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辺獄にて  作者: ぺんぺん
第二章 砂の海 道無き道
18/31

砂の道 青き人

青い布。

それは、一弥の赤い罪衣と同じく、何者かがそこに居るということを示している。

黒い罪衣の老人は言っていた。


『赤い罪衣は殺しの証だ。』


一弥は、生前の殺しについて、特に何の感情も抱いていない。

「一弥に殺された人間が一弥のことを恨むのは当然だ」ということを理解して、恨まれるなら受け入れるだけの覚悟もある。だが、彼等が死んでしまったことに対しては、何一つ思うところがない。死んだ人間が一弥を恨むことなどできるはずもないし、そんなものを抱き続ける理由なんてない。


一弥は今もなお辺獄(ここ)で生きている。


まあ、一弥にとって、自分のことなどどうでも良い。重要なのは、罪衣の色に何らかの意味があるということだ。

ひとまず、青い布を持つ何者かを刺激しないように、極力足元の砂で音が立たないように歩くことにした。

青い布を持つ者がどのような存在であれ、関わらないに越したことはない。

一弥が目指しているのは図書館であり、その前に下手なリスクを抱える必要はないと一弥は考えた。


ゆっくりと、音を立てないよう、慎重に、慎重に歩く。

それでも、砂は小さな音で、ザリザリと、音を立てる。


あまり意識していなかったが、他に音を立てるものがないためか、足音が良く響く。

少し大回りするように青い布を避けようとする。



青い布を避けるように、気付かれないように歩いていた一弥だが、ふと、一弥の足音に混ざるように、一弥自身以外の音が聴こえることに気がつき、足を止める。


ザラザラと、這うような音。


一弥が立ち止まってなお、一弥に近づくように、音は、一弥の方に近づいてくる。


音の方に顔を向けると、そこには、青い布をまとった人間が、這うようにして一弥に向かってきていた。

その姿はさながら布団を被った芋虫のようだ。


「は?」


一弥は戸惑っていた。なぜ避けるように移動していたのにわざわざ近寄ってくるのか。なぜ立ち上がらずに這ったまま移動しているのか。


一弥が困惑の中に居ると、青い布は一弥まで5歩程の距離で立ち上がり、一弥に目を合わせた。


眠たげながらも薄く開いた青い瞳、赤みがかった茶色の髪を肩の辺りで揃え、おもちゃを見つけた子供のように口角を上げる。

砂をパラパラと落とす青い布は、スリットの入ったロングドレスのようで、肩、脚を露出させつつ、隠すべきところを隠していた。

一弥は先程までの戸惑いも忘れ、あまりの美しさに口を開けたまま呆けていた。


「ねえ、お話しません?」


鈴の鳴るような声に、一弥は現実に引き戻される。


「ねえ、聴こえてらっしゃる?」


少し不安げな、透き通るような声に対し。


「ひゃい…」


一弥は、気の抜けた返事しかできなかった。

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