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「以上が聖剣についての全てです。ご理解頂けたでしょうか。皆様が手にしているその聖剣の素晴らしさに。」
アークの話を大人しく聞いていた俺たちは素直にうなずく。
「では、最後に聖女契約を行います。皆さん、入ってきてください。」
アークがそう言って手を叩くと、個人でデザインの違いはあるが、教祖と同じく純白の衣を纏った7人の美少女が部屋の奥から現れる。
一人一人がこの世のものとは思えないほどの美貌を兼ね備えており見とれそうになるが一つの疑問がそれを吹き飛ばす
コイツらは一体…それになんで全員目隠しをしているんだ?
「皆様は聖女についてどれほどご存知でしょうか?」
アークに言われるがイマイチぴんとこなかった。他の勇者達を見てみるが、皆聖女について何も知らないようだった。
「ふむ、皆さん誰も知らないようですね。では、神官についてはどうですか?」
それは知っている。まず、この世界ではどんな宗教であろうと神を信仰している者はみな信仰者と呼ばれる。
神官はその中でも特に信仰心が強く、神より奇跡を行使する力を授けられた者たちの総称だ。
奇跡は基本的に怪我の治療、病気の治療、解毒などといった多岐にわたる。
実際、俺も冒険者として活動する際に負った傷を治してもらったことがある。
「どうやら神官のことは知っているようですね。では、聖女について説明いたしましょう。皆さんご存知のとおり神官は信仰者より優れた信仰心を持つ者が選ばれます。聖女はその中でもトップクラスの信仰心を持った女性だけが選ばれます。そして、神官と聖女の大きな違いは権能を行使できるかどうかです。」
権能ってなんだ?
…権能とは神が保持する能力のことです。
ん?それだとここにいる聖女達は全員が神の能力を使えるってことか?
…そういう事になるでしょう。と言っても一部だけでしょうけどね。ただの人間が神の力を行使するには器が弱すぎます。
それを分っているからこそ神も信仰心がとてつもなく強い、つまり親和性が高い者に権能を授けるのです。
そうでないものは一度使っただけで四肢が爆散して死んでしまいますから。
四肢が爆散するだと…それほどの力なのか、神の力ってやつは。
…実は、このことは聖剣にも言えるんです。
…どういうことだ?
…こんな話を聞いたことがありませんか?名匠が作った剣には神が宿るという話を
聞いたことぐらいはあるが、それは神がかった剣ができるってことだろ?まさか神が作った剣だから神が、神の力が宿っていると言いたいのか。
…そういうことです。当然そんな代物をただの一般人が使えばその負荷に耐えきれず死んでしまう。
だから、ただの人間が間違って使って死なないようセーフティーロックがかけられ、親和性が高い者、勇者のみに使えるようにしているのです。
なるほどな。それで神の力を使える勇者達がもてはやされるわけだ。
それで、そんな力を目の前にいるコイツらも持っているってことか?
俺は目の前に並んでいる聖女達を見る
確かに神聖な雰囲気を感じるが…それでもとても強そうには見えない。
「聖女について理解していただけましたか?では聖女契約について説明しましょう。聖女契約とはその名の通り、聖女と契約を交わすことです。そうする事によってさまざまな恩恵を受けられるようになります。まず一つ目、奇跡によって傷や病気を治療する際、その効果が大幅に跳ね上がる事です。一般人と比べた場合約5倍以上の効果があり、小さなすり傷しか治せない「治癒・小」であっても骨折を一瞬で治すくらいの効果がでます。最高位の奇跡である「治癒・極」を使えば例え死ぬ直前であろうとも完全に回復することができるでしょう。」
瀕死から完全に回復ね…それは首が胴体から切断されても回復できるのか?
…可能です。頭が潰されようが、重要な臓器の全てが破壊されたとしても細胞の一片が残っていれば回復できます。
そんなに効果が強まるのか!それではもはや不死身じゃないか!
…不死身…確かにそうとも言えますが、逆に言えばどれだけ苦しくとも死ぬことができない。死による救済がもたらされない。これはそんな力です。
どうせ俺たちは両親の墓を作るために危険な地方へ旅をするんだ。むしろ好都合だろ。
…そうですか。
「二つ目、聖女契約によって勇者様と聖女の間にラインがつながった事により、常に身体が浄化されます。そのため水浴びをせずとも身体は清潔に保たれ病気などにもかかりにくくなります。
そして三つ目、聖女が保有している権能を勇者様も行使可能になります。また、権能による効果が増幅します。」
権能を使えるようになるだと!
アークの言葉に俺は驚愕する。他の勇者達も同じだったようで皆驚いたような表情をしている。
「以上が聖女契約によって得られる主な恩恵です。どうでしょうか?我々としても勇者様方には存分に活躍していただきたいのです。どうしても嫌だとおっしゃるならば仕方ありませんが、できれば聖女契約を行って欲しいです。」
アークの言葉を受けて俺は冷静に考える。
聖女契約を行えば治療の効果が5倍以上に跳ね上がり、しかも、契約した聖女が持っている権能まで使えるようになる。
断る理由がない。
が、そこが逆に怪しい。これは俺たちにとって都合が良すぎる。アモルファスはどう思う?
…現時点では断る必要はないかと。聖女契約は単純に戦力の強化につながりますから。
確かにそうだが、これをしてコイツらになんの得があるってんだ。
…そうですね。自国のついでに世界を救ってもらいたいこの国の王族からしたら、勇者には少しでも強くなって欲しいと考えているはずです。
契約するだけで勇者が強くなり、教会とも友好的な関係を築ける。
それだけで理由としては十分だと思います。
他に理由があるとしたら、同国の教会から聖女を勇者の仲間として派遣したと各国に自慢できるくらいですね。
そんなもんか?俺はやっぱり変だと思うんだが
他に自分と同じ考えを持った人がいるか周囲を見渡してみるが、俺を除く全員が聖女契約に乗り気だということだけが分かった。
俺だけなのか?これに不信感を持っているのは
「聖女契約に反対な方はいないようですね。それでは早速聖女契約を行います。」
誰もなにも言わないことを反対する者はいないと捉えたアークは聖女契約をしようとする。
「ちょっと待ってくれ。聖女契約をすると言ってもどうやるんだ?この中から一人ずつ選んでいくのか?そこを説明して欲しいんだが。」
「その必要はありませんよ。全ては神が決めてくださいます。」
はぁ?どういうことだ。
困惑する俺をよそにアークはどんどん話を進めていく
「それでは聖女契約を行うのでバラバラに散らばってください。」
俺たちは言われた通り移動する。
「移動が完了しましたね。それでは聖女の皆さん、選別を始めてください。」
アークがそう言った直後、俺はありえない光景を目にした。
聖女の全員からこの空間を埋め尽くすほどの白く光り輝くなにかが放たれる。
それは空間を、まるで人を探しているかのように彷徨いながら飛びまわる。
なんだこれは…
俺は驚愕し、目を見開く
「皆さんには見えてないと思いますが、現在、聖女から魂の一部が放たれています。その魂が最も相性がいい勇者様の魂を選び出し、結びつく事で聖女契約は完了します。」
聖女から放たれた魂は、しばらくそのまま空中を飛んでいたが、急に止まると勇者達に向かって一直線に向かい出した。
当然、俺のところにも一つ来ている。
美しく光り輝くそれは、いっそ神々しさすら感じられ、俺は受け入れようと手を伸ばす。
聖女の魂が俺とあと少しで触れるという距離まで近づいた時
俺の背中に、ゾクゾクゾクという感覚が走る
なんだこれ!なにかヤバイ!
本能か、それとも冒険者としての勘が働いたのか。俺は咄嗟にその場から後ろへと跳ぼうする。が、身体が動かない。
なっ!なんでだよ!身体が動かねぇ!おい、アモルファスどうなってんだこれは!?
…
おい!アモルファス!アモルファス!
何度も呼びかけるが反応がない
マジでヤバイぞこれ!なにが起きてるかさっぱりわからねぇ!まずはどうにかして逃げないと
逃げるために身体を必死になって動かそうとするが身体は動かない
その事に動揺しさらに慌てる俺の頭の中に
ニゲルコトハユルシマセン
ゾッとするほど冷たい、女の声が響いた