3
ニゲルコトハユルシマセン
その一言はゾッとするほど冷たく、俺は心臓を背後から握り潰されるかのような感覚を覚えた。
なんだ今のは…なんなんだ今のは!
気配はなにも感じられない!なのに!確実に背後に何かがいる!
俺の全身からは汗がドッと吹き出し、呼吸は荒くなる。
ドクンドクンという音が聞こえてくるほど俺の心臓は強く鼓動していた。
相変わらず聖女の魂は向かってきていたが、そんな事は欠けらも気にならなかった。
得体の知れない、強大な存在に背後を取られ続けている事に対する恐怖で俺はなにも考えられなくなっていた。
そんな俺の精神状態に関係なく、聖女の魂は俺に触れ、身体の中に流れ込んでくる。
未だ頭の中にヤバイ、と警鐘が鳴り響いていたが俺はそれに抗う事ができず、ただ受け入れるのみだった。
聖女の魂が全て流れ込むと、俺は拘束から解放され身体を動かせるようになる
そこで俺は、見なければよかったのに、後ろを振り向いてしまった
俺が後ろを振り向くと、
そこにはなにもなかった
文字通り、なにも無かったのだ
後ろに広がってるはずの空間がない。そこには光もなければ闇もない。
無のみだった。
な、なんだコレは…
この世のものとは思えない光景に目を見開き、呆然としながら見ていると
ミシミシッ
身体に強い圧迫感を覚える。
なんだと怪訝に思いながら身体を見てみると
いつの間にか、巨大な、漆黒の手で全身を握られていた
いっ、いつの間に!それになんだコレは!…クソッ!またか!身体が動かせない!アモルファス!
…
呼びかけるが返答はない
クソッ!さっきからなにが起こってるんだ!他の奴らはこの異常性に気付かないのか!
後ろを見るのをやめ、周りを見渡してみると、
なっ!誰も…動いてないだと…
その場にいた全員が、固まったように停止していた。
なんでだ…なんで誰も動いてないんだ!どうなってるんだコレは!わけがわからない。
ラックが困惑する間にも漆黒な手の握る力はどんどん強められていく
その時
「契約から逃げられないようにするつもりが、まさか振り向くとはな。」
先ほどの声とは違い、穏やかな女性の声が正面から届く
声がした方を向くと、そこには黄金に光り輝く瞳を持った、聖女が目の前に立っていた。
「どうやらこの腕も見えているようだな。他の聖女でも見ることができないのに。実におもしろい。」
「俺を…どうする…つもりだ?」
全身が悲鳴を上げ、骨が折れて内臓に突き刺さったのか口から血をこぼしながら俺は最後の力を振り絞って質問する。
「なに、悪いようにはしない。それに、次会うときには忘れてるはずだからな。」
「それは…一体どういうい…お前は一体、なにも」
俺が最後まで言い切る前に、俺を握りしめる手の力は急激に強くなり、俺の身体はトマトのように握り潰される。
そして、俺は
「これからよろしくお願いします。」
「ああ、俺からもよろしく頼む。」
新たに仲間となった聖女と握手していた。
アークが言っていた聖女契約は全員が無事に成功したらしい。
契約が完了してからは身体の中に今までには無い新しい力があるという感覚と、仲間になった聖女に対して強い親近感が湧くぐらいだったが、これからの旅で大いに役に立つことだろう。
俺の旅も少しは楽しくなるかもしれない。契約をして良かったな。
聖女契約を結んだ事に満足していると
…一体どうなって…繋がった!ラック様!ラック様!
アモルファスの慌てた声が頭に響く
どうしたんだそんなに慌てて?
…良かった。ようやく繋がった。先ほどまで私とラック様の契約が何者かによって強制的に切られていたのです。何か変わった事はありませんでしたか?
いや?何も無かったぞ?
…それならいいのですが。
「私は真実の神トゥルースを信仰しています。これからの旅でお力になれるように全力を尽くさせていただきます。どうか、私のことはエリシアとお呼びください。」
「ああ、分かった。俺のことはラックと呼んでくれ。これから頼む。」
その後、俺たちは仲間となった聖女と共に城へと帰った。
城に帰った後、俺たち勇者は自由に行動して良い事になった。
何か要望があれば可能な限り叶えてもらえるらしく、旅に出る際の金や高性能な装備まで望めば貰えるらしい。
もちろん、すぐさま旅に出るのも自由。
そのため、俺達は元々の装備があったので金だけ受け取ってすぐに城を出た。
加わった仲間
・聖女 エリシア
信仰宗派 真実の神トゥルース
権能 ???
聖女契約
・常時浄化
・奇跡の効果倍増(被契約者のみ)
・権能の共有
・etc