砂の道 青き人
青い布。
それは、一弥の赤い罪衣と同じく、何者かがそこに居るということを示している。
黒い罪衣の老人は言っていた。
『赤い罪衣は殺しの証だ。』
一弥は、生前の殺しについて、特に何の感情も抱いていない。
「一弥に殺された人間が一弥のことを恨むのは当然だ」ということを理解して、恨まれるなら受け入れるだけの覚悟もある。だが、彼等が死んでしまったことに対しては、何一つ思うところがない。死んだ人間が一弥を恨むことなどできるはずもないし、そんなものを抱き続ける理由なんてない。
一弥は今もなお辺獄で生きている。
まあ、一弥にとって、自分のことなどどうでも良い。重要なのは、罪衣の色に何らかの意味があるということだ。
ひとまず、青い布を持つ何者かを刺激しないように、極力足元の砂で音が立たないように歩くことにした。
青い布を持つ者がどのような存在であれ、関わらないに越したことはない。
一弥が目指しているのは図書館であり、その前に下手なリスクを抱える必要はないと一弥は考えた。
ゆっくりと、音を立てないよう、慎重に、慎重に歩く。
それでも、砂は小さな音で、ザリザリと、音を立てる。
あまり意識していなかったが、他に音を立てるものがないためか、足音が良く響く。
少し大回りするように青い布を避けようとする。
青い布を避けるように、気付かれないように歩いていた一弥だが、ふと、一弥の足音に混ざるように、一弥自身以外の音が聴こえることに気がつき、足を止める。
ザラザラと、這うような音。
一弥が立ち止まってなお、一弥に近づくように、音は、一弥の方に近づいてくる。
音の方に顔を向けると、そこには、青い布をまとった人間が、這うようにして一弥に向かってきていた。
その姿はさながら布団を被った芋虫のようだ。
「は?」
一弥は戸惑っていた。なぜ避けるように移動していたのにわざわざ近寄ってくるのか。なぜ立ち上がらずに這ったまま移動しているのか。
一弥が困惑の中に居ると、青い布は一弥まで5歩程の距離で立ち上がり、一弥に目を合わせた。
眠たげながらも薄く開いた青い瞳、赤みがかった茶色の髪を肩の辺りで揃え、おもちゃを見つけた子供のように口角を上げる。
砂をパラパラと落とす青い布は、スリットの入ったロングドレスのようで、肩、脚を露出させつつ、隠すべきところを隠していた。
一弥は先程までの戸惑いも忘れ、あまりの美しさに口を開けたまま呆けていた。
「ねえ、お話しません?」
鈴の鳴るような声に、一弥は現実に引き戻される。
「ねえ、聴こえてらっしゃる?」
少し不安げな、透き通るような声に対し。
「ひゃい…」
一弥は、気の抜けた返事しかできなかった。