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嫌われ悪役令嬢を愛され令嬢にする方法  作者: 今宮彼方
第1章幼少期編
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嫌われのお嬢様

「まぁ……カーミラ様は、その様な事も知りませんの?」



 ……これは、単にお嬢様の無知をストレートに貶してるのか。

 でも、お嬢様の無知は、確かにお嬢様自身の落ち度であるが……。



「確かにカーミラ様とは、王都の素敵なお店でお会いした事も御座いませんし……知らなくても当然ではありませんか?」



 クスクスと笑いながら、隣の派手なご令嬢が、相槌を打ちつつ加勢する。



「ですが……今日のお召し物は……とてもお似合いですわね」



 反対側の令嬢が、これまたクスクスと歪んだ口元を、扇で隠しながら毒を吐く。

 これは、フリルやレースでゴテゴテして、太い身体が更に強調されている服が似合うという、嫌味だろう。

 カーミラお嬢様もそれは分かっているのか、下を向いて顔を真っ赤にしている。



「そういえば、カーミラ様はクリストファー殿下の婚約者候補に選ばれているとか……公爵家に生まれただけでその様な扱い…羨ましい限りですわ」



 再び、始めにお嬢様を貶した令嬢が牙を向いた。

 これは、翻訳すると、『家の家格だけで、何も努力していないあなたみたいなのが選ばれるなんて、シュトラーダ公爵は、随分贔屓されてますのね』

 という所であろうか。



 言い返す事が出来ず震えている太った少女は、その噂のシュトラーダ公爵家の一人娘のカーミラ。

 カーミラ・メルド・シュトラーダ。

 俺の一つ歳上の9歳。

 俺がお仕えしている、カーミラお嬢様である。



 それにして…皆幼くても立派に『女』である。

 このネチネチとした、遠回しな嫌味。

 お茶会とは名ばかりの、カーミラお嬢様イジメ会ではなかろうか。



「まぁまぁ、皆さん。そんなに1度にお話されては、カーミラ様が答えられませんわよ」



 それまで黙って聞いていたご令嬢が口を開くと、皆の視線がそちらに向く。

 幼いながらも高貴な淑女はこういうものかと、見たものを納得させる優雅さ。

 今日のお茶会で、カーミラお嬢様に次いで家格の高い、同じ公爵家のお嬢様だ。

 名前は確か……マルガレット公爵家のレベッカ様だったか?


 レベッカが豪華な黒いサラサラした髪に、蒼い上品なドレスを着こなして、優雅な仕草でお茶を飲んでいる。



「レベッカ様がそうおっしゃるのでしたら……」



 回りの令嬢達が、態度をコロッと変えてレベッカを見つめる。

 レベッカの取り巻きだろう令嬢達は、これからどうカーミラを貶してくれるのか……。

 そんな期待を込めてレベッカを見つめている。



「カーミラ様も、わたくし達を見習って淑女としての振る舞いと、品のあるお姿になる為努力しませんと……」



 レベッカの視線が、太いカーミラの身体に絡みつく。

 わざわざ、こんな人前で言わなくてもいい事だとは思うが、レベッカの言う事は一理ある。

 お嬢様は、マナーや座学などの勉強も嫌いだし、これでもかと大量の食事を食べて、運動もしない。

 太る一方だ。



 これには、色々と原因はあるのだが、流石にこのままではお嬢様のストレスが爆発しそうだ。

 俺は執事頭のワトソンさんに目配せして、お嬢様の側へと近付く。



「お嬢様、お顔の色が悪い様で御座います。やはり、昨夜の熱がまだ下がっていないのではありませんか?」



勿論、昨日熱などは出ていない。



「え、ええ、そ、そうなの。まだ熱があるみたい。頭がクラクラするわ」



 お嬢様がこちらの意図に気付いた様で、慌てて額に手を当て、大袈裟な仕草で具合の悪さをアピールする。



「まぁ……カーミラ様、体調が悪かったんですの?」



 流石に体調の悪いお嬢様に、寄ってたかって嫌味を言う令嬢はいないらしい。

 貶されて、真っ赤にしていた顔色が、信ぴょう性に拍車をかけたらしい。

 正に怪我の功名とはこのことだ。



「大変申し訳ありませんが、これで私は休ませていただきますわね。皆さんはゆっくり為さってください」



 カーミラお嬢様は、フラフラと身体をフラつかせ立ち上がった。



「ええ、カーミラ様をお身体お大事に」

「カーミラ様、またお茶会で」

「お大事に、カーミラ様」


「ええ、皆さん…それではお先に失礼します」



 俺はカーミラお嬢様の手を取り、部屋を出ていく。

 しばらく長い廊下を歩き、お嬢様の部屋の扉を開ける。

 頭を下げたまま扉を引いていたのだが、お嬢様が中に入る気配がない。

 不思議に思い顔を上げると、お嬢様は静かに声を殺して泣いていた。



「お、お嬢様?!」



 俺は慌てて周りを見渡すが、誰も傍にいない。

 侍女のファリスさんも、メイドのレナも、まだお茶会に立ち会っているのだ。



「お、お嬢様、とりあえずお部屋の中に入りましょう」



 俺は、ポケットから洗い立てのハンカチを差し出して、お嬢様に部屋の中に入ってもらった。

 椅子を引いて座ってもらい、すぐ隣の給仕室にお茶を取りに行く。

 急いで入れた暖かい紅茶を、お嬢様に差し出した。



「さぁ、お嬢様。お茶でも飲んで落ち着いて下さい」



 お嬢様は泣きじゃくって、グチャグチャの顔のまま、紅茶のカップを手に取ると、口に運ぶことなく、また顔を俯かせる。

 目元には、また涙を滲んでいる。



「お、お嬢様……」



「……あんたも……」


 お嬢様がカップを置いて、こちらにキツい目を向ける。


「あんたも、あいつらと同じでしょ!私の事バカにして、我儘なデブだって、心の中ではバカにしてるんでしょ!!」




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