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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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歴史の授業


 その日。俺は、いつもより早くに目が覚めた。



 昨日の旦那様との交渉の結果、今日からお嬢様の勉強に同席させて貰う。

 旦那様がワトソンさんに説明してくれているとしても、自分の口からも説明したい。

 俺は、身支度を整えて、制服に袖を通す。

 ワトソンさんが来るまで、窓拭きをしておこうと思ったが、もうワトソンさんはパントリーでお茶を補充していた。




「ワトソンさん、おはようございます」

「リオン。早いですね。おはようございます」



 俺も隣に並び、小袋に入ったお茶を、少なくなった缶に詰めていく。

 茶葉の良い香りが、鼻腔を擽り爽やかな気分にさせた。



「旦那様からお話がありました。どうやら旦那様の信頼を勝ち取った様ですね」



 ワトソンさんは、優しい眼差しで微笑んでくれた。

 俺は、缶に移していた手を止めた。



「少しでも……そう思って貰えていたら、嬉しいんですが……まだ様子見段階かと思います」



 俺は、苦笑しながら鼻の頭をかいた。

 ここで結果を出さなければ、旦那様は俺を見限るだろう。

 行動を起こさなければ、見限られる事も無かったが、何も得る事もできない。



「期待に応える為、何事も全力で頑張りたいと思ってます」

「私も応援します。リオンは、お嬢様の最初で最高の味方ですからね。リオンと関わってから、お嬢様は本当に変わられました。私も、今はそんなお嬢様を、心から支えたいと思っております」

「ワトソンさんがそう言ってくれるなら、百人力じゃないですか」



 ワトソンさんが嬉しそうにしているのを見て、俺もやる気が溢れてくる。



「今日から、お嬢様と勉強にご一緒するんですが、今まで通り、仕事も出来るだけ頑張りたいと思ってます」

「それは有難いですが、余り無理せず、無理のない範囲でお願いします。商会も立ち上げると聞きました。その売り上げも公爵家に入る以上、勉強や商会関係の事も、リオンの仕事なのですから」



 そう言ってくれるのは嬉しいが、自分の為に使う時間だから、歯切れ良く分かりました、とも言えない自分がいる。



「リオンは真面目なので、こう考えては如何でしょう。お嬢様と勉強を一緒にするのは、お嬢様がサボらず勉強をするかの監視で、たまたま自分の勉強にもなっているだけです」

「ワトソンさん……」



 嬉しいお言葉だが、残念ながらその可能性が無いとも限らないのが、残念極まりない所だ。



「分かりました。そういう事なら、精一杯、お嬢様の監視に目を光らせます。無理のない範囲で仕事をしますが、無理ならワトソンさんに報告しますね」




 俺がふざけて敬礼すると、ワトソンさんが上品に笑った。

 俺は残りの茶葉の補充を終えて、窓拭きに戻る。

 朝食を終え、ワゴンの掃除をしていると、ファリスさんが俺を呼びに来た。

 お嬢様が呼んでいるらしい。

 俺はワトソンさんに報告して、そのまま午前の勉強に行く事にした。






「お嬢様、お呼びでしょうか?リオンです」



 ファリスさんと、お嬢様の部屋ではなく、勉強する為に整えられた部屋に入り、左手を胸に当てる。

 顔を上げると、お嬢様が変な顔をしていた。

 多分、嬉しいけどそれを悟らせまいとして、結果として変顔になったという感じではなかろうか。



「リオン!昨日お父様からお話があったの!私が商会の代表者になる事とか、リオンが私と一緒に勉強する事とか、お父様と一緒に街に出る事とか!!」

「お嬢様、はしたないですよ。まずは落ち着いて下さい。はい、深呼吸です。吸ってぇ?吐いてぇ」




 すーはーと、音をさせてお嬢様が深呼吸する。

 深呼吸の終わったお嬢様の、左右の口角をクイクイと上げると、いつも通り引き攣った笑みが返ってきた。

 お嬢様は、今日も紺のドレスに、金の髪飾りに黒いチョーカー、焦茶のローファーを、清楚に着こなしている。

 俺が手を離すと、口元を押さえてぎこちない笑顔のまま、姿勢を正した。



「……やっぱり落ち着いてなんていられないわ!リオン!ちゃんと説明して頂戴!お父様はお忙しくて、細かくは私も聞けなかったのよ……」



 なるほど。

 確かに、旦那様はお忙しいから、一から十説明している時間はないだろう。



「分かりました。では簡単に説明しますね」



 俺は、お嬢様に椅子を引いて座らせ、昨日の旦那様との交渉で決まった事を説明していく。

 ファリスさんとレナも、顔を引き攣らせて聞いていた。





 お嬢様を代表として、商会を立ち上げる事に始まり、その報酬で勉強を共にさせて貰う事。

 商業連盟に登録の為、旦那様達と街に行く事、その時に領地や街の事を自分の目で見て、知って貰いたい事。

 最後に、使用人の仕事と勉強、それから商会の仕事も加わるので、軌道に乗るまで、余りお嬢様に構えなくなる事。

 お嬢様に伝えると、最初のうちはそれは喜々と話しを聞いていたが、最後の報告で口を尖らせた。




「何よ……私の文句は全部リオンが聞いてくれるって言ったじゃ無い……」

「出来る限り叶えられる様、頑張りますよ。それに、これからは毎日勉強でご一緒なのですから」

「……そ、そうね!」




 お嬢様は、いつもの様にモニョモニョと何か呟き、満面の笑みを浮かべた。

 本当にお嬢様は、顔に出やすい。



「さぁ、お二人とも、そろそろ先生がいらっしゃいますよ。私達はこれで失礼させて頂きますね」



 ファリスさんとレナが部屋を出て行くのと同時に、家庭教師の先生と思われる年配の女性が入ってきた。

 髪をぴっちりと結い上げ、眼鏡をかけている細身の女性だ。

 旦那様に似て厳格そうな雰囲気がある。

 俺は、彼女に向かって左手を胸に当て挨拶をする。




「初めまして、本日からお嬢様とご一緒させて頂く事になった、リオンと申します。どうぞ、宜しくお願いします」

「先生、ご機嫌よう。私からもリオンの事、宜しくお願いしますわ」

「……あなたがリオンですか……お話はシュトラーダ公爵から聞いております。初めまして。歴史と数学、マナー教養を教えております、メイベル•リーベットと申します」



 メイベル先生は、上品にスカートを持つとお辞儀をした。

 流石、マナー教養を教えているだけあって、所作がとても美しい。

 是非ともお嬢様に見習って欲しいものである。



「では、早速始めましょう。お嬢様の復習も兼ねて、この国の歴史のお話から始めましょう」



 お嬢様の隣の席に着くように言われ、隣に腰掛ける。

 メイベル先生は、俺とお嬢様の間に、分厚い歴史書を置いた。

 お嬢様が自分のノートを開く。

 俺も、自分のノートを開いて、借りたペンをポーチから出した。

 ゲームの公式裏設定を読む様な気持ちで、少しワクワクする。




「この世界は、今からニ千年ほど前、創造神シーヴァリースによって造られたとされています」



 分厚い歴史書には、創造神と見られるシーヴァリースの挿絵が描かれている。

 物語に出てきそうな、髭の長い仙人の様な風貌だ。



「創造神シーヴァリースは、光の女神ティルエイダ、守りを司る水の女神グレイシーヌ、繁栄を司る地の女神ルーフェミア、三人の女神に、この星を癒させました」



 光の女神ティルエイダは、このゲームでは有名だ。

 歴史書には、美しい女神の挿絵が描かれている。

 なんせゲームヒロインが、この光の女神ティルエイダの再来と呼ばれている設定なのだ。

 乙女ゲームの主人公は、大体稀少な光属性と相場が決まっている。



「そして、力を司る炎の男神ヴァンラギオンと、秩序を司る風の男神ソルアウラにこの星を守らせました。しかし、闇の創造神がこの星に降り立ち、光の女神を愛してしまいます」



 乙女ゲームぽい設定だなぁ。

 俺は創造神、女神、男神の名前をノートに書き留めて行く。



「闇の創造神は、なんとか光の女神を手に入れようと、この星に眷属を放ちました。眷属は魔物となり、癒した地をまた魔境へと変えてしまいます。力を司る炎の神ヴァンラギオンと、秩序を司る風の神ソルアウラは、水の女神グレイシーヌと、地の女神ルーフェミアの力を借り、魔物を南へと押し返しましたが、滅ぼすまでは至りませんでした」



 お嬢様は、必死にノートに書き留めている。

 俺は、神の名前と司る物を書いてからは、ペンを置いてメイベル先生の話しに聞き入っていた。



「長い戦いの果て、闇の創造神は、南の果ての地に封印されました。他の神々が滅しようとした時、慈悲深い光の女神は、封印した闇の創造神を滅する事を厭いました。そして、自らがその封印の地を守る役目を背負ったとされています」



 光の女神はゲームにも出てきていたが、他の神の話しは始めて聞いた。

 やり込んでる姪なら、もしかしたら知っていたかもしれないが……。



「やがて、水の女神と風の神が、地の女神と炎の神が子を成しました。それが私達の先祖とされています」

「闇の創造神の名前はないのですか?」



 俺の質問に、お嬢様が得意気に応えてくれた。



「闇の創造神は、星を滅ぼす邪神ですから、名前は伝えられてないのよ。その名は、口にするだけで呪いを帯びるとされていたそうよ!」

「それは……恐ろしいですね」



 俺はお嬢様の言葉に、ゾクリとした物が背を走る。

 口にしただけで呪いを帯びるって、設定とはいえ怖い。



「あら、リオンったら、そんなの言い伝えよ!」



 お嬢様が、小さい子に言い含める様に気遣う。

 お嬢様に心配されてしまった。

 俺達の話しを聞いていたメイベル先生は、優し気な瞳で話の続きを話し始めた。




「形を変え、神々は私達を守って下さっています。神々は、その力の一部を与えたり、力の結晶を分け与えたりして下さいました。この国の名前にもなっている、初代グラングリフは、その神々の加護を強く受けていたとされます。グラングリフ王は、その力でおよそ千五百年程前、中央の魔境を開拓し、中央に蔓延っていた魔族を退け、ここ、グラングリフ王国を起こしたとされています」


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