夏への扉が!
「まあ、こんな婆さんのことはいいでしょ」
「・・・いやあ。あのとき、僕を長生きだといってくれて助かりましたよ」
「何が。この大嘘つきと思われたでしょ?」
「いやまあ。あのときは、てっきり自分はガンだと思ってましたから。でもあなたの占い聞いて、助かる可能性がひょっとしたらあるかもなんて思いましたから・・・」
本当かな?そういえば、そう思った気もする・・・
この占い婆さんは、そして地球乗組員のことをいい、乗組員のために何かいいことをして、といい、それが遠因となって、余命いくばくもないと思い込んでいた課長は、はげちゃんと再会の後、正義の殴り込みにうってでたのだった。
そうじゃないか。・・・・・すると婆さんがいった。
「繰り返しますけど、あなたがここにいるのは間違いです。あなたがここにいるってことは、私の占いが間違ってたってことになる。それはだめよ、だめなのよ」
「そんなこといったって・・・」
だいたい、婆さんが、地球の乗組員うんぬんとか、あんなこといわなければ、恐怖の6か月をべんべんとして過ごして「アレ、まだ俺生きてるじゃん、俺ちょっとガンじゃないのじゃないかしら?」と気づいたかもしれんのだ、俺がここへ来てしまったのは、この婆さんの占い鑑定のせいじゃないか!
しかし婆さんはくじけなかった。
「私の占いが間違いなんてことありません、きっとわかります」
自信、というより、それは潔さを失った醜い意地、ひっこみのつかなくなった思い込みというものだ。
「さあ行こう!」占い婆さんは課長の手をひき、占いテントの入口幕を跳ね飛ばすようにして開ける。
「夏への扉が、ここにある!」
眩しい。目もくらむ、いや目のつぶれそうな熱い光線が、外界から大量に注がれる。
またそこは違う世界だ・・・
あまりに眩しくて、課長は地面に膝をつく。
婆さんも顔に手をあてて目眩をおさえている。そこになれるまで少しじっとしていた。
突然、笑い声がした。そして勝ち誇ったような声。
「ビッグエックス。観念しろ!」
またビッグエックスか。課長はようやく目を開く。
そこは砂漠である。白熱する太陽、真っ青な空、みわたす限り薄い黄土色の砂のなだらかな低い丘陵が続く。
はっきりした色の単純なコントラストを背にして、リーダーらしき声の主と、十数人の男たちが課長と婆さんを取り囲んでいる。
リーダーはナチス兵のような軍服を着ていて、部下らしい男たちも同じような軍服、バイクに乗った奴もいる。
そしてその部下たちは背広姿の男たちを捕えていた。
背広姿の連中、それはキューピー部長ほかの課長のかつての同僚たち・・・
「すまん、ビックエックス!」
捕らわれた部長は、必死の形相のキューピー顔で叫ぶ。そしてがっくりと肩を落とす。「われわれの計画は発覚してしまった・・・」
課長は首を傾げた。
「計画?いったい何の計画・・・」
「まだとぼけるのかね」リーダーの男がいう。「もとの世界へ脱走しようとしただろう」
「もとの世界?何のことだか。私は迷っていただけだ。ここで翻弄されていただけだ」
「じゃあ、おとなしく我々のいうことをきくんだね」
「何のことだか。世界がどんどん変るから目眩がする。それだけだ。だいたい、君たちは誰だ」
「渡し舟の運行部隊さ。さあ、連行するぞ。ここらは空間の歪みがいっぱいだ。ここは立ち入り禁止だ。出るんだ。やっと渡し舟が出るぞ。河を渡れるぞ」
いいながら、リーダーはルガーらしき銃を腰のホルスターから抜き、課長に銃口を向けた。凍りつくような笑い顔。
「出るんだ」
そのとき、「だめだあ!」と叫びながら、占い婆さんがリーダーの前に飛び出た。
銃声。
弾丸は婆さんに当たった。
「何をするんだ!」
課長は婆さんに駆け寄ろうとした。
しかし、婆さんは、弾丸をうけた体なのに、よろけただけで、そのまま課長のほうに振り向き、そこに仁王立ちになり、懐から彼女の顔より大きな天眼鏡を取り出した。
レンズごしに大きな杏型の目が見開かれ、閃くように光った。
「お客さん、あなたは生きる。きっと逃げられる。私の占いは、必ず当たるよ!」
さあ!と大きく真っ赤な口を開けた。
「逃げろ!走るんだ!」
・・・つづく




