122話「N524」 最終話
スゥ
強制ログアウトされて意識が浮上しはじめる。
ボコボコボコッ
液体の中で視界は悪い。
≪培養液排出≫
ジャァア
目の前の液体が無くなっていき視界がクリアになっていく。
≪気管チューブ及び排泄チューブをパージ≫
ゴボッ
肺にまで差し込まれた太い管が引き抜かれる。
「うぉえっ」
≪ヘンドリックス様、今しばらくお待ちください。リングをパージしていきます≫
パシュッ
頭に嵌っていた脳波解析装置が引き抜かれてようやく動かせるようになる。
≪培養カプセルを出て真っすぐにソニックバスがあります。体中に付着した培養液を払い落してから出てきてください≫
ガバッ
カプセルの蓋が自動的に開く。
ペタッ
ガクンッ
一歩前に足をだしたが、力が入らず地面に両手をつく。
≪約20年もフルダイブしていた為に全体的な筋力は低下しております。ゆっくりと準備をしてください≫
「あぁ」
地べたに座り足を揉み解していく。
グッ
30分掛けて手足を使ってソニックバスに入る。
ピッ
シュンッ
さっきまで居た世界ではお湯を使って体を洗っていたが、私の居る惑星では非常に細かい衝撃が体中を打ち汚れなどを瞬時に落とす技術を持つ。
宇宙空間では水は大変貴重な物でシャワーという前時代的で非効率な物は廃止されてしまっている。
ギッ
20年も動かしていない体をこれ以上は動かせず、電動車椅子へと乗る事にした。
ウィイイイ
非常に小さなモーター音が鳴り、部屋の外へと続く扉へ進む。
パシュッ
空気の抜けるような音と共に扉が開く。
≪おはようございます。ヘンドリックス様≫
「おはよう、アイ」
ずっと話しかけてくるのはこの惑星を統括管理している超高性能人口知能システム〖アイ〗である。
皆から愛して欲しいという意味も込められるとか・・・
≪シミュレーション「アース〔セカンドライフ2.0]」は如何だったでしょうか?≫
「私がいままで感じたことのない新鮮な体験が幾つも出来たよ」
≪それは何よりです。この惑星N524にとって人類達に喜ばれる事こそが私どもAIにとっての存在意義です≫
「私を呼び起こした理由が聞きたいのだが?」
≪数百年ぶりにN524に来訪者が訪れました。ヘンドリックス様に続いてこれで4回目となります≫
私は元からN524惑星に最初から住んでいる訳ではなかった・・・ここから数百光年も離れている惑星出身で何不自由なく暮らす事が出来た・・・
これは私の怠慢なのだろう、不自由が無さすぎて人生に飽き始めてしまったのだ。
そこで人類発祥の星と呼ばれるアースの体験が出来るという噂を聞いてやってきた。
アイと契約を交わして、二度と惑星から出られない代わりにアース〔セカンドライフ2.0]の世界に入る権利を得た。
あくまでもN524惑星は人類を絶やさない為に作られた機械仕掛けの星で、何千万と言う人類が私の入っていた培養カプセル内で生き、アース〔セカンドライフ2.0]の世界で生涯を終える。
全てが人工知能が管理しているため、ここ数千年は維持し続けているらしい。
私が定住者になる条件の一つとして外部からやってくる訪問者の相手をする事が含まれている。
「私は何年眠っていたのだ?」
≪約18年と9ヵ月程です≫
「今年で573歳になった訳か」
≪第五世代人類は長寿ですね・・・ここに居る第二世代人類では150歳まで生きられるか≫
「長寿というのもな」
≪第一世代人類達が聞いたら激怒しますよ≫
「もう居ない人類の話ではないか?」
第一世代人類とはアースから移住してきた人類だ。
長い宇宙航行に耐えられるように自らの体を改良し続けた。
その結果が第二世代人類だった。
その後も人類達は自身の改良をし続けた結果、第五世代人類が誕生した。
寿命約1000歳・病気にならない・老化しづらい人類が私という事だ・・・
≪しばらくの間、モニターしていましたが印象が大分違いますね≫
「記憶を持ったままの状態で精神年齢を下げたからだろう?」
大昔の私は今とでは性格が違うのだから。
≪人類とは不思議な生き物ですね。私には理解不能です≫
「あの状態からの復帰は?」
≪申し訳ございません。強制ログアウトの影響でアバターは消滅いたしました≫
今からあの時代にダイブしなおしても戻れないと言われる。
「残念だ」
≪訪問者の待つ部屋に到着しました≫
「一体誰が来たのだ・・・こんな辺境の星に」
≪2人組の男女ですね。男がアオイ様、女がスターニア様と名乗られています。アースに関する情報が欲しいと仰られています≫
「私を起こす程のレベルなのか?」
≪どんな状況でも来訪者の相手をすると契約書にサインをしましたよね?≫
「冗談だ」
パシュッ
扉が開いて私は中へと入る。
質素な部屋に2人の男女が座って待っていた。
「待たせてしまったようだな?」
『突然の訪問をしてしまったのは俺達の方だ。そちらには非がない』
『唐突に来てしまってぇ申し訳ありません』
目の前に座っていた男女が軽く頭を下げて謝罪をする。
「この星に何用か?」
『まず自己紹介をしたい。方舟オーナーのアオイと言う』
『医療スタッフのスターニアです。よろしくお願いしますねぇ』
「アオイさんとスターニアさんだな。私はこのN524惑星の代表みたいな者だ。名前はヘンドリックスという」
「早速なんだが、地球についてこの惑星は詳しいという噂があって来たのだが」
「地球か」
「何か?」
「いや、普通はアースと呼称するからな。日本語呼びとは珍しいと」
「日本語を知っているのか?」
「日本語もこの惑星では翻訳可能な言語である」
私はこの星の存在について2人に話した。
「地球そのものをシミュレーションできるシステムを構築して人の精神をシステム内で生かすだと」
「超大規模なシミュレーション計画もあった物ですねぇ」
「人類を絶やさない為の処置と聞きおよんでいる」
「つまりヘンドリックスさんはコノ惑星代表ですが実態は知らないのですかぁ?」
「正直の所、私も把握しかねる部分が多数存在するのも事実だ。あくまでもこの星にある地球の情報とはシミュレーションで作られた偽物の情報だ」
「地球の位置とかは」
≪ありません≫
「今の音声は?」
「このN524惑星の統括人口知能アイだ。私なんかより地球に詳しいAIだな」
≪地球についての所在などはこの星には存在しません。シミュレーションで使われた地球のベースであれば譲渡可能です≫
「それだけでも頂きますか?」
「そうだな・・・ここに来るまで根も葉もない記録しか手に入らなかったのだし」
パシュッ
机の隅からHHDDが出された。
≪地球のあらゆるデータが保存された媒体です≫
「ご協力感謝します」
「ここに来た理由が地球について・・・だけでは無さそうだな」
「そう言えば理由はまだでしたねぇ」
「俺達は地球へ向かっている途中なんだ」
「地球へ向かう? あると思っているのか? ハハッ」
地球は既に消滅していると聞いた覚えがある、それを探す2人に笑ってしまう。
「失礼・・・実際に見たことも無い人間が笑っていい話ではなかったな」
「いや」
「荒唐無稽な話ですからねぇ。気にしなくても大丈夫ですよぉ」
「では、失礼する」
「有難うございましたぁ」
アオイとスターニアはHHDDを手に取るとこの星を去っていった。
「ふぅ」
≪お疲れ様です。ヘンドリックス様≫
「これも私の仕事だからな」
寿命があるとはいえ長い時間を過ごす事になる第五世代人類がぶつかる最初の難関は人生を如何にして過ごすかである。
100歳まではみんな普通に過ごせるが・・・200歳までに大体の人間は虚脱感に見舞われてしまう事が多い・・・周囲になんの興味が無くなってしまうからだ。
それに嫌気がさした私は長い年月をかけてこのN524惑星を見つけた。
交換条件を提示してこの星の住民になる事で何回もの人生をシミュレーションの中で体験し擦れていく精神を回復する。
≪ヘンドリックス様、次の人生はいかが致しましょうか?≫
これにて「ボッチから始まる不死王<~最強のスケルトン軍を目指して~>」は終了いたします。
ここまで、読んでくださった方楽しんで頂けましたでしょうか?
素人作品で拙い部分もあると思いますが長いお付き合いありがとうございました。
さて、急に現れた新設定に驚かれたでしょう。
そう、何を隠そうリアルという世界もまたシミュレーション「アース〔セカンドライフ2.0]」という世界でした。
その世界で主人公ヘンドリックスは日本人男性として生まれて約18年間をフルダイブし続けました。
更にその世界で作られたVRMMO「フリースタイルオンライン」で遊んでいたというお話だった訳ですね。
シミュレーション世界で作られたVRMMOという二重構造だったという落ちでした。
・アース〔セカンドライフ2.0]とは
人類滅亡を防ぐために作られ地球を模したシミュレーション世界に数千万人の第二世代人類をダイブさせてあたかも地球で生きている様に見せかけています。
そこで発生した事実は全てカプセル内にいる本人へと返ってきます。
死亡すればショック死になりますし、シミュレーション世界内で子供を作れば人工知能達が外側で働き人工授精から人口出産までさせます。
そして新たに生まれた命も一次的に育てられ自我が芽生える前にフルダイブさせられるので基本的に現実で活動する人は居ません。