の素晴らしさを語ると、鏡を取り出して椅子に座り直した。


 俺達はいつものようにバルコニーに出る。



「何の集中力が高まるのでしょうね?」

「並外れた集中力が有るのは間違い有りません」

「そ、そうね……」



 なかなか話しかけても気付かない先生を思い出して、お嬢様は苦笑いした。


 休憩の後は経済の勉強だ。

 前世での経済の勉強とは、少し違っている。

 前世だと、一般家計と政府と企業の三主体が基本だが、こちらの世界では違う。

 人とお金の動きを分析していくといった事ではなかった。

 主にグラングリフ王国での税率の話や、産業の話、領地によってどんな効果的な政策をとっているか。

 などの話だった。

 経済というよりは、帝王学に近い気がする。


 領地の政策は、うちの領地がこんな事していますよ。と教えてくれている物もあれば、他の領地には真似して欲しくない為、伝わってこない物もある。

 そういった情報や、噂の話もこの経済の授業に受ける様だ。

 この授業では、テストなどはなく、その都度どう思っているか、自分だったらどうするかというのを聞かれる物だった為、イヴァリス先生が鏡を見る時間はなかった。


 こうして、イヴァリス先生との授業を終え、俺は久しぶりにお嬢様との勉強を堪能した。



 明日はいよいよ商業連盟に行く日だ。

 俺も訪れるのは始めてなので、とても楽しみだ。





 朝。



「これでおかしくありませんか?」

「ええ、問題ありませんよ」



 俺は、一着しかない余所行きの白いシャツと紺のスラックスを身に付けて、問題が無いかワトソンさんに確認してもらっていた。

 旦那様達と行動を共にするのに、いつもの服では主人の品格を疑われてしまう。

 靴もまだ履いた事のない新しい物をおろした。


 俺は少し丈がギリギリになった服を見つめ、新しく書い直さなければならないと考える。

 特に靴だ。

 勿体ないと一度も履かない内に、もうキツくなっている。

 俺は一番紐をゆったりと取って履き直す。 

 これならまだ履けそうだ。




 俺がワトソンさんにチェックしてもらい、お嬢様の部屋に向かうと、途中でジュダスさんに会った。



「おはようございます、ジュダスさん」

「おはようございます、リオン。カーミラ様の所へ向かわれるのですか?」

「はい。その予定です」

「では、私もご一緒しましょう」



 俺はジュダスさんについて、お嬢様の部屋へと向かう。

 部屋に着き、優雅な挨拶を済ませたジュダスさんと俺を見て、お嬢様が挨拶を返した。



「おはようございます、リオン。それにジュダス。お父様についていなくて宜しいの?」

「はい。本日のご説明に参りました。お嬢様は、ライナス様と護衛の二人と馬車に乗って頂きます。玄関で護衛の紹介がライナス様より有ると思われます」

「分かりました」



 ジュダスさんが手帳を開き、予定表を確認しながら説明する。



「ファリスは、私とリオンと後続の馬車に乗って貰います。着いたらお嬢様に付き従って下さい」

「畏まりました」

「商業連盟での登録については、ライナス様から馬車で説明が御座いますから、よく聞いて下さい」



 ジュダスさんの説明にお嬢様が頷いた。

 今日のお嬢様は、黒の上下に分かれたドレスを着ている。

 色のせいだろうか、今までで一番似合っていると思う。

 


「それでは参りましょう」



 ジュダスさんを先頭に部屋を出る。

 レナが羨ましそうにこちらを見ていたが、お嬢様が頭を撫でるとキリッとした顔で見送った。


 玄関につくと、丁度後ろから旦那様がやってきた。

 旦那様の後ろには二人、体格の良い男性と華奢な男性が立っている。

 二人ともたまに食堂で見かける、旦那様の護衛だ。

 二人とも精悍な顔立ちをしているのだが、昨日見た美形が美し過ぎて、余り驚く事はなかった。

 美し過ぎる美形は、勿論イヴァリス先生の事だ。



「おはようございます、お父様!」

「おはようございます、旦那様」



 俺とお嬢様は旦那様に挨拶する。

 お嬢様と一緒のせいか、旦那様の雰囲気が軽い。



「護衛のノヴァクとサイネルだ。二人とも、これからカーミラについてくれ」

「畏まりました。ノヴァクと申します。これから宜しくお願いします、カーミラ様お嬢様」

「初めまして、カーミラお嬢様。サイネルです。サイとお呼び下さい」



 旦那様がそう言って後ろの二人を紹介する。

 紹介され、一歩ずつ二人が前に出る。

 ノヴァクさんは体格が凄く良い。

 かなりの高身長で、鍛え上げた腕は力を入れなくても盛り上がっている。

 反対にサイネルさん随分華奢だ。

 帯剣している剣も細身だし、筋肉質ではない。

 糸目の細い目が特徴的だ。



「こちらこそ、これから宜しく頼みます。ノヴァク、サイ」



 お嬢様が二人にそうにこやかに挨拶を返すと、二人は驚いた様に息を呑んだ。

 前のお嬢様の性格を聞いていたのではないだろうか。

 当のお嬢様は、分かっていない様でニコニコしている。

 恐らく旦那様と出掛けるが余程嬉しく、余り周りが見えていないのではないだろうか。

 俺も二人に自己紹介をして、右手を差し出す。



「リオンです。宜しくお願いします。ノヴァクさん、サイネルさん」

「ああ、公爵から聞いてるよ。宜しくな、リオン」



 ノヴァクさんが爽やかな笑顔で握手を受ける。

 俺の2倍はありそうな太さだ。



「優秀だと聞いてるよ。宜しく」



 サイネルさんがその華奢な手で俺の手を取る。

 対照的な二人だ。

 でも旦那様がお嬢様につけた以上、恐らくとても優秀なんだと思われる。

 俺達が挨拶を交わすのを待って、旦那様が口を開く。



「では出発しよう。ジュダス、そちらは任せた。説明は馬車の中で聞きなさい。さぁカーミラ、こちらへおいで」



 旦那様は、お嬢様を先頭の馬車に乗せると自分も乗り込んだ。

 ノヴァクさんとサイネルさんも後に続いた。


 それを見届け、ジュダスさんが俺とファリスさんに後方の馬車を指し示す。

 俺達が乗り込むと、ジュダスさんが最後に乗り込み程なくして馬車は出発した。


 

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