あの占いおばちゃまと再び・・・
うそだろ!?
おい、本当か?
本当だとしたら、俺はガンじゃなかったってことか!
胸がいやに痛かったのは、ただのタバコの吸い過ぎのせい?
ひさしぶりで失恋相手に会って胸キュンが過ぎて痛みに拍車がかかったの?
どうしたらいいの?その後の私の、あの絶望と忍苦と冒険の日々は何?
私は、いったい、何をしていたの?
遠藤女医の声が、心持ち明るくなった。
「そうですか、なあんだ。じゃあ、しばらく、このまま、嘘ついたこのままで行きましょう」
占い婆さんも、調子をあわせる。
「ええ、ええ。いいとも!そのままいってください」
おい、何をいっているんだ!
課長は思わずテントの中に飛び込んだ。
そこには、驚いて口をポッカリ開けた占い婆さんがいた。
縮んで崩れたクレオパトラ顔、化粧筆で書いた眉・・・
やはり、あの婆さんだった。しかし、そこに遠藤女医の姿はなかった。どこへ消えたのだろう?
「あ、あなたは・・・!」
そういったきり、婆さんは声がでなかった。課長はどなった。
「おばさん、いま話してたことは本当ですか!」
しばらく痙攣ぎみの表情で言葉もでなかった婆さんだが、課長の剣幕におされて、やっとのことで声をだした。
「ええ。本当ですよ、生前のことを思いだしていたら、あのガンの方もここに現われたんですよ・・・」
「その、ガンの方はいったいどこに消えたんです」
「さあ。私の思い出が現われただけですからね、あの方は、まだこちらの世界に来ていないのかもしれません・・・」
「まだ来ていない・・・じゃあ、まだ生きている?」
「かも知れません。わかりませんが・・・でも、そのあと、あなたに真相を打ち明けようとしたけど、あなた勘違いして受付けなかったともきいていますが・・・」
「・・・」
そういえば喫茶店や病院で、彼女、何かいいたそうにしていた・・・あれのこと?
あれは偽の愛の告白とは違ったの?
思い出す課長に向い、婆さんはいう。
「それより、あなた。お客さん、なんであなたはここにいるんです?」
「なんでって、死んだからでしょう?」
「そんな馬鹿な。私、いったじゃありませんか。あなた百五十歳まで生きるって!」
「ええ。いってくれましたよ」
「じゃあ、なんでここに」
「だから、死んだからです」
「嘘ですよ、それは。間違いです、何かの。あなた、間違ってここに来てます」
占い婆さんは、大変な自信だった。まるで現実を受け入れようとしない。課長は話題を変えた。
「おばさん、占いのおばさん。あなたもここにいるってことは、ひょっとして、あなたも、お亡くなりになりましたか・・・」
「ええ・・・」
「そうですか。まだお若いのに。気の毒な。ご愁傷さまです」
「ええ。でも、いいんです。独り者でしたからね。死んで悲しむ人もなし。あとくされは何もなし」
占い婆さんは遠くを見る目で、さばさばとすべてを達観した面持ちだった。
「アア、でも、気がかりなのは、わんちゃんのこと」
「犬を飼ってましたか」
「ええ。私と同じ老いぼれでね。ゴロっていう柴犬。
私、市営住宅に一人で暮らしてましたけど、本当は飼っちゃいけないんですが、老朽住宅で規則もあってないようなもので、飼ってたんです、
玄関先にね。私が脳溢血で部屋で倒れたとき、そばに駆け寄ってきました」
「・・・」
「ゴロが、いまどうなったか、気がかりですけど」
「きっと元気ですよ、自分で部屋を抜け出して、どこかで生きてますよ」
「だといいんですが。部屋に鍵かけてましたから、自分じゃあ出れないかも」
「でも、ここにいないんでしょう?だったら生きてますよ。ああ、その犬のこと、占いでは見えませんか?」
「自分や自分のペットのことは見えないもんです」
「そうですか・・・」
おばさん一人で、犬と暮らしていたのだ。
ずっと独り者だったのだ。いまわのきわに、婆さんを見取ってくれたのは、犬のゴロだけだったのだ。
その光景が心に浮ぶ。
心の中でそのことを反芻して、課長はじっと婆さんを見る。
この人はどんな風にして生まれて、そんな風にして恋をし、そして結局一人で、どんな風にして毎日ごはんを食べ、夢をみて、夢を破かれて、また立ち直って、また淋しくなったり、嬉しくなったり・・・して、そしてここへきたのか?
この死後の世界よりも広大な未知が婆さんのなかにある。
彼女の人生。課長はそんなことを考える。占い婆さんは、決まりわるそうに少し笑う。
・・・・つづく




