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王都での任務1













「どうして君はいつもそうなんだ!」


「そうよ! いい加減にしなさいよ!」


 どうして自分は今怒られているのだろう。勇者パーティーの聖女であるセトニアは、仲間である勇者ロイスと魔法使いマリーに怒鳴られて首を傾げた。


「私は何か間違ったことをしたでしょうかロイス氏。」


 セトニアは思わずそう意見した。勇者として選定されたロイスとそのお供である自分とでは立場が違う。本来このような口答えともとれる発言はふさわしくないのだが、謂れのないことを責め立てられることを受け入れる程人間ができていなかった。


「あれを見ろ!」


 ロイスが指さした所には血みどろの死体となった盗賊たちの山があった。山の頂点には盗賊たちを率いていた頭領である大男の死体が積んである。その誰もが心臓を貫かれ、即死している。


「はい、今回の任務の討伐対象であった山賊、その成れの果てです。それが何か?」


「何かだと!? 何で殺したんだ! 彼らにはまだ更生の余地があった!」


 ロイスのその言葉を聞いてセトニアはこう思った。


__ああ、いつもの病気か。


 このロイスという少年は先日、ピランツ王国に伝わる”勇者の剣”を引き抜いた。それは遥か昔、人間が未曾有の脅威に立ち向かえるように神が授けたという剣で、清く美しく強かな魂の持ち主にしか扱うことができないという。


 極めて現実的かつ客観的な思考の持ち主であるセトニアは兼ねてからその剣を「何とも胡散臭い代物」と酷評していた。神に仕える聖女としては許し難い考えだが、彼女は好きで聖女をしているわけではない。片田舎の小さな村でまったり過ごしていた彼女をたまたま光魔法の才能があったからと教会が引き抜いたのだ。おかげで彼女はいるかすら怪しい神に毎日祈りをささげる日々を送っていた。そんな彼女が勇者の旅に同行する程の力を持っているのだから、神とやらは相当見る目がないらしい。


 話を戻そう。勇者の剣を抜いたロイスは勇者として祭り上げられ、魔法使いのマリーとセトニアをお供に、未曾有の脅威に立ち向かうための旅に出たのだが、この少年、ビックリするほどのヒューマニストだった。魔物やらモンスターはバッサバッサ斬り捨てるくせに、相手が人間になると途端に殺さなくなる。例え任務だろうと、相手が悪人だろうとある程度まで戦い、戦闘不能にしたらそれでおしまいだ。止めなど決して刺さない。


 周りの人間は「勇者様はお優しい」だとか、「さすがは勇者様」と讃えるが、セトニアにしてみればそれは有り得ないことだった。今現在は王より命じられ、勇者ロイスの戦闘経験を積むため、冒険者ギルドの依頼を受けている。今回の山賊討伐もその一環だった。言ってみればこれは正式な任務だ。上から「王都周辺を荒らす山賊を葬ってこい」と命令されているのだ。それを現場の勝手な判断(しかも感情的な)で見過ごすなどやってはいけないことだった。けど勇者ロイスは人を殺さない。まだ命のやり取りをする心構えができていないのだ。だからそのお供である自分が代わりに殺った。セトニアにしてみればただそれだけのことだった。


「更生の余地? お言葉ですがロイス氏はこの者達のどこにそれを見出されたのでしょうか? 私にはそんなものは見えませんが。」


 セトニアの意見はもっともだった。仮に山賊達を生け捕りにすれば大勢の男達を引っ張って帰る手間が増えるし、そんなことをしても報酬は変わらない。山賊達も奴隷か強制労働か、人を人とも思わない扱いをされるだけだ。また、見逃して帰ったとしたら山賊達はまた体制を整えて略奪行為に励むだろう。一度盗賊に身を落としてしまった彼らにはもうそれしか生き方がないのだから。よって、セトニアはここで後腐れなく殺しておくことで双方が最も損なく終われる結末にしたのだ。だというのに勇者様は不満があるらしい。


「ある! あるんだ! 彼らは心からの悪ではなかった! 更生して国の軍に入るなり、いくらでもやり方はあったんだ!」


 ロイスのその言葉にセトニアはなるほどと思った。確かにピランツ王国軍は今人手不足に悩まされていると聞いたことがある。山賊達は素行はともかく腕っぷしは強かった。この大人数を軍に入隊させれば国に恩を売ることができたかもしれない。そう考えると確かにここで殺してしまうのはもったいなかった。


「…………なるほど、確かにそうかもしれません。人的資源を無駄にしてしまうとは私もまだまだですね。」


「「な!?」」


「まあ過ぎたことはどうしようもありません。さっさと王都へ帰還して依頼を終えるとしましょう。」


 そう言ってセトニアは綺麗な姿勢で死体の山を登り、頭領の死体の首から蛇のネックレスを引きちぎった。山賊達を討伐したことの証拠品にするつもりだ。頬に返り血を数滴つけて王都へ歩いていくセトニアの後ろ姿をロイスとマリーは呆然と見つめていた。






















「初めまして、ロイス氏のお供に抜擢されました聖女セトニアです。どうぞよろしく。」


 ロイスが見たセトニアの第一印象は美しい金髪の少女だ。上半身は修道女のような服を、下半身はミニスカートをはき、白いロングソックスをはいていた。その女神のような美しさに思わず見とれてしまったことを覚えている。まだマリーに出会っていない頃、一番最初に自分のお供になったのが彼女だった。こんな綺麗な人と旅ができるのかと心躍ったものだ。


 訳も分からず勇者として祭り上げられ、不安になっていたロイスをセトニアはいつも支えてくれた。厳しい訓練終わりにはいつもタオルとドリンクを持って待っていて、人肌が恋しくなった時には何も言わずにずっとそばにいてくれた。ロイスはセトニアをかけがえのない仲間として全幅の信頼を寄せていた。


 やがてマリーが仲間に加わり、より実戦に慣れていくべく冒険者ギルドの依頼を受け始めた時、ロイスはセトニアを怖いと感じるようになった。彼女は敵を殺すことに躊躇がなかった。敵意むき出しで襲い掛かってくる魔物だろうと、必死に命乞いをする賊だろうと皆平等に死を与えた。淡々と命を奪うその人物が、自分を支えてくれた美しい少女と同一人物とは到底思えなかった。


 だからロイスは今回の山賊討伐の任務でセトニアをマリーと共に責め立てた。今回の任務は討伐、セトニアがしたことは正しいのかもしれない。だが、ロイスは目の前の少女を無表情の殺戮マシーンとは思いたくなかった。少しでも人の命の重みを感じてほしい、そう思った。


__人的資源を無駄にしてしまうとは私もまだまだですね。


 だからこそその言葉を聞いた時耳を疑った。セトニアは、彼女は、自分が殺した人間を”資源”としてしか見てなかった。まだまだ使えたかもしれない道具なのに捨ててしまったもったいない、そうとしか思っていなかったのだ。


 優しく美しい少女と人を人と思わない殺戮マシーン、その二面性を持つセトニアがロイスはどうしようもなく怖かった。


 








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