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辺獄にて  作者: ぺんぺん
第二章 砂の海 道無き道
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砂の道 青の波打つ赤い夢

夢を見ている間が一番幸せ

一弥と青い布の女性は、砂の上に寝転がっていた。


「お話しません?」という女性の誘いに釣られた一弥は、「では、立ち話もなんですし座りましょう?」「急ぎではないのでしょう?少し横になりません?」という女性の言葉に言われるがままに従っていた。


「こうしてお話するのは久しぶりです。たまにはこういうのも良いとは思いません?」


寝転がったまま一弥の方を向く女性は、柔らかな笑顔を浮かべている。

それほど強くないとは言え、風の吹く辺獄で寝そべっていると、風に吹かれた細かな砂が時折顔にぶつかるが、女性は気にした様子も見せない。


「は…はい、そう思います。」


一弥は、女性に見惚れながらも、頭の中では別のことを考え続けていた。

『彼女を理解()したい。』

『彼女の味が知りたい。』

『彼女が何を考えているのか知りたい。』

女性を一目見た瞬間から、そんな感情に思考が押し潰され、そのために何をすれば良いか、その事だけに思考が支配され、女性の投げ掛けへの回答が単調になる。


「私は寝ることが好きなの。」


真っ直ぐに、ベッドの上で話す(ピロートークの)ように、渇いた風の中で、女性の唇だけが艶やかに光り、赤を主張していた。


「けれど、辺獄(ここ)は最悪なのよ。いくら目蓋を閉じても眠り()の底へ辿り着けないの。ねえ、赤の人。あなた、私を眠らせてくれないかしら?」


女性の誘いは蠱惑的で、青い瞳に、赤い唇、甘い誘惑。優しい誘いに、一弥は女性の頬に手を伸ばし、笑顔を浮かべる。


「ああ、任せてくれ。俺が必ず君を、眠らせて(殺して)みせる。」


一弥の心臓は強く波打ち、その鼓動は、一弥の世界に彩りを産む。

今の一弥の視界には、先程までの砂漠のごとき砂の海が霞み、波打つ海のように見えていた。

波打つ鼓動(浜辺)女性()の薫り、砂の上(波打ち際)に、眠る女性(水死体)

一弥の夢見る幻は、柔らかな笑顔で、一弥の中に眠りを見る。


一弥は既に目指していたはずの図書館のこと等忘れ、女性の眠り声(悲鳴)を想像し、心からの笑みを浮かべる。


「ありがとう。」


微笑みを浮かべる女性を相手に、一弥は口を開き、質問を始める。


「ねえ、君はどうしてこんな誰も居ないところに居たの?」


「ええ、人の少ないところに居たかったの。私、周りがうるさいと良く眠れないのよ。」


「へえ、俺は良いの?」


「あなたは構わないわ。離れたとこからでも分かったわ。あなたの心音、心地良いのよ。それに…。」


「それに?」


「あなたの赤。情熱的でとても綺麗だわ。」


「ありがとう。君の青も、とても綺麗だ。」


先程初めて会ったはずの二人は、曇天のような空の下、浜辺のホテルで愛を誓い合うかのように、お互いに愛を囁いていた。

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