リメイクドレス
「リメイクしてみたらどうですか?」
『リメイク?』
三人が揃って聞き返す。
「はい。着るには似合わないし、これから痩せてしまえば着られません。ですが、捨てるのは勿体ないです」
ファリスさんとレナが凄い勢いで頷く。
「なので、例えば今お嬢様が持っている半袖のワンピースですが、袖を切ってノースリーブの形に変え、胸元のフリルをとって、胸の下にリボンを巻いたりすると、足が長く見えてスタイルが良く見えます。シンプルなワンピースに変えてみては如何ですか?」
俺はテーブルに広げたピンクのドレスを、説明に合わせた箇所を指さし、説明していく。
「ノースリーブにすると、二の腕が出てしまうので、ボレロを羽織ったり、合うボレロが無ければ、他のドレスから作ってみてはどうでしょう」
「素敵!じゃあこれは?!」
お嬢様が急いで黄色いドレスを持ってきた。
「お父様が買ってくれて、とても気に入ってるんだけど、すごくゴテゴテして似合わないの…。でもデザインは気に入ってるのよ!」
持ってきたドレスは、上半身にも、スカート部分にも、沢山のレースとフリルがついて、スカートはバルーンの様に膨らんでいる。
確かに、太った子には敷居が高いが、女の子が好きそうな華やかなドレスだ。
「これだと……上半身の所は思い切って切ってしまって、シンプルなVネックのシャツに、このフリルのスカート部分を、少しハイウエスト気味に絞って付けてみては如何ですか?」
俺は、黄色のドレスの上半身部分を追って、スカート部分だけが見えるように説明する。
「そうすれば、目線が下のスカートにいって、ボリュームのあるスカートと、絞った上半身でバランスが良いかと」
「リオン、センスがいいですね。素敵だと思います」
ファリスさんが褒めてくれた。
「わ、私も、早く仕立ててみたいです!」
裁縫が得意らしいレナが、ワクワクとした様子でドレスを覗き込んでいる。
「私も裁縫は得意よ!私だって出来るんだから!」
お嬢様が目を輝かせて立候補する。
「お嬢様は、やってもいいですけど、お勉強も疎かにしてはダメですからね」
「リオンは口うるさくて、まるで先生みたい!」
「お嬢様の為を思ってこそですよ」
お嬢様が、またフグのように顔を膨らませている。
「この、切ってしまったフリルは、何かに使えるのですか?リオン」
ファリスさんが、切ってしまう予定のフリルを指差す。
前世なら、切れ端は雑巾にでもして、汚れた所を拭いてそのまま捨てていたが、この高価な布ではそれもはばかられる。
「うーん。やったことはないんですが、こう寄せて、薔薇のように形を整えてみたり出来ますか?」
フリル部分をウネウネと巻きながら形作る。
「面白いですね、出来ると思います」
ファリスさんが顎に手を添えて頷いた。
お嬢様とレナも、嬉しそうに頬を綻ばせる。
「作ったフリルの薔薇は、コサージュにしたり、ブローチにしたり、あとは髪飾りなんかにしても良さそうですね」
「凄いわ、リオン!どれから手をつけましょう!」
お嬢様は興奮も最高潮、と言った感じではしゃいでいる。
「お嬢様、後は毎日庭に散歩に行くのも、忘れては行けませんよ!」
「昨日、散歩をしたせいかしら?いつもはなかなか眠れないんだけど、すぐに眠ってしまったの!」
なるほど。
いつも全然運動をしていないお嬢様は、疲れていないので、なかなか寝付けないことが多かったようだ。
「身体を動かすと、寝付きやすくなって、美容にもいいです。毎日の日課にしましょう」
「でしたら、午前のお勉強のあと、昼食までのお時間を、庭への散歩に当てては如何でしょう?」
ファリスさんが手を合わせて提案してくれた。
「食前に運動は、減量にもタイミングはバッチリですね」
俺はお嬢様の日課をメモしながら、頭の中でタイムスケジュールを組む。
「で、でしたら、昼食後の、午後のお勉強までの時間に、ドレスのリメイクの時間に当てては?!」
レナがキラキラした瞳で、お嬢様を見つめる。
「うーん。それよりは、午後の勉強のあとが宜しいかと思います」
俺は、脳内スケジュールの時間割を思い浮かべる。
「あら?どうして?」
「お嬢様は、飽きっぽい上に勉強嫌いですからね。勉強の後に、ご褒美の時間があった方が、効率良く進むと思われます」
「それは……確かに……」
ファリスさんが困った顔で相槌を打った。
お嬢様は、またフグの様になっている。
俺が口角を上げると、モニョモニョとしていた。
となると、お嬢様のタイムスケジュールはこんな感じか。
8時、朝起床
着替え、身支度
9時から11時まで勉強
12時まで散歩など自由時間
12時昼食
13時から15時まで勉強
15時お茶の時間
ここに自由時間
今集まっているのもこの時間だ。
そして、18時に夕食
出来れば二時間ずつの勉強は、一時間ずつにして、間に15分位、小休憩を取った方が効率良いと思うだが……。
今度、旦那様に聞いてみるか。
俺は忘れないようメモして、お嬢様と向き合う。
「ではお嬢様、継続は力なり。ですよ。笑顔、姿勢、減量、お勉強…。大変ですが、私も精一杯お手伝いします。文句があればすぐに聞いて、お嬢様が気持ちよくご自分を磨けるよう努めます」
「リオン……」
俺がお嬢様に伝えると、後ろの二人が一歩前に出た。
「お嬢様……私も、お嬢様の侍女として、お嬢様を支えられるよう努力します。お互いに頑張りましょう」
「わ、私も!……三人で頑張りましょうね、お嬢様!」
すぐに顔に出るお嬢様は、二人の言葉を聞いて目元を潤ませた。
「ええ……ええ!頑張るわ!」
綺麗にまとまったようだ。
すると、お嬢様はくるりとこちらを振り返った。
「リオン……では早速文句よ!お腹が空いたわ!」
折角、話が綺麗にまとまったと思ったらこれである。
しかし、3時のお茶の時間に、時間を取ってもらったのだ。
もう4時だ。
ドレスの話で、空腹が気をならない程、熱中していたのだろう。
「頼んでいたお菓子が出来てるか、バーバラさんの所に行ってきます。ファリスさん、お茶の用意を頼んでも良いですか?」
「はい。勿論です」
「じゃあ、私はレナとリメイクしてていいかしら?!」
お嬢様が早速ドレスを広げだした。
俺は苦笑しながらOKを出す。
楽しそうで何よりだ。