砂の道 砂の海 青の追憶1
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少女は窓から射し込む光に目を醒ます。
光、音、臭い、その全てが不快であると再確認し、光が射し込む窓を見て、「また母が雨戸を閉め忘れましたか。」と、日を浴びて薄く腫れた左腕に目を移す。
こういうときのために薄手の肘まである長い手袋を貰っていたが、それも長時間嵌めていたら皮膚が荒れてしまう。
一生付き合っていくような症状だろう。と、村の医者は言っていたが、こんな体質の人間が暮らしていくだけの余裕なんてこの村には無いだろう。
赤くなった細腕と、将来への不安が脳裏によぎり、溜め息を吐く。
土地を持つ村長の子として産まれただけ、まだ生きられているが、これが農家の産まれであったなら、恐らくアリシアは既に死んでいただろう。
日を浴びることができない。肉を食べると吐いてしまう。少しでも興奮すると気絶してしまう。
望んでなった身体ではないが、アリシアのような人間に、やれることはかなり少ない。
今は多少でも役に立ちたいと、針仕事を主にやっているが、血が止まるのが遅いアリシアには、その針仕事ですら命懸けだ。
作業は遅々として進まず、終いには手が空いた母がアリシアの仕事まで持っていく。
「仕事なんてしなくても良いのよ。アリシア。」
その度に聴く母の言葉が思い浮かぶ。
母の言いたいことはそうではないのだろうが、「あなたの仕事はない。」と宣言されたようなものだ。
毎朝起こる貧血に耐えながら、自室を出て、リビングに向かう。
風通しの良いリビングには、アリシアの望まない世界の音が届いてしまう。
外では村の子供達の大きな声や、これから畑に向かう男衆の気合いをいれる声、井戸の滑車を回す音、虫のさざめき、木々の葉が揺れ擦れる音、初秋の乾いた風が通り抜ける音等、様々な音が。
アリシアが触れることができない音だ。
アリシアにとって家の外は、小説の中の物語のようなものだ。常に夢物語を聴かされているような、幻想の世界。
この音がなくなれば、アリシアは普通に憧れずに済むのだろうか?
等と考えずにはいられなかった。
そんな、自室とリビングを往復する日々を繰り返すうち、夢を見た。
世界が燃える。
アリシアの世界が、炎の波で洗い流される。
ごうごうと音を立てて、家が燃える。草が燃える。人が燃える。
アリシアの憧れた日の光のように、その赤はアリシアを焼く。
全身を火傷しているような痛みが、燃えている世界をアリシアの終わりであると教えてくれる。
アリシアを惑わす世界など消えてしまえば良い。燃えてしまえば良い。
アリシアの憧れた海は、火では燃えないだろう。
このまま、乾いた風と共に、全て燃えてしまえ。
アリシアの世界よ、燃えて消えろ。
その日は寒気が強く、布団を被っていても肌寒く感じるような日であったのに、アリシアの身体には汗が吹き出し、そんな身体の不調とは裏腹に、夢を思い出すと口角がつり上がっていた。
赤い炎はアリシアの憧れのひとつ。
幼い頃、まだ身体がそれほど虚弱ではなく、それでも両親の方針で、外に出ること無く、母に時間があるときに数字や文字を教わっていた頃。
日が暮れ始めるまで練習を続けていると、母がそっと火のついた蝋燭を机の上に置いて、「これが燃え尽きたら終わりにしましょ」と頭を撫でてくれた。
アリシアが身体を患ってからそのようなことはなくなり、独学で学べはするように本だけは置いてくれるが、母はアリシアに触れようとすることも、蝋燭の光が身体に悪いからと、アリシアに火を近づけるのもやめてしまった。
アリシアにとって、火とは母との思い出であり、愛を受けた記憶そのもののようなものだった。




