あの世に行く前の、ああ、なんていう混雑、混乱だあ。。。
「いっぱい、いるなあ。いやになる。げっぷが出るくらいだあ。死んだ胎児なんかまでいるのかな、どうでもいいことだけど」
「ああ、いてますよ。子供プール岸にまとめて泳いでるんと違いますか」
「そうなの。子供プールね。プールもあるのか・・・あれ、今、下に見えたひと、見たことがある外人だ。あれは」
「ああ、あれ。ケネディさんと違いますか。わても学がありますやろ」
「ケネディ。知ってるよ。彼は僕より1歳若くして死んだんだ。そうか。そんな人も、そりゃあ、死んだんだから、いるね」
「そうね、歴史の本にでてる人もいっぱいいるね。でも、若くて暗殺されたり戦死したりした人なら、元気やけどね、病死とか大往生したような方は、死ぬ時に老人や病人だったからあかんね、元気ないね。死んだその姿でここにいるからね・・・」
「確かに老人ばかりだね、ここは!」
「そうでんな。特に最近の日本ね。寿命がのびまして、日本から来る人は、もう、爺さん婆さんばかりね。でも最近は自殺者が増えててね、中年も多いかいな・・・」
「でも、地球レベルでみると、人が死ぬ年齢は、もっとぜんぜん若いよ」
「そうや。占い婆さんも、そういいよりますわ」
「占い婆さん。またか。君の知り合いかい?僕は何だか予感がするんだが。その婆さん、僕も知っている人かも知れない・・・」
そのとき、地上から呼びかけてくる大声が聞こえた。まあちゃあん!と叫んでいた。そこは、人影がまばらになったグリーンの空き地だった。
「呼んでますな。ここらが、まあ、ヘリポートっちゅうわけです。おりまひょか」
ごきぶりは高度を下げた。ぐんぐん地上が近づく。
こちらを呼んでいる男の姿がはっきりする。グロテスクなゴム製マスクをすっぽりと被っていた。
「西山か?」 地上に降り立った課長は、マスクの男に問いかける。「エッチの、西山くんか?」
その男は震えていた。震える手でマスクを剥ぎ取る。それはやはり西山。
「まさか罠にかかった奴がまあちゃんとは思わなかったからよ、俺。社長のいう通り演技したわけだがよ、ま、まあちゃん、殺されちまうのは耐えられなくてよ、社長にとびかかったんだ」
「西山・・・。でも君が社長に飛びかかったおかげで、爆弾投げられてよかったよ。しかしおまえ、あんなろくでもない連中に雇われる身の上になってたのか」
「俺だって嫌だったけどよ、わかるだろ、俺だぜ、俺のことだから、将来はろくでもないって、まあちゃんも、わかってただろ?クラスの学級会で守ってくれたのは覚えてるし感謝してる。でも、どうせ、俺のことだ、そんな親切をしてくれたって、どうせ、やっぱり駄目なんだ・・・」
涙ぐまんばかりの西山だったが、課長は知っている。
あの闘争的な学級会の直後、ほんの少しの間は、西山はまじめになったのだ、スカートめくりもやめたのだ、勉強もしたのだ、でも、それが長続きしなかったというだけなのだ・・・
「まあいいさ。どうせおたがい死んじまったのだから。あの爆弾で」
遠い目をして課長はゆったりと肩をすぼめた。
「死んだ?」 西山が頓狂に声をあげた。「そうなのかな。でも、まあちゃんが死んじゃああいけねえと思うけどな」
ごきぶりが、口をはさんだ。
「そら、わしもそう思うけど。しかたないんとちゃう?」
いってから、なぜか意味ありげな目で西山をにらむ。西山が少し驚いた。
「うわ。このごきぶり、でかいだけじゃなくて、喋るのか。まあ、いいや。そういうのもいるか・・・色々なのがいるからな、ここには・・・」
「こら失礼。ここは人間の岸やし私のいる所やないね。じゃあ、私、これで失礼しまっさ。さいなら・・・」
ごきぶりは不器用に羽根をはばたかせて飛び立とうとした・・・
「ちょっと待ってくれ、気になることがある。君のいってた占い婆さんってのは、どこにいるんだい」
「ここらのどっかにいてますよ」
「どっかって、どこだい」
「ホラ、その遠巻きにしてる連中のどこかや。まあ、時間なんて無限にあるわけやし、ないようなあるような時間やし、ぷらぷらしてたら、そのうちに会えますがな」
ごきぶりは高度をあげた。「ひまなときには遊びにきますさかい、そんときはよろしく。さいなら・・・」
飛び去るごきぶりを見上げながら、西山が声をひそめていった。
「まあちゃん、それじゃあ、行こう」
「どこへ?」
「案内したいところがあるんだ」
西山は、やや緊張の面持ちだ。
・・・つづく




