商品開発
異世界あるあるだが…。
何か作ろうと思ってもも無いものが多くて困るな…。
俺は寝起きの頭で、恋しい元の世界を思い出す。
あんまり好きではなかったが、食べられないと分かると、ジャンクフードが恋しくなる。
異世界転生した主人公は、スキルや魔法が使えることが多いから、ゼロからスキルで精製したり、妖精さんが運んでくれたり、敵を倒すとゲットしたり……。
何か俺に宿してくれたスキルはなかったのか……。
万が一……いや、億が一にも失敗は出来ない。
そう。失敗というのは、破滅フラグを回避しきれなかった場合だ。
そんなつもりはサラサラないが、万が一お嬢様が追放されてしまった場合にも、お嬢様の為しっかり備えておかなければ。
乙女ゲーム転生のテンプレの流れだと、断罪されても大丈夫な様に、大体その後一人でも生き抜ける様、悪役令嬢が手筈を整える流れが多かった筈。
ここでいう、転生者は悪役令嬢であるカーミラお嬢様ではなく、俺な訳だ。
ということは、破滅フラグ回避の為に奔走する俺が、億が一フラグ回避出来なかった場合に備えて、何か手を打たないといけないってことだな。
転生者のテンプレだと、貴族相手に売れる物を作って、それを商業ギルドに売るか、自分が商店を持って売り出すか。
断罪されようとされなかろうと、生きていく上でお金はとても重要だ。
あればあるだけ、あるに越したことはない。
男の俺が乙女ゲーム転生ってのは、ハードル高い。
この世界にまだ無い物。
それから、貴族相手に売れそうな商品。
そして商品の作り方を知っている……か。
更に、それを作る為の、原材料の確保……。
原材料が見つかるかどうか、この世界にあるのか。
それも何にも知らない。
……転生者って……皆凄いな……。
まだ、ゲームのポーションとかの方が、なんとか精製にこじつけそうだ。
売る商品は、消耗品だと尚良い。
俺が作れそうな物だと……シャンプー、リンス、椿油。
それから、練り香水あたりか。
この辺が簡単に作れそうだ。
色んな香りの種類の精油も作れると思う。
どれも精油で香り付けして、数種類売り出せば、自分の好みに合ったものを手に取ってもらえるはずだ。
とりあえず、試作品を作ってみる事から始てみようか。
材料が分かっていて、すぐ手に入る…物…か。
そうと決まれば、オリーブオイルを使ったシャンプーリンスから作成してみよう。
前世で少し前に話題になっていた、塩シャンプーというやつだ。
白髪や匂いに効果的らしい。
まずは、バーバラさんにオリーブオイルの瓶を借りに行く。
あと塩も一袋借りた。
それから、ワトソンさんに前世でいう、洗面器位の大きさの木の器を借りた。
よし。準備は整った。
俺はパントリーでお湯を沸かして、自室に戻る。
まずは、木の器に沸かしたお湯に水を混ぜてぬるま湯にする。
そこにオリーブオイルを回し入れる。
オリーブオイルは、大さじ1位だ。
もっと丁寧にやるなら、オリーブオイルを髪や頭皮に塗って、蒸したタオルなんかで暫く待つと良いらしい。
が、髪を洗うにしても、作って売るにも、手順は簡単な方が良いだろう。
オリーブオイルを混ぜたぬるま湯に、塩も大さじ1程入れる。
かき混ぜて、ブラッシングした髪を付けて優しくこする。
泡立たないので泡が懐かしいが、これはこれで、とても気持ちがいい。
洗い終わると、お湯はかなり濁っていた。
ちょっとショックだ。
洗い上がりのツヤはいい感じだ。
女性用に、ハーブを入れてもいいかもしれない。
早速ルークさんの所に話を聞きに行こう。
俺は髪を軽く拭いて、西の庭へと向かう。
庭に着くと、もうルークさんが作業していた。
「……というわけで、ハーブ系の、香りの良い物が欲しいんですが、何か有りませんか?」
ルークさんに、シャンプーリンスの説明をして、香りのあるハーブがないか相談する。
更に一年中は無理でも、長く咲いてる花なら、尚嬉しい。
商品にするのに、現物がなくて作れないと困る。
「…うーん。それなら、ローズマリーはどうだろう」
「いいですね!」
一年中収穫可能。
香りも強く、清々しい匂いもシャンプーリンス向きだ。
料理にも使えるし、いい所ずくめ。
「あとは……ミント当たりが妥当か?」
「二つとも、少し頂いてもいいですか?!」
「構わないよ」
ルークさんが控えめな笑顔で頷いた。
早速、貰ったローズマリーとミントを、部屋に持ち帰る。
すぐお湯に溶かせるように、空き瓶にローズマリーとオリーブオイル、塩を入れて混ぜた。
ミントバージョンでも作る。
レモリの皮なんかも良さそうだな。
忘れないようにメモる。
後でバーバラさんに聞いてみよう。
俺は完成したシャンプーリンスの瓶を持って、お嬢様の部屋へと向かう。
「お嬢様、リオンです」
ノックして声をかける。
今日はレナが扉を開けてくれた。
「おはよう、レナ」
「お、おはよう、リオ……」
挨拶を返したレナの目線が、俺の頭で固まる。
どうしたんだろうか。
俺は首を傾げつつ中に入る。
「おはよう、リオ……ン……?」
挨拶を返してくれたお嬢様も、ファリスさんも目が点だ。
そこで俺は思い当たった。
そうか、髪の毛か!
ルークさんの所に行った間に、自然乾燥したんだろう。
そういえば、いつもよりサラサラと心地よい気がする。
「どうなってるの……?……リオンの髪……黒い髪が、ツヤツヤしてるみたい……」
お嬢様が、恐る恐るといった感じで、俺の髪に手を伸ばす。
「まあ!触るとサラサラだわ!……でも見た目は艶があって……」
お嬢様がウットリと俺の髪をすく。
「髪の毛を洗う『シャンプーリンス』という物を作ってきました。是非、お嬢様に試して貰おうかと思いまして」
俺はさっき作った瓶を、二つお嬢様の前に出す。
「俺は試しで作ったので、香りはないんですが、これはローズマリーとミントを入れてみました。好みの匂いの方を試してみませんか?」
俺のお誘いに、パァと顔を輝かせて、お嬢様はコクコクと頷く。
湯浴みに、俺が付き添うことはできないので、ファリスさんとレナに使い方を説明する。
俺は大さじ1位の量をお湯にといたが、お嬢様の長さだと、大さじ2か3位か。
長さによって、入れる量を変える事を伝える。
二人に説明が終わると、お嬢様は迷いに迷ったが、ローズマリーの方を選んだ。
暫く時間がかかりそうなので、ワトソンさんの所に一旦顔を出す事にして、終わり次第戻る事を伝える。
三人は、興味深々で浴室に向かって行った。
「……ということで、借りた器、助かりました。ありがとうございます」
「では、今その『シャンプーリンス』とやらを、お嬢様がお試しになっているんですね」
ワトソンさんも、珍しそうに俺の髪を見つめる。
「あと、ワトソンさんにお願いがあるのですが……」
「何でしょう?」
「旦那様にお話ししたい事……いえ、お願いしたい事がありまして……旦那様の都合のいい日でいいので、時間を作って貰えないかと……」
この間のように、突然伺うのは失礼だ。
あの時は、お嬢様の為だったが、今回は完全に自分の私用である。
「旦那様にですか……お忙しい方ですが、お話しは通しておきましょう」
「ありがとうございます!」
「では、リオンはお嬢様の用件が終わったら、いつも通り掃除をお願いします」
「はい。了解しました」
ワトソンさんとの話を終え、お嬢様の部屋へと戻る。
ノックをすると、すぐにファリスさんが開けてくれた。
どうやら俺の方が遅かったらしい。
「リオン!見なさい!この髪!」
部屋に入ると、お嬢様が興奮して走り寄ってきた。
「お嬢様、落ち着いて下さい」
「これが落ち着いていられますか!見て!あんなにウネウネ跳ねていた髪が、こんなにしっとり!しかも、この艶!!」
お嬢様も幼くても女の子ですね。
と、心の中で呟き、改めてお嬢様の洗われた髪を見る。
ゴージャスな金の髪は、確かにいつもより艶が美しい。
近づくと、ほんのりとローズマリーの香りがした。
「しかも、洗ってもらうと、凄く気持ち良かったのよ!私、これから毎日『シャンプーリンス』するんだから!」
お嬢様が、自分の髪をウットリしながら見つめた。
「それから、ファリスとレナにもあげたいの!いいでしょう?!」
「お、お嬢様!」
二人が慌ててお嬢様を見るが、お嬢様がプックリ頬を膨らませた。
「シャンプーリンスしてる時、羨ましそうに見てたし……いつも助けて貰ってるから……お、お礼よ!お礼!」
お嬢様が、今度はキッと目を釣りあげる。
照れているのが、ファリスさんとレナにも分かった様で、顔を合わせてニコニコしている。
「お嬢様のお気持ち……とても嬉しいです……本当に貰ってよろしいんでしょうか?」
ファリスさんが代表して、お嬢様にオズオズと尋ねる。
「勿論よ!リオン、いいでしょう?」
「はい。構いませんよ。是非二人にも使ってもらって感想を聞きたいです。今は二つしかないですが、レモリの皮でも作ってみようと思ってるんです」
「それも素敵だわ!私レモリの香り、大好きよ!」
三人の感想を聞いた感じ、いい手応えを感じる。
このシャンプーリンス売れそうだ。