表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

箱の背後に潜むモノ

作者: 華嵐三十浪

 「おかあしゃん、裸の人がバンザイして立ってる。」


 あ、またか。と思った。

 今年4歳になる娘は、何故か時折妙なことを言う。一般的に霊感と言われるモノをもっているらしい。

 娘にはお友達ができなくなるから、他所では言ってはいけない、と言ってある。もちろん、私も聞きたくない。

 夏の怪談やオカルト雑誌でこういう話を聞かないではなかったが、実際、自分の子供が語り出すとは思ってもなかった。


うちは先祖代々普通のサラリーマンだったはず。なので、坊主も神主も商ってない。はっきり言って、才能の活かしようがないありがた迷惑な才能だ。

しかも、根が小心者で庶民がDNAに刻み込まれている。座右の銘は『身に余る富は自滅を招く』だ。

ヒエラルキーのトップに躍り出て脚光をあびるより、中の下くらいの位置付けで身の安全を確保するのが生存競争必勝法だと信じている。

このように慎ましく図々しい暮らしが身に染みているので、娘を教祖や霊能者に祭り上げて一攫千金など思いつきもしない。

 なので!名もなく!歴史に還り見られることもない!由緒正しい庶民!である私は、祖先から受け継いだ輝かしい生存のためのDNA『有事の際は逃げ惑うが、なんら責任が発生しない一般市民』の本分を全うするための英才教育を子供らに施すように心がけている。

 こういった能力は、成長すれば灰燼に帰す。その言葉を頼りに、神童が地に落ちるのをじっくりと待つことにして、何事もオカルティズムやミステリーに考えずポジティブに現実的に考えるようにしている。

 ここで、宗教やらに奔ってしまうと、一攫千金の身の程をわきまえない夢を見かね。。。

いやいや、娘の将来に良くない。


 そう!ただただ偏に!私の安穏で安泰な波風の立たない老後の!


いやいや。。。娘!のために!

そう思って、見ただけで眠たくなるような分厚い児童心理などの本を読んで、娘の質問やらに備えたが特に功を奏じなかった。


 夜道でふいに『ねぇ、なんであの人、木にぶら下がってるの?首からプラ〜ンプラ〜ンしてるよ?』と、何もない所に向かって指をさされた日にゃあ!

あんた!児童心理とか科学なんて、屁の突っ張りにもなりませんよ!

ええ!説明なんかできねーよ。


 とりあえず、最初の内は愛情不足かと思って一家総出で甘やかしたら図に乗りやがったんで、ゲンコツをくれてやっただけに終わった。それ以来、普通の生活を心がけている。


 残念ながらいまだに能力に治まりを見ないが、生活自体は特に何も変わるでなく、娘はたまーに仏壇と和やかに会話をして来訪者をピタリと当てる日々を過ごしている。


 最近何も言ってこなかったので、多少は治まってきたのかと安心していたら、これか。。。。

しかも家の中だと〜。落ち着いて屁もできない。

どうしたもんだかとは思うが、一応話を聞いてやらねばならない。

児童書にも書いてあったからな、意見の肯定は子供の精神的な安定を促進する。と。。。。

「裸の人?」

「うん、バンザイしてる。」

「どこで?」

「玄関のクツ箱の所」

。。。。私はなんと答えれば正解なのか。。。いっそ変質者が玄関先に立ってる方が物理的な解決がしやすいような気がしてきた。

「なんでそんな所に裸の人が立ってるのかな?今は冬だし寒いじゃない。見間違いじゃない?」

私はできるだけ理解を示しながら、現実世界に娘を引き戻すための努力をした。

「ん〜、聞いてみてあげようか?おかあしゃん?」

すいません!私が悪うございました!

そっち(心霊的な精神世界)へ行かないで、こっち(リビング)へ帰ってきてください!

私はあらん限りの力で首を横に振った。

ついでに、ダンナと上の子供の即時帰宅を願った。

「き、今日はいいわ。その人がいなくなったら教えてね。」

「わかったけど、かわいいからずーっといてほしいな。」

「かわいい?」

だから、長居されたら安心して屁がこけ。。。

いや、ジェネレーションギャップのせいか、最近若い子達がかわいいというものが理解出来ない。

JKにいたっては、モグロフクゾウですらぬいぐるみ化すればかわいいらしい。。。

娘のかわいいも、それに類似するものなら迷惑な話である。

「うん、お目目がクリクリで大きくて、ほっぺたぷっくりしてるの。あ、背中に小さな羽根があるんだって」

裸。バンザイ。お目目クリクリ。羽根。



・・・・・キューピー?



 その晩、意を決して帰宅したダンナにクツ箱の裏を探らせた。すると、出るわ出るわ、給食用と思われるマヨネーズの小袋がどっさりと出てきた。

 久しぶりに、家中を震撼させるほどの怒号で上の子供を吊るし上げた。彼は半泣きで謝っていたが、私の恐怖は彼の恐怖の比ではないと思う。男なら、マヨネーズぐらい飲み下さんか!!


 娘は、キューピーが消えてしまった事を、その後しばらく残念がっていた。





お楽しみいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最後のオチがまさかの。 ありましたね給食で。持ち帰るんだ…… [一言] こどもってとんでもないとこに隠しますよね。 ほっこりしました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ