秘めた怒りと自分の成すべきこと
俺の一言に王女は一瞬驚いたような表情をするがすぐに元に戻る。
「それは、ラック様も何か事情があるということですか?」
「ああ、その通りだ。」
「その事情を話してもらえませんか?私たちに解決できることならなんでもしますので。」
解決できるならなんでもするね…そもそもコイツらのせいで解決できなくなったってのに
「それじゃあ、俺を元いた場所へとすぐに送り返してくれ。」
「元いた場所…にですか?」
王女は怪訝そうな表情を浮かべる。
「ああ。俺をここに呼び出すことができたんだ。逆に送り返すこともできるだろ?」
王女は一瞬考えるような素振りを見せる
「…先に質問をよろしいですか?」
「なんだ?」
「どうして元いた場所にすぐに戻りたいのでしょうか。その理由を説明していただかないと…」
「なに、単純な話だよ。そこで俺の両親が今死にかけてる。もしかしたら死んでるかもしれない。だから確認しに行く必要がある。まだ、生きているのなら助けたい。」
「えっと…それは病気とかそういった類でしょうか。」
「いや?魔物と戦ってるんだよ。場所はクゴジ村付近の森、そこで俺の両親がAランクの魔物数十体と戦ってる。」
俺のその言葉に王女だけでなく王様やその配下複数人が絶句していた。
他の連中はすぐには分からなかったようだが次第に理解していきこの場は静寂に包まれる。
さて、お前らが俺になにをしたのか、それがどんな意味を持つのか分かったようだな。
Aランクの魔物は一体だけでも街を一つ壊滅させられるほど強い。
そんな魔物数十体と戦っている時に勇者を強制的に呼び出したのだ。当然そのあと起こる結末は
「ラック様…誠に申し訳ございませんでした。」
王女が青ざめた表情でいう。それに対し俺は
「もういいよ。それで、俺を送り返すことはできるの?できないの?」
冷めた表情で返す。
謝罪なんて必要ない。コイツらが俺にした事はそんな事じゃ絶対に許されない。
「結論から申しますと、送り返すことは不可能です。そもそもこの転移魔法陣は起動に膨大な魔力を必要とします。どれくらいかと申しますと、聖ウドゲレサク王国の全住民一ヶ月分の魔力が必要になります。そして、この魔法陣は私達が作り出したものではないので呼び出す以外の使い方がわからないのです。」
送り返すことはできないのか…まぁ、始めから期待してなかったけど。それよりも気になるのは最後に言ったことだ。
「アンタらが作ったんじゃないならこの魔法陣は誰が作ったんだ。」
「神です。」
「…本気で言っているのか?本気で神が作ったなんて言ったのか?」
「はい。」
嘘だろ?神が作った?そんな馬鹿げた話があるかよ。なぁ、コレは
…本当です。この魔法陣は神によって製作されました。
それを信じろってか?それじゃあもしかしてお前も
…はい。神によって製作されました。
てことはよ、俺は神のお陰で生き延びることができて、神のせいで家族を失ったってのか?
…まだご両親を失ったとは言い切れま
言い切れる!幾ら俺の両親が凄腕の冒険者だからといってあの場を生きて帰れるわけがない。それはお前なら分かっているはずだ!
…
俺がここに転移させられてからどうしてすぐに暴れ出さなか、お前に分かるか?
…周囲に大勢の人間がいたからではないかと
違う!俺は転移させられた瞬間、諦めちまったんだよ。今からどんな手段を使って戻ろうと、もう父さんと母さんを助けることはできないってな。
だからさっき送り返すことはできないって言われても落ち着いていられたんだ。
…諦めてからはよ、辛いはずなのに涙が出ない、どこか冷めた俺がいるんだ。おかしいよな?
胸を抉るような喪失感があるのに、頭の中では常にどうやってこの場を切り抜けるか考えているんだぜ?
「勇者様、この度は本当に申し訳ないことをしました。」
王女が再び深く礼をする。
はぁ…もうどうでもいい
「送り返せないならいい。俺も魔王討伐の旅に参加する。」
「本当ですか!勇者様!」
「ああ。」
「ありがとうございます!これで全員の勇者様が魔王討伐の旅に出ることになりましたね。それではこれから…」
この後俺たちは王族主催のパーティーに参加した。次から次へと来る貴族と表面上は友好的に接しながら、本来なら一生口にすることもできないような食事も口にした。
他の勇者達は貴族達に煽てられて調子に乗っている者もいたが皆一様に楽しそうにしていた。
そんな中俺は一人でその場から抜け出してバルコニーから王都をぼんやりと眺める。
なぁ、俺はこれからどうすればいいと思う
…どうすれば、とは
そのまんまだ。俺は一人になった。俺の憧れだった二人はもうこの世にはいない。
いつか冒険者としての実力で追い越して、世界でも一流の冒険者になる。それが俺の人生の目標だった。
それで、将来的に結婚して嫁と子供も俺の家族と一緒に冒険する。そんな未来を見たかったのに。
俺の頬を一筋の滴が伝い、バルコニーの手すりに落ちる
このまま生きてても意味があるのかな。俺にとって世界の人間なんてどうでもいい。別に人類が滅んだところで俺はなにも感じないだろう。
俺はただ、家族さえ笑顔でいてくれれば他はどうでも良かったんだ。それなのにこのまま生き続けてどうなるというんだ。
俺はバルコニーの下を見る。バルコニーから数十メートル下には硬いレンガの地面が広がっており、落ちたらひとたまりもないだろう
俺もあの時、一緒に死んでいたら
…それだけはダメだ!
え?
聖剣の激しい口調に俺は驚いて固まる
…お前の両親が最後に言ったことを忘れたのか?お前の両親はお前に生きていて欲しいから魔物の大軍に正面から挑むっていう無謀なことをしたんだ。
…お前は、両親が繋いでくれた命を捨てる気か?
その言葉に俺ははっとさせられる
そんな俺に気付いてないのか、それとも気付いた上で無視しているのか聖剣はそのまま話し続ける
…人生の目標が見つからないならまずはクゴジ村に行けばいい。
なんでクゴジ村に?
…墓ぐらい作ってやれよ。
っ!ああ、そうだな。確かに墓ぐらい作ってやらないと父さんと母さんが安心して眠れねぇからな。死ぬのはその後でもできる。
ありがとな、お前が教えてくれなかったら俺は…そのことを思い出せずに自殺していたかもしれない。本当にありがとう。
…いいえ、当然のことをしたまでです。
聖剣の口調が元の無機質なものに戻る。
なぁ、お前は…
そこまで言おうとしてあることに気付く
なぁ、お前に名前はあるのか?世界的に有名な魔剣とかそういうのにはいつも名前があるからな。もし名前があるならそっちで呼ぶよ。いつまでもお前呼びじゃあやだろ。
…私に名はありません。もしよろしければお好きなように名前をつけてくださってかまいません
そうか?ならお前の名はアモルファス、聖剣アモルファスだ。
…分かりました。これより私の名は聖剣アモルファス。それでは改めまして。ラック様、これから貴方様に死が訪れる日までよろしくお願いします。
ああ、よろしくな!
この日、俺は聖剣を手にして勇者となった。
聖剣アモルファス 契約者ラック
形状:プレーン
シンクロ率38%
・聖剣コードー無限刃ー
・聖剣コードー???ー
・聖剣コードー???ー
聖剣??? 契約者レッカ
形状:ガントレット
シンクロ率4%
・聖剣
詳細不明
製作者 神
・魔剣
通常の剣にさまざまな魔法的効果を付与したもの。剣の素材によって付与しやすい魔法の効果も変化し、中には初めから魔法の効果が付与されたものもある。
基本的には元から付与されていた魔法効果の方が凄まじく、後から付与したものの数倍から数十倍の効果を発揮する。
ただし、魔剣の生成は非常に難しいため、上級鍛治師、もしくは一部の中級鍛治師しか作る事ができない。