101話「アバタークリエイト」
≪ようこそ、アバタークリエイトの部屋へ≫
機械的な女性の声で俺の視界が開けた。
全方向を見渡しても真っ白な空間だった。
ここは、アバターを作り出したときと同じ部屋か?
≪種族スキル:人化が発動された事を確認。プレイヤー名:ハデスの人化が発動します。どの様なアバターにするか決めてください≫
そういうとスケルトンキングのアバターが目の前に現れた。
今はドラゴンボーン装備を身にまとっていて歴戦の戦士が白骨死体化したような姿を取っている。
≪生態認証からハデスのアバターは男性で固定化されます。更に現在の身体データからアバターへ反映します≫
シュォオオオオ
ドラゴンボーン装備が無くなり、骨から肉体が再生されていく。
「これが、ゲーム上のアバターか」
体もリアルの身長、体重、スタイルに寄せてきている。
ここまで来ると凄いと思うぞ。
≪ハデス様の好みでキャラクタークリエイトをしてください。特別に時間の流れを倍速してあります≫
ピッ
音声が消えて静粛が訪れる。
ピピピピッ
ウィンドウが次々に立ち上がり、目の前の身体データが現れる。
自分の体を鏡越し以外で見るなんてしないから少し恥ずかしさを覚える。
【髪型】黒髪で肩まで揃えている。
【目】黒目。つり目
【顔】目鼻顔立ちはこのゲームに寄せられている。
【外見】運動部ゆえにお腹に薄っすらと筋肉が浮かんでいる。
【肌】日本人特有の肌色。
【身長】179㎝
【体重】68㎏
【股下】83㎝
「顔のパーツだけで幾つ変えられるんだよ・・・」
何十と言う項目があってウンザリする程多い。
髪にも数パーツに分けてオリジナルの髪型が作れるようだ。
「髪型は長くしてポニーテール風で、肌色は少し暗い茶色に変更して、目の色はこのままで良いか。顔も弄らなくていいやメンドイ」
元の身体データを少し弄っただけ変更する。
リアルの自分と殆ど変わらないがソレで良い。
≪アバターデータを決定しますが宜しいですか?≫
「あぁ」
≪装備のサイズが合わないため、一度インベントリに戻します。初期装備に変更しました≫
へ?
≪では、新たな体でのゲームを楽しんでください≫
シュオオッ
目の前が砂嵐のように白く塗りつぶされた。
スゥウッ
先ほどまでいた場所へと意識が戻ってきた。
心なしか視線が低くなったような。
「ラストか?」
ラストの人化した姿が目に映った。
基本的には変わらないままで特殊種族の特徴だけを消している。
黒のベールで染まった肌色が白く戻っている感じだ。
「アナタ、ハデスなの!?」
パチクリとしていたラストが驚きの声を上げた。
「あ、ぁあ?」
その驚きの様子に首をかしげる。
「わぁあ! 隠して下さいっす!!」
こっちも殆ど変わっていないスロウスが手をバタバタさせて顔を真っ赤にしている。
「隠せ?」
「とぉっても、いやらしぃ姿をしているのよ?」
ラストがニヤッと笑っている。
「ん?」
視線を下にずらしてボロボロのローブを着た俺がいた。
辛うじて局部が見えないようになっているが所々肌が見えている。
「おわあぁあ!」
ピピピッ
慌ててドラゴンローブに装備を変える。
「び、びっくりしたぁ」
「やっぱり、ハデスなのね・・・」
「すごくカッコいいっすね」
「おぉ、これが人間の姿か」
オーガジェネラルの姿から人間の姿に変わったラースが立っていた。
巨漢の男と形容すれば分かりやすいだろう。
筋肉質の肉体は変わらないがオーガジェネラルだった体も縮まって肌色も小麦色の人間らしさが感じられる。
下あごから生えていた牙もちゃんと消えている。
「一番の変化はグリードよねぇ」
「えぇ」
右隣を見てみると誰かと思う程変わったグリードだ。
金髪のショートヘア、狐目に整った顔だち。
身長も俺よりも高く、ガッシリとした肉体をしている。
装備も麻布で出来た服を着ていた。
「これでも着ておけ」
「有難うございます」
「皆さん、無事に人化できましたね」
そこにフレイヤが姿を現した。
「特にそちらの2人は驚くほど変わりましたね」
「まぁな」
「そうですね。このゲームで両足で歩けるなんて思いもよらなかったですよ」
「では、向かいましょうか。こちらに来てください」
俺達はフレイヤの後に続き浜辺へとやってきた。
相変わらずガレオン船が壊れて座礁している。
「では、行きましょう」
サァアア
フレイヤが人化を解きドラゴンの姿を現す。
「流石にドラゴンの姿で人の住む街へは行きません。そこまでは乗せましょう」
「わかった」
俺達はフレイヤの背中に乗って聖大陸へ向けて飛んでいく。
さすがエンシェントドラゴンだ、スピードが段違いで1日も掛からず聖大陸へとたどり着いた。
「あそこの石碑に降ります」
魔大陸でみた海運都市と規模が同じ、聖大陸側の海に面した都市を横目に人工的に作られた石碑近くに降りる。
「記憶と変わっていなければ、ココは王国の最北端に位置する海上都市でしょう」
「助かった」
「有難うね」
「ありがとうっす!」
「達者でな」
「有難うございました」
「私は私の居るべき場所に戻ります」
バサッ
フレイヤが羽ばたき大空に消えていった。
「ここが聖大陸」
「ハデスの妹さんが居る場所ね」
「ワクワクしてきたっすよ!」
「どんな武器や防具があるのか」
「私の知らないアイテムはあるのでしょうか?」
後半の2人はモロに自分の興味について語ってるな。
≪グランドクエスト、魔王の依頼(1/5)をクリアしました。SPが4増えます≫
≪経験値:4,438,000取得≫
≪ハデスのレベルが61になりました≫
「まずは街に入るか」
「そうしましょう」
俺達は目の前に見える海上都市とやらへ向かう。
『XXXXXXXXXXX!』
海上都市に入ろうとすると武装した門番に呼び止められて知らない言語で話しかけられた。
振り向いて後ろの連中に視線を送るが全員が分からないとジェスチャーをする。
『XXXXXX!!』
何を言っているのか分からないのだ。
「何を言っているんだ?」
『XXXXX!!!XXXXX!!!!!』
門番は叫び、顔を青ざめている。
順番待ちをしていたNPCの人間たちも叫んで逃げまどっている。
俺が一体何をしたんだ?
グイッ
「とにかく離れましょう」
ラストに腕を引っ張られて、この場から去る事にした。
「どうなっている?」
「私にも分からないわよ」
「全く聞き取れない言葉だったっすね」
「英語でも中国語でも日本語でもイタリア語でも無い感じでしたよ・・・」
「一つ、考えついたんだが」
ラースがポツリと告げる。
「俺達は日本語で通じ合っている、知性ある魔族たちも日本語だ・・・でも説明では何と言っていた?」
「魔族共通言語・・・それが日本語。あぁ、くそっ。そういう事か」
「そうね。そういう事ね」
「一体、なんなんっすか?」
「ここの運営はプレイヤーに嫌われたいんですかね? 言語も2つ用意しますか普通・・・」
「皆が言っている事が分からないっすよ」
「つまり魔大陸出身の私たちは魔族共通言語、ここ聖大陸では人間族共通言語なのよ。言葉が通じないわけだわ」
「なにを考えているんっすか!」
「つまり、この先聖大陸の人間と接触しても言語の壁が付きまとう事かよ・・・」
「あの言語、聞き取れましたか?」
「無理よ。リアルでも英語を少しかじった程度なのに」
「ウチもっす」
「私も聞き取れなかったですね」
「まずは言葉の壁を超えないとダメか」
「あの壁を超えるより難しそうね」
海上都市周囲を囲っている20mはありそうな高い壁だ。
「俺がサイズ変更して巨人ごっこが出来そうだな」
「今はそんなボケ要らないわよw」
「少し見てみたいっすね」
「どうして古いネタを持ち出せるんだw」
「皆、よく知っていますねww これも2020年よりも前の作品ですよ」
「とにかく人と接触してもコミュニケーションがまともに出来ないから離れるわよ」
「そうだな」
俺達は海上都市から離れていった。
ハデスの人化イメージ・・・
背が高く、スラっとしたスタイルのイケメン。
褐色の肌を持ち髪を後ろで縛っている。