表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
27/72

第二段階


 あの後、公爵家に戻ってきてからも、俺はまだ休む事なく動き回っていた。

 まず、真っ先にお嬢様の元へと報告に向かう。

 夕食前の時間だったが、お嬢様は時間を作ってくれた。



「お嬢様、只今戻りました」

「リオン!……どうなったの?」



 左手を胸に当て挨拶をした俺の目には、不安気な瞳を揺らしたお嬢様が映る。

 俺は安心させる様ニッコリ笑うと、今日の報告を始めた。



「……という事で、無事ウルムナフ親子の協力を取り付ける事が出来ました。これもお嬢様のお陰です」

「私?何もしてないけど?」



 俺は思い出し笑いをして、お嬢様に向き直る。



「俺が仕えるお嬢様がどんな方なのか、興味があって受けてくれた面もあるのです。興味を持たれるなんて流石ですね」

「なぜかしら……全く良い興味の持たれ方だと思えないのだけれど……」



 ファリスさんとレナがクスクス後ろで笑うのを聞いて、お嬢様が頬を膨らませた。

 俺が手を伸ばそうとすると、しゅるんと頬の空気を抜く。

 辺な技を編み出した様だ。

 ドレスも趣味の悪いゴテゴテの白いドレスから、焦茶の品の良いドレスに直っていた。



「それで、お嬢様にお願いなのですが、夜だけでいいので歴史書や地理の教本など、お借りしては駄目でしょうか?」

「いいけれど、もう一緒に勉強はしないの?」



 お嬢様が寂しそうに問いかける。

 俺は慌てて首を振った。

 


「いえ!そうではなく、お嬢様に追いつく為に自分でも勉強しておかないと……出来ればお嬢様が取ったノートも一緒に借りたいです」



 俺がそういうと、お嬢様はとても嬉しそうに頷き、ファリスさんに頼んでノートを持ってきて貰った。

 自分の書いたノートで、俺が勉強するのが嬉しいらしい。

 お嬢様の努力を確認する様で、今からどんなノートか楽しみだ。



「明後日、商業連盟に登録に行く事は聞かれましたか?」

「ええ。朝食後、馬車で王都の商業連盟に伺うと聞いたわ。私は始めて行くから、今からとても楽しみなの。ファリスに付いてきて貰おうと思ってるわ!」

「ず、ずるいです……わ、私も行きたかったです……」



 しょんぼりと下を向くレナを見て、ファリスさんが諭す。



「レナ。私はお嬢様のお世話でついて行くのですよ。遊びではありません」

「そ、そんな事言って!新しいブラウスをおろして鏡で合わせていた時、鼻歌歌っていたの、見たんですからね!」

「あ!あれは……その……」



 二人の会話を聞いて、お嬢様は大分ニキビの減ったお顔を綻ばせた。

 体重も…少し減った様な気もする。

 でも姿勢だけは目を見張るものがある。

 椅子に座っている時も、背もたれに寄りかかる事も無く、一本棒が背中に入っている様だ。



「お嬢様、朝も思いましたが、随分姿勢が美しくなりましたね」

「わ、私もそう思います!」



 レナが大きな声で同意すると、ファリスさんも嬉しそうに頷いた。

 そんな二人を見たお嬢様も、照れた様に微笑んだ。



「そ、そう?……姿勢だけは、いつでもどこでも出来るから、気を付けて過ごしてるわ」

「これなら第二段階に入れそうですね。」

『第二段階…?』



 三人のシンクロも戻った様で何よりである。


「はい。いつでも綺麗な姿勢が保たれているか、最終チェックですね。これが出来れば体幹も鍛えられて一石二鳥かと。」


 俺は、さっき借りた歴史書をお嬢様の頭の上にポンと乗せた。

 お嬢様がヒクリと口元を引き攣らせる。

 今度こそ口角を上げると、満足感で満たされた。



「さぁ、歩いて見て下さい」

「このまま?!」

「勿論です」



 お嬢様は恐る恐る椅子から立ち上がった。

 すぐに頭から本が落ちる。



「あ!」

「そんなにすぐに出来るものではありませんから、これも気長に慣れましょう。本が乗っていっても、無かった時と同じです。目線は真っ直ぐ進む方向を見つめて下さい」



 俺の言葉を一つずつ聞き、お嬢様は目を閉じて深呼吸した。

 そして、そっと真っ直ぐ前を見て立ち上がる。

 これだけでも太ったお嬢様だと大変だ。



「もう少し小さい本の方が良さそうですね。この歴史書だと大きいし、難易度が高過ぎます」

「良かったら私の読んでいる本をお貸しします。何度も落とすのでしたら、余り高価な物は辞めた方がいいでしょうし」



 ファリスさんのご好意に甘えて、そうして貰う事にした。

 お嬢様は、最初に姿勢を注意した時の様にギクシャクしている。



「この本が乗っていても、全く気にならないくらい動けるようになったら完璧ですね」

「いつになる事かしら……」



 お嬢様が頭をプルプルさせながら、ゆっくりこちらを向く。

 頭の上の本がグラグラしている。

 

「最初に姿勢を注意した時だって、すぐには出来なかったのですから、これも慣れです。お嬢様なら出来ますよ」

「……頑張るわ……」



 バランスボールのような物の上でやったらなお良さそうだが、ゴムをこの世界で見た事があったかな?

 もし無いようなら、木でバランスボードを作って貰えないか、今度ジュダスさんに相談しよう。


 後は、もう少し有酸素運動も取り入れたいが、今は忙しすぎて手が回らない。

 とりあえず出来る事からこなそう。



「明日は久しぶりに私も勉強に参加させて頂きます。お嬢様、宜しくお願いしますね」

「ええ!勿論よ!」



 お嬢様は笑顔で答えると、もう頭の本を忘れて落とした。

 まだ道は長そうだ。



「ついでに食事も第二段階に入りましょうか」



 俺は落ちた本を拾ってお嬢様の前に立つ。

 俺の台詞に、お嬢様が絶望感の漂う悲壮な顔をした。



「これ以上私の食事を減らす気……?」

「違います違います!」



 俺は、お嬢様の余りの悲壮感に慌てて弁解する。


 

「そういう訳ではありません。なので、給仕に出れないかワトソンさんに聞きに行ってきます」

「これ以上減らされたら、もう私は生きていけないわ……」

「大丈夫です!減らす事はしません!約束します」



 そこまで言ってやっとお嬢様は納得した。

 余程ギリギリなのだろう。




 お嬢様の夕食の時間になるまで、ルークさんにハーブの話を聞きに行く。

 ハーブの育成は、比較的簡単に出来るそうなので、いずれはシュトラーダ公爵領で栽培したい。

 ただ、薔薇だけは育てるのに手がかかるので、ルークさんの様に専用の庭師がいないと駄目そうだ。

 薔薇のリンスは暫くの間、数量限定で売り出す事に決めた。



 ワトソンさんにお嬢様の給仕を願い出た。

 ワトソンさん快く了解してくれた。

 夕食の時間になり、奥様とお嬢様がダイニングに入ってくる。


 警戒気味に俺を見ていたお嬢様は、俺がワゴンを持って近付くと、ビクビクと俺とワゴンを交互に見る。

 俺は苦笑しながら前菜のキノコサラダを置いた。

 そしてもう一つ。

 ノート位の大きさの立て鏡をお嬢様の前に置いた。



「鏡?」



 奥様が不思議そうに、俺と鏡を見ている。

 お嬢様も完全に首を傾げている。



「お嬢様は、これからお食事中はいつもこの鏡を置いて下さい。食べている時は、いつでもこれを見ながらお食事なさって下さい」

「何の意味があるのかしら?」

「とりあえず召し上がって下さい」



 二人は困惑顔のまま、手を握りしめ合わせた後食事を始めた。

 お嬢様は言われた通り、鏡を見ながらサラダを口に入れた。



「!」

「なるほどね……」



 お嬢様は慌てて口を押さえ、奥様は納得いった様に頷いた。



「私……いつもこんなに口を大きく開けてたの?!」

「お分かりになりましたか?」

「ええ……しかも噛んでる顔も不細工だわ……」



 お嬢様がガッカリ項垂れる。

 奥様はそれを見て苦笑したが、フォローはしなかった。



「お嬢様は、メイベル先生にマナーも習い、所作は美しくなってきましたが、授業中に実際食事が出る訳ではありません」



 俺はピンと人差し指を立てて説明を始める。

 二人がウンウンと頷きながら話を聞いている。



「どれくらい口を開ければ美しく見えるのか。一口の量、口の開ける大きさ、咀嚼中の口元など、気を付ける点はとても多いです。いくらマナーが美しくても、食べ方が汚くては見る者を幻滅させます」



 お嬢様は、もう一度目の前に置かれた鏡をじっと見た。

 奥様も興味があるのか鏡を見ている。



「自分の食事中の顔がどの様に周りには見えているか。美しく見える様、気をつけて食べる癖をつけましょう。それが出来れば、お嬢様の食事中の笑顔は最高です。必ず見る物を惹きつけるでしょう」

「そうね、カーミラちゃんは美味しそうに食べている時、とてもいい笑顔ですもの」



 俺達に言われて照れ臭そうに微笑んだお嬢様は、鏡を見ながら食事を再開した。

 その時、奥様とお話しもする様勧める。

 口の中に物が入っている時、どう対処するかなども考えながら食事をするのだ。

 


 今日のメインは揚げないコロッケだ。

 じゃがいも、もといこちらではポテットのオーソドックスなコロッケだ。

 サクサクの炒めたパン粉がカリッとしていて食感が良い。

 自分が家で作った時は、じゃがいもにマヨネーズをたっぷりいれて作ったっけ。

 異世界転生で鉄板といえるマヨネーズは、いずれ必ず売り出そうと思っている。



「カーミラちゃん、このコロッケとても美味しいわ!この外のパンがサクサク!」

「それに中のポテットが……」



 コロッケを食べた奥様がお嬢様に話しかけると、鏡を見たままお嬢様が答えようとして固まった。

 そして真っ赤になって口元を押さえた。

 そして、急いで飲み込むと、涙目で俺を見上げた。



「リオン、口の中が丸見えでとても下品だわ……食べてる時にはどう返せばいいのかしら」

「いつも通り、笑顔を絶やさずよく噛み、飲み込んでからお話しをなされば良いです。話しかけられた時、持っているナプキンで口元を隠しながら咀嚼すると、より上品に見えるかと」



 お嬢様が言われた通り実践する。

 お茶会などで食べている最中に話しかけられるのは多々ある事だ。

 こうして鏡を置いて食事すれば、すぐ変な所も気付いて早く直るだろう。



「すぐに直るものでもありませんが、これも慣れです。美しい食事の為、頑張って下さい」



 お嬢様は、ナプキンで口元を拭きながら頷いた。

 






 こうして、お嬢様への第二段階の注意を終わらせ、俺は二人が食事を終わらせ部屋に戻ると、後片付けをして、自分も夕食を取る。

 夕食を取った後は、自分の部屋に戻り、商品につけるロゴなりマークも考えなくてはならない。

 色々と思いつく限り書いてみたが、絵心が無くて困る。


 求人の募集も一応書いておいた方がいい無難だろう。

 用意しておいて困る事はないが、用意しなくて困る事は多い。

 俺は一般用と、教会登録前の見習いの求人を書き、賃金設定の所だけ空白にした。

 ここはジュダスさんに要相談だ。

 求人を書き終え、時計を見るともう九時を回っていた。



 俺は着替えてベッドに入ると、お嬢様のノートを見ながら地理の教本を開く。

 丁度ラントールの地理の勉強が、ノートの1ページ目に書かれていた。

 教本だけ見ていても頭に残りにくいが、実際その土地をこの目で見て、この地に訪れると頭に入ってきやすい。

 明後日お嬢様と王都を訪ずれる時は、そこら辺も考慮すると、お嬢様の手助けになるかもしれない。


 お嬢様のノートは、俺が言った事を忠実に再現していた。

 行間を開けたり、記号を使ったり、悪戦苦闘しながらノートを取るお嬢様が目に浮かぶ様だ。

 俺は、お嬢様のノートと教本を読みながら眠りついた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ