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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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小麦粉パック


シャンプーリンスの試作品第一号を作った日から、1週間がたった。

 あれからレモリの皮を始め、果物の皮なども試してみた。

 俺的には、このレモリが一番好みだ。



 凄く勿体ないが、ルークさんから分けて貰った薔薇を使ってみたりもした。

 花びらを絞ってエキスをとるから、大量に薔薇が必要になる。

 売値も高くなる。

 完全に富裕層向け商品だ。

 高額になるが、貴族向けの高級品としてなら、薔薇が一番売れそうだ。



 思い出したレシピも、沢山纏めてバーバラさんに届けた。

 毎日、試行錯誤しながらバリエーションを広げている。



 俺がシャンプーリンスの試作品を作っている間、お嬢様も勉強、散歩、ダイエットと、弱音を吐きながらも頑張っている。


 50キロ以上ありそうだった大きな身体が、少しだけ小さくなった様な気がする。

 把握する為、ファリスさんに体重を聞いたが、黙秘されてしまった。

 自分達が記録するので、任せて欲しいそうだ。

 確かに、体重を毎回聞かれるのは、お嬢様も恥ずかしいだろう。



 ファリスさんとレナとも、グッと仲良くなった様だ。

 ストレスは、リメイクや刺繍など、趣味の手芸で発散しているらしい。

 レナが教えてくれた。

 それでも、やはりお腹が減って、文句という名の催促に呼び出される事がしばしば。



「リオン、お腹が減ったわ!何か持ってきなさい!」

「さっき昼食を食べたばかりではありませんか」

「それでもお腹が減ったのよ!」



 お嬢様が、キーっと効果音のつきそうな金切り声で訴える。



「ダメです。一つ許すと、全部許さないといけなくなりますからね。お水でも飲んで下さい」

「そこは、せめてお茶にしてよ!」

「お茶はお勉強が終わったらです」



 俺が態度を変えないため、お嬢様の瞳は絶望に染まっていく。



「そんなぁ……ファリス……レナ……」



 俺に言っても無駄だと悟ったお嬢様は、二人に助けを求める。


「……リオンから止められているのでダメです……これもお嬢様の為です!私達も、差し上げられなくて辛いですが、耐えます!」



 エサを欲しがって鳴くペットって、ついあげたくなるんだよな。

 あげないと可哀想になってくるのだから、不思議なものだ。

 今、ファリスさんはそれなんだろう。



「その代わり……ちゃんと我慢出来れば、豆乳わらび餅、多めに貰ってきます」

「本当?!」

「はい。その代わり、蜜は沢山かけちゃダメですよ?よく噛んでゆっくりですよ?」

「ええ!分かったわ!やったぁ!」



 お嬢様が、嬉しそうに何度も頷いた。



「な、なんだかんだ、リ、リオンが一番お嬢様に甘い気がします」



 レナが唇を尖らせて意見する。

 俺は、苦笑しながらも答えた。



「確かに、そうかもしれませんね。でも、嫌々だと続かないんですよ。たまには飴も必要です」



 人差し指を立てて、ビシッと説明する。



「レナ、リオンは鞭も使いますからね。私達も見習わなければ」



 ファリスさんの言葉に、お嬢様の笑顔がピシッと固まった。



「話は変わりますが……今日のお召し物も、とてもよくお似合いですね」



 着ているドレスも、随分センスが良くなった。

 今日も、暗めのえんじ色のドレスに黒いカチューシャと、赤い宝石のついた黒いチョーカー、同じく黒のワンストラップパンプスを履いている。



「今日は、少し寒いからから、見ていて寒くならないように、えんじのドレスにしてみたの」



 なんと、教えていないのに、気候に合わせてドレスをチョイスしているらしい。

 確実に腕を上げている。


 髪も毎日のシャンプーリンスで、艶々だ。

 ファリスさんとレナも、お嬢様に貰ったシャンプーリンスを使っているので艶やかだ。

 シャンプーリンスといえば、お食事の時に一緒だった奥様も、お嬢様の髪の艶にすぐ気付いて、欲しがった。

 流石目敏い。


 暴食も控え、水分も沢山とり、適度にウォーキングしているので、ニキビも少し減ったようだ。

 化粧水や、ニキビ薬などのない世界。

 何か良い策はなかっただろうか……。



「うーん。……『パック』なら……作れるかも?」

「『パック』?」



 デジャブ再びである。

 最近この三人のシンクロ率も上がっている。



「はい。顔に薬液や、果物などを塗って、新陳代謝を促進して、美化を促すものです」

『美化…………』



 女性達の目が鋭くなる。



「はい。人によって合う合わないなどありますが、肌の美白、シワ解消、ニキビにも効くそうです」



 俺がやろうとしているのは、小麦粉パックだ。

 韓流にハマっていた姉がよくやっていた。

 元はフランス生まれらしい。



「やる!やりたいわ!」



 お嬢様が、元気良く椅子から立ち上がる。



「お嬢様、お行儀良く…ででは、午後の勉強の後に、わらび餅と一緒に、用意して持っていきますね。ちゃんと先生の話を聞くんですよ」

「も、勿論しっかり勉強するわ!」



 少し不安だが、やる気になってくれたのならいい事だ。

 俺は、早速自分の持ち場の掃除を終えて、ルークさんの所から薪を貰ってキッチンに届ける。



「バーバラさん、薪、ここに置いておきますね」

「ああ、ありがとう。助かるよ」



 オーブンの横に薪を置いて、バーバラさんにお願いをする。



「バーバラさん、小麦粉と牛乳持っていいですか?」

「なんだい、また、なんか作るのかい?」



 丁度仕込みが終わったようで、バーバラさんがエプロンで手を拭くと、小麦粉の袋を持ってきてくれた。



「はい。作るといっても、料理じゃないんです。美容品です」

「美容?」



 俺は、小麦粉パックについて説明する。



「へー!そんな使い方もするんだね。いいよ、持っておいき。お嬢様にやってあげるんだろ?」

「はい。あと、牛乳とハチミツも少しもらっていいですか?」

「いいけど、益々食べ物じゃないなんて、おかしな話だね」



 持っていく材料を見て、バーバラさんが笑った。

 確かに、材料だけ見ればお菓子でも作りそうだ。



「ありがとうございます。じゃあ、持っていきますね。あと、午後のお菓子のわらび餅も持って行っていいですか?」

「ああ、そこに出来てるよ。持っておいき」




 俺は、豆乳と片栗粉で出来たわらび餅を、少し多めにお皿によそる。

 そして、お礼を言って、材料とオヤツを抱えて、パントリーでボールを一つ掴むと、お嬢様の部屋へと戻る。



 いつも通りファリスさんが、開けてくれて、中に入ると、お嬢様が待ってましたとばかりにこちらを向いた。

 まずは、オヤツのわらび餅をテーブルに置く。

 お嬢様は嬉しそうに、そっと蜜をかけて食べ始めた。



「ファリスさん、今後のために作り方見てて貰っていいですか?」

「あ、わ、私も見たいです!」



 お茶を入れていたレナも、覚えたいらしい。



「わ、私も見たいわ!」



 仲間はずれが嫌なのか、わらび餅を堪能していたお嬢様も加わる。

 俺は苦笑して、お嬢様に見えるよう、テーブルで作業する事にした。



「では、まず小麦粉、牛乳、ハチミツを用意します」



 俺は持ってきた材料を、皆に見える様に並べる。



「ボールに牛乳5、小麦粉3、ハチミツ1の割り合いで入れて、混ぜていきます」



 俺は持ってきた、木のスプーンで混ぜる。



「5対3対1は、こうやって、スプーンで量ってください。5の牛乳なら、スプーン5杯です」



 混ぜ終わったパックは、ハチミツとミルクのいい匂いがする。



「混ぜ終わったこの液体を、目と口を丸く避けて、顔全体に塗って、10分程だったら洗い流します。これが、パックです」

「早くやって見ましょうよ!」



 食べ終わったお嬢様が、身を乗り出してくる。

 ドレスが汚れないように、タオルで首元を覆う。

 前髪も落ちてこないように、後ろ髪と一緒に一つに纏めてもらった。

 椅子に座って、上を向いて貰ったお嬢様の顔に、スプーンで小麦粉パックを乗せて、少しずつ広げていく。



「凄くいい匂い。お腹が空く匂いだわ」



 しまった。オヤツ前にすれば良かったか。



「お嬢様、生で小麦粉を食べたらお腹を壊しますよ。いい匂いだからと、舐めたりしたらダメですよ。 」

「わ、分かってるわよ!」

 


  ……やる気だったな。


「……良し。出来ましたよ」



 上を向いて、目をつぶっていたお嬢様の前に、鏡を置く。



「ぷ……ふぁるでこれ!まうでピエロじゃなふぁい!」



 口元もパックしてあるせいで、少し言動が怪しい。

 ファリスさんとレナも、クスクスと笑っている。



「でも、モッチリしていて気持ち良いのでは?」



 俺の質問に、口元を気にしてコクコクと頷く。


 10分後。

 お嬢様は顔を洗いに、浴室に連れられていく。



「リオン!見て!肌がモチモチよ!」



 浴室からお嬢様が、頬をさすりながら戻ってきた。

 失礼してお嬢様の頬に触ると、手に吸い付いて、しばらくしてから離れた。

 確かにモチモチだ。



「私、毎日パックもするわ!」

「ダメです。パックは週に1回です」



 俺が反対すると、ファリスさんがお嬢様の肌を見ながら、首を傾げた。



「どうしてですか?とても肌がモチモチになりましたよ?なんだか少し白さも増したような……」

「材料を見ても分かる通り、パックは栄養豊富です。頻繁にパックすると、栄養過多でニキビが増えてしまうし、肌にも負担になってしまいます。食事と同じですね」

「なるほど……」



 納得して貰えたのか、三人が頷いた。


「では、私は仕事に戻りますね。お嬢様、お腹が減った……と、二人を困らせてはいけませんよ」

「分かってるわよ!私だって、ちゃんと成長してるのよ!」



 俺は、お嬢様のモチモチになった口角を、数度持ち上げて仕事に戻った。



 あとは、シャンプーリンスをどうやって売り出すかだな。

 これには、俺一人の力ではどうにも…。








「リオン、今よろしいですか?」

「はい。どうしたんですか?ワトソンさん」



 俺は、パントリーに戻すボールを、洗っていた手を止める。



「お待たせしてしまいましたが、明日の夜、旦那様がお時間頂けるようです」

「本当ですか?」

「はい。夕食後に、書斎の方にいらっしゃる様にと、旦那様より言われております」



 遂に、旦那様との話し合いが叶った。

 早くも緊張してくる。



「分かりました。夕食後、書斎に伺わせて頂きます」



 俺の復唱に、ワトソンさんはニッコリ微笑んだ。


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