砂の道 砂の海 青の追憶3
夢をもとに書いた短編も今朝完結させたので良ければ見ていってください
アリシアは蝋燭を載せた燭台を片手に、久し振りに外に出た。
ふらふらとしながら、辺りを見回すと、木が葉を落とし始め、冬支度の様相を呈していた。
薄らと見える隣家には、冬に燃やすための薪が重ねられていて、地面にある枯れ始めた草葉もあり、世界がとても寂れて見えた。
隣家のそばに辿り着いたとき、足を滑らせてしまい、燃えたままの蝋燭が隣家の壁にぶつかり、落ち葉に引火し、蝋燭ごと燃やし始めた。
少しづつ勢いを増す炎を、アリシアは寝ぼけ眼で眺めていた。
火に直接触れていないのに、アリシアの皮膚を焼いていく火を静かに眺めて、昔に見た蝋燭の火を優しい母を思い出し、その場から動けなくなっていた。
気付いた時、アリシアは病院のベッドに転がっていた。
村は大半が燃え、母は亡くなったらしい。
空気が乾燥していたのもあり、時間が深夜であったこともあり、火元から近い位置に住んでいた村人達は火傷と煙で命を落とした。
だが、火災に気付くことのできた村人の一人が、火事が起きていることを知らせ回り、その際に偶然にも、火の海に倒れているアリシアを見つけ、決死の覚悟で連れ出したのだそうだ。
火事は原因不明の出火が原因とされ、アリシアは逃げ出そうとしたところで倒れてしまったと判断されたようで、咎められることはなかった。
しかし、アリシアは死にはしなかったとは言え、元々弱かった肌は火に晒され、焼き爛れ、包帯を変えても変えても膿が出てきてしまい、何度も何度も包帯を変えないといけなくなるような状態になっていた。
特に顔は全体が焼けていて、片目は失明し、火傷の酷い顔は、治すことは不可能だと医者に告げられた。
そんなことがあったからか、アリシアは言葉を発することができなくなっていた。
喉は焼けていないのに、身体が痛くて声が漏れそうなのに、声が出なかった。
お医者様が言うには、「育った村の火事という精神的な負担が、アリシアの声を奪ったのかもしれない。」と、もしかしたら治るかもと、神父さんを呼んでくれることになった。
ペンも持てないほどの火傷を負い、声も出せないアリシアは、お医者様や看護師のなすがままに世話されていた。
一度だけ来てくれた父は、私を一瞥しそのままお医者様となにやら難しそうな話をしてから、そのまま帰っていった。
神父様は、祈りの言葉を述べてくれたが、やがて、首を横に振って帰っていった。
アリシアは、村に居たときよりも身体が弱っていくのを感じていた。
自分の死が近くなっていると、アリシアは、理解できた。
火傷がある程度瘡蓋になってきたある日の晩。
とても寒い夜だった。
アリシアは、ベッドから立ち上がり、探し物を始めた。
病院なら、必ずあるはずだ。
夜、暗くても診察することはあるだろう。
なら、必ず無くてはいけない。
火が。
風に揺れる海のような火が。
母のごとき蝋燭が。
思考が朧気になりかけているけども、火を見れば、母のことを思い出せるだろう。
村での母との思い出は、村の火災と共に燃えて虫食いに消えた。
アリシアを焼いた火であれど、その火はアリシアを、孤独から救ってくれた。
病院には、暖炉があった。
アリシアの部屋には無かったが、患者が冷えないようにという医者の気遣いなのだろう。
病院には、蝋燭があった。
昼間なら看護師の居る部屋に、夜回り用の蝋燭と、燭台が置かれていた。
アリシアは、数本の蝋燭を懐に入れ、暖炉の火を手に持った蝋燭に移し、病院の外に出た。
弱っているアリシアは、半ば這うような姿勢だが、そんな姿勢よりも火を見ることが優先だ。
村を焼いたようなでかい火を。
アリシアの思い出を焼いた火を。
再び目に入れるために。
記憶に焼き付けるために。
アリシアはまた、火の海を作った。
今度は、アリシア自身の身体を焼かないように少し離れて、放り投げるように、蝋燭を病院に放った。
病院に他の患者が眠っていることは知っていたし、見回りの時間では無かったとは言え、看護師が1人は病院に待機していることも知っていた。
それでも、アリシアは火が見たかった。
もっと大きな火を、もっと大きな火の揺らめきを。
懐にしまっていた蝋燭で、近くの燃えそうなものに火をつけていく。
笑いたかったが声が出ない。
今までの人生でこれほどまでの大火は無かった。
アリシアは、幸せだった。
母との思い出が、こんなにも沢山揺らめいている。
世界は、こんなにも明るかったのだ。
日の光の出ている間、外に出ることができなかったアリシアは、この炎の光こそが、主の栄光であり、母の愛だと思い知った。
その日、アリシアは炎に包まれ、幸福の呻きをあげながら、死に至った。
アリシアの過去編は終わり




