旅立ち
城を出た俺たちは話しながらある場所へと向かっていた。
「エリシア。いくつか聞きたいことがあるんだがいいか?」
「はい。かまいませんよ。」
「それじゃあ聞くが、エリシアが使える権能ってどんなやつなんだ?」
あの後、詳しく聞いて分かったことだが、聖女契約を交わした勇者が使える権能はあくまで聖女が持っている権能のみ。
そして、同じ宗派の中でも使える権能が全く違うことがよくあるそうで、その中でも真実の神 トゥルースを信仰している人間で権能を発言したのはエリシアが初だと聞き、どんな権能を使えるのかずっと気になっていたのだ。
「んー。そうですねー。まず、ラック様には神への信仰についてお話ししましょう。ラック様は信仰が強ければ強いほど奇跡を使えるようになるということは知っていますね?」
「常識だからな。」
「ではより具体的に説明しますね。そうですね、信仰心を数値化したとして、まず一般の方々の信仰心を100とおきましょう。そうした場合奇跡を扱える神官となるのは信仰心が2500を超えた人間のみです。」
なるほど…信仰心ってそんなに具体的に分かるものなのか?どうなんだ?アモルファス。
…この聖女が言っていることは紛れもない真実です。しかも数値に換算した値までもが完璧です。
「次に、聖女ですが、信仰心が最低でも5000を超えていなければなりません。信仰している人数が多いほど必要な信仰心が大きくなります。私が信仰している真実の神 トゥルースの信者はあまり多くないので私はそこまで信仰心は必要ない感じですね。」
「やっぱり宗教ごとに信者の差はあるんだな。」
「そうですね。特に私が信仰している宗教は戒律が厳しいですからね。」
「戒律…なんだそれは?」
「戒律とは宗教ごとに禁止されていること。もし破った場合それに応じた罰が下され、信仰心が減少してしまいます。」
へー。宗教なんて怪我を治してくれる便利なモンだとずっと考えてたが、そういうところはしっかりしてるのか。
「それで、エリシアのはどんなやつなんだ?」
「相手が誰であろうと嘘を騙るのを禁止する。この一つだけです。これは一見簡単そうに思えて一番難しいものでもありますから。それに、生きていく上で嘘をつかずに生きていくのは大変ですからね。必然的に信者が減ってしまうのです。」
なるほど、だから信者が少ないと。だが、逆にいえばそんな中これまで一度も嘘をつかずにエリシアはこれまでの人生を生きてきた事になる。
単純にすごいことじゃないか。
「ちなみに、それを破るとどうなるんだ?」
「信仰心が永遠に0に固定されます。」
「へー…え、まじで?」
俺は驚きのあまり鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情になる。
「はい。ですが、戒律を破りさえしなければいいだけなのにどうして信者がつかないのでしょうか。」
そういったエリシアは本気で不思議そうな表情を浮かべていた。
いやいや、どう考えても信者つかない理由それだろ。たった一回嘘ついただけで永遠に固定って…
「ここで知っておいて欲しいのが、信仰心を5000超えたもの全員が聖女になれるわけではないということです。信仰心を5000超えた者の中で直接神から気に入られた人間のみ聖女となることが可能です。聖女になれる人数も決まっていて基本的には勇者と同じ人数までとなっています。」
「聖女になれなかった人間はどうなるんだ?」
「優秀な神官として各地に派遣してますね。人によっては教皇になったり、孤児院の院長をしたりと多岐に渡ります。」
「全員がやることを決められてるわけじゃないんだな。」
「そうですね。いくら信仰心が強くとも人によってやりたい事は様々ですし。ですから、私は聖女として旅をできる事になって嬉しいです!」
そういうとエリシアは笑顔で俺の方を振り向く。俺もそれにつられて自然と笑顔になる。
「さて、それでは私の権能ですが…」
エリシアは笑顔を引っ込め、途端に真剣な表情になる。そのあまりの変化に俺は思わず息を呑む。
「特にこれといったものはありません」
…え?特にない?おかしいな。特にないって聞こえたぞ。聴覚は強化されてるはずなんだけどな。聞き間違えか?
「すまんが、もう一度言ってくれないか?」
「ですから、これといってありません。」
「なるほど。」
まさか聞き間違えじゃないとは。権能を持ってないなんて…そんなことあるのか?
…権能がないなんてありえません。実際、ラック様の中には私とは別の力が宿っているという感覚が私にも伝わってきています。おそらく、なんらかの原因で権能を発動できない状態にあるのではないでしょうか。
つまり、それを解消すれば権能を使えるようになるわけだ。
…そうなります。
だが、権能を使えない聖女ってどうなんだ?旅の中で役に立つのか?一応俺の旅は魔王討伐ってことになってるんだが…
「そのかわり私には少し特殊な力があります。」
「ん?なんだ?」
「私は生まれつき真実しか話すことができないという能力を持っています。」
真実しか話すことができない能力?なんだそりゃ?
…おそらく異能の類ではないかと思われます。ごく稀に生まれつき特殊な体質や能力を持った人間が生まれてきます。それは単純に五感が異常なほど優れていたり、炎を吸収したりと多岐に渡ります。真実しか話せないのもそのうちの一つでしょう。
冒険者の中には特殊な能力を持つ者もいると聞いたことはあったが…まさかセシリアがそうだとはな。だが、真実しか話せない異能に使い道なんて…いや、待てよ。
「真実しか話すことができないといったが、それは知らないものに対しても働くのか?例えば知らない魔物の弱点を的確に当てられるとか。」
「可能です。この能力を使えば相手の嘘を見破ることもできますし、私は今後どう動くべきかを決める指針にしたりしています。」
「そうなのか。」
自分でも少し素っ気ないと感じるくらい努めて冷静に答えたが、内心では驚きによって俺は冷静ではなくなっていた。
この異能…使えるなんてレベルじゃない!直接的な攻撃力はないが、おそらく最高の異能と言っても過言ではないだろう。
検証してみないと分からないが…おそらく、戦う前から勝てるかどうかまで判別できるだろう。
「どうですか?権能がないこんな私でも受け入れてくれますか?」
そういうとエリシアは少し不安そうな顔をする。
まぁ、今すぐ権能が必要ってわけじゃねぇ。そもそも聖女契約したから離れられないしな。
「もちろんだ。」
「ありがとうございます!」
そういうとエリシアは嬉しそうに笑った。
権能が無いとはいえ強力な異能を持った聖女が仲間にいる。それに
「いつか権能を使えるようになると思うか?」
「はい。」
これが真実なら権能は使えるようになるってことだ。これから旅を続けてく中でいつか使えるようになればそれでいいだろう。
できれば戦いの役に立つ権能であってほしいが…
ここまで考えて俺は、ある事を聞いてないことに気づく
「なぁ、セシリア。ずっと聞こうと思ってたんだが…どうして目隠しをしてるんだ?他の聖女達もそうだったが、盲目じゃない限りそんなの邪魔だろ?それに戦いの時に目が見えないと戦えなくないか?」
聖女セシリア
・異能 真実を×××××者