108話「決闘?」
約束の3時間が過ぎて俺達は闘技場へと足を運んだ。
ワァアアアア
「満員御礼ってやつだな」
「娯楽だからスラ」
どこから聞きつけたのか闘技場の周りにある観客席には様々な魔族達が集まっている。
「すまないな。何処からか漏れてしまった様だ」
シモンが申し訳ない顔をする。
「おおかた、アッチの仕業だろう」
城下町を散策している時にチラホラとその噂が流れてきていたのは知っていた。
【五天侯爵の一人ハデスVSレーイド伯爵】と横断幕すらあった。
「あ~、皆の者聞こえるか」
風魔法で拡声された魔王イヴが喋り始めると魔族達は静かになっていく。
「此度の戦いは妾も許可をだしておる。互いの爵位を賭けた戦いである」
ウォオオオオオオオ!
声の振動が会場中を振るわせる。
「このイヴ・ヴァレンタインが立会人じゃ。見届け人は魔王陸軍軍団長のシモン殿にお願いしている」
ワァアアアアッ
「良き戦いを期待しておるぞ」
「では、両者舞台に上がられよ」
ズラッ
直径200mの巨大な闘技場に俺達に対してレーイド側は屈強な魔族達が50人程いる。
「私の所有する兵団です。なんでもアリというルールはそちらが提示した物ですから。卑怯とはいいませんよね?」
本人は闘技場の外で高笑いしている。
「お前自身は戦わないという事か?」
「貴様如き私兵団で十分ですよ」
確かに平均レベル50越えの猛者達ばかりだ。
「どうするスラか?」
「問題ない。いいのか自分の人生を他人にゆだねる事になるぞ? 途中参加しても良いが覚悟する事になるぞ」
「くっ・・・アレを出しなさい!」
レーイド側の入り口から巨大生物が出てきた。
「トロルキングか」
「これは私が独自で手に入れた奥の手です。コイツに叩き潰されたくなければ負けを認めなさい」
「奥の手を出しちゃったスラよ?」
グラトニーが呆れ声で言う。
「それでも構わないからさっさとやるぞ。時間の無駄だ」
「ぐぬぬっ、後悔するがいいでしょう!」
ズシンッズシンッ
トロルキングを前面に押し出して、周囲から私兵団で叩く戦術のようだな。
「魔力結界を張るぞ」
ブッゥウウンッ
闘技場を包み込むように結界が張り巡らされた。
これで観客席側からちょっかいは出せなくなった。
それは闘技場内にいる俺達や奴らは逃げも隠れも出来ない状態となる。
「結界の範囲は広いな」
直径200mの闘技場を覆うように高さも200m程あるようだ。空に飛ぶことも出来る広さを持っている。
「それでは、始めよ」
シモンの言葉にトロルキングと私兵団が走り寄ってくる。
「顕現:スケルトンドラゴン」
ブワッ
俺の背後で5つの異空間が開く。
ズンッ
ズンッ
体長10mのスケルトンドラゴンが5体現れる。
ピタッ
走り寄ってきた面々が一斉に足を止めた。
「アンデットブレス」
ゴバァアアアッ
紫色の煙を前方に向けて放つ。
『ぐあぁあああ』
『バカなぁあ』
煙の中では阿鼻叫喚が始まった。
ブルォオアアアア
モアァッ
トロルキングがもがき苦しみながら突っ込んできた。
「やれ」
ガシッ
トロルキングを1体のスケルトンドラゴンが抑え込み空いているスペースへと誘導する。
ガアアアァッ
5体のスケルトンドラゴンの餌食になるトロルキングを横目にアンデットブレスを受けた連中を見に行く。
「僕も生物だから外で待ってるスラ」
「そうだな」
ズルッ
グラトニーが鎧から降りていく。
モワッ
結界で風も吹かない舞台上ではブレスの煙が停滞している。
ブクブクブクッ
殆どの魔族達が泡を吹いて倒れ伏している。
毒に耐性を持っていない魔族が何人か死んでいるが魔大陸の厳しさは死すら許容範囲だ。
「ダークボール」
ドォンッ
爆風で停滞している煙を吹き飛ばし霧散させる。
「ほぅ」
猛毒状態になっても1人だけ根性のある魔族が立っていた。
【サイクロプス(Lv61)】
トロルキングよりかは小さいが俺と同じくらいの身長をしている魔族だ。
一つ目が特徴で筋肉質の体格で膂力もある。
武器は極太のこん棒だ。
『オデ、死にダグナイ』
戦う意思はもう無いらしい。
「拾ってやった恩を仇で返すつもりですか!」
結界の外でレイードが叫んでいる。
『もう、イヤだ。ゴロズのも仲間がジヌノヲ見るのも』
「命令を聞けと言っていますよ!」
パァアッ
『ウガァアアア!』
レイードが道具を使うとサイクロプスの首輪に変化が起こった。
「死にたくなければ戦いなさい! アナタは私がそう教えたんですから」
『ウガァアアアア!』
ブゥンブゥンッ
左手で首輪を抑えながら極太のこん棒を振り回して俺に立ち向かう。
ガキッ
盾でこん棒を受け止める。
グイッ
ドゴッ
サイクロプスの衣服を掴んで地面に叩きつける。
『ガハッ!』
「もう眠れ」
ガシッ
サイクロプスの首輪に触れる。
「風化」
レベル75の時に覚えられるスキルを発動する。
ザァアアアアッ
首輪が急速に劣化していき砂鉄へと姿を変える。
「私の駒に何をするんですか!」
「外で偉そうにしている奴が何を言うんだ?」
「結界があるんです。私には一切触れられないのですよ」
「シャドウワープ」
フッ
サイクロプスの影からレイードの影へと移動する。
「結界がなんだって?」
「結界を潜り抜けた!?」
「なんでもアリのルールだ。結界の外も戦闘地域だと思わなかったか?」
ガシッ
レイードの首を持ち引き上げる。
「あの結界は観客へ被害が出ない為の物だ。お前を守るための物ではない」
「ひぃいい!」
「ゲート」
ブゥウンッ
シャドウワープではレイードと一緒には跳べない。
一度ゲートで結界内へと繋げる。
ブンッ
ゲートへと押し込み闘技場へと入れる。
「グラトニー抑え込め」
「了解すら」
結界内で待機していたグラトニーがレイードの体にまとわりつく。
「重いっ」
「スライム如きを跳ね除けられないのか?」
「僕を笑った罰スラね」
「クソッ、こんな筈では!」
「さて、お楽しみの時間だ」
ダークホールから一つのアイテムを取り出す。
ウネウネウネッ
「そ、それは!?」
「やはり知っているか? コイツをどうすると思う?」
ググッ
レイードに近づける。
「止めてくれ! やめるんだ!!」
「止める? どうしたら止まると思う?」
「私の負けだ! 負けでいい!!」
「そこまで勝者五天侯爵のハデス」
シモンの宣言によって決闘は幕を閉じた。
「魔王イヴの名においてレイードの爵位は妾の元へ返納されるのじゃ」
シュゥウウウ
薄っすらとレイードの体から白い煙が放たれてイヴの方に流れていった。
「レイードよ。一から出直すが良い」
バサッ
イヴは踵を返して観戦席から退場した。
これが弱肉強食の魔大陸の在り方の一つなのだろう。
「おのれ、おのれぇええ」
レイードは悔しく叫び続ける。
俺達も退場していく。
「フレンド登録をしてスラ」
「あぁ」
グラトニーと俺はフレンド交換をする。
「ゲート」
魔都の外でゲートを開いて俺の支配領域へと繋げる。
「ぁあああああああ!」
俺の背後からレイードが狂ったように叫び襲い掛かってきた。
「危ないスラっ!」
ブワッ
グラトニーがレイードの体を包み込む。
「吸喰」
ガボガボガボガボッ
グラトニーの下敷きになっているレイードが暴れていたが動かなくなっていった。
「その力は?」
「これが僕の種族スキル:吸喰スラよ。僕の支配地域はこの力で飲み込んでしまったスラね」
あの広い地域を飲み込んだ・・・それって誰よりも大きい存在という事になる。
サイズ調整のスキル持ちでもあるのか。
「僕の本当の種族はグラトニースライムスラよ。今はサイズ調整スキルで小さな体にしているスラね」
「そうか」
「また会える事を祈ってるスラね」
「あぁ。またな」
「バイバイスラ」
器用にスライム体を動かして手を作り出して振っている。
たぶん俺より強い種族なんだろうな。
聖大陸にいっちゃダメな気がする。