104話「冒険者ギルド」
ガヤガヤガヤッ
老若男女の冒険者らしきNPC達が椅子に座ったり掲示板を見たりしたりしている。
俺達が入り、視線が一瞬だけこちらに向いて戻る。
スッ
俺よりデカい図体の男冒険者が道をふさぐ。
「これは?」
「始めての冒険者ギルドあるあるよね」
「新人潰しっすか」
「様子を見るのである」
俺の後ろでワクワクしている様子が伝わってきた。
『あんたら、ここには何用だ? 見た所冒険者には見えないが』
「モンスターの素材を売りに来たんだ」
『ほぅ』
スッ
男は俺の持つ麻袋を掴もうと腕を上げる。
サッ
麻袋を後ろにいたラストに渡す。
「横取りする気か?」
『俺が見定めてやろうと思ってよぉ。アンタ等は見ねぇ顔だからよぉ』
チラッとラストの胸元をみる男冒険者・・・NPCなのに人間の動きを本当に再現している。
「結構だ」
『強気な兄ぃちゃんは嫌いじゃねえぜ』
男はニヤッと笑う。
「そこを退いてくれないか?」
『力ずくでならいいぜ。やれるもんだったらな』
男は俺が非力な優男だと思って笑う。
「そうか! フンッ!!」
ズダァンッ
『ぐはっ』
俺は男の防具を掴み、近くの床に投げ飛ばす。
パンパンッ
手を払い汚れを落とす。
『いててっ、テメェ!』
男は驚きつつも立ち上がる。
スッ
「お前は負けた。これ以上は絡まないでくれないか?」
ラースが男に立ちふさがる。
『この木偶の棒が偉そうに』
ガシッ
『ぐぁ!』
ラースが片手で男の頭を鷲掴み持ち上げる。
ズンズンズンッ
ブッンッ
『うわぁああ』
男は豪快に投げられてギルドの外に飛んでいった。
「サンキュッ」
「うむ」
拳と拳を合わせる。
『うぉおお! やるじゃねぇか』
『あのCランク冒険者のラルフをあしらいやがったぜ』
『ヒュゥ♪ やるねぇ』
周囲で見ていたNPC冒険者達が騒ぐ。
ギィイッ
『テメェら、俺をコケにしやがって!!』
シャッ
ラルフと呼ばれたNPC冒険者が剣を抜いてギルドに入ってきた。
『おい、ラルフ』
『やりすぎだぞ!!』
『うるせえ!雑魚どもは黙っていやがれ』
ダッ
ラルフが剣を振り上げて近くにいたグリードに襲い掛かる。
スゥウ
グリードの狐目が開かれて紅く光る。
「争いは止めましょう?」
『あがっ!?』
ラルフの動きが止まった。
「アナタも悪気があって声を掛けて来た訳じゃないですよね?」
ピキピキピキッ
少しずつラルフの足先から石化し始める。
「こちらにも非がありますが、そちらは武器を抜いてしまった。その覚悟があるという事ですよね?」
口元は笑っているが目元は笑っていない。
『ヒッ、ヒィイイイ』
ラルフは恐怖に表情が歪んでいく。
「今ならお互いに水に流しましょう。それで良いですね?」
コクコクコクッ
汗を垂れ流すラルフが首を縦に振る。
「では行きなさい」
スゥッ
グリードの目が閉じて、ラルフの石化も止まる。
『ひえぇええ』
ラルフは叫び声をあげてギルドを出ていった。
「さて、換金しましょうか」
「あ、あぁ」
「ウチ、グリードさんを怒らせないようにするっす」
「そうね・・・」
「うむ」
「何か言いました?」
「何でもないっすよ」
「えぇ」
「問題ない」
「時間を食ってしまったな」
やっと受付カウンターへとやってくる。
今のやり取りをしていたのを見ていた受付嬢の表情は硬い。
『い、いらっしゃいませ。冒険者ギルドにはどのようなご用件ですか?』
「冒険者じゃないが、ここでモンスターの素材は売れるか?」
『は、はい。素材はその中ですか?』
「あぁ」
麻袋からグレートウルフの素材をカウンターに置く。
『え? え?え?』
受付嬢は素材と俺達を交互に見た。
『これは何処で手に入れたのですか?』
「近くの森で」
『しょ、少々お待ちください。ギルド長を呼んで』
受付嬢は近くのギルド員に声を掛ける。
なんでギルド長を呼ぶのだろうか。
『そちらの素材と皆さんは応接間に来てください』
なんだか大事になっていないか?
「ギルドあるあるその②っすね」
「ギルド長呼び出しと応接間に通されるパターンね」
「もっとグレードを落とした方がよかったようだ」
「そうですね」
俺達は受付嬢の案内で奥の部屋へ通された。
机と3人が座れる長いソファーだ。
「俺達は立っている」
「3人は座っていてください」
俺、ラスト、スロウスの3人はソファーに座らせてもらった。
ガチャッ
『こいつらが報告にあった連中か』
50代位でボサボサになっているグレーの髪、鼻頭に横線に刻まれた傷が歴戦の戦士を思わせるガッシリとした体格の男が現れた。
『ここのギルド長をやってるオウロって者だ。さっそくだが売りたい素材を見せてくれないか?』
「あぁ」
バサッ
カランッ
コロンッ
毛皮に牙と爪を机に取り出す。
「見させてもらうぞ」
「いいぞ」
ファサッ
「これは、確かに・・・これも本物のようだな」
ジックリと素材を見るオウロ。
「報告では近くの森でコレ等を手に入れたと言ったな?」
「あ、ぁあ」
「詳しく話を聞かせてくれ。どの辺の森なんだ?」
壁に掛けてあった周辺の地図を取り出した。
咄嗟に出た嘘が裏目に出た。
「あぁ、すみません。こちらの素材は別の場所の物です」
グリードが和らい声色で言う。
「はぁああ。なら良い。こいつはグレートウルフの毛皮だ・・・この近郊で目撃情報は無い。コイツが出て来たなんて事になったら腕利きの冒険者を集うしかない」
オウロは安堵した表情をする。
「こいつを何処で入手したかは聞かない。売ってくれるんだな?」
「買い取ってくれるのか?」
「これだけ上等な毛皮だ、綺麗に処理されているしな」
解体用ナイフで一発なんだがな・・・
「金貨20枚でどうだ?」
「20枚?」
「安いか? 22枚でどうだ?」
「オウロギルド長。これはその様な値段で取引される物でしょうか? 私の調べでは」
「えぇい。25枚だ。これ以上出せんぞ」
「わかりました。金貨25枚で良いでしょう」
グリードがサクッと交渉を終えてしまう。
「少し待て』
オウロは部屋を出て行ってしまった。
「何時の間に素材の値段を調べたんだ?」
「知りませんよ。最初、ハデスさんが聞き返したときに値上げをしましたね。アレはいくら出せるか予め決めておいて低く言っていたんですよ。だから口を挟みました」
「・・・交渉術の基本という奴なのだな?」
「伊達に営業もやっていませんからね。リアルのスキルが役に立ちました」
「製造業じゃなかったのか?」
「製造をやって売るのが仕事なんですよ。私は2つ掛け持ちしてますからね」
グリードのリアルは知らないが凄い人なんじゃないか?
ガチャッ
「金を持ってきたぞ」
ジャラッ
やはり魔大陸流通の金貨ではない金貨が出て来た。
「グレートウルフの毛皮を持っているって事は北からやってきたんだろう? 冒険者じゃないと言っていたが冒険者にならないか? これらもお前たちで狩ったんだろ?」
「メリットでもあるのか?」
「冒険者ギルドは全国にある。ギルドカードは身分証明書の代わりにもなるしな」
確かに身分証明書が無いのはダメか・・・ここの街に入るのも必要だった位だ。
今回は竜伯爵の付き人という事でスルーされたようだしな。
「わかった入ろう」
再び部屋を出ていき直ぐに戻ってきた。
ゴトッ
オウロが水晶玉らしき物を持ってきた。
「これが冒険者登録するアイテムだ。手を置けば勝手に登録してくれる」
「なるほど」
ウィンッ
手を置くとウィンドゥが立ち上がった。
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名前:ハデス
性別:男
種族:ヒューマン?(スケルトンキング)
年齢:??
職業:死霊術師
ランク:?
パーティ:----(--)
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種族は変更したいな。
ピピピッ
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名前:ハデス
性別:男
種族:ヒューマン
年齢:18
職業:死霊術師
ランク:?
パーティ:----(--)
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これで良いな。
「良いか?」
「あぁ」
カチッ
バシュッ
一枚のカードが取り出された。
「これがギルドカードだ」
銀色に輝くカードが渡された。
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名前:ハデス
性別:男
種族:ヒューマン
年齢:18
職業:死霊術師
ランク:B
パーティ:----(--)
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「ランクB?」
「グレートウルフを倒せる実力者なら当然の結果だ。他の連中も作るぞ」
ラース、ラスト、スロウス、グリードにも銀色のギルドカードを渡される。
「それじゃ買い取るな」
グレートウルフの素材を買い取ってもらい俺達はギルドを出ていき宿へと入る。
「今日はここまでにしましょう」
「そうっすね」
「六の街に向かう道を探しておきます」
「うむ」
「次の日曜日に」
俺達全員で行動する際には休みの日が被りやすい日曜日にログインしている。
その間ログインするのは勝手だが先に進む事だけはしないようにしている。