表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
19/72

通貨について


 午後の勉強も終え、俺はお嬢様を部屋に送った。

 勉強初日だったが、メイベル先生が良い先生で良かった。

 残りの掃除をして、いつも通りルークさんの所で薪を貰って、バーバラさんに届ける。

 シフさんが、お嬢様のオヤツに作った、おからのナバナパウンドケーキの残りをくれた。

 俺はお礼を言って受け取ると、ジュダスさんとの約束に備えて部屋に戻る。



 窓際に置かれたベッドに腰掛け、もらった資料を順番に読んでいく。

 資料には、工房の名前、工房長の名前、従業員の人数、工房のある場所、それから主にその工房で何を作っているかが書かれている。

 資料を眺めていると、部屋をノックする音が響いた。

誰だろう?まだジュダスさんとの約束の時間には早い。



「はい」

「ジュダスです。お話しに伺いました」



誰かと思うと、現れたのはジュダスさん本人だった。

 俺は慌ててドアを開けて、左手を胸に当て礼をする。



「今お伺いしようと思っていたところです。わざわざ来て頂きありがとうございます。狭いですが、どうぞ」

「時間が空いたので早めに済ませようと思ったまでです」



 ジュダスさんが部屋に入ってくる。

 俺は、小さなテーブルの前の、一つしかない丸椅子を差し出した。



「すみません、これしかないのですが……」

「構いません。それより時間が勿体ないです。早速、この国の通貨の種類と、お金の相場の話をしましょう」



 ジュダスさんは、気にせぬ様子で丸椅子に座った。

 俺は立ったままメモ帳を開く。

 部屋が狭いので、俺はドアの前に、ベッドの横に置いてある小さなテーブルの前の丸椅子に、ジュダスさんが座った。



「まず、通貨の説明から始めます。一番価値が小さい物が、この小紫硬貨(しょうむらさきこうか)です。これが10枚で中紫硬貨1枚になり、この中紫硬貨が10枚で、大紫硬貨1枚となります」



 ジュダスさんがテーブルの上に小紫硬貨から大紫硬貨までを並べる。

 小さい物は一円玉くらいで、中くらいの物が百円玉くらい。

 大きい物が五百円玉くらいだ。



「次に、大紫硬貨10枚で小青銀貨(しょうせいぎんか)1枚。小青銀貨10枚で、中青銀貨1枚。中青銀貨10枚で大青銀貨1枚です」

 


 続いて、ジュダスさんは小青銀貨から大青銀貨を並べる。

 大きさは、紫硬貨と変わらなそうだ。

 でも、今の説明を聞くと、もう既にこの大青銀貨とか、凄い金額になるのでは…。



「その上に大青銀貨10枚で小白金貨(しょうはくきんか)1枚、小白金貨10枚で中白金貨1枚。中白金貨10枚で大白金貨1枚と続きますが、流石に私も持ち合わせがありませんので、現物は有りません」



 それは、そうなんじゃなかろうか…。

 そんな大金持ち歩いていたら、俺なら落ち着いていられないだろう。

 


「街で売っているママトやキャロは、一つ中紫硬貨1枚で売られています。パンが中紫硬貨3枚です」




 中紫硬貨で既に100円くらいしそうだ。

 なら小紫硬貨は1枚10円て事かな。

 となると、大紫硬貨が1000円。

 小青銀貨が1万円て所か?

 中青銀貨1枚が10万円。

 大青銀貨1枚が100万円…。




「…って!この大青銀貨凄い大金じゃないですか!そりゃその白金貨が無くても普通ですよ!ていうか、むしろよくこれだけ持ってますね」

「もう大体価値が分かったようですね」



 白金貨に至っては計算するのも恐ろしい。

 小白金貨1枚が1000万円。

 中白金貨1枚が一億。

 大白金貨1枚で10億。

 とんでもない世界である。


 ジュダスさんが慌てた様子もなく、お金を皮袋にしまっていく。

 むしろ、あんな皮袋にまとめて大金を入れてる、ジュダスさんの方が信じられない。

 俺は引き攣った顔でジュダスさんを見た。



「大体平民の一ヶ月の生活費は中青銀貨2枚前後といった所ですね」



 余り前世とは変わらない設定な様で一安心だ。

 全く違う設定だと、馴染むのに時間がかかるだろう。



「それを踏まえて、リオンはシャンプーリンスをいくらで売るつもりですか?」



 ジュダスさんが、また挑発的な目で俺を見据える。

 事あるごとに試されている。

 ジュダスさんの信用を得るのが、一番難しいかもしれない。



「そうですね……ターゲットは貴族の女性の予定ですし、小青銀貨1枚から中青銀貨3枚ってとこでしょうか?」

「……その差は何ですか?」

「私が作ったシャンプーリンスには、香りが数種類あるんです。簡単に手に入るミントやローズマリーは小青銀貨3枚前後で、薔薇の花弁を絞ったエキスを入れた物は、一本作るのにも、薔薇を数十本使うので、もっと高く売ろうと思います」

「なるほど……同じ商品でも香りによって値段が違うと言う事ですか」

「はい。中青銀貨1枚は大金ですが、稀少な薔薇をふんだんに使っている事と、貴族の女性が好む、馴染みの深い香りだと思うので、売れない事は無いかと思います」



 始めてこの世界に出回る、今までにない新商品である事と、貴族の女性がターゲットな事。

 前世の千円前後のシャンプーを使ってた俺としては、その値段では絶対に買わないが…。

 この世界の女性が、使っている女性の髪を見れば、絶対に使いたがるだろう自信はある。




「非常に残念ですが、値段設定は問題ありません」

「ありがとうございます……?」



 なぜ残念なのだろうか。

 少し納得いかないが、俺にはまだまだ聞きたい事、決めなければならない事が沢山有る。



「それから、この資料を読みました。とても分かりやすかったです。ありがとうございます。いくつか工房に直接行って、工房長とお話ししたいんですが、ジュダスさんの都合の良い日に、付き合って頂けないでしょうか?」

「構いません。昨日のライナス様とのお話しの時、そう言っていたので、いつでも合わせられる様調整しておきました」



 流石、旦那様の従者である。

 起こり得る事態に備えての備えが完璧過ぎる。

 俺もいつかこれくらい、完璧に近づけるんだろうか。

 いや、お嬢様も頑張っているんだから、俺も頑張らなくては。



「ライナス様の調整が終わって、商業連盟に登録に行くより前に、ある程度工房を決めておいた方がいいかもしれません。早いに越した事は無いでしょう。明日はどうですか?」



 ジュダスさんが、そう提案してくれた。

 今日勉強を始めて、次の日すぐ休むのは、お嬢様の手前申し訳ないが、こればっかりは早く決めた方が良いだろう。



「それでお願いします。出来るだけ沢山の工房を見たいので、午前からでもいいですか?」

「いいでしょう。工房なら働き始めも早いですし、問題無いでしょう。八時に迎えに来ましょう」

「分かりました。宜しくお願いします」

「もう質問は有りませんか?」

「とりあえず今は大丈夫そうです。工房に行ったらまた、質問も出るかと思いますが……」

「では、私は失礼します。明日の八時に、またこちらに伺います」



 ジュダスさんは、来た時と同じ様に颯爽と帰っていった。

 俺はお礼を言って見送る。



 さて、気が重いがお嬢様に明日のお話をしに行かなくては。

 お嬢様の事だから、私も行きたい!とか、もうリオンばっかりサボりじゃない!など言われそうである。

 俺は、重い腰を上げてお嬢様の部屋に向かった。




 いつも通り2回のノックの後、ファリスさんが出迎えてくれる。

 部屋の中に入ると、お嬢様がソファで縫い物をしていた。



「あら、リオン。どうしたの?」

「お嬢様にお知らせがあってきました。残念なのですが……商会に売り出す商品を作る工房を取り決める為、明日の授業に出れなくなってしまいました……色々と決まるまでは、出れない日も多くなるかと思います。申し訳ございません」



 俺が頭を下げると、すぐに文句が返ってくると思ったが、いつまで立っても何も返ってこない。

 恐る恐る顔を上げると、お嬢様は下手くそな笑顔で、俺を見た。


「……そう……とても残念だけど、お仕事なら仕方がないわ!」

「お嬢様……」



 お嬢様は、下手くそな笑顔のまま、口調だけは明るく応える。

 多分、こうやって忙しい両親の前でも、仕事だからと自分に言い聞かせて、他でストレスを発散していたのだろうか。

 でも、今ストレスストッパーとして、お嬢様の文句を受け止めている俺にまで、無理はしてほしくない。



「お嬢様。私には我慢しなくていいですよ?」



 俺は、ゆっくり近付いてそっとお嬢様の手を取った。

 お嬢様が下手くそな笑顔を剥がすと、クシャッと顔を歪めた。


「な、何よ……勉強は、いつも一緒だからって言ったのはリオンじゃない……」

「そうですね。私が悪いです」

「まだ一日目なのに、もう約束を破るなんて……」

「はい。全くもって不届き者ですね」

「折角メイベル先生だって、リオンを褒めてくれてたのに……」

「折角褒められたのに、これとは、失礼極まりませんね」

「もう!真面目に話してるのに!」



 俺は、やっといつもの顔を見せたお嬢様に安心して、思わず笑みが溢れる。



「その調子です、お嬢様。やはり元気な方がお嬢様らしいですよ。しおらしいお嬢様なんて、らしくなくて気持ち悪いですよ」

「気持ち悪いは言い過ぎじゃないかしら?!」



 先程のしんみりした空気が、笑いで溢れる。

 ファリスさんとレナが、俺達のやり取りを見て笑っていた。

 それを見てお嬢様も笑顔を見せた。

 いつもの引き攣ったニヤニヤではない笑顔に、心の中でほっこりとする。



「では、早く工房を決めて戻って参ります。いつも笑顔で、姿勢正しく、散歩も勉強もサボらず、お食事もおかわりしたいと駄々を捏ねてはいけませんよ?」

「もう!そんなに口酸っぱく言われなくても分かってるわよ!」



 俺は苦笑してお嬢様の手を離す。

 お嬢様の為にも、工房を決めて早く授業に参加しよう。


 ついでに、お嬢様に頼んで、いくつか交渉で使えそうな物を借りる事にする。

 少し高価なものもあったが、俺は大事に包んで借り受けた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ