怠惰な男 罪
グロテスクな描写を含むかもしれません。
夜道に黒いパーカーを着た男が1人歩いていた。
薄暗い街灯に照らされた路地は、半円状の光と、光の届かぬ暗闇とで彩られ、街灯の真下にでも行かないと、全身が黒で覆われた男は目立つことがない。
道の両脇を挟むように建ち並ぶ家々からは、時折、光とテレビの笑い声が漏れ聴こえていた。
深夜11時、多くの人は既に帰宅を済ませ、寝ているか、寝るための準備をしている頃合いだろう。
パーカーの男は、そんな静まり返った夜道を、ギョロギョロと目玉だけを動かしながら、パーカーの腹部にあるポケットに両手を入れ、探るように歩く。
夜道にはパーカーの男ともう1人、スマホを片手に歩くスーツ姿の男が居た。
パーカーの男はスーツ姿の男がこの時間に住宅街を歩き、もう暫く先にある自宅に帰る途中であることを知っていた。
住宅街の公園で、酒を飲みながら座っていたら、偶然目に入ったこの男性は、丁度良いカモだったのだ。
数日かけてスーツ姿の男が、平日は毎日23時過ぎにこの通りを歩くことを調査し、脳内で何度も計画をたて、やっと実行に移すことにしたのだ。
『早くこの男の死んでいる姿が見てぇなぁ。』
脳内に響くように喋るこの声にも慣れてきた。
返事をするまでもなく、漸く実行に移せる。
その喜びだけでパーカーの男は既に絶頂しそうなほど興奮を高めていた。
『ああ、暗き道を赤く染めよう』
そんなパーカーの男に今さら脳内に響く音になど、耳に入らなくなる。
今はパーカーの男にとって、何よりも優先するべきことが目の前にあるからだ。
少しずつ歩みを早める。
凶器は三徳包丁。
後ろから刺すのは肋骨や背骨が邪魔をして非効率的だ。
刃が肋骨に引っ掛かるだけで下手したら殺せずに終わる。
やるなら確実に、抵抗させず、素早くだ。
故にスーツの男を殺す手段は、後ろから近寄り、後ろから包丁を首に回し、パーカーの男自身の喉まで切り落とすような勢いで刃を引き付けて切る。
そして、包丁を離してスーツ姿の男の背中に蹴りを入れ、スーツ姿の男が反応する暇も与えないよう、倒れてなお手にあるスマホで何かをされる前に蹴って飛ばす。
喉を裂かれた男は悲鳴を上げることも、助けを呼ぶこともできず、連絡手段であるスマホも失った。
そんなスーツ姿の男の頭を真横から蹴る。
頭がコンクリートの地面とぶつかり跳ねる音がパーカーの男にとって、何よりも気持ちの良い音だった。
パーカーの男はヒューヒューと喉から音を鳴らす男を見下ろし、口角を上げる。
スーツの男の首を裂いた包丁が、路上に落ちていたのを視界に入れ、ゆっくりと拾い上げる。
血を吐くだけの第二の口のようになった喉から、未だに血が流れ落ちる。
月光を反射し、赤く、黒く輝くそれは、この世の幸せを表した色だと確信した。