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辺獄にて  作者: ぺんぺん
第二章 砂の海 道無き道
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砂の海 道無き道

書く気力を失くしてたので投稿間隔が飽きましたが私は元気です

砂の海、人の通った後も残らない道なき道を歩く。

頭上に鈍く輝く光が、辛うじて生前に見ていた曇天の昼くらいの明るさを保ち続けている。

変化のない景色を、ザクザクと足を踏みしめながら歩くだけ。

歩く先にあるだろうと思われる図書館は、未だ影も形もない。

歩き続けて疲れはするが、歩けないほどではない。腹も減るが、空腹で倒れるほどではない。喉も乾くが、唾は出るし、喋れない程ではない。そんな時間が延々と続く。

一弥にとっては苦にならないただただ歩き続けるだけの時間は、一弥に様々なことを考える余裕を与えてくれていた。


一弥は今、罪衣と呼ばれる服を身にまとっている。

脱ごうとしても脱げない、血で染めて灰を散らしたような全身を覆うマントのような服。

首を締めるように巻き付くチョーカー。

耳元に固定された耳当てのようなもの。

これらが一弥の罪衣なのだろう。

この服を見ていると、一弥が生きていたとき、刺した相手の様子を鮮明に思い出せる。

痛みに歪んだ顔、流れ出す鮮血、何よりも包丁が肉を裂く感触。

一弥がここ数年で感じた唯一の悦び。

死を与える興奮。

痛み、苦しみ、そして死に至る。

生きていることを実感するための痛み、死に至るその瞬間こそが一弥の見たかった生の慶びであり、実行に移した動機こそ妬みや僻みだが、一弥の持つ自己矛盾を他者にも求めた結果が一弥の殺人衝動なのだ。


今の自分はどうなのだろうか?

今の一弥からは殺人衝動が身を潜めている。

痛みを実感したいなら、自分を傷つければ良い。

ここでは、それが多少はあった心理的抵抗もなく可能なのだ。

老人に食べられたはずの一弥の左手の薬指は、既に半ばまで伸びている。

歩き続けてどれくらいたったか分からないが、それでも、時間をかければ肉体が再生されるというのはとても素晴らしいことだ。

後で歩くのに飽きたら自分の身体で色んなことを試してみようと心に決め、再度遠方に向けて目を細める。


辺獄がどのような形なのか分からないが、平面世界なら遠くを見渡した時にその図書館が見えるだろうし、辺獄も地球と同じく球なのか。

高さが足りないからか、地平線は弧を描いているようには見えず、しかし、未だに図書館どころか建物のようなものすら見当たらない。

疑問に思いながらも果てがあるなら辿り着くだろうと楽観的に、自分のことながら流れるままに動く一弥は、考えることすら放棄して歩く。

時折左右を見渡して、図書館が見当たらないかを探しながら。


そんなことを歩きながら続けている内に、視界の端に落ちていた青い布に気がついた。

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