豆乳料理
「バーバラさん!来ましたよ」
「いいとこに来たね!ちょうどリオンを呼びにいこうと思ってたんだよ!」
バーバラさんが、ニコニコと人好きのする笑顔で近付いてくる。
俺はキッチンに入りながら、クロワさんとシフさんに挨拶する。
「昨日聞いた豆乳?ってのを作ってみたんだが、あれはいいね!お菓子にもオカズにもなる!」
クロワさんは、かなり豆乳が気に入ったようだ。
「クセがなくて使いやすいね。この、おから?が面白い食感だ」
シフさんはおからに興味津々だ。
どうやら、三人は豆乳で昨日から試行錯誤しているようだ。
なんて向上心と、探究心の強い人達だろう。
頼もしい。
「お嬢様のオヤツを貰いに来たんです。どうですか?出来てますか?」
「ああ!なかなか取りに来ないから、こっちから持って行こうと思ってた所だよ。おからで作ったクッキーだよ。食べてみておくれ」
差し出されたクッキーを、一つ手に取り口に運ぶ。 サクッとした軽い口当たりと、素朴な甘さが口に広がる。
「美味しいですね!」
「夕食には、教えてもらった豆乳料理を、数点考えてるよ」
シフさんが腕まくりしてみせる。
「給仕に出れないか、ワトソンさんに頼んでみます」
おからというと、パウンドケーキも有名だよな。
俺は三人に、バナナ、もといこの世界ではナバナのパウンドケーキのレシピを教える。
おからと、卵と、ナバナさえあれば出来る、簡単お手軽ケーキだ。
全部混ぜてオーブンで焼くだけ。
簡単、早い、美味い。
三拍子揃ったダイエットケーキだ。
レシピに三人は目を輝かせて作り始めた。
作り始めた三人にお礼をいって、クッキーの乗ったトレイを持って、足早にお嬢様の部屋へと戻る。
部屋へ戻ると、ノックの音に誰も反応しない。
三人の声も全く聞こえなかった。
またお嬢様の機嫌が、爆発したんだろうか?
そんなことを考えていると、中から慌ててファリスさんが扉を開けに来た。
「すみません、熱中し過ぎました」
どうやら、リメイクに夢中で気付かなったらしい。
平和な理由で何よりだ。
俺はトレイから、クッキーの乗ったお皿をテーブルに置く。
「お嬢様、お茶にしましょう」
今まで裁縫に夢中だったお嬢様は、待ってましたとばかりに顔を上げた。
「今日は何かしら!」
「今日は、おからのクッキーです」
早速お嬢様が一つ手に取り口に放り込む。
「お嬢様、20回噛むのを忘れずにですよ」
ファリスさんが、合わせてお茶を入れてくれる。
口にクッキーが入っているので、文句の言えないお嬢様は、代わりに口を膨らませて対抗した。
しばらく噛んで飲み込むと、お嬢様の感想が聞けた。
「いつもより甘くないけど……何だろう?噛めば噛むほど優しい味がする」
二つ目を口に放り込み、お嬢様は顔をほころばせる。
でも水分を持っていかれる様で、いつもよりお茶をおかわりしていた。
俺は改良点があるなと、メモしながら観察する。
後をファリスさんとレナに任せ、夕食の給仕に出れるよう、ワトソンさんの所にお願いに行く為、お嬢様に挨拶する。
「では、お嬢様。失礼します」
俺は、左手を胸に当てて挨拶する。
お嬢様は了承すると、またファリスさんとレナと、リメイク作業に戻って行った。
ワトソンさんの元に戻った俺は、状況報告と、給仕のお願い、それからパントリーの食器磨きなどをこなす。
「それが終わったら、ルークの所に夕食に飾る薔薇を取りに行って貰えますか?」
「はい!ついでにお嬢様のお部屋の分も頂いてきます」
ワトソンさんが笑顔で頷いた。
ダイニングで、ルークさんから貰った薔薇を花瓶に移し替える。
バーバラさん達が作った料理の、最終チェックをした時、丁度6時の鐘が鳴った。
お嬢様が少し遅れてファリスさん達と入ってきた。
そのすぐ後ろに奥様も続く。
今日は奥様だけらしい。
お嬢様は嬉しそうに奥様とお話している。
話している内容は、どうやら今日のドレスについての話だ。
余程嬉しかったのか、席についてもお嬢様の勢いは止まらない。
「確かに、今日のドレスはとってもカーミラちゃんに似合ってますわね」
褒められたお嬢様は、とても嬉しそうだ。
俺はワゴンに乗せた前菜を、奥様とお嬢様の前にセットしていく。
「今日の前菜は、湯葉と温野菜のサラダです」
本当は、醤油があれば良かったんだけれど。
小学校の時、社会科見学で醤油工場に行ったので、作り方は分かるけど、作る場所と、機材がないもんな。
麹菌も入手目処がつかないし、今は諦めるしかないか。
「湯葉は、ゴマ油と塩とネギルの、ネギルダレであえております。サラダは、蒸した野菜のサラダです。一昨日と同じドレッシングをかけています」
蒸した野菜はオクラに似た野菜、オークラと、キャベツに似たキャベチだ。
奥様は減量食が気に入ったのか、あれから自分もお嬢様と同じ物にする様、バーバラさんに頼んだらしい。
「!野菜が甘い!」
蒸した事で、野菜本来の甘みと水分が豊富になり、みずみずしい。
「このネギルダレも後を引くわね。旦那様が好きそうだわ」
確かに旦那様が食べたらワインが空きそうだ。
その後に、ササミのオニオンスープが続く。
玉ねぎの呼び名は、そのままオニオンだった。
「今日のメインディッシュは、おからと鶏肉のハンバーグです。」
『ハンバーグ?』
二人が声を揃えて聞き返す。
「みじん切りにした鶏胸肉に、豆乳から取れたおからを足して、焼いたものになります。ママトを煮込んで作ったソースでお召し上がり下さい」
「いいにおい……」
俺はお皿に乗せられた鶏おからバーグに、ママトで煮込んだソースを上からかける。
トッピングに目玉焼きがついている。
お嬢様がナイフとフォークを構えるのを見て、口を開こうとすると。
「分かってる!よく味わって、20回は噛む。でしょ」
俺は苦笑しながらも頷く。
奥様が隣で驚いた様に、お嬢様を見た。
まぁ、前までのお嬢様は、味わっているのかも分からない程早食いだったからな…。
一口サイズに切ったハンバーグを口に運んだお嬢様が、んー!と可愛らしくうなりながら頬を抑えた。
「なんて美味しいの!!私、ママトはあんまり好きじゃないけど、このソースは大好きよ!」
お嬢様の感想を聞いた奥様も、上品に口へとハンバーグを運ぶ。
「本当……美味しいわ……半分は豆なのよね?余り感じないわ」
二人の口にあったようで良かった。
異世界料理万歳である。
デザートのシャーベットを召し上がった二人は、食後のお茶を飲みながら、ゆっくりお互いの事を話していた。
奥様からは、旦那様が忙しくて来られない事や、本当は一緒に食事を取りたがっていた事など。
お嬢様は、さっき話したリメイクの話や、散歩の事など話されている。
俺は、そっと下げられた食器を乗せたワゴンを引いて裏に下がる。
俺は、まだ教えていない豆乳を使った料理などのレシピをまとめる為、ワトソンさんに説明して、部屋に下がらせてもらった。
おしゃべりをしながら、ゆっくり味わって食事をする事に、お嬢様が少し慣れてきたようだ。
今はリメイクや、ファッションの事など、興味のある事に意識がいっているので、いつもより空腹も感じにくいだろう。今のところ、出だし好調なようだ。
俺はレシピを纏めながら、お嬢様の為に出来そうな事を、考えていた。




