滅びる世界と勇者達
今より百年前、魔王軍率いる魔物の軍勢によって人類は滅亡寸前まで追い込まれた。
そんな時、天より神が現れ7人の若者に黄金の輝きを放つ剣を与えた。
その剣は所有者に人類を大きく逸脱する身体能力の向上と、所有者ごとに全く異なる特殊能力(権能)をもたらした。
神よりもたらされたその剣は聖剣と呼ばれ、聖剣を保持している若者達を人類は勇者と呼んだ。
聖剣の力は凄まじく7人の勇者達は次々に魔王軍を蹴散らしていき、ついには魔王を打ち倒す一歩手前まで追い詰めた。
しかし、聖剣の力を持ってしても勇者達は魔王を打ち倒すことが出来なかった。
そこで勇者達は自らの命と引き換えに魔王を永遠に封印することにした。
魔王は逃げ出そうとしたがかなわず、勇者達によって永遠に封印され、魔物達の活性化は収まり、世界に平和が訪れた。
この世界、再生した世界に生きる者なら大人から子供まで誰もが知っている話だ。
勇者のお陰でこの世界に平和が訪れたのだと誰もが信じて暮らしている。
ここで一度、ハッキリと言っておこう。
これは嘘偽りに満ちた偽勇者物語であると
これから俺が語るのは真の勇者達の物語。当時の俺達が何をして、どうしてこうなってしまったのか、その全てを語ろう。
俺の名前はラック。今年で十五歳になる。俺の父と母は魔物達を駆除する事で金を得る仕事、冒険者を生業としており、冒険者の中でもトップクラスの実力を持つものだけに与えられる異名まで持っている凄い両親だ。
そんな父と母に憧れた俺も強い冒険者になりたいと思い、父と母の旅について周り、冒険者の仕事がない日には魔物との戦い方を教えてもらうという平和な暮らしを送っていた。
それがなぜ、こうなってしまったのか。それは1時間前に遡る。
俺たちの家族は数ヶ月前から活発になってきた魔物達の生態調査の依頼を受けて、クゴジ村へと来ていた。
このクゴジ村は世界の中でも特に魔物が活発だと言われている魔大陸の中央に存在する。
調査自体は順調だった。気配を消して、森の中にいる魔物の数や種類を数え、以前までの記録と比較して資料を作る。
ここまで終わっておりあとは帰るのみで俺たちは村の中でのんびりとしていた。
そんな時だった
ドゴォォン!
突然、大きな爆発するような音が鳴り響き、それと同時に空が暗雲に覆われた。
初めてのことに俺は驚き、咄嗟に立ち上がって腰につけた剣に手をかけいた。
しばらくそうしてながら空を見上げていると、暗雲に巨大な人型の姿が映し出された。
しかし、その人型の額から二本の禍々しいオーラを放つ、鋭く太いツノが生えており、背中には全てを闇で包み込んでしまいそうな、漆黒の翼が広げられていた。
目で見るのは初めてだったが、俺はそれが何なのかすぐに分かった。
「魔族ね…」
母が小さく呟く。
魔族は人間に似た外見をしているが中身は全く違い、その全てが魔力で構成された生物だ。
なぜなのかは分からないが遥か昔から人類と魔族は対立し続けている。
そんな魔族が一体どういうつもりでこんなことをするのか。
空に映し出された魔族は静かに、厳かな声音で話し始める
「全ての人間どもに告げる。我は新たに魔王となったラッド・グレイズィアである。既に分かっているだろうが魔物達が近頃活発化し出したのも、我が魔王として世界に認められたからだ。
それでは本題に入るとしよう。我から貴様ら人間に告げることはただ一つ。我が魔王となったからには貴様ら人類の未来はないと思え。一匹残さず殺し尽くし、滅ぼしてやる。」
それだけ言い残すと光は消え去った。