115話「秘宝奪還①」
『よし、通れ』
帝都の門番に冒険者ギルドカードを提示して難なく入る事が出来た。
「堂々としてりゃぁ、楽勝だなぁ」
「そうスラね」
「後は、あそこにどうやって入るかだな」
「あの中にあるようですね」
巨大な城を見上げる。
「何処からか入れる場所があるだろう」
「しちめんどくせぇなぁ、正面突破しようぜ」
「早まるな」
「だいたい人魚の涙はリヴァイアの物なんだろ? つまり盗んだのは人間の連中で俺様達ぁは取り返しに来たんだぜぇ?」
「一理あるか」
リヴァイアは魔王と勘違いされて倒された・・・人間を攻撃して返り討ちにあったのであれば仕方がない事だと理解できる。
あのAIが無暗に攻撃をするとは思えないな。
「で、どぉするんだ?」
「ハデスさん?」
「やってみるか」
「おっしゃ!」
「ついていくスラよ」
俺達は城の正門へと向かった。
『止まれ、ここは貴族用の門である』
『一般人はアチラに行け』
門番には2人いた。
どうやら平民と貴族では入り口が違った様だ。
「なら合っているな」
「合っているスラね」
俺とグラトニーは爵位持っている。
ヴォルフやリリは従者という事で問題ない。
「魔族国が五天侯爵の一人ハデス」
「同じく西端辺境伯のグラトニースラ」
「ここに魔大陸の宝である人魚の涙があると聞き取り戻しに来た」
・・・
・・・・・・
『『アハハハハッ!』』
2人は同時に笑った。
『魔族の貴族様であられるか!』
『もっとマシな嘘をつくんだな。平民はアッチから入れ』
どうやら俺達が嘘をついていると誤解している。
ギィッ
『どうかされましたか?』
そこに一台の馬車が横にとまった。
サッ
門番の2人は片膝をついた。
『いえ、ナタリア第一王女殿下。問題ありません』
『政務お疲れ様です』
豪華で大きな馬車、数々の装飾が施されて大きく文様が描かれている。それは城の至る所に飾られている文様と同じだ。
馬車の窓から金髪碧眼の14~15歳の少女が顔を覗かせていた。
『ほら、平民風情が頭が高いぞ』
『平伏するんだ』
俺達が立ちっぱなしだった事に気づいた2人が平伏する様に促す。
ニィッ
俺とヴォルフが笑った。
考える事は同じだったようだ。
「うぉらぁあ!」
バキッ
馬車の下の部分に指を突っ込んだ。
部分的に人化を解除すれば木だろうが貫通する。
「ダラァアアッ!」
バキバキバキバキッ
ヴォルフはジャンプする勢いで馬車の上部分をゴッソリ持って城内部へと跳んでいった。
『キャアアアアア!』
中から悲鳴が響き渡る。
「失礼するぞ」
吹き曝しになった馬車へと登る。
【ナタリア(Lv5)】
【アナスタシア(Lv40)】
ほぅ?
メイド服を着ているのは侍女だと思うが、レベルがかなり高い。
「お前、なんていう事を!」
チャッ
突然の行動にアナスタシアはスカートから短剣を取り出す。
「反逆罪で刑は免れないぞ!」
「遅い!」
ガシッ
短剣を持つ手首を持ち、腰の回転を利用して外の門番に向けて投げる。
『『ガハッ!』』
「ぐぅ!』
「アナスタシア!」
「人質になってもらいましょうか姫様」
グイッ
震えるナタリア王女の首に腕を回して引き寄せる。
『キャアアア!』
「お前、その方が誰だか分かっているのか!」
門番の持っていた直剣を片手に構える。
「この国の王女、人質にはもってこいな人物だな」
「こんな事してタダで済むと思っているのか!」
「無血で終わるならと思っての行動なんだかな」
「ハデスさん、それは無理スラ。絵面が犯罪者レベルスラよ」
「まぁ、そうだよな」
「君たちも仲間なら止めないのか!」
「あ、無理スラ」
「はい」
グラトニーとリリが即答する。
スタッ
「ふぃいい、飛びすぎちまったぜぇ」
馬車の上部分ごと城の敷地内へと入っていったヴォルフが戻ってきた。
「なっ!? ワーウルフだと!!」
「ヴォルフ、人化が解けているぞ?」
「おりょ、なんでだ?」
「きっと人魚の涙を動力源にしているのですね」
王都の結界が帝都にもあるという事か・・・一つの力だと城のみしか効果範囲が伸ばせないわけか。
「まさか、お前たちは魔族なのか!?」
俺達の会話を聞いてアナスタシアが察した。
「まぁ、そういう事だ魔大陸の秘宝を返しにもらいに来たんだ。さぁ、この王女様がどうなっても良いなら剣を捨てて下がれ」
「くっ」
カラァンッ
ザザッ
アナスタシアは剣を地面に捨てて王城へ向かって下がる。
「行くぞ」
「このナタリア・フォールン・テンペストは魔族の方に屈したりしません」
「少し黙っててくれ」
ナタリアを人質に取って王城へと進む。
もちろん門前で騒ぎを起こしているもんだから常駐兵が集まってきている。
ブワッ
城の敷地内に入った瞬間、何かがはぎ取られた感覚が襲った。
「なるほど、こういう事か」
「きゃあああああ!」
ナタリアが悲鳴をあげて気絶した。
何も知らない少女が突然至近距離でスケルトンキングを見たらな。
ザワザワザワザワッ
俺達の変化を見て兵士たちが驚き騒めく。
『狼狽えるな!』
そこに一人の男が現れた。
『ここはテンペスト帝国の王城であろう。胸を張り王女殿下を助けだすのが我らの役目ではないか!』
浮足立っている兵士たちに喝を入れる。
【ベルトライト(Lv53)】
「剣聖殿すまない。私が付いていながら」
アナスタシアがすまなそうに声を掛けている。
「貴殿ともあろう方がとんだ失態だな。だが、私が来たからにはもう大丈夫だ」
「この汚名は必ず返上する」
どうやらベルトライトという男は剣聖という地位にいる設定なんだろうな。
チャッ
普通の直剣がオモチャに見えるくらい豪奢な剣を抜くベルトライト。
「旦那ぁ、やる気だぜぇ」
「ベルトライトとやら。このまま闘いを始めたら死者が出るかもしれないぞ?」
「なぜ、私の名前を・・・魔眼の一種か?」
まぁ簡易表示はそう思われても仕方がないよな。
「しかし、国を守ると誓った私が魔族如きに後れを取る訳にはいかぬ」
「剣聖殿お供します」
アナスタシアとベルトライトが互いに背中を預けて剣を構える。
美男美女が互いの背を預けて武器を構える・・・良い絵ではあるな。
「顕現:スケルトンドラゴン」
虚空の中から骨のドラゴンを呼び出す。
「アンデットブレス」
ブシャァアッ
無慈悲の一撃を王城前に放たせる。
「キュアポイズンエリア!」
直撃前にアナスタシアが毒の防御結界を張った。
『ぐあぁあああ!』
『なんだ、これわぁあ』
毒に耐性の無い兵士たちがバタバタと倒れていく。
「ひでぇな」
「僕たちの出番がないスラよ」
「ハデス様、容赦が一切ありませんね?」
「否定はしない」
ヒュォオ
風が吹き毒の煙が流されていく。
数十人と居た兵士たちが地に倒れ伏して死亡している。
生き残ったのは結界内に居たアナスタシアとベルトライトに運よく近くにいた兵士数名程度。
「さて、これでも戦いを続けると?」
「卑怯な真似を」
「コチラは戦う意思は無かったぞ? そちらが退かない姿勢を見せるからそうなっただけだ。続けるか?」
「アナスタシア」
「はい」
アナスタシアが左に嵌めていた手袋をベルトライトに渡す。
パッ
「貴殿に決闘を」
「おぉっと! 俺様が受けるぜぇ」
パシッ
投げられた手袋はヴォルフが受け取った。
「旦那にだけ出番を持ってかれたくないからなぁ」
「神聖な決闘をよくも」
アナスタシアが怒りに震えている。
「俺達は魔族だぜぇ! 卑怯も神聖もねぇの。それとも騎士道精神とやらを破って旦那に攻撃するかい?」
「このパーティー、下衆いスラね」
「否定はしません」
「ヴォルフ、任せるが良いか?」
「おうよ」
「行かせるか」
進行方向にアナスタシアが立ちふさがる。
「私がアナタと決闘を」
残っていた右の手袋を投げる。
「僕が受けるスラ!」
バクンッ
ピョンピョンと跳ねて手袋を食べるグラトニー。
「暇だったスラからね。お姉さん遊ぶスラ」
「くっ、またしても。まずはお前を倒す」
「姉御、先に行け」
「すぐに追いつくスラ」
「じゃ、任せた。行くぞリリ」
「はい」
俺とリリは王城の中へと入っていく。